東京の冬はずいぶん賑やかだ。あちらこちらでワム!やマライア・キャリーやB'zの歌声が流れている。街路樹はイルミネーションで照らされ、葉を落とすタイミングを逃している。そんな街路樹の下を坊主の集団が走っている光景は、かなり異様だろう。
秋田に比べれば気温は高いはずなのに、東京の空気は鼻の奥につんと突き刺さる。はっはっとリズミカルに吐く息は真っ白で、アップ代わりのランニングを終えるころにはみんなの肩からも湯気が上がっていた。
「集合」
深津の声が、東京体育館の外壁に反響する。決して大声ではないのに、こういう時の深津の声は百人の部員全員に届くから不思議だ。
「今日は緒戦だピニョン」
緒戦という言葉ひとつで、空気がビリビリと張り詰めた。みんな、夏の緒戦を思い出している。
「勝つピニョン」
びゅうっと風が吹いて、松本は身震いした。これは寒さのせいだ。ビビっているわけでも、武者震いしているわけでもない。心は怖いくらいに静かだ。自分たちにできる限りの準備をしてきた。いつも通りのバスケをすれば、山王は勝つ。
松本と目を合わせた深津が、ふっと肩の力を抜いた。それからほんの少しだけ唇の端を持ち上げる。
「行くピニョン」
それだけ言ってしまうと、深津は部員たちにくるりと背を向けてさっさと体育館に入っていった。河田と野辺がすぐ後に従い、松本と一之倉もそれに続く。ロビーにたむろしていた観客や出場者の視線が一斉にこちらへ向くのを感じる。
「今日こんなに注目集めるの、俺たちとサンタさんくらいじゃない?」
隣を歩く一之倉のつぶやきに、松本は思わず表情を崩した。
「ずいぶんメルヘンだな。今年のプレゼントはウインターカップってか?」
「それはプレゼントじゃなくて、自分たちで獲るやつでしょ」
松本は自分よりも頭ひとつぶん小さなチームメイトを見おろした。片眉をきゅっと持ち上げて小鼻を膨らませた、自信満々余裕綽々とでも言いたげな顔をしている。
「頼んだぞ、エース」
どん、と拳を当てられた松本の胸に、火が点いた。
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