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supli12
2024-12-16 11:40:05
5930文字
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まず、私の親友の事を話そう。
彼とは私がエレメンタリースクールの四年生の時に出会った。大きな学校なので同じクラスになったことは無かったが、とても目立つ彼を私は知っていた。人好きする笑顔が印象的で、スポーツを得意とし明るくリーダーシップがあった。
ある日、大きな地震があった。建物は無事だったが、彼の妹が倒れてきた遊具のポールに足を挟まれた。教師は近くにおらず、避難を呼びかけるサイレンが鳴り響く中、彼は妹を励ましながらポールをどかそうとしていて、彼の友人は泣きながら教師を呼びに行った。
私は避難しようと思っていたところに余震がきて、彼が妹に覆いかぶさるのを見た。その瞬間、私は走り出していた。
「ダメだ、根元にコンクリが付いてる。持ち上げるよりずらした方が早い、先端を持ち上げてずらすんだ!君、ポールが浮いたら自分で足を抜いてみて」
彼の妹は泣きながら頷いた。
「ジョージ、こっち!」
彼を呼ぶと駆け寄ってきた。二人で掛け声を合わせてポールの先端を少し浮かせるように横に力を掛ける。根元に重量があるポールはそこを支点に少し回る。足の先端方面に少しずれて、そのまま全力で押す。ずるずると少しづつずれるのが分かって、「抜けたよ
……
っ」という女の子のしゃくり上げるような泣き声が聞こえて私とジョージは彼女に駆け寄った。
その時彼の友人が呼んだ教師が走ってきて、彼女を抱えて私たちと一緒に避難した。
彼は今でも私を勇敢な男だと言う。でも違う、あれは沢山の要素が僕を動かしただけだ。
私たちの育った地域はそこまで大きな地震はなくて、あまり余震などの知識が無かったこと、そして彼がいた事。私が彼と力を合わせればあのポールは動かせると計算出来た事、彼が私の言う事を理解して行動するだろうと分かっていた事。つまり、彼が居なかったらあの判断は出来なかった。
けれど、結果的にそれから彼と私は親しくなり、長じれば勉強ばかりのギークでしかなかった私にいつでも声を掛けてくれた。
華やかな彼の友人達も、彼が提案して私が企画した彼是を共に仕掛けるうちに私を認めてくれた。彼らは私を参謀と呼び、ジョージは笑った。
「こいつは頭もいいけどな、度胸もいいぜ」
――
彼のおかげで、私は楽しい少年時代を過ごせたと言ってもいい。馬鹿にされることもなく、腐ることもなく、スポーツも勉強もできた彼の取り巻きの女の子たちとの会話も覚えた。
彼は大学に行って、プロのリーグに入った。スポーツ選手として活躍して、結婚と離婚をした。離婚した時呼び出された私は休みを取って彼とUSH(ユニバーサルスタジオハリウッド)へ行った。子供の頃のように遊んで、夜は酒を飲んで踊って、すっきりした顔の彼と別れたと思ったらスポーツ選手を引退してスポンサー付きの冒険家になった。
冒険家だぞ?冒険家!なんて浪漫だと感動したものだった。しかも彼が公開した動画は何万再生もされてスポンサーも増え、医者である私よりも余程高給取りに収まった辺りやはり彼は出来る男だった。彼の価値はそこではないことを私は分かっているが、私はいつも彼にかなわないと思わされるのは私にとって心地良いことだった。その彼にずっと「こいつ俺の親友」と紹介されてきた。それは結婚と息子が生まれた時と同じ、私の大切な人生のページである。
私の息子は難しい子供だった。異常に知能が高かったのだ。学歴から言って私も知能が高い筈だが、通常の枠には収まらないと気付いたのは息子が3歳の頃だった。入った保育園に馴染めず、隅で本ばかりをめくっていて、ある日絵を眺めていると思っていた保育士に息子が読んでいた図鑑の内容を聞いたそうだ。保育士はその日から息子を気に掛けて観察した結果を纏めて妻に報告した。
「ゼノは読み書きが出来て、多分そのレベルは現在10歳相当ね。時計も読めるわ。ただ感情の出し方を理解していなくて、身体の使い方も上手くない。専門機関をご紹介するわ、受診をお勧めします」
妻は分かっていたのだろう、仕事を独立することを告げてきた。
「時間が自由に使えるようにフリーになるわ。暫くは収入が不安定になるけど、落ち着いたらまた働き方を考える。OK?」
「勿論だよ。私も時短勤務なら出来そうだけど」
「あなたは稼いできて。あとゼノが欲しいって言ってたから図鑑の全集を買って。このメモのやつ」
「はい」
「あと沢山話してあげて。あなたたち似てるわ」
初めて見た時神秘的だと思った妻の目と同じ色のゼノの目を見つめながら、ゼノと話す。彼の疑問に答えるのが楽しかった。最初は私の職業である人体について、それから骨格標本から海洋生物、そして恐竜と貪欲な知識を飲み込んでいった。空を泳ぐ鯨のように知識を飲み込む息子は、実施はやはり上手くなかった。手先はともかく身体の動かし方が下手でよく転んだ。
息子の体幹トレーニングを続け転ぶのは少なくなった頃にジョージから連絡が来た。ゼノは五歳になっていた。冒険がひと段落して帰国するので合わないかと言われ、ゼノの事を話すと一緒に会う事になった。
妻に相談すると是非行ってきてと言われて、ゼノの手を引いてジョージと会った。
「やあ!ゼノ、会いたかったよ。大きくなったね」
子供の顔の位置までしゃがみ込んでジョージは笑った。焼けた肌にラフな服装にセットしていない髪。よく見る父親と正反対の大人の男にゼノは目を丸くしていた。
「
……
こんにちは。あなたはパパの友達?」
「そうだよ、僕はジョージ。色んなものを調べることを仕事にしてるんだ。君は何に興味があるんだい?」
ゼノは黙ってジョージを見て、私を見た。
「ジョージはパパよりずっと物知りだよ。昨日話しただろう?冒険家なんだよ」
ゼノはまたジョージを見て、それから口を開いた。無口な子だと思っていた。質問はするが、考え込んでいるほうが多い。昨日ジョージの探検の数々を動画を見せながら説明した時も黙って見ていた。
「南米の遺跡の石の仕掛けは壁のスイッチだったのかい?床のスイッチだったのかい?フェイクをわざわざ入れた意図は?あとあの迷路のはどう計算しても迷宮より長く高低差も大きい。どこかに繋がっていただろう?公表しないのには理由があるだろうけど、どこだったのかな?あと民間のロケット開発にも参加していただろう?動画に会ったプログラムのバグは解消されたの?まだ終わってないけど、また参加するのかい?」
驚いてゼノの顔を見る。緊張した、でも好奇心を隠せない表情でジョージを見ていた。わくわくしたような、そんな顔を初めて見たよ。
ジョージはゼノに笑い返した。
「よし、場所を変えようぜ!内緒のことも全部教えてやるぜ!ゼノ、抱っこしても?」
「うん」
ゼノを抱き上げて大股で歩き出すジョージに付いて行く。道すがらスナックをテイクアウトして、そのまま近くの公園で座りながら話し始めた。
ゼノの質問に辛抱強く、長く、ずっと会話していた。途中で止めてテイクアウトしたサンドイッチやナゲットを食べる。
ジョージはちょっと待ってろと電話をかけ、暫くして振り向いてゼノに言った。
「ゼノ、週末宇宙センターへ行こう。民間ロケット開発で連絡を取っていた人がそこに居るんだ。内部も見せてくれるそうだけど、どう?」
「
…………
行きたい!」
結果家族旅行になり、我が家とジョージで宇宙センターを訪れた。
ゼノはずっとジョージに手を引かれたり抱かれたりして案内されていた。余りに専門的になってきて別の所を見ようと提案した私たちに「パパとママはそっちにいってて。僕はジョージとこの説明を聞くから」とゼノに言われ部屋を出された。
確かにこの時からゼノは宇宙を興味の一環に入れて、あらゆる知識欲の中の高い位置にあったように思う。
そうして知識を飲み込み続けたゼノは八歳の時に言った。
「僕は宇宙工学に進むよ」
もっと飲み込むものを探している様な宇宙のような目だった。煌めく星を映すような目に私は子供の肩に手を置いて笑った。君がこれから進む道が楽しいといい。
「OK、ゼノ、どこの大学にしようか?」
通っていた高校から荷物を持って出てきたゼノに一応聞いてみる。
「お別れは言ってきたかい?」
「言うような知人はいないよ」
「まあ、大学に話が合う人がいるといいね」
私にジョージがいたように、彼にも良い友人が出来るといいのだけれど。
ゼノに初めての友達が出来たようだと妻から聞いた時、私は嬉しく思った。てっきり大学の年の離れたクラスメイトかと思ったらなんと同い年で別の群の少年らしい。
どこで知り合ったんだい?と聞くと研究の一環で、と答えた。そそくさといつの間にか占領された物置を改造した自分のラボに行こうとするから掴まえて隣に座らせた。
「どんな子なんだい?」
「
……
興味深い子」
ゼノは困ったような、彼にしては本当に珍しい表情で言った。
「頭の回転が早くて、僕と同じ年だと思えない程機敏なんだ。見たことがないけどスポーツとかも上手なんだと思う。それとは別の特殊技術を持っていて、努力と研鑽を怠らない」
驚いた。この子がそんな風にいう相手はどんな子なんだろう。
妻に聞くと、彼女は何度か会っているという。特殊技能が射撃な事にまた驚いた。スポーツとしてやっているのなら問題ないが、ゼノと余りに遠い気がしたのだ。
「遠くないのよね」
「そうなの?」
「もう私には理解が出来ないんだけど、あの子がしている研究ってレーザーを使ったものなの」
「レーザー?EVLA(血管内焼灼術)?」
「一番先に治療法が出てくるあなたが平和的で好き」
「どういうこと?」
「
……
レーザーガンよ」
「えぇ
…
」
合点がいった。つまり射手か。しかしレーザーガン、それは武器ではないか。
「まあ、大学の研究室でやってるから管理はされてるだろうけど」
「それはそうだね。そうするとその友達にもゼノが声を掛けたのかな」
「そうみたいよ。最近迎えの連絡が遅いのは落ち合って遊んでいるみたい。ほら、来月にロケット大会あるじゃない?それの発射実験一緒にやってるらしいのよ」
「どこで?あまり子供だけで移動させるのは危ないな」
「なるべく送迎してるけど、そうよね。まあスタンリーってびっくりするくらいしっかりしてるけど」
「僕も会ってみたいな」
「残念だけど今週末あなたの出張中にお招きしてるわ、スタンリーとママをランチに」
「家で?」
「そ、ゼノの希望で。私もどんなご家庭か知りたいし」
「うちもお眼鏡に叶うようにしなければ
…
。カーテン取り換えとく?」
「いいわよ。あ、でもランプの傘は拭いといて!」
ゼノは初めての友人と上手くやっている様だった。
あれから私もスタンリーと顔を合わせる機会があった。ゼノをスナイダー家に送っていく時、ご家族にも挨拶することが出来た。
利発でやんちゃそうな少年は、私にジョージを思い起こさせた。
二人が遊んでいる後ろ姿は楽しそうで、初めて見る息子の姿に私たち夫婦は涙が滲みそうになったものだ。あの子があんなふうに笑うなんて思ってもいなかった。私は友人の大切さを知っている。
ゼノを見るスタンリーの楽しそうで優しい目に、私にとってのジョージのように、あの子たちがお互いになれるといいと願った。
数年振りに帰国したジョージと飲みかわしているうちにその話になった。
「良かったじゃないか!ゼノとそいつ、俺たちみたいにずっと付き合える相手になるといいな」
「本当に。君には助けられてばかりだけど」
「は?それは俺だろ」
「え?」
「俺が大学行ったのもプロリーグ入ったのもお前の分析したもの見て決めたぜ?」
そういえば彼が進路に悩んでた頃に出来る限りの情報を集めてチャート表を作った。少しでも助けになればと思って。
「あれ凄かったぜ。今みる企画書と比べても遜色ない。本気で俺の事考えて作ってくれたんだって分かったから参考にして決めたんだ」
「役に立ったなら良かったよ。僕は君のおかげで女の子との話し方を覚えて妻を得たからね」
「そりゃあ重要だ、俺の功績はでかいな!なのに俺は今も独り身ってどういうこった」
「いや、この間モデルと別れたって記事読んだけど」
笑い合って酒を飲む。ゼノとスタンリーも長く付き合えるといい。
あれから何年もたって、成人したゼノとスタンリーは変わらず仲が良く、家を離れた二人が偶に帰ってくる時は同じタイミングだった。
妻同士も時折連絡を取り合っていて、先日はスナイダー家の改装の際にスタンリーのベッドをゼノの家に運んでいた。配送のトラックを手配して、それと並走してハイウェイを走りヒューストンまで行ったのだ。妻二人の小旅行を兼ねていると言っていた。
「ゼノの家に?また何で?」
「だってスタンが休暇中使うでしょ。殆どゼノのとこにいるんだし。家の改装でベッドも一旦外に出さなきゃならないんですって。でも客間もあるし、どうせ使わないから送っちゃおうってことになったのよ、ゼノの顔見て観光してくるわ」
つまりゼノの家の客間にスタンリーのベッドを置くという事か。それはもう同居だなと思って、結局ずっと続いている二人の関係に笑みが漏れる。スタンリーと会って少しばかり人付き合いを覚えたゼノには少ないが友人が出来た。それでもスタンリーは特別なようで、親しく長く付き合っていることを嬉しく思う。それは人生でとても大切な事だ。
スタンリーは成長して目を引く青年になっていった。勉強もスポーツも出来て見た目も良い。それでも取り巻きを振り払ってゼノへ声を掛ける様子を見かけて、彼にとってもゼノは特別なのだと親として本当に嬉しかった。
2人の友人が長く続いていて嬉しい事だと、私がそう言うと、妻も笑った。
ゼノと同じ神秘的な深い夜の星空のような目で、私を見る。
「あなたにはまだ早いわね、ダーリン」
言葉の真意を尋ねようとしたら、妻はソファに座った私の膝の上に腰かけてキスをした。
蛇足だがヒューストンへの小旅行から帰ってきた妻は「あなたどころか当事者まで分かってないなんて思わなかったわ」と憤っていたが、真意は「時期が来たらね」とだけ言って教えてくれなかった。
私の妻は大抵完璧なので、時期が来るのを待つことにした。
何といってもあの息子を、一度の逮捕歴だけで成人させたのだから!
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