三毛田
2024-12-16 19:04:00
2673文字
Public アドベント24
 

16. さらさらと髪を撫でて

16
君の髪に触れるのが好き

「ふ。ふふっ」
「何を笑っている」
「丹恒の髪の毛って、触ってると気持ちいいなって」
 膝の間に座っている丹恒は、声だけ向けてきて。
 体ごと向けてくれると、嬉しかったりするけど。
 流石にそこまでわがままは、言わないけどね。
「最近の丹恒の髪、ふわふわでサラサラで、触ってると気持ちがいい」
 シャンプーもちゃんとしたから、いい匂いだし。
 とはいえ、元々サラッとした水の匂いしかしなかったけど。
「お前もふわふわだ」
 手を伸ばして、ちょっと乱暴に髪を撫でてくる。
「ちゃんと手入れしてるから」
「俺も、最近はするようになった」
「俺がしてるからです」
「そうとも言うな」
 呟くように告げ、また読書に戻って。
 今日はちょっと塩だ。まあ、それが丹恒だから文句はない。
 甘くて優しい時は、甘くて優しい。でも、締めるときは締めるし、厳し時は厳しいけど。
 なのと俺だと、俺に対しては甘い気もして。
 まあ、考えても仕方ない。丹恒が丹恒であることは変わらないから。
 こうやって、後ろから抱きしめていても、最近は怒らない。それどころか、俺を背もたれにしているようにも思え。
「丹恒さあ。最近は俺のこと背もたれにしてない?」
「動いたり、ちょっかいかけたりされなければ、ちょうどいい背もたれだからな」
 声色は楽しそう。
 幽囚獄に足を踏み入れてから、ちょっとだけ元気がないように見えたから、いい傾向だ。
「不安定ではあるが、お前のぬくもりを感じられるからこの体勢は嫌いじゃない』
「そ、そっかぁ」
 そう言われると、ちょっとだけ恥ずかしくて口が勝手にもごもごと動いてしまう。
「ああ。これからも、お前が嫌でなければ背もたれになってくれ」
「全然嫌じゃないよ! 俺も、丹恒とくっついていられるから大歓迎だ」
 ぎゅっと抱き着く。と、胸元に回した手をそっと撫でられ。
「ゲームだって、やろうと思えばやれるから、そこは心配しないで」
「お前は器用だからな。そこは心配していない」
「そう? そう評価してもらえると、俺も結構嬉しかったりする」
 肩のあたりに頬ずりする。と、今度は乱雑に頭を撫でられて。
 好きだなぁ。
 一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、その気持ちばかりが募っていく。
 どれだけの時間、彼と一緒にいられるかわからないけれど、出来るだけ一緒にいたいと思っているのは本心。
 次の目的地だって一緒に行きたい。
 羅浮でもピノコニーでも、一緒にいられた時間はそんなに長くなかったし。
……
「どうした」
「依頼が入っちゃった。明日にしてもいいかな」
 丹恒の肩に頬をくっつける。もっと一緒にいたいから、本当なら断わりたい。
 でも、報酬はいいし人脈も繋げられそうだからなぁ。
 人脈は大切だ。
 あればあるほど、いざという時に助けてもらえる。
「いや、早めに行った方がいい。お前を頼ってくれている相手を待たせるのはよくない」
「む……
 丹恒の言っていることは正しい。けれど、感情が追い付かなくて子供みたいな反応に。
「俺が料理を作って待っていてやろう。それなら、行くか?」
「頑張る。なるべく早く行って帰ってくるから」
「気をつけて。ちゃんとパムに伝えてから行くんだぞ」
 頬にキスすると、キスを返してくれた。
 好き、好き、大好き!
「んんっ!?」
 ちょっと激しめのキスをして、上着と必要なものを持って部屋を飛び出す。
 ぐったりベッドに倒れ込んだのが視界の端に見えたけど、そのまま出てきてしまった。
 まあ、後から俺が怒られるだけだから。
 急いで向かって、依頼人には驚かれた。
 でも、俺がやる気があったおかげで依頼はすごく早く終わって。
「ただいま~! これ、依頼人から貰ったお菓子! 俺、お風呂に入ってくるね!」
「お、おう。おかえり」
 俺の勢いにパムは荷物を受け取って、ちょっと引いていた。
「丹恒、ただいま!」
「ああ、おかえり」
 エプロンをつけている丹恒が、振り返って出迎えてくれる。
「風呂に入ったら、食事にしよう。ホワイトソースから、グラタンを作ってみたんだ。お前は意外とカリカリベーコンが好きだろう? だから、焼いてから乗せてみた」
「わあ……美味しそう! 急いで入ってくるね!」
「焼きたてだから、まだ熱い。ゆっくり入ってきても大丈夫だ」
「ううん。すぐ食べたいからさ」
 荷物を置いて、浴室へと走って行く。
 体と髪を洗って、足湯だけして浴室を飛び出す。
「こら。髪の毛びちゃびちゃだぞ」
 タオルを手に俺のところまでやってきて、ちょっと乱暴に髪の毛を拭く。
 ああ。すごい嬉しい。
 丹恒と触れ合えていること。
 こうやって、甘やかすように世話を焼かれることが。
 当たり前のようなことだと思われそうだけど、何物にも代えがたい、大切な時間。
「一緒にご飯食べようね」
「ああ。ただ、メインを作るのに夢中でスープや副菜、デザートは作っていない」
「パムが作ってるだろうから、貰おう。ね?」
「お前がそれでいいなら、俺も構わない」
「だって、丹恒の作ってくれたご飯を食べられるだけで、俺は幸せだから」
「それなら、俺はいくらでも作ろう」
 微笑む丹恒は、やっぱり綺麗だ。
 いつものように、好きって気持ちだけが溢れそうになる。
「疲れただろう。今日は、食事を終えたら耳かきをしてやろう」
「やった~! じゃあ、パムからスープとかおかずとかもらってくるね!」
「こら。まだ髪を乾かしていない」
 階下へ向かおうとしたら、腕を掴まれて。丹恒の腕の中へと逆戻り。
 渋々ソファーに座って、髪を乾かしてもらう。
「ほら、いいぞ。グラタンを少々温め直しておく」
「お願いします!」
 と、丹恒に任せて俺はおかずとスープとデザートを貰いに行く。
「丹恒、貰ってきたよ!」
「こちらもいい感じに温め直し終えたところだ」
 ダイニングテーブルに置かれた鍋敷きの上に、グラタン皿が置かれていて。
 俺も、貰ってきたものをその横に配置していく。
 そして、冷えたスラーダもグラスに注がれて。
「いただきます!」
「いただきます」
 スプーンを手にし、グラタンの中へ潜り込ませ。
「熱い! 美味しい! 濃厚!」
「そうか。それはよかった」
 丹恒は、スープを飲みながらほっとしたような表情を浮かべ。
「ホワイトソースは、初めて作ったんだ」
「本当? パムが前作ってくれたものより濃厚で、いくらでも食べられそうだ」