momiji
2024-12-15 19:14:55
7766文字
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ナルミツ小説の進捗

現在作業中のナルミツ小説『恋と審理』の冒頭のみ先に公開します。
GS3後~4前の時間軸、なるほどくん視点、お互い無自覚&両片思いです。
ミッちゃんの誕生日をお祝いする話です。捏造と幻覚しかありません、何でも許せる方向けです。
※12/20更新:少しだけ続きを追加しました。完成できるよう頑張ります…!
※1/10更新:完成しました!pixivに投稿しました→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=23787577

「おーい! コッチだ! おっせえぞ、御剣ィ!」
 古い友人のよく通る声が飛んでいく後方に、視線を送った。そこには想像通り、赤いスーツとヒラヒラした白い布を首元に着けた、もう一人の旧友の姿が見える。思わず緩みそうになった頬を隠すように、ビールを煽った。
 繁華街にある大衆居酒屋は、花の金曜日を謳歌する人々で賑わっている。仕事帰りに同僚と日々の苦労をねぎらっていたり、気が置けない酒徒同士ではじけるように笑い合っていた。白熱灯の暖かな光に包まれるさまざまな人間模様が、まるでひとつの絵画のように視界を彩っていく。
「仕事だったのだ、仕方がないだろう。これでも途中で切り上げてきたのだよ」
 その中に御剣が描き足されると、適当に作られた合成画像を見ているような違和感を覚える。場違いな雰囲気と服装を纏っているせいだろうか。そのことに、当の本人は全く気が付いていないようだった。自分が通り過ぎたテーブルに座っている数人が振り返って、こちらをしばらく見つめた後、何事か会話していることにも――相変わらず、どこにいても目立つ奴だな。
「お疲れ、悪いけど先に始めてるよ。おまえもビールでいい?」
 片手に持ったジョッキをつきつけると、構わない、と答える声が返ってくる。予想以上に近いところから聞こえたと思うと、隣の椅子が引き出されて銀色のアタッシュケースが挨拶してきた。かなり重そうな音だったが、一体何が入っているのか。きっと担当事件に関する資料やら参考図書やら、とにかく難解なものばかりなんだろうな、と辟易する。
 体を少し左にずらして座れるスペースを空けたつもりだったが、はみ出した肩がぶつかり合う。どうやら心遣いが足りなかったようだ。しかし壁が行く手を阻んでいるので、これ以上は動くことができない。肩幅どんだけ広いんだよ、コイツ。
「まさかキミからお祝いの誘いがあるとはな、矢張」
「オレだってダチの誕生日を祝うくらいはするんだぜ?」
「どうせ、カノジョとやらがまた外国に逃げてしまったのだろう?」
「ちっげーよ! ユミコはそんな女じゃねえ! オレは今度こそ運命の相手を見つけたんだよォ!」
 矢張は緩み切った笑顔を浮かべて、垂らした片袖を振っている。機嫌が良いときによく見せる仕種だ。どうやら今回の交際は、順調に進んでいるらしい。
「耳にタコができるほど聞いたセリフだな。キミもいい加減学習したまえ」
 切れ長の鋭い目に、きっちりと整えられた髪型。低い声と堅い口調も相まって冷淡な印象を与えることが多い御剣だが、実はわりと表情豊かに会話をする。しかし、そのバリエーションが捻くれた方面にばかり偏ってしまっているせいで、今浮かべているのも微笑というより嘲笑といった方が当てはまるように思う。結局、冷淡な印象のまま変わらないのは、これが原因なのかもしれない。
 それにしても、今日の御剣はいつもよりテンションが高い気がする。妙にそわそわとしているし、落ち着きなくおしぼりを持ったり置いたりしていて――もしかして、自分の誕生日を祝ってもらえるのがそんなに嬉しかったんだろうか。その健気な可愛らしさに免じて、矢張が本当は忘れていて、飲みに誘ってきた日付がたまたま御剣の誕生日だった、という真実は黙っておいてあげよう。ぼくって友達思いの良い奴だなあ。
 そんな物思いに耽っていると、お待たせいたしましたー、と威勢のいい声とともによく冷えたビールジョッキが届けられた。それを御剣が手にしたのを合図に、矢張が立ち上がる。恭しく大きな咳払いをして「ハッピーバースデー、御剣!」と乾杯をする。三つのジョッキが涼しげな音を立て、ぶつかった衝撃で跳ねた雫がキラキラと輝いた。
 ぷはーっと豪快に余韻を楽しんでいる矢張とは裏腹に、泡のヒゲをつけた御剣は目を伏せてなんとも言えない顔をしている。つい声をかけたくなり「御剣」と呼びかけてしまったが、今浮かんだ気持ちをどう表現すればいいのかわからず、とっさに「ついてるぞ」と言いながら自分の上唇を指差した。すると「ム」と小さく唸った後「何もついていないようだが」と返される。違う、ぼくじゃない。おまえだよ。
 ようやく理解した御剣が口元を拭うのを眺めていると、座り直した矢張が、ドン、とジョッキをテーブルに叩きつけてきたので、反射的にそちらへ目を向ける。
「で、そういうオマエらこそカノジョいねーのかよ? いつもオレばっか恋バナしてるじゃねーか」
「え?」
「は?」
 二人同時に声が出た。横目で様子を伺うと、脱いだ上着を椅子の背もたれに掛けている御剣と視線がぶつかってしまった。気まずさを誤魔化すように、指で頬を掻く。
「まあ、いないけど……
「そんなことにウツツを抜かしている時間はないのでな」
 御剣は腕を組み、なぜか偉そうな態度で矢張を見下している。素直にいませんって言えばいいのに。
「なんで急にそんなコト聞くんだよ?」
 恐怖のツッコミ男としてはここで御剣をゆさぶるべきなのかもしれないが、それよりも矢張に対する尋問をしなくてはならなかった。いつも一方的に自分の話をしてくるコイツらしくないから、きっと何か裏があるに違いない。
「ユミコにさ、オマエらのこと話したら会いたいって言っててよォ」
「私は遠慮しておこう」
「はえーよ! まだ何も話してねーぞ! せめてもう少し悩めよ!」
 バッサリと御剣に言い捨てられ、矢張が抗議の声を上げる。同時にテーブルへ拳を叩きつけた振動で、取り皿の上に置いていた箸がコロコロと転がった。それを拾って戻しつつ、宥めるように笑みを浮かべて続きを促す。
「まあまあ……それで?」
「おう、トモダチ連れてくるから今度みんなで一緒に飲もうぜってさ。つまり、トリプルデートのお誘いってわけよ! オマエらもカノジョ作るチャンスだぜ、オレに感謝しろよな!」
 そう言うと矢張は親指を立てて、得意げにウインクしてみせた。……それって、ただの合コンじゃないか?
 頭の中に浮かんできたその言葉を口にするより先に、御剣の平静な声が返ってきた。
「私は遠慮しておこう」
「一字一句同じ返事すんじゃねーよ!」
 録画を再生したかのように、先ほど見た光景がもう一度繰り返される。やれやれと思っていると、矢張が急に真面目な顔になって御剣の方を見つめた。
「ずっと気になってたんだけどよぉ……御剣、オマエってマジで興味ないのか?」
「何がだ」
「恋愛だよ、レ・ン・ア・イ」
……他にやるべきことがあって、優先度が低いだけだ」
「あのな。恋愛ってのは、トツゼン落ちてイキナリ始まるもんなんだよ。順位なんてつけられるもんじゃねえの。オマエだって告られたことくらいあるだろ? そういうときに、こう、グッときたりしただろ?」
……確かに、ヒトから好意を伝えられたことはある」
「やっぱりかよ! で、どんな子と付き合ってたんだ?」
「いや、丁重にお断りさせてもらったが」
「なんでだよ!」
「え、なんで?」
 恋バナには参加できないと傍聴を決め込んでいたつもりだったが、驚きのあまりつい声に出てしまっていた。訝しげにこちらを見る御剣の視線にいたたまれない気持ちになり、何か続けて言わなければ、と頭を巡らせる。
「ええと……あまり好みじゃなかった、とか?」
「そんなことはない。私にはもったいないほど、魅力的な方々だったと思う」
 複数形かよ。わかってはいたけど、コイツやっぱり相当モテるんだな。顔が良い奴が得する世の中なんて不公平だ、と改めて実感する。でも、ぼくがもし女の子だったら矢張の方がいいけど。御剣みたいなのと付き合ったら、絶対苦労する。色んな意味で。
「じゃあなんで断っちまったんだよ。カワイイ子だったんだろ、もったいねえなあ」
「馬鹿者、だからと言って生半可な気持ちで返事をするのはシツレイだろう。それに、もし受け入れたところで長続きはしないだろうと思ったのだよ」
「はあ? どういうイミだよ」
「私の検事という立場や功績に惹かれているだけだろうからな」
「自分で言うかフツウ? じゃあ学生ンときはどーだったんだよ」
 どうせずっとモテモテだったんだろ、チクショー! と悔しそうに嘆きながら、矢張は焼き鳥の串に嚙みついている。
 こういうとき、彼の竹を割ったような性格に思わず感謝してしまう。自分ではとても聞けそうにないことも、遠慮なく質問してくれるからだ。そもそも、こんなセンシティブな話題を振ることすらできないだろう。
「ああ……狩魔の名前に大勢群がってきたな。老若男女問わず、先生と縁を繋ぎたがる者は多くいたのだよ。私のような紛いモノにすら、食らいつこうとしてくる程度には」
 御剣はどこか遠くを見るような目で、苦笑を滲ませる。ずいぶん棘のある言い方だ、もしかしたら嫌な思い出でもあるのかもしれない。何があったのか気になるが、不快にさせるとわかっていることを強いる真似はしたくなかった。話題を変えようとして、もうひとつ気になっていた疑問を口にした。
「確かにそういうヤツもいたかもしれないけど……御剣っていう人間そのものを好きになったって可能性もあっただろ?」
「私自身だと? フッ、それはありえないな」
 法廷で矛盾を指摘するときによく見せつけられる、両手を挙げて肩を竦める仕種をした。……今の発言におかしなところなんて、何もないはずだけど。
「自分で言うのもなんだが……愛想もない、セケン話すらうまくできない、一緒にいてもつまらない人間に対して、好意など抱くわけがないだろう」
 そんなモノ好きなど、せいぜいキミたちくらいだろうな、と独り言ちる。あまりにも小さい声だったから、テーブルの向こう側に座っている矢張には聞こえていないだろう。――なんとなく、コイツに友人が少ない理由がわかったような気がする。
 自分に近づいてくる者すべてに対して、そんな疑心暗鬼を抱いていたのなら、とても深い仲になどなれるわけがない。もったいないと思うと同時に、隠しきれない優越感が胸の中に広がる。自分はその対象に含まれない特別な存在なのだと、暗に言われているような気がしたから。
 むず痒い感覚を持て余していると、唐突に軽快な着信メロディが周囲に響く。誰のものだろうと考える前に、その音は途絶えた。
「もしもしサトミちゃん? うん、オレオレ。……えっ今から? どこどこ?」
 ピスポケットから一瞬で携帯電話を取り出した矢張が、ワンコールで応答する。猫なで声で話している様子から、相手は意中の女性なのだろうことが伝わった。
「わりぃ! コレがちょっとアレだから、オレ帰るわ!」
「なんだと?」
 通話を終えた矢張は、いわゆるテヘペロといった表情をして小指を立てている。それを見た御剣の眉間のヒビが、本日一番の深度記録を更新した。横顔だけでも恐ろしい形相をしているのがわかる。
 しかし残念ながら、恋に生きる盲目男には効果がないようだった。その女性以外は何も見えなくなってしまっているのだから、当然かもしれない。こちらの返事を待つことなく、矢張は椅子にかけていたメッセンジャーバッグを手に取ると、スキップをしながら店の出口へと向かっていってしまった。
 ちらりと隣の様子を伺うと、御剣は無言で俯いていた。長い前髪に隠れて表情は見えなかったが、ジョッキを握りしめた拳に青筋が走っている。ガラス製の取っ手が今にも割れてしまいそうな剣幕だ。
「矢張め……ヒトを誘っておきながら途中で放り出すなど、一体どういうつもりだ」
 普段より低く、絞り出すような声が聞こえてくる。
「それに、女性の名前がカノジョと違うではないか。同時に複数の交際をするなど、不誠実にも程があるだろう!」
 法廷で追いつめられているわけでもないのに、憤慨を露わにしている姿がどうにもおかしくて、引き攣りそうになる頬をなんとか宥めつけて平静を装った。今の御剣を見て笑っていると思われたら、藪から蛇どころの騒ぎでは済まないだろう。コイツなら獰猛な熊くらいには余裕でなれそうだ。
「もしまた起訴されたときは、覚悟しておくがいい……全力をかけてキサマを有罪にしてやる」
「おい……それはもうやめたんじゃなかったのかよ」
 恨み言を呟き続けている御剣に苦笑しつつ、携帯電話の待ち受け画面を確認する。時刻は二十一時を少し過ぎたところだった。これからどうするか、人差し指で顎を撫でながら思案を巡らせる。解散するには少々早い気がするし、御剣はビールしか飲んでいない。それに、まだ誕生日祝いらしいこともできていない。いったん仕切り直すか、と結論を出した。
「で、この後はどうする? 寂しいヒトリ者同士、二軒目でもいく?」
「ム……明日も仕事なのだ。あまり時間は取れないが、それでも構わないなら」
「え、週末なのに? 相変わらず公僕だな」
「秩序を守る精勤な番人と言ってくれたまえ」
 いや長いよ、とツッコミを入れる。御剣は鼻で笑うだけで、顔は手元に固定されたまま忙しなく携帯電話のボタンを押していた。おそらく仕事のメールに返信をしているのだろう。さっき途中で切り上げてきたと言っていたから、その穴埋めをするつもりなのかもしれない。せっかくの休日なのに本当ワーカーホリックだな、と呆れてしまう。
「じゃあさ、御剣の家行ってもいい? それならおまえも楽だろ?」
「ベツに構わないが……何もないぞ」
「帰りに何か買っていこう。欲しいものある? ぼくが出すよ」
 用事を済ませたらしく携帯電話を閉じた御剣が、ようやくこちらに視線を向けた。驚いたように目を瞠ったのは一瞬だけで、すぐに唇の端をつりあげた。言葉の裏に隠していた意図に気付かれたらしい。
「ふム、そうだな……一度飲んでみたかったワインが近くの店に置いてあったはずだ」
「一応言っとくけど、ぼくの財布にも限度はあるからな?」
「フッ。たまには漢気を見せたまえ、弁護人」
「おまえに見せてどうするんだよ……
 口ではそう悪態をついたものの、人に甘えることをしない御剣が素直に物をねだってくるのが新鮮で、どこか浮足立った気持ちになっていた。一方で冷静な頭が、今月の家賃や経費について見積もりを算出する。……うん、大丈夫だろう。たぶん何とかなる。
 まずは、この店の会計を済ませなくてはならない。後で矢張に請求書を送り付けてやろう、と決めて立ち上がった。



 御剣が行きつけだというワイン専門店に入ると、高い天井の壁一面に多種多様なボトルが整然と並べられている、圧巻の光景が広がっていた。唖然としているぼくを置いて、御剣は店員と親しげに会話しながら、勧められるままプラスチック製の小さなコップを口にしている。どうやら試飲もできるらしい。
 彼が楽しそうなのは見ていて微笑ましいのだが、視界のあちこちに映る値札の桁数が想像以上に多くて、背中を流れる冷や汗が止まらなかった。これは当分そうめん生活を覚悟しなければならないかもしれない――ふと、枯れた緑色のコートを揺らしながら笑う刑事の姿が頭に浮かんできた。今度会ったらおすすめを聞いてみよう、できるだけ安くて美味しいものを。
「では、成歩堂。これを頼めるだろうか」
 そんな寒風が吹き荒れている内心など知る由もない御剣が、振り返って何かを差し出してきた。ぎこちない表情と動きで受け取り、恐る恐る手元に目を落とす。そこにあったのは、本当にワインなのかと疑うような美しい青色の液体が入ったボトルだった。
「ブルーワインだ。キミと飲むならば、これが一番良いと思ったのだよ」
 不思議そうな顔をしているのを見て察したのか、商品名と選んだ理由を教えてくれた。値段も五千円札でお釣りがくる。あらゆる意味で気を遣われていることに気づき、無性に頭を抱えたくなってきた。誕生日プレゼントなんだから遠慮しなくてもいいのに、カッコイイことしやがって。正直すごく助かった。
 脳内にまだ佇んでいた刑事が「自分だけずるいッスよ」「一緒にソーメン買いに行く約束したじゃないッスか」とかなんとか抗議を唱えていたが、しっしっと手を振って意識の外へ追いやった。なんとか今まで通りカップ麺で済みそうだ、と安堵の溜め息が漏れた。
 店員に勧められたツマミや総菜も一緒に購入して店の外に出ると、御剣が片腕を伸ばしてタクシーを呼ぶ。まだ電車はあるが、一刻も早く家に帰りたいと彼が言うので、それに便乗させてもらうことにした。
 道路脇へ停止したタクシーの後部座席に二人で乗り込むと、御剣が運転手に行き先を告げる。すぐに発進して、繁華街の風景が車窓の外を流れ始めていく。しばらくそれを眺めた後、腕に抱えたワインの紙袋に視線を移して声をかけた。
「ブルーワイン、だったっけ。初めて見たよ」
「最近スペインで誕生したばかりだからな、知名度はまだ低いだろう。私も飲むのは初めてだ」
「まさかとは思うけど、ぼくのスーツが青いからって選んだわけじゃないよな?」
「ム……理由のひとつではあるが」
 含まれてるのかよ。妙に素直で天然なところがあるよなコイツ、と内心で苦笑した。
「このブルーワインを作ったのは、酒造経験のない素人なんだそうだ。伝統やルールにばかり囚われている業界に革新を与えたい、という目的があったらしい。……調べれば調べるほど、まるでキミのようだと思ったのだよ」
 未経験の素人が作った異色のワインと似ている――それは、司法とは縁のない人生を歩んできたぼくが、御剣に会うために弁護士バッジを手に入れたことを指しているんだろう。全然違うじゃないかと思ったが、彼がこうして自分を連想する何かがあるのだと考えると、実はその通りなのかもしれないとも思えてくる。どれだけ単純なんだ。気恥ずかしさを隠すようにそっぽを向き、投げやりな態度で返した。
「ベツに、そんな大層な気持ちで目指したわけじゃないけど」
「経緯はどうあれ、キミが法曹界に大きな影響を与えているのは事実だろう」
「ぼくはただ真実を知りたいだけだよ」
「フッ……法の暗黒時代を終わらせるのは、きっとキミのような人間なのだろうな」
 買いかぶりすぎだろ。そう言おうとして振り返った先の、瞼を閉じた穏やかな微笑の方に意識を奪われる。御剣がこういう柔らかい雰囲気を纏っているのが珍しくて、声をかけられるまで呆然と見つめていた。
「なんだ」
「いや……御剣って、そんな顔もできるんだな、と思って」
「どういう意味だ?」
 ぼくの無遠慮な言葉に、御剣はいつもの威圧的な面持ちに戻ってしまった。
 ――もっと、そういうカオ、すればいいのに。
 本当はそう思っていたはずなのに、どうしても口にしたくなくて誤魔化してしまった。最近コイツと一緒にいると、自分の中に矛盾ばかり生まれてしまう気がする。
 返答に窮しているとウインカーランプが点滅する音が聞こえて、タクシーが道路端に停車する。ちょうど良いタイミングで目的地に到着したおかげで、何とかこの場をやり過ごした。