loostar19
2024-12-15 16:19:11
1696文字
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Fの悲劇

途中ですが、掲載します。続きは恐らく成人向けとなります。

 まるで星空のようだ。
 松明の炎が一際大きく揺れて、辺りを星の瞬きの如く鈍く照らし出すのをフェリクスは息を飲んで見上げた。成人した男一人がやっと通れるような通路に、銀色の粒のようなものが所狭しと見え始めていた。
「痛ッ」
 鈍い音と共に目の前の男がとっさに額を押さえ腰を屈めた。
「阿呆。貴様は背丈があるのだから気をつけろとあれほど」
「だ、大丈夫ですか、陛下!」
 この新鉱山の現場監督に抜擢された男は松明を持ったまま真っ青な顔をして、振り返る。
「ああ、気にするな。問題ない」
 見せてみろ、と男の肩を掴んだが、男は”これくらい大丈夫だから”と呟いて子供のように口を尖らせた。
 半ば無理やり前髪を掻き上げさせたディミトリの右の額は、うっすらと赤くはなっているが出血はしていないようだ。
「この辺りはまだしっかりと整備されていないので、崩落にも十分気を付けてください」
「分かっている」
 新しく見つかったばかりの銀鉱山の視察にディミトリとフェリクスは訪れていた。ブレーダッド領は昔から良質な銀鉱山を所有しており、その産出規模はフォドラ全体の約七割を誇ると言われている。領地の約半分が広大な荒野に覆われているブレーダット領に於ける、まさに産業の要である。そんなブレーダッド領に新たな鉱床が見つかったと吉報が齎されたのは、新年を迎えたばかりの頃であった。
 自分も腰を屈めつつ、坑道をそろそろと進んでいく。狭い坑道の中は無数に道が分かれており、現場監督が同行しなければとても無事に戻れはしないだろう事が伺えた。
「着きました。こちらです」
 息が詰まりそうな狭苦しい坑道を抜けた先に、突然空間が広がった。視界の奥には銀の鉱床と思しきものが見え、フェリクスは松明を持ったまま近づいた。
「凄いな……
 隣に並んだディミトリが呟くのをフェリクスは無言で頷いて返した。
 想像以上の鉱床の大きさである。フェリクスは突き出た銀の欠片を摘まんでみると、炎の前に掲げてみた。見た目だけでは完全に判断出来かねるが、恐らくかなり良質な銀だ。その証拠に少し力を入れてみたら銀の欠片は砕け散った。銀は他の鉱物より柔らかく、純度が高ければ高いものほど柔らかい。その為銀は食器や燭台等にも良く加工されているのだ。
「良質な銀のようだな」
 側で見ていたディミトリがフェリクスの掌から粉々に砕けた欠片を拾うと、小さく頷いた。
「この鉱床を見つける為に少なからずの怪我人が出たと聞いている。後程彼らを見舞いたい。案内してくれ」
 ディミトリが振り向いて現場監督にそう訴えた。
 崩落やガス等、坑道の整備は多くの危険と隣り合わせである。当然、死者が出ることもある。現段階でこの鉱山で死者が出ていないのはある意味奇跡と言ってよかった。
「は、はい。国王陛下がわざわざ見舞ってくださったと知れば彼らもその家族も大いに喜ぶことでしょう」
「そうだと良いが……
 曖昧に返事をしてからディミトリは辺りをゆっくりと見て回った。ディミトリが軽く触れた鉱床はまるで主を待っていたかのように、輝きを増したように見えた。
「陛下、そろそろ……
 視界の端で少しづつだが、土が落ち始めている。現場監督の言葉にフェリクスも松明を右手に持ち換え、ディミトリを呼んだ。
「おい、行くぞ」
「ああ、分かってる」
 名残惜しそうにディミトリが振り向いたその時、フェリクスの目の前に天井から『黒い何か』が落ちてきた。ああ、土かと思った瞬間、フェリクスの身体は前に突き飛ばされていた。
「危ない!!」
 叫んだのはディミトリだったか、現場監督だったのか。たたらを踏んで不格好に尻もちを付いたフェリクスの目の前に、轟音と共に天井から豪雨のような大量の土砂が降り注ぐ。フェリクスは呆然としたまま立ち上がり、無意識に叫んだ。
「ディミトリ!! おい、返事をしろ!!」
「陛下! ご無事ですか! 陛下!」
 代わる代わる叫んだが、土砂の向こうは水を打ったかのように静かだった。フェリクスは無心で土砂を掻き分けた。自分の爪が剥がれるのも構わずに。