木蔦(キヅタ)
2023-11-07 21:26:16
4112文字
Public ちょぎくに シリアス
 

放置されてた写しと不器用でわかりにくい本歌の話【ちょぎくに】


ちょぎくに

長義が顕現する。しかし長義は写しと折り合いが悪い。いつも近侍に写しの文句を言っている。

「俺が遠征?面倒だな。偽物くんにやらせればいい。俺の写しなのだから仕事は俺の分までやってくれるさ」
「俺の身の回りの世話をさせる者が欲しい。そうだ、偽物くんなんて従者にお似合いじゃないか。やつをあてがってくれないか」
「特上以外は使わないよ。俺を誰だと思ってるんだ。そのゴミは偽物くんに片付けさせて」

えらそうな態度で文句ばかり。他の刀達もイライラしてくる。口を開けば「写しに押しつければいい」「雑用がお似合いだ」など。
写しが仕事をしていたので、非番の子達が手伝おうかと声をかける。

「長義さん酷いです」「また国広さんに押し付けたんですね!」などと言うと写しは困ったような顔をする。
てっきり愚痴でもこぼすかと思ったが、いじめられてそんな気力もないようでしょぼんとして黙々と仕事をこなしている。

それは日々酷くなり、雑用だけでなく、政府からのイベント任務も写しに押し付ける。
「玉集めだって?この俺が入るような重要性はないだろ。写しにさせろ」
「俺の軽装のために精々小判を集めるように伝えてよ。倒れても吐いても向かわせればいい」

ついに新合戦場への出陣許可が政府から降りた時に事件は起こった。
「そんな危険が伴う所は本歌である俺は行くべきではない。スペアに行かせてくれ。そのための写しだ」
要は写しなら折れてもいいと言っているということで、みんながザワっとする。
大広間で政府からの指令が読み上げられた所だった。

「やめろ……!!」

ついに写しが声を上げた。みんながそちらに注目する。
泣きそうな声。
「酷いことを言うな……!」
ついに写しが反抗したとわかった面々は次々と「そうだそうだ」「酷いぞ!」などと言う。
「違う!」
写しが声を張り上げる。


「長義に酷いこと言わないでくれ……!」









まんばはこの本丸で35番目に顕現した刀だった。

既にある程度練度の高い者はいるため、遠征に行き資材を集めるサポート要員となった。
新合戦場が開かれ、夜戦中心になるとそれまで低練度だった短刀達の出番になった。まんばと共に遠征に行ってた者達はどんどん高練度になっていった。
本丸の仲間もどんどん増え、まんばはそのうち遠征要員から、内番要員になった。
内番は内番で楽しかったが、戦場に出たいと言う気持ちはあった。しかし今与えられた事をやらなければ、戦場どころか遠征すら出してもらえない。
まんばは自分がやれることを頑張った。

しかしそのうち内番からも外された。
まんばはやることがなくなった。しかし体が鈍るといけないため、厨や掃除をやっていた。

そんな時に本歌が現れた。本歌はまんばを一瞥しただけだった。
ついに本歌が来たから写しはお払い箱になると恐怖した。


しかしその日からまんばの日常は少しずつ変わっていった。

「え、俺が?」
いきなりまんばは遠征任務が下った。久々の遠征で戸惑いながらも少し嬉しかった。
内番もたまにあてがわれるようになった。なぜ本歌が来たのに写しが呼ばれるのか不思議だった。
そのうち長義の世話をしろと言われた。
本歌のための写しだからこうなるのは当然だと思った。

共用スペースから本歌の服を部屋に運んだり、部屋を掃除したりしていると、長義から声が掛かった。
侮蔑の籠った視線で見下ろされた。

「偽物くんなんかに私物を触られたくない。余計な事をするな。用がある時に呼ぶから部屋に控えていろ」

と言われる。
仕方なく自室に引っ込んだ。

しばらくすると本歌に呼ばれた。部屋に行くと茶を入れろと言われた。

「まっず……!お前は!茶の淹れ方も知らないのか!」
「す、すまない
「もういい、気が削がれた」
「もう一回!」
「うるさい!何度もチャンスがあってたまるか!それは責任持ってお前が片付けろ、いいな」

お茶を飲んだら確かに渋くて飲めたもんじゃなかった。一口も食べてない和菓子もあって、冷蔵庫に仕舞おうとしたが長義から「それの賞味期限は今日だ。捨てるのも勿体無いから食べろ」と言われた。

そう言うことがたびたびあった。
好みじゃない菓子をもらったから食べろ、とか、安物の菓子があって口に合わない、とか。

初回はラッキー程度にしか思わなかったが、それが何度も続けば写しだって疑問に思う。




ある日長義から呼ばれて刀装部屋に行くと、並や上の刀装があった。
「俺は特上しかつけないからね、これは捨てようと思う。片付けておけ」
「え
「これがどうなっても俺は知らないから、例えば戦場で誰かが使ってなくなっても、気にしないだろうね」

もうあからさますぎて、涙が出そうになった。

その頃まんばはたまに出陣に呼ばれるようになっていた。しかし練度が低いため、たびたび刀装を壊していた。こんなにたくさんの刀装を長義はまんばのために集めてくれたのだと思った。

当の長義は特上しか付けないと言い張って、刀装1つで戦場に出ているようだった。長義こそ危ないんじゃないかとハラハラしたが、彼は怪我をしても一番に手入れ部屋に入れてもらえていた。
あんなに優しい本歌が、大事にしてもらえていてホッとした。

しかし周りの評価はそうではなかった。

出陣も遠征もなく、何もやることがない日、休みといえば休みだが、多すぎる休みの日に掃除をしていた。
短刀達が手伝うと言ってくれ、一緒にやっていると、口々に長義の悪口を言い始めた。

まんばは否定しようとしたが、結局口を閉じた。勝手にその事を話していいか迷ったからだ。
しかし長義が一方的に悪者になるのは嫌だった。
否定して回りたい気持ちでいつもいっぱいだった。

そのうち長義の計らいで政府主催のイベント任務に参加することになった。玉や花火を集めるのを口実に、刀の練度上げが政府の目的だ。破壊はない安全な戦場に写しを送り出そうという考えだろう。

どうしてそうなのかと怒りたくなった。
いい加減やめさせようとまんばは長義の元へ行く。そこで長義が誰かと電話で話しているのを聞いてしまう。

「そう、そろそろそちらに戻ろうと思う。ん?いやちょっとヘマしてね。みんなに迷惑をかけたから居づらくてさ。いや、そんなことないよ、はは」

居づらくさせたのは自分だ、とまんばは悟った。

戻ると言っているから、おそらく電話の相手は前の職場の者だろう。このままだと長義は政府に帰ってしまう。

(ちゃんと、誰かが正さないと)

心優しい長義が誤解されたままいなくなってしまう。














「長義に酷いこと言わないでくれ……!」

まんばの一言で大広間はしん、と静まり返っていた。

「え、どういうこと?」
「なんでお前が長義を庇うの?」
「弱みでも握られてる?」

みんな事態が飲み込めなくて、口々に質問する。

「長義は俺のためにわざと悪者を演じてたんだ!俺が、本歌の写しとして、不甲斐ないから……!」
「悪者……?」
「妄言はやめてくれないか。お前のために動いたことなど一度もない。気でも狂ったのかな」
「俺の勘違いでも、妄想でもない!」
長義がまんばの頭を掴み、ガンッと壁に押し付ける。

「妙なことを言うな、気持ち悪い!それ以上言うとへし折るぞ……!」
「ぐ…………っ」
「みんな写しなんかの肩持って、嫌気がさすな。揃いも揃って馬鹿ばかり、互いに慰め合ってお似合いだね」

沸点の低い刀が怒声をあげる。他の刀が止めた。

みんなからの敵意が長義に向かっていることはわかった。

「あーあ、やはり俺にはこんなしみったれた所は向いてない。主、悪いけど政府に戻らせてもらうよ」
「だ、だめだ……!」
「偽物くん、精々ここで弱いなりに頑張れば良いさ」

じゃあね、と長義はまんばを離して、踵を返す。
「俺は……!」

まんばの気持ちなんて誰も察してくれなくて、どんどん取り残されていって、それなのにまんばを理解してくれたのは長義だった。
何も言わずに、不器用にそっと道を指し示してくれた。
こんなに優しい彼を酷い奴として本丸から追い出して良いわけない。

「俺は、長義がいないと、やだ……!」

自分の奥深くに彼がずっと支えになってて、もうかけがえない存在だった。

「戻るなんて、言わないでくれ……!もっと、一緒にいたい……!ちゃんと、俺が、一人前になるまで、そばで見ていてほしい……!不出来な写しだが、あんたのお陰で練度だって上がった。あんたの助けなく『さすがは俺の写しだ』と、そう思ってもらえるようになるから!俺がこんなんだから、あんたはみんなの前で悪態をつく真似をせざる得なかった。そんなことさせないくらいの、立派な、うつしに、なるから……っ!」

言いながら涙が溢れてきてしまって、言葉に詰まる。
まだ伝えきれてない。感謝の気持ちも、どれだけ自分が助かったのかも、長義の誤解も解いてない、それなのに涙が溢れ出して声が出てこない。

「行、か……っ」
「馬鹿な写しだな」
「ちょ……う、ぎ……
「はぁぁ……。本歌がいなくなるくらいでこんな大泣きする写しを置いていけない……。これは俺のミスだ」
泣きすぎて頭が回ってなくて長義の言葉が理解できない。「つまり?」と首を傾げた。

「お前が引き留めたんだ、責任持て」
「!」

彼の言わんとしていることを理解した。彼の言葉はいつも遠回しでわかりにくい。
これは「政府に戻るのを考え直してやるから、みんなへの誤解はお前が解け」と言うことだ。

「わかった……!」

ようやく涙も引っ込んで、みんなの方を向く。わけがわからないながらも、修羅場を黙って見守っていてくれたようだ。

「聞いて欲しい、説明が上手くないから、少し長くなるが優しさがわかりにくい、俺の、本歌の話を」


ここまでお読み頂きありがとうございました!お疲れ様でした(*´∀`)