木蔦(キヅタ)
2023-11-07 21:05:53
3209文字
Public ちょぎくに コメディ
 

記憶喪失強化週間⑥他のちょぎくにに八つ当たりをする長義の話【ちょぎくに】


(⑦に続きます)


「はぁ!?お前が言ったんだろうが!」
「言ってない!それに細かいことをネチネチ言うな!器が狭いぞ!」
「誰が狭量だって!?ただ突っ込んでいくしか能がないくせに!少しは考えて行動しろ」

顔を合わせばいつも言い合いで、仲間からはやれやれと放置されている。
仲が悪い。

しかし長義は密かに国広のことが好きだった。ツンケンしてしまうのは気持ちを隠すため。



イライラして街に出る。
なんだか写しを連れてる同位体ばかり目につく。多い。しかもイチャイチャしてる。
大抵写しと初っ端から折り合いが悪く、不仲なことが多いが、なぜそんなにも仲がいいやつらばかりなのか。見せつけられているようで腹が立つ。

(こっちは写しとうまく行かないっていうのに!)

そんな時いきなり雷が鳴り始める。
その雷は長義の気持ちに呼応するように激しさを増し、そして長義に落ちた。(金属)
黒焦げになるかと思いきや長義は無事だった。何ともない。
しかし不思議なことが起こった。


偶然肩が当たった同位体が記憶を無くした。
一瞬バチっとしたような感覚があったが気のせいかと思った。

写しとイチャイチャしてたが途端にスンッとなり「誰だ?ああ、偽物くんか。どうして俺はここに?何をしていた?」と言い始めた。

そんなことが何回か続いた。
触れると記憶をなくす能力があの雷で身についたらしい。
しかしただ触れるだけでは効果はない。「消えろ!」と念じると発現する。
最初に肩が当たった長義には「さっきからイチャイチャしすぎなんだよ!公共の場だというのを弁えろ!」と思っていた。

(見せつけてくる性格の悪い同位体にこれで仕返ししてやる!!)

写しとうまく行かない逆恨みを他の(一切関係ない通りすがりの)同位体にぶつけた。







ケースA

気づくと長義は写しとベンチに身を寄せ合って座っていた。
聚楽第で監査を終えて、政府に報告した後の記憶がない。
自分の腕は写しの腰を抱いてる。

「な、ぜ、俺はこんなことを!?」
「長義?」
「偽物くん、これはどういうことなのか説明してもらおうか」
「せ、説明!?」

赤くなって写しがもじもじしている。その間も自分の手は写しから離れず、尻を撫でている。

「その、お前が、昨夜、あまりに離してくれないから、その、腰が痛くて、座ろうと……

!?
自分が求めている説明ではなかったが、とんでもない情報が出てきて驚いた。
信じられなくて、くいっと顔を上げさせた。

「まさか、俺とお前が恋仲だなんて言わないよな!?」
フルフル写しは瞼を震わせて、悲しげになる。

「俺と、恋仲なんて、嫌だよな……。俺は長義のことが、す、すき、なんだが……

涙ぐんでいる写しに腹が立ってガンつけるように顔を近づける。

「嫌とかそういうレベルじゃない!」

吸い寄せられるようにそのままキスをした。








「?????」

記憶操作の力を授かった長義は、その様子を側で見ていてスペキャになった。

こいつ、やってることと言ってることがチグハグ過ぎないか??
身体は覚えてるってやつか?

呆れた。
次行こ次





ケースB
長義は写しにデレデレだった。

写しは人前でイチャつくのが恥ずかしいらしく「あんまりくっつくな!」と怒るが、それも可愛らしい。プンスカ怒っても触ってほしいと顔に出ている。

随分今日は混雑しているようで一人の長義が写しにぶつかってきた。どこ見て歩いてるんだ!
「大丈夫か?」
写しを抱き寄せて優しく声をかけるときょとんとした。
「え、お前誰だ?」
キョロキョロと辺りを見渡し、眉を寄せる。

誰とは?

もしかして、あなただぁれ?お前の恋刀だよ!愛してる!俺も愛してる!みたいなやり取りがしたいのか?自分の恋刀だと再認識したくて?かわいいやつめ。

「お前の恋刀だよ!愛してる!」
「恋刀!?嘘だろ!?」
「照れてるのか?かわいいね」
「離せ!」
「だーめ。さっきみたいに人にぶつかるだろ」

さっきから人前でイチャつくのを恥ずかしがってたから、知らんぷりしてるのかもしれない。

それならふたりきりになれるとこに連れてってあげよう。







記憶操作持ちの長義は溜息をついた。
同位体がダメなら写しをと思ったがダメだった。しかも本歌であることすらわからないほどの記憶を奪ったのに。

同位体が強引過ぎたな……
結局はイチャついた。

次こそ破局させてやる……

人前を憚らずイチャついてるやつを狙ったのが悪かったのかもしれない。ああいうのは豪胆だから記憶がなくなっても動じない。
少し距離があって、甘酸っぱそうなふたりがいたため、ターゲットに選んだ。こういう初々しいのはまんまと罠に嵌まるはず。
お互い意識していることは明白で、初デートではないだろうか。

長義は気づかれないようにそっと近づいた。






ケースC
長義は肩にパチっという静電気のようなものを感じた。同時に何かが抜け落ちたような、ぽっかり穴が開いたような感覚に陥った。

横に随分綺麗な顔をした男性が立っている。

「その、長義、えっと……

推測するに、長義は俺の名前だろう。
随分顔が自分に似ている。同じ刀工の兄弟刀か。
いやそれにしてもまるで双子のようにそっくりだ。むしろこれは出来のいい写しなのではないか。

「お、俺なんかがお前とこうして出掛けられるのは、えと……

どうやらふたりで出掛けたシチュエーションらしい。内容からして、長義から誘ったか、第三者に強制的に出掛けさせられたか。
彼の態度から「長義と出掛けられて嬉しいけど、謙遜しちゃう」と取れる。

「いやお前とこうしていられて俺は嬉しいよ」

ボッと彼は顔を真っ赤にさせた。
彼は長義に好意を持っているらしい。いやただの恥ずかしがり屋の可能性もまだある。

しかしもし長義から誘ったのだとしたら、恋愛的感情をお互い持っているのかも。

「う、写しの俺なんかが、烏滸がましい

写し!!!

ようやく彼の正体がはっきりした。写しだからこんなにもそっくりなのか。
写しがこんなにも謙遜して、本歌を立てているなどいじらしい。
俺がこんなにあからさまな好意を向けられて気づかないわけない。自分なら口八丁手八丁で逃れるはずだ。
それなのに彼とこうして出掛けたということは、自分も少なからず彼を思っていたはず。

つまりこれはデートだ!

ぎゅっと手を握る。
「今日は、どこに行こうか?」
にこっと微笑むと彼は一層真っ赤になった。

態度からして恋仲ではなさそうだ。両片思いの初デート、というところだろうか。

「あ。ねぇお前のこと、特別な名前で呼びたいんだけど、なんて呼ばれたい?親しげに見えるのがいいな」

こう言って名前を聞き出す作戦だ。『お前』では何かと不便。
「え……!」
彼は固まってしまう。そしてようやく絞り出すように、あわあわとしながら答えた名前が「くにひろ」だった。

刀工の名前が「くにひろ」なのだろうか。聞いたこともない。

くにひろ、と呼んでやると縮こまってしまった。
「立ち話もなんだし、茶屋にでも入ろうか」







記憶操作能力持ちの長義は思った。

(え、ちゃんと掛かってたのか??)

すごくスムーズにイチャつかれた。さすが同位体。賢くて、器用で、エスコートできる男。

少しぎこちなさはあったため、恐らく記憶を失ってるとは思うが、まったく写しに違和感を感じさせないすごさがあった。ナニコレ
結局、イライラの鬱憤を晴らせなかった。なんでこうも写しと付き合っているやつらばかりなのか。

羨ましいなんて思ってない!と思いながら本丸に帰った。

⑦に続く