木蔦(キヅタ)
2023-01-03 20:50:51
4292文字
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妊娠逃亡ボツ【ちょぎくに】


※妊娠逃亡アンソロ用に書いてたんですが、途中でアンソロ向きじゃないと思い、中断した話です。
※途中で終わります。

※一時的女体化があります。


「やはり大人しくて、素直な子かなぁ? 内気だけど気遣い屋で、献身的な性格だとなお良いな」

そんな声が聞こえてきて、『ああ、俺とは正反対だな』と思った。『煩くて、生意気で、出しゃばりなやつだ。お前のようなやつを独裁者っていうんだよ』などと言われたことがある。彼の好みとは程遠いようだ。所詮酔っ払いの与太話だが酔ってる時こそ本音が出るものだ、だから彼の本心だろう。
それでも俺は彼に恋をしていて、どうしようもない想いが胸に燻っていた。


「別人になりたい」
こんな生意気で出しゃばりじゃなくて。
「大人しくて、内気で、献身的な性格になりたい……!」
戦績報告で政府へと赴いた時、そんなことを漏らした。
「お前さんが自己を否定する言葉を言うなんて珍しいな。修行前ならまだしも」
担当の刀は目をぱちくりしている。
政府の刀はお堅いイメージがあるが、彼はなかなか話しやすい刀で、多少のことは融通してくれたり、こちらを気遣ってくれたりする。人の内側に入り込むのも上手く、本丸の仲間に話せない愚痴や個人的な悩みをついつい零してしまうこともあった。
『おや?恋をしてる目だね〜』などと鋭い指摘をするものだから、既に俺の恋心も知っていた。(後で聞いたら冗談だったらしいが、俺は真面目に受け取ってしまい、その時に洗いざらい吐いた所為でバレた)もちろん審神者や他の仲間達に話さないよう口止めしている。
「ああそうだ!良いものがある」
そう言って彼は部署を出て行く。おいでと手招きされたので着いて行った。

彼の話では、政府の研究所で治験を募集しているらしい。安全性は保障されているが、体格や体質によって効果の継続時間などをサンプルデータとして取りたいとのことだ。俺と何の関係があるのかと思った。
「外見が変わる薬だよ。これで別人になれる」
「外見が……?」
「本当は審神者の許可を得て、正式に書類を通さないといけないんだけど、お前さんは初期刀だろう?初期刀権限でも問題ないはずだからなァ。あれどうだっけ?」
別人になったら、彼の好みになれるだろうか。今は軋轢があり、会うだけで顔を歪める。それなのに自分の心は恋心で溢れかえっていて抑えきれない。一夜だけでも良い、彼に愛されたい。別人になれば愛してもらえるのでは? そう頭を過ぎった。
「やる……
「そうこなくっちゃ!」

*

「待て、聞いてない、なんだこれは!」
政府刀に付き添われながら、試薬を注射された。人によるが1時間ほどで身体が変化し、効果は2~4日ほど継続すると言われたため、研究室内で待機した。その間に審神者に連絡を入れて、外泊許可を得た。突然の事なのに審神者は快く承諾してくれた。
そして外見が変化したのだが、顔は山姥切国広のままだった。
「外見が変化するんじゃなかったのか……!?」
「してるじゃないか」
「顔が変わってないだろ!」
「うーん?可愛い顔で良いと思うよ」
「可愛いとか言うな!こんなんじゃ意味がない……!」
「でも女性体だから君とは別人だって思うだろうなァ」
「そんなわけ……!」
俺の身体は女になっていた。胸が膨らみ、ごつごつしていた腕や足などは短くなった。これは『女体化する薬』だったらしい。この政府刀は、女体化だと言えば俺が断ると思って、オブラートに包んで説明したのだ。
「こんなんじゃ……
「オーケーオーケー、俺に任せておきな。とびっきりのべっぴ……別人にしてやろうじゃないか」


別の部署の刀も巻き込み、服を取っ替え引っ替えされたり、顔に何かを塗りたくられたり、大変だった。
「これが、俺!?気持ち悪い!女みたいだ!」
「今は女の子だろ?」
鏡を覗くと自分じゃない自分がいた。どこからどう見ても女の子だ。美人すぎる。
「これで山姥切国広だとはバレないよ。万が一バレても女体化してるんだから君とは思わないだろうね」
確かにそうだ、まるで普通の女の子のようだ。
「さて、ターゲットを呼び出そうか」
「どうやって?」
「おじさんに任せなさい」

*

「審神者の浮気相手が政府でヒステリックを起こした挙句、隠し子を置いて消えたから審神者には内緒で身柄を預かりに来いって言われたんだけど!?」
バンッと大きな音を立てて長義が政府に飛び込んで来た。息が切れてることからかなり急いで来てくれたらしい。
「あんたはなんて理由で呼び出したんだ!!」
審神者の名誉を傷つけるような理由に驚き、ガクガクと担当を揺さぶる。
「ほら来たじゃないか」
「来れば良いという問題じゃない!審神者のコカンに関わるだろ!!」
「沽券ね、コケン。確かに股間にも関わるけど」
担当が長義を手招きする。
「こちらがそのお嬢さんだよ。そちらの審神者さんにどことなく似てるだろ?目が二つ付いてる所とか、鼻が真ん中にある所とか」
「大抵の哺乳類は目が二つと鼻が真ん中についてるんだが?」
「審神者に隠し子がいたなんて……。どうしてそれを俺に?本来なら本人か近侍を呼ぶだろう」
「お前さんは政府にいたこともあって、内情を知ってるだろ。うまく取り計らってくれると思ったんだ。デリケートな問題だからさァ。あと単に呼び出しやすかった」
「最後のが本音だな?……まあいい。用件は」
「で、このお嬢さんの世話をお願いしたい。現世に帰す手配は整ったんだけど、それまで時間があってね。審神者の身内ということで遡行軍に狙われる可能性もあるから護衛を頼みたい。まぁ親に合わすかどうかは君に任せるよ」
「ひっ! ダ、ダメだ! ある……親には言わないでほしい!」
「だそうだよ」
主にバレてしまったら大変なことになる。隠し子というのを信じられても困るし、見破られても困る。どちらにせよ大ごとになるため避けねばなるまい。
「そんなわけで明日までこの子をよろしく頼むよ!」
担当にぺっと追い出された。

あの説明で長義が信じたかわからない。『面倒なことになった』と言わんばかりの顔だ。俺はバレてないからびくびくしながら、一日、大人しくて素直で内気だけど気遣い屋で献身的な女性を演じた。上手くできてるかはわからなかったが、俺に向ける顔は少なくとも顰めっ面ではなかった。それがとても嬉しくて、俺はつい調子に乗ってしまった。

俺はたった一夜でいいから思い出が欲しかった。

政府が──というか担当が厚意で手配してくれたホテルに向かった。別室に行こうとする彼を『怖いからそばにいて欲しい』と引き留めた。そして彼の飲み物に媚薬を盛り、まんまと罠に嵌めた。

媚薬の熱を抑え込もうとする彼を心配するように近づき、そして自分を使って欲しいと誘い、懇願し、彼に抱かれた。
女性体ということもあり、勝手にトロトロと愛液が溢れる様は大層恥ずかしかった。

そして翌朝、俺は現世に帰るフリをしつつ、彼に別れを告げたのだった。

まさか、その一夜のせいであんなことになろうとは思いもしなかった。


*

「はぁ!?妊娠!?」
男に戻って数ヶ月後、日々元気に過ごしていたはずが、どうにもここ数日体調が悪い。しかも自分の腹から別の気配がする。不安を感じ、政府の研究機関にこっそり相談した。そしていろんな検査を受けた結果がそう言われた。
「お、俺は男だぞ!?」
「心当たりはないのかい?」
何故か一緒に診断結果を聞いていた担当が問いかける。
「心当たりなんて……!」
ハッとする。ある。
でもまさかたった一夜で授かるなんてあるわけない。でもそれしか心当たりがない。
「まさかあの時の……?」
「あるんだね?」
俺は血の気が引いた。なんてことだ、まさか長義の子を宿してしまうなんて。

それからの展開は早かった。
女体化時の妊娠の可能性を話すと、是非産んで欲しいと言われた。主や仲間には内緒にしたいから難しいと断ろうとしたが「数年間だけ政府預かりの刀になるのはどうだろうか」と提案された。
腹の出た姿を見られるわけにもいかないし、赤子を抱いて本丸に帰るなんてできない。しかし何も罪はない腹の子を殺すのは心苦しい。
だから俺はそれに了承した。担当が審神者には上手く伝えると言い、俺はそのまま政府の研究機関に留まることになった。

職員達は皆優しくしてくれる。必要な物は揃えてくれるし、外に出なくても良い配慮をしてくれた。担当は本丸まで行き、俺の荷物を取って来てくれた。
かなり良くしてもらっている。ただ、かなり頻繁にエコーを取りたがったり、何か変なことを言い始めたりするのが億劫だった。

ある日研究室の外が騒がしくなった。
「何かあったのか?」
研究職員に聞くと外を見てくると言って扉を開けた。その途端、部屋に誰かが押し入ってくる。
「偽物くん!」
「長義!?」
自本丸の長義の登場に驚きを隠せない。なぜここに?
「一体どういうことだ!いきなり政府に異動するなんて!何か脅されたんだろ!」
「おいおい、人聞きが悪いなぁ。脅すわけないだろ?ちゃんとこの子の意志で来たんだよ」
長義を先程まで宥めていたのだろう、担当が追うように入ってきた。
「どうだか。うちの偽物くんは頼りなくて騙されやすいからね、大方貴方の口車に乗せられたんじゃないかな」
わーわーと担当と長義は言い合っている。

国広のことを嫌っている長義がわざわざ来るはずない。もしかして誰かの付き添いや本丸全員で来たのではないかと入口付近を確認したが、他の刀の姿は見当たらない。
「他のみんなは?」
「政府の言う事を信じ切ってるから俺だけが来た」
「俺のことなんて放っておけばいいだろ、なんであんたが?」
「心配して来てやったのにその言い草はなんだ!」
「し、心配、してくれたのか……?」
じーんと感動したが、待てと冷静になった。
『心配』というのは表向きの言葉だろう。ここには他の者もいるため俺を貶す言葉を極力避けたのだ。本心を隠すために表向きの言葉を選んだだけのこと、だから嘘に違いない。
キッと目を吊り上げ長義が言った。
「し、心配なんてしてない!」
「やっぱり!俺を嫌ってる長義が心配なんてするわけない!」
「はぁ!?心配してやったのになんだその言い草は!」
「いや心配してないんだろ?」
「してない!」
「ほらやっぱり!」
「いやそういうわけじゃなくて!!」
「どっちだよ!」