木蔦(キヅタ)
2022-08-18 16:16:26
4460文字
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本丸襲撃の生き残りのまんばが嫁ぐ話【ちょぎくに・みかんば】


サンド
ちょぎくに&みかんば
※刀剣破壊や死ネタの過去があります。(破壊はまんばや長義くん以外の不特定多数です)
※三日月が嫌な役です。三日月好きの方、要注意。



長義は一目で魅入ってしまった。
その写しはとても美しくて、儚くて、目が離せなかった。触れると壊れてしまいそうで、真綿に包んで守ってやらねば、と思った。

その写しは審神者が連れてきた。見るからに
ボロボロな状態だった。どうやら本丸を襲撃された生き残り刀剣らしい。

涙を一筋だけ流す姿は、まるで絵のように美しかった。主と仲間を失って、心身共に傷ついた写しは、生気もなく、それがまた一層何かを引き立てた。

そして写しは、審神者の友人の忘れ形見と言うことで、この本丸で引き取ることになった。

長義は「こいつの本歌だから」という建前で写しにアレコレ世話を焼いた。そばで元気づけた。
最初は心を閉ざしていた写しだったが、次第に長義と話してくれるようになった。

そして何年か掛けて、ようやく写しが笑ってくれるようにまでなった。


だけど、写しはある日、他所の三日月を連れ審神者に紹介した。
彼と付き合っているとのことだった。

一番心を開いてくれているのは自分だと思っていたのに違った。
写しはいつのまにか生涯を共にしたい相手を見つけ、愛を育んでいたのだった。


「いずれはこの本丸を出て行こうと思ってる」

内緒話のように写しに打ち明けられた。
確かにここは写しの元々の本丸ではない。恋刀の元に行きたいのもわかる。

だけどそんなことになったら写しともう会えない。恋刀がいる時点で失恋しているが、未練たらしくそんなことを考え、しかも引き留める理由を探すのに必死になっていた。

いよいよ出て行く日取りも決まったある夜、写しは縁側で一人座っていた。声を掛けると、前の本丸から唯一持ち出せた物を握りしめていた。

ボロボロになった写しがぎゅっと握って離さなかった物。懐中時計の形をした転送装置。

転送装置は本丸によって異なる。
お社の場合もあれば、札の場合もある。

写しの本丸は懐中時計だったようで、既に壊れてはいるが、残された唯一の物をこうやって眺めることが多かった。

写しは襲撃のショックからか、審神者や本丸のことを殆ど覚えていない。断片的に時々思い出すくらいで、特に襲撃当日のことはぼんやりとしているようだった。

だからその転送装置は形見みたいな物で、写しにとって大事な物だ。

「これは本当に、主のなんだろうか
「何を言い出すんだ、お前がここに来た時に握りしめてたのに。治療のために取り上げようとしても、頑なに離さなかったんだから」
「そう、だったな。……でも」
何か言い淀んでいる。マリッジブルーか?

「なんだか、これは……
つらそうに顔を歪めている。

写しがここに来た時を思い出した。
茫然自失となり、気力の抜け落ちた顔を見て、守りたいと思った。もう悲しまないように、囲ってすべての外敵から遠ざけたいと。

「好きだ」
不意に口に突いて出た。
写しはびっくりした顔で長義を見ている。自分も正直びっくりした。まさか恋刀がいる者に不毛な告白するなんて思わなかった。

「好きだ、お前に会った時から、ずっと」

写しは驚いた顔の後、少し困ったようにする。
「俺も、長義のことが好きだった」

それを聞き驚く。まさか両思いだったなんて。舞い上がるがすぐに絶望へと突き落とされる。
「だけどあんたが優しいのは俺が写しだからだって思って諦めたんだ。あんたは誰にでも優しいから」
「そ、そんなことない!お前は特別だ!」
写しは今は別の男と付き合っている。数日後にはここを出て、その男の元へ行く。
今更、両思いだったことが発覚しても意味がない。

「俺の一等大事な写し、幸せにしてもらいなよ」

そう、言葉を贈るしかできなかった。





写しは三日月の所に行く直前に、長義に懐中時計型の転送装置を渡す。
「預かっててほしい」
「しかしこれは」
「大事なものだから、あんたに持ってて欲しいんだ

そして迎えに来た三日月と共に写しは行ってしまった。




視点移ります。・*・:≡( ε:)

まんばは三日月に連れられて、別の本丸へやってきた。今日からここで暮らすのか、と思う。

ふと視線をやると、三日月の手元できらりと何かが光った。
それはまんばが唯一形見として持っていた懐中時計型の転送装置に似ていた。いや一緒だった。

「どうして、あんたがそれを……?」
それを使って今転移したのだろう。
審神者によって転移装置は異なる。

その転移装置は三日月の審神者の物のはずだ。なぜそれが自分の持っていた物と一緒なのか。

まんばの主は亡くなっている。亡骸もちゃんと確認した。三日月の主とは別人だ。

(考え得る可能性は……?)

本当にあの転移装置はまんばの主の物だったのか?
(長義が、俺が頑なに離そうとしなかったと言っていた

審神者の形見だからだと思っていた。だけどそうじゃなくて、審神者の死に関わる物だったとしたら?

(例えば、審神者を殺した犯人の、証拠、とか……

そこまで考えてハッとした。三日月は冷たい瞳で見下ろしていた。





その日は穏やかな日だった。
出陣や遠征の準備をしたり、内番をしたり、それ以外の者達はゲームをしようと約束したり。

そこに何の前触れもなく遡行軍が現れた。刀達は応戦したが、まだ圧倒的な数で、徐々に削られ倒れていった。

「主、もうここはダメだ!別の場所に!」
本丸を捨て、残った数振りだけでも 逃げ仰せようと審神者の元にまんばは駆け付けた。
しかしそこにいたのは血にまみれ、無惨な姿になった審神者の姿だった。

「ある、じ……?」

この部屋に遡行軍は近づけてないはずだ。それなのになぜ?

審神者の近くに見慣れぬ転移装置が落ちている。遡行軍は転移装置がなくとも時を渡れると聞いたので、これは別の審神者の物だろう。
審神者の体には刀傷。
つまり、

「他の審神者が、主を……?」
ぎゅっと転送装置を拾い上げ握りしめる。
「主、主……っ」

「国広くん、危ないっ」
その声にハッとした。他の刀がまんばを庇って倒れた。遡行軍がもうこんなところにも侵入してきていた。

「あああ……
自分なんかのために
他の刀が犠牲になった。
せめて審神者だけは守らねばと思って、折れていく仲間もそれを願っていたはずなのに。

まんばは最後の一振りになってでも、と立ち上がる。いっそこのまま朽ち果てよう、みんなと主の元へ、と。





「どうした、国広や」
優しげな声で三日月が問いかけてくる。顔は笑ってない。
「あ……
「その様子だと何か思い出したか。おお、そういえばお主、ちゃんと荷物は全部持ってきただろうな?そそっかしいから忘れ物などないか?」
「な、なにを
「俺のミスの、最後の始末だ。まさか落とし物をするなんて思わなかった。お主が持っているのだろう?返しておくれ」
すぐにあの懐中時計のことだと気づく。
あの事件に三日月が関わっていたのだ。しかも様子からして、黒幕として。

「い、いやだ……!」
「ならお主を折った後に、ゆっくり探すか……

三日月が刀を振り上げる。
まんばは咄嗟に本体を抜こうとするが、切羽が詰まり、抜けない。あの日のことを思い出したからか、全身が脱力したように力が入らない。

(やられる……!)

そう覚悟した。
振り下ろされる刀にぎゅっと目を瞑る。

カキン、と金属音がした。

「俺の大事な写しに、なんのつもりなのかな」
「長義……!」

本丸にいるはずの長義がそこにいた。
三日月の刀を振り払う。

「国広、大丈夫か!?」
「平気だ……!だけど、その、主が……!主、が……!」
「主?」
「あんたに渡したアレは主のじゃなくて、主を殺した犯人の転移装置だったんだ!」
「なんだって!?」

ゆらっと三日月がふたりに
立ちはだかる。

「ほう?良いことを聞いた。お主が持っているのか。ならばここでふたり共始末すれば、証拠は隠滅できるなぁ」

まんばも刀を抜き、三日月を向ける。2対1なら優勢のはずなのに、三日月に圧倒される。
ピリピリと緊迫した空気を感じる。三日月に隙がない。

「動くな!!」
いきなり声が響き、ドッと刀達が雪崩れ込んで来た。
まんばたちを押し退け、三日月を囲い込む。

「歴史修正主義者への加担、および、情報漏洩の疑いが掛かっている。政府までご同行願おう」
「おや、これは。一杯食わされたな」
そして三日月は連行されていく。
政府の刀が来てくれたようだ。

それまでの緊迫感から解放されたまんばたちはぐったりとその場に座り込んだ。

「なんでこんなタイミング良く……
「いやその、
「長義、何か知ってるな?」
「いや、普通、身内の嫁入り先は気になるものだろう!身辺調査とか、その……政府の伝手で……。 まさかこんな結果になるとは思わなかったけども!やっぱり形見を返そうと追いかけてきたらこんなことになってるし!俺は寿命が600年ほど縮んだ!」
「俺も800年くらい縮んだ」

長義の憤る様子がおかしくてくすくす笑う。
「もう変な男に引っ掛かるな」
「わかった、その時はまた身辺調査頼む」

もう身辺調査はされないんだろうな、とまんばは思う。そしてふたりで本丸に帰っていった。

-完-

お読み頂きありがとうございました!
おじいちゃん、こんな役にしてごめんね💦火サスになるように頑張りました💪
お疲れ様でした!



■どうでもいい設定
・おじいちゃんの審神者が歴史修正主義者に加担。本丸全体でそういう活動が行われていた。
・まんばの審神者は若いながらも才能があり、メキメキ力をつけていたので「まだ育たぬうちに摘んでおくのが吉だな」との判断で壊滅させられた。
おじいちゃんはその時の実行犯で、転移装置
をうっかり現場に落とすヘマをする。(仲間と一緒に移動してたので自分のを落としたことに気づかなかった。)慌てて戻るが、持ち去られた跡があり、持ち去った者を探していた。
・おじいちゃんはまんばを見つけると始末しようと思うが、まんばに記憶がないことと、直接現場を見られてなかった(はず) というのを踏まえて、内側に取り込むことで見逃してあげようとした。記憶を取り戻したので始末する作戦に変更。
・まんばの本歌さんへの恋心を利用し、コンプレックスや自虐的な性格を刺激して、上手く自分の手に落とした。
・まんばは今もまだ本歌さんのことが好き。
・なんとかまんばの嫁入りを阻止したくて、本歌さんはおじいちゃんの粗を探しまくった。
・元カンサカン個体
・襲撃時にまんばを庇って折れた刀は燭台切。