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木蔦(キヅタ)
2019-10-07 22:39:47
9093文字
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前世の夢をみるまんばの話【ちょぎくに】※現パロ、グロ注意
・ちょぎくに
・現パロ
・グロの可能性あり
・刀剣破壊あり(前世ネタのため)
※実在する美術館とは何の関係もありません。
まんばはごく普通の高校生。最近不思議な夢を見る。
目の前に血だらけの人が蹲っている。怪我は酷くて、もう助からないことが一目でわかる。
その人が必死に身体を引き摺るので、まんばは駆け寄ってあげたいが、上手く体が動かない。ギラギラとした目がこちらを向く。恨みがこもったような眼差しだった。まんばはその目を見た瞬間、ぞっとして目が覚めてしまう。そんな時は決まって肩がじんじんと熱い。冷や汗で身体は冷え切ってるのに、そこだけが熱を持っていた。
毎日同じ夢を見る。内容は全く同じだし、視点も変わらない。しかし徐々に時間が伸びてきた。血だらけの人と目が合う所で起きていたのだが、その続きが少しずつ、長くなってきた。遂にその夜はその人が喋った。
「
……
せ」
なんと言ったかは聞き取れない。そこで夢は終わってしまった。
まんばは夢が気になって仕方ない。知り合いの神主に相談した。
「そんなに夢に見るってことは君と関わりがあるのかもしれないね。例えば前世とか、繋がりの深い人物の記憶とか」
「前世
……
」
「未練があって忘れられないとかね」
まんばはそうなのだろうかと首を捻る。未練があるのはどちらかというと血だらけの人物のように思えた。あの人物は何かを自分に訴えかけてる。まるで化けて出たみたいな感じだった。殺気立っていて少し怖いが、そうまでして伝えたい事があるのだろうと思う。
まんばは聞かなければいけないと強く思うようになる。
まんばは自ら望んで夢を見たいと願う。なんとかあの人物を助けたい。過去の事ならもうどうしようもないかもしれないが、未練があるなら晴らしてあげたい。
今日も同じ夢を見る。微かに声が聞き取れた。
「
……
うぎを、返せ
……
」
何のことだろうか、とまんばは思う。何かを返してほしいようだ。その人物は必死でまんばの元へ向かおうとするがそこで夢は終わる。
その辺りからまんばの周辺で変質者が出没するようになる。日が落ちてから、何者かに襲われるという事件が多発しているようだった。まんばも注意するように家族から言われる。まんばは部活をやっているので、夜遅くに返って来ることが多い。
「
……
うぎを、返せ
……
!」
夜は相変わらず同じ夢を見てる。その人物もやはり必死に身体を引き摺っている。
ふとまんばは自分の手に視線を移した。自分の手には血だらけの日本刀が握られている。
「ひっ
……
!」
まんばは驚いて、それを離そうとした。できない。夢だから上手く体がうごかないのか、過去の記憶だから変えられないのかはわからない。手と刀が血でテラテラと光っていた。
脂汗をかいて飛び起きる。肩が熱い。夢を見た時はいつも熱くなるが、今は痛みを帯びてじんじんしていた。
まんばは考える。もしかして彼を傷つけたのは自分なのではないだろうか、と。自分の手には血だらけの刀が握られていた。目の前には血だらけで蹲る男がいる。ならば答えは明白ではないかと思う。あれがもし自分の前世だとしたら、彼は殺したまんばを恨んでいて、夢に化けて出てきているのではないかと思った。
まんばは罪悪感に駆られる。前世かもしれないが夢の人物と自分は別であるから、どうしようもない、と誰に弁明するでもなく言い聞かせる。しかし生死を分けるようなことに自分が関わっていると思うと重大な事をしでかしてしまったと不安になる。もし恨んでいるとしたら何をすれば成仏してもらえるんだろうか、夢の中で何か手がかりはないかと考えた。
ある日、事態は大きく動く。
同じ夢のはずだったが、その日はやけに鮮明で、景色もはっきり見える。血だらけの人物がまんばに手を伸ばす。
「やま
…
ん、ばぎり、ちょうぎを、返せ
……
!」
ヤマンバギリチョウギ?人名だろうか。まんばは首を捻る。少なくともまんばの記憶にはない。
そしてその人物と目が合う。
(
……
俺!?)
今まで靄がかっていて見えなかった顔がはっきり見える。その顔はまんばと姿が瓜二つだった。輪郭、目鼻などのパーツ、すべてにおいてそっくりだった。まんばの前世は彼なのではないかと思う。
体中傷だらけで髪もボサボサ、服もボロボロだ。左肩の負傷が酷い。まんばは起きた時に肩がじんじん痛むのを思い出した。
(あれは俺自身だったのか
…
!起きた時、肩が痛むのは、この所為だったのか
…
!?)
まんばは前世で強い恨みを持って、それで今世に何か訴えかけているんだと知る。「ヤマンバギリチョウギ」についても調べた。どうやら刀の名前らしい。
(その刀を返してほしくて、夢に出てくるのか
……
?)
次の日、転校生がやってくる。銀髪で背格好はまんばと同じ。女子が色めき立つイケメン。
まんばは授業中こっそりスマホを操作していて、自己紹介とか教師の話を聞いてなかった。
「よろしく」
すっと机に手がかかり、顔を上げると銀髪のイケメンが冷ややかに微笑んでいた。なんだかわからないが、ぞっとする。
「隣の席だから」
そう言って隣に座る。まんばは転校生の事が気になって仕方なく授業中気もそぞろだった。
「愛知の美術館にあるのか」
まんばはスマホで場所だとか行き方を調べる。部活はサボり、教室で一人残っている。日も暮れかけ。
「そこに行きたいのかな?」
「ぎゃ!」
誰もいないと思ったのに話しかけられて驚く。振り向くと転校生がきょとんとしている。
「そんなに驚く事ないだろう」
「気配を消して近づくな!」
「それより、そこ、興味あるの?」
まんばのスマホには美術館が映し出されている。まんばは咄嗟に隠すがもう遅い。
「ま、まあ、
…
」
「そうなんだ、行く予定とか立ててるの?」
「そ、そこまでは考えてない!遠いし
…
!」
なんとなくこの転校生は苦手で距離を取りたい気分になる。だけど本人はまんばの心情なんて構わず、ぐいぐい迫ってくる。
「夜行バスならすぐだよ、お金もそう掛からないし」
「そ、そうなのか」
「寝てる間に着くからね」
まんばは早くこの話を切り上げたくて、話題を変えようとする。
「あんたはなんでここに?」
転校生はああ、と思い出したように言う。
「お前に学校案内してもらおうと思って」
「なんで俺が
…
」
「暇そうにしてたじゃないか」
「俺よりも、ほら、女子に声を掛けたら、喜んで案内してくれるだろ
…
」
「喧しいのは好まなくてね」
わかる、と思ってしまった。ただ自分とは違い、外面は良さそうだから同類ではないと思う。
「生憎だが、用がある。別の誰かに頼むんだな」
「もう教室には誰もいないよ。それに都合が悪いなら明日でいい」
「
……
明日は部活があるから」
「何部なのかな?是非見学したい」
「
………
」
転校生はなんだか胡散臭い。何部なのか答えてもないのに見学したいだなんて。しかもわざわざ陰気臭い自分に声をかけるなんて、怪しすぎる。何か裏があるんじゃないか。しかもヤケに愛知行きに興味を持っていた。まんばの本能的にも近づくべきではないと言っている。まんばは本能というか勘で動くことが多い。それも危険察知能力は高いと自負している。
「もう帰る」と言うまんばに転校生はさらに食いつく。
「家はどっち方面?一緒に帰らないかい?」
まんばはさっきと同じだと思う。まだ方向すら言ってないのに、誘っている。何かあるに違いない。
「あんたはどっちなんだ?」
転校生が答えたらわざと違う方向を言えばいい。
「俺はxxxの方だよ」
「俺はそっちじゃないから、一緒には帰れない」
「そうか、でも街を見て回りたいから付いて行ってもいいかな?」
いいわけない。というか夕暮れ時に見て回れるものなんてない。
まんばは嫌な感情を隠そうともせず顔を歪める。雰囲気で悟ってほしい。しかし転校生はどこ吹く風で、決まり、と言った。
(なぜ決まった?)
結局転校生はまんばの家まで付いてきた。彼はまだ周辺を散策するといって家の前で分かれた。
まんばは家がバレてしまって大丈夫だっただろうか、と不安になる。彼はまんばと仲良くなりたいのか、強引に近づいてくる。それがまんばは嫌でしょうがない。
(友達がいないからこんな辛気臭い奴でも構わないと言う思考なのだろうか。)
しかしまんばは本能的に近づくべきではないと思っているので、これ以上関わらないようにしようと思う。
転校生に見つめられるとなんだか右肩がじわじわ熱くなる。あの夢を見たときのようだった。
まんばはまた夢を見る。血だらけの自分はよく見ると腕がない。今までよく見えなかったため気づかなかったが、肩から下がなくなっている。
痛々しい。
まんばのことを睨みつけている。もう助からないような怪我なのに、何かを諦めない強い意志を感じる。
「やま
…
ん、ばぎり、ちょうぎを、返せ
……
!
……
の本体を
……
!」
まんばの視線が自分の手元に向く。血だらけの刀がある。血だらけでも刃が美しい、そして力強い刀だ。これが『ヤマンバギリチョウギ』だろうか?
自分がなぜこの刀を欲しているのかわからない。しかしそれは神聖な物に見えた。
(一体、なんなんだ
…
?)
そんなに必死になって求めるヤマンバギリチョウギは何なのか。
まんばは徐々に山姥切長義という刀の存在を実際に見て確かめなくては、と思うようになる。本格的に旅行を計画し始めた。
その一方で、転校生との関係も変化していた。彼と話していると、あれよあれよと言う間にまんばは彼の要求を飲まされてしまう。学校案内もしたし、最近は毎日一緒に帰ってる。拒否したいのに、それができない状況に追い込まれる。
彼の屈託のない笑顔を向けられるたびに、嫌な感覚は気のせいではと思うが、じくじく痛む肩が否定するように、もしくは警告するようにまんばに訴えかけるのだった。
「そこ、やっぱり行くの?」
まんばが美術館のHPを見ていると急に頭上から声が掛かる。どう答えたものかと考えていると肯定と取ったらしく、彼が続ける。
「俺も一緒に行きたいな」
まんばは一人で行動したい派だし、特に彼が一緒なのは嫌だった。
「この近くに住んでたんだ。里帰りしたいな。だけど一人だと親がうるさくてね。友達が一緒だと言えば納得してくれるはすだ。ね?協力してほしいな」
「住んでたのか?」
「うん、だから案内とかもできるよ」
「で、でも
…
」
「ほらわかりにくい所もあるからさ、道案内でも観光名所紹介でもいくらでもするよ?ひとり旅は親がなかなか許してくれないんだ。ね、俺を助けると思って」
「う
………
」
お人好しなまんばは結局了承してしまう。
夢ーーーまんばはいつものようにぼんやり立っている。血だらけの自分は必死でこちらに這って来ようとする。吠えるように、呻くように、訴えてる。
なぜこんな夢を見るのか、まんばはずっと考えていた。
恨みを晴らすため?憎悪をただ伝えたい?何かの警告?
「
…
く、離せ
……
!」
「国広!」
ハッっと目が覚めた。辺りを見渡すとバスの中。エンジンは止まっている。
「トイレ休憩だよ、一旦降りよう」
「へ
…
?あ、ああ
……
」
まんばはようやく状況を把握する。転校生と共に旅行に来て、夜行バスで寝ていたのだ。そしてあの夢を見ていたらしい。
「あ、あのさ、俺、魘されてた?」
「え?別に何も
…
?ぐっすりは寝てたけど」
「そうか」
まんばはそれ以上何も言わず、思考に耽る。相変わらず右肩はじんじんと痛い。
そんなこんなで名古屋に着く。
「観光する?」という転校生の誘いを断る。飽くまでまんばの目的は刀。
「国広はずっとあの美術館を気にしてたもんね、じゃあそこ行こっか」
転校生に言われるがまま、バスに乗る。そして辿り着いた先、武家屋敷のような大きな門を潜り、中へと入る。
中は公園のように一般でも出入りできるようになっていて、犬の散歩をしてる人や健康のためかウォーキングしている人がいる。
奥に進むと美術館だった。
中へ入り、入館料を払って奥に進む。真正面に鎧兜や槍、左右に刀やそれに付随する装飾が飾られている。
刀はいずれも柄や鞘が取り払われた状態で、鎺(はばき)だけが付いている。
まんばは刀を一振り一振り見ていく。食い入るように見つめ、違うと分かると次へ向かう。転校生はそれを見守るように後ろからついて行く。
ここでは『山姥切長義』という名前でなく、銘で展示されてる。生憎だがまんばは銘を覚えてない。やたら長かった。
見逃すまいとじっくり見ていたが、そんな必要はなかった。一目見た瞬間にそれだとわかった。
「あ
……
った
……
」
まんばは刀にあまり詳しくなかったが、それでもそれは見慣れた姿で、他との違いもはっきりわかった。
血だらけの男性が倒れている。いつもの夢だ。いつもと同じようにこちらに身体を引きずってくる。
「やま
…
ん、ばぎり、ちょうぎを、返せ
……
!」
青い瞳がまんばを射抜く。ボサボサの銀髪に構わず一心にまんばに手を伸ばす。
まんばの右手には刀が握られている。
「お、れの本体を
……
!」
「国広」
まんばはハッとする。まんばは刀の前に突っ立っていた。どうやら白昼夢を見たらしい。呼ばれた方を振り返る。
「どうかした?」
夢で見た血だらけの彼と転校生が重なる。
「あ
……
ああ
……
」
震えながら後ずさる。
(夢の中のやつは、こいつだったんだ
……
!)
まんばは直感的に悟る。彼の目鼻立ち、輪郭、髪や目の色、すべて彼にそっくりだ。
夢の中の人物は強い恨みがあるようだった。夢に現れるほどの強い恨みが。
何故転校生が、仲良くしても利のないまんばに構うのか、理由をようやく理解した。
「いやだ、来ないでくれ
……
!」
ブンブンと顔を振る。
「ふうん?何か、思い出したのかな?」
いつもの人の良い笑みではなく、冷ややかな笑みを浮かべる。まんばに近づいてくる。殺されると思った。
「俺はね、ただ取り返したいだけだよ。お前が持っていった俺の本体を。」
最初は夢の中の男が自分だと思った。顔がそっくりだったから。しかし転校生は彼そのもので、なぜ今まで気づかなかったのか疑問に思う。少なくとも自分と似ていることは、会った瞬間に気づくはずだ。それに自分は転校生の名前すら知らない。あんなに近づいてこられたのに、なぜ知らないのか。
まったく意識がそちらに向かなかった。
転校生がゆっくりと近づいてくる。怖い。まんばは力が抜けてその場にしゃがみこんでしまう。
「そのまま、良い子にしてて」
転校生の手がゆっくりとまんばに伸びる。
そこに巨漢が現れる。鬼のように頭に角が二本あり、肩や腰には鎧のような物がついている。大きな刀を肩に背負うように片手で持つ。美術館には不釣り合いな格好だ。
「チッ
…
ここまで追ってきたか
…
!」
「こ、こいつは、一体
…
!」
「お前、まだアレがわからないのか?」
「『アレ』?」
「もういい、俺がやる。刀を返せ!」
「そ、その事だが、俺はもう刀なんて持ってない!夢では持っていたようだけど、今は何も
…
!」
言葉の途中で転校生に突き飛ばされる。先程までまんばがいた所には深々と巨漢の刀が刺さっていた。
「ぼーっとするな!」
まんばは助けられたんだと気づく。巨漢が刀を持ち上げ、まんばを見た。
「ひっ
……
!」
「だ〜〜!もう!偽物くん、とろとろするな!」
転校生がまんばの元へ走ってくる。しかしそれよりも早く巨漢が刀を振り上げた。
「くそっ
…
!」
自分を庇うように右手を挙げる。目をぎゅっと瞑った。
ガキンッ
僅かな衝撃と金属音がして、そっと目を開ける。まんばの手に刀があった。大太刀を受け止めている。
「!?」
「これは
…
!」
見間違えようがない。『山姥切長義』だ。夢で何度も見たからわかる。
「偽物くん、今のお前じゃ無理だ!いなして避けろ!」
まんばは転校生が言う通り、刃をそらし重心をズラした。敵がバランスを崩したところで、切り結んだ刀を引っ込め、逃げる。
「そこだ、思いっきり振り抜け!」
崩れた無防備な体勢に隙ができる。まんばは言われるがまま、刀を振った。
雄叫びを上げて敵が崩れ落ちる。そして、消滅した。
「バカ
…
!怪我はないな!?ったく、なんで俺を出すんだ!自分の刀でやれ!」
転校生が駆け寄ってくる。
「す、すまない
…
?」
「いいから、刀返せ」
「えーっと
…
なんで俺は刀を??」
「まだそんなことを言ってるのか!お前は勘が悪いな!」
まんばは急に意識が落ちる。
辺りは森で、暗闇に包まれている。月明かりで少しだけ周りが見えるが、視界は悪い。背中にトンと感触があった。後ろから声が掛かる。
「偽物くん、そっちは?」
聞き覚えのある声だった。まんばは思い出そうとするが勝手に口から言葉が滑り落ちる。
「俺は駄目だ、さっき刀を落としてしまった。丸腰だ」
「はぁ!?本体を!?馬鹿なんじゃないかな!」
「う
…
すまない
…
そっちは?」
「こっちはもうダメかな。左腕と足をやられた。もう歩けない。」
まんばは咄嗟に振り向く。後ろにいた人物は背中合わせになっており、左腕がない。ボタボタと大量の血が地面に滴り落ちている。
「本歌、お前
…
!」
「お前、怪我は」
「腕を少しやられてるが軽傷だ」
「じゃあ俺を貸してやる」
「そ、そんな、本歌の本体なんて預かれない!」
「いいか、このままだとふたりとも共倒れだ、助かる道を選べ」
まんばはごくりと喉を鳴らす。手は汗をかいてる。
「お前が俺の手足となったと思えばいい。精々働け、さあ」
辺りは既に囲まれている。今か今かと隙を伺い、こちらの様子を窺っている。
まんばは彼の刀を手に取った。もう立っていられないのか、後ろで彼が崩れ落ちた気配がした。それと同時に敵が襲い掛かってきた。まんばは山姥切長義を手に迎え撃つ。
まんばの意識が現実世界に戻ってくる。真正面に転校生の顔があった。抱きかかえられている。
「えっと
…
?」
「倒れたんだよお前」
「倒れ
…
?」
「時間遡行軍が襲って来た時に結界を張っていたから、騒ぎにはなってないけど。大丈夫か?いきなり山姥切長義を具現化させたから疲れたのか?」
まんばは状況が飲みこめなくてぼんやりしてる。
「床に倒れる前に抱き留めたから頭は打ってないはずだけど?」
「あ
…
」
まんばは床に降ろされた状態とは言え、上半身を抱きかかえられていることに気づき真っ赤になる。女性に対する扱いのようだし、それにこんなに彼の顔が近くにあるのは恥ずかしい。
「あ、えと、放してほしい
……
」
まんばがポソポソと気持ちを伝えると、転校生はきょとんとする。
「何が?」
「こ、この格好だ!もう大丈夫だから、だ、だ、だ、抱いてなくても!自分で身体くらい起こせるから!」
「そうか」
すんなり身体を解放してくれる。まんばはほっと息を吐く。
「ほん
……
」
まんばは転校生を呼び止めようとして、まだ名前を聞いてなかったことを思いだす。
「今更なんだが、あんたの名前を聞かせてほしい」
「なんで知らない」
「自己紹介の時、聞いてなくて!」
「そうじゃなくて、思い出したんじゃないのか?それにその刀を見に来たなら知ってるだろう」
「えと、本作長義以下ごじゅう」
「違う違う違う!!!」
刀の横に書かれている銘を読み上げたら何故か怒られた。
「山姥切長義、長義が打った傑作だ、そしてお前の本歌でもある」
「ほんか?」
そういえば夢でも彼のことを『本歌』と呼んでいたなと思い出す。
「そう、お前は俺の写しだよ」
「うつし
…
?」
繰り返すと長義はふふっと笑う。そんな顔を見たのは初めてだった。
「俺は化け物切りを冠する刀、そしてお前は俺を模して造られた。」
「そんなすごい刀をなぜ俺が持ってたんだ
…
?」
「ふふっ
…
かわいいね、俺の国広。良い子だ、教えてあげよう」
長義は何故か愉快そうだ。『俺の国広』とは?と引っかかりも覚える。
「俺が折れる瞬間、俺の本体
―――
ええっと、俺の刀をお前が持っていた。折れるというのに、別の者が手していたらどんな影響があるかわからない。だから俺はお前に手放すよう言った。しかし偶然にも俺が折れると同時にお前も折れた。お前は俺を庇って随分怪我を負ってたからね」
そう言って長義が優しげな眼差しで頭を撫でる。
「そして二振り同時に折れた。そこまでは良かった」
長義が一旦息を吐く。
「しかし生まれ変わってみたら俺は本体を持っていなかった」
まんばはまだちょっと理解が出来てなくて「???」を浮かべる。しかし構わず長義は続ける。
「たぶんあの時同時に折れたのがいけなかったんだと思う。俺の本体はお前が持って行ってしまったと考えた。実際そうだったしね。そして俺はお前を探すことにした。本体を取り戻すために。それが経緯だ」
「えーっと
…
???」
長義は苦笑してもう一度まんばの頭を撫でる。
「今はわからなくていいよ、俺の国広」
さぁ、帰ろう、と長義はまんばを立たせる。まんばは「また『俺の国広』って言った!」ということばかり考えていて、さりげなく繋いだ手とかも気付いていない。
ここまでで終わっておきます。
長い間お付き合いありがとうございました!お疲れ様でした!
いつもと違う雰囲気のお話で不安がっていたら皆様から「好きだよ!」とか「面白いよ!」とフォロー頂けて本当に有り難かったです。最後まで書き切れたのも皆様のお陰です。
■どうでも良い設定
・本歌の現代での名前は『長船長義(ながよし)』です。『山姥切』ではないことに憤慨してて、まんばには名乗ってません。まんばは現代でも『山姥切国広』です。
・もらうもんもらって、さらに写しに記憶がなくてちょろいと知った長義くんは急にまんばに甘くなる。甘々の甘。よちよちよちよち~って感じ。「かわいいやつめ!」ってな!
・まんばの右肩が熱い件、グロ表現入れようとしましたが、やめました
…
w
本当は長義くんから刀だけでなく腕も借りてる設定にしようとしたんだけど、まんばくんじゃないことをこっそり示すために長義くん左肩にしちゃったし。
右肩と左肩の矛盾に気づいてた人いるのかな
…
。
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