逆髪
2024-12-15 13:25:48
707文字
Public
 

無題

うさぎの伊東先生と飼い主氏真様が出会う話

自分が前世に人間であったこと、御陵衛士の伊東甲子太郎として非業の死を遂げた者であること、一羽のうさぎとして生を受けた瞬間に、甲子太郎はすべての記憶を取り戻していた。
うさぎとしての人生(兎生?)も、それはそれで満更ではない。ブリーダーの家でぬくぬくと愛玩される毎日。たまに人間の知識と記憶をフル活用して、苦労のない生活を送っていた。味覚は完全に兎のそれなので酒を楽しむことはできないが、チモシーはとても美味しい。
それでも何かが足りない。そしてその何かもわかっている。仕えるべき主人と、共にあるべき仲間がいないのだ。
そして、その日、うさぎは運命に出会う。
家に客人が来たのだ。仔兎を引き取りたいという人間はここには山ほど訪れるが、甲子太郎はあまり人に懐かないようにしていたので、貰い手になろうという人間はいなかった。誰かの家に行くくらいなら置かれた場所でこのまま咲こうという心持ちであった。
だが、その人を見た瞬間に、小さな白いうさぎの体中に電撃が走るような感覚があった。
紫がかった髪の毛、長身の立派な体躯、自信に溢れていそうで、それでいてどこか頼ってほしくなるような憂いを湛えた瞳。この人こそかつて夢見た自分の主に違いない。そう思って(本当は手を取りたかったのだが、この短い手足では適うはずもない)足元に飛びつくと、大きな手で抱え上げられて、わかっているぞ、とでも言うように頭を撫でられた。喜びで胸が満たされていく。
今川氏真と名乗るその人は、甲子太郎を無事に引き取って帰ることになるが、その後彼の家でかつての部下で、黒猫に転生した服部武雄と出会うことになるとは、そのときの甲子太郎は知る由もなかった。