【二人ぼっちのシュトーレン】

シナリオネタバレなし

クリスマス前のメルロル

 シュトレン、あるいはシュトーレン。
 ドイツでクリスマスの時期に食べられる、伝統的な焼き菓子。ドライフルーツやナッツが練り込まれており、長い期間を使って少しずつ食べる。フルーツの風味が徐々に生地へ染み渡ることで、味の変化も楽しめる。

 そんなものが今、目の前に二本も鎮座している。


「まさか同じものを買ってきてしまうなんてね……


 クリスマスの二週間前。コタツに入りながら、ロルとメルは見つめ合い困った顔をしていた。時刻は夜の10時付近、風呂も夕食も済ませ就寝の準備を進めていた頃。サプライズでシュトーレンを買っていることが発覚し、沈黙が部屋を満たしたのが数刻先のこと。違う店のモノだったのは、不幸中の幸いと言えるのかもしれない。

 シュトーレンはカロリーがとても、それはもうとても高い。一日一切れが目安と言われるほどで、クリスマスまでに二本分なんてとても食べきれない。保存が効く食品ではあるが、それでも胃の強くないロルにはかなりの試練だろう。


「どうしような、ロルくん」

「アル殿たちに譲るか?」

「エルくん、同じもの二本買ってた」

「ああ……


 彼らも同様の状況に置かれているであろうことを察して、ロルは額を抑えアルに同情する。エルが「一本では足りないぞ!」と言って二本分を買い、帰宅してアルに説明を受ける所が目に浮かぶ。それでも彼らは食べ切れそうなのが恐ろしいが。


「オレが多めに食べるとか」

「このカロリーを? 体壊すよ」


 正論を突きつけられ、メルはしょぼくれた表情になる。再びの沈黙が部屋を満たし、時計の針が進む音すら遠く聴こえる。ロルが悩む中、先に口を開いたのはメルだった。


「せっかくクリスマス、二人で休みを取れたのに……


 そう。別々の医療系従事者である二人は、休日の被ることが少ない。定休日などがあるとはいえ、緊急で呼び出されることも多い。増して大きなイベントの時期に遊ぶほどの余裕なんて、滅多に得られるものではないのだ。


「やってしまったことは仕方ないだろう? それに、クリスマスは別のことでも楽しめる」

……そうかもしれないけど」

「けど?」

「待ってる間も、楽しんでほしかった」


 視線を下に落としながら、メルはそう呟く。『楽しみたかった』ではない辺り、彼が誰を主軸に生きているのかが伺えた。ロルは小さく笑ってから、メルが買った方のシュトーレンを手に取る。ズシリとした重圧は、メルの愛情を含んでいるようで可愛らしい。


「キミは頭が良いのに、たまに抜けたところがあるよね。ボクはキミと居る時間なら、大体のことは楽しいのに」

「本当か?」

「無意味な嘘なんて吐かないよ、ボクは」

……ありがとう」


 自体が発覚して以降ずっと曇っていたメルの顔が、ようやく少しの明るさを取り戻す。こちらの表情のほうが好ましいなんて考えながら、ロルはその胸の内側に熱を灯す。

 そうとも。ボクらにとって一切れの菓子は、ボクらの幸福を彩る装飾品でしかない。大事なのは、キミの隣で存在すること。ボクではなく、ボクらで結末を迎えること。破滅にしろ終末にしろ、共に在れるのなら何も問題はない。

 そんな柄でもないことを、ロルは夢想する。シュトーレンの境遇は決まらないまま、二人で今後を話し合う。結論がどうなったにせよ、この二人ぼっちは心地よかった。だからきっと、無駄なことなど一つもなかったのだ。


 互いをジワジワと消費して、最期には消え失せる。
 ボクらにとっての祝福は、神から与えられるものじゃないのだから。