ゆうな
2024-12-14 22:20:55
2734文字
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【初めてのちゅう】

付き合ってる高2冬、初めてのキス。
お題:初めての〇〇
#爆轟版深夜の真剣60分一本勝負

◆Pixiv:ログ1に格納済み
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 〆のご飯を土鍋に入れて、チーズも追加しリゾット風に。誰かが言い出したA組鍋パーティーももうほとんどカラオケ大会のようになっていて、あちらこちらで楽しむ声が聞こえてくる。
 そういえば恋人の姿が見当たらない。もとより騒がしい場所は好まない男ではあるがそれでも最近はこういった場にも渋々といった表情で最後まで居たような気がしていたのだが。
「この辺の皿片付けていいか? 追加の飲み物も持ってくるよ」
「うん、ありがとう轟くん」
 テーブルいっぱいに置かれた皿を何枚か重ね、緑谷と常闇の間を大股で通り抜ける。冷蔵庫の中には確か緑茶が何本かとジュース系もあったはずだ。皆から少し離れただけで音も光も波が引くように静かになっていく。暗がりの中ぼんやりと浮かび上がる人影も、キッチンに近づくにつれて段々と輪郭がはっきりしてくる。思わず頬が緩んだ。
「ここに居たのか」
「ん、水飲みに来ただけ」
 シンクを背にコップを傾ける恋人の前を通る。皿を水に浸けながら、左側に爆豪が居る気配を感じてそれだけでなんだが心が温かくなった気がした。浮かれているかなと思うけど、前に借りた少女漫画にも、付き合ってすぐはソワソワした気持ちが続いてしまうと書いてあったから多分これは珍しくないことなのだと思う。轟にはそれくらいしか判断材料がないため普通というものが一向にわからなかった。
 スキンシップだってそうだ。例えば一緒に帰るだとか、手を繋ぐだとかの段階はもうクリアしているし、それが恋人と序盤に経験するものだということも理解している。ただ、その漫画では付き合う前に男女がキスをしていたのだ。さすがに疑問を覚えたため持ち主である芦戸に確認をすると「轟にはそんな順序でキスしてほしくなーい!」と頬を膨らませていたからまあ良くないことだというのは確信に変わった。恋仲になる前の口付けは回避したものの、じゃあ付き合ってからいつ、どのタイミングであれば恋人とキスをしても良いのだろうか。
 コン、とコップを置く音がして意識が引き戻される。伸びてきた左手の甲を轟の頬に撫でつける爆豪にそっと顔を向けた。
 なあ、どうなんだ。おまえは俺とキス、できるのか。したいとか思うのか。俺はできるぞ。いつだってしてみたいし、きっと何度だってしたくなる。もしおまえと叶えられたなら、それはとても幸せなことだと思うんだ。
 薄闇の中見つめていると、撫でていた指先がやがてするすると輪郭に沿って顎先で止まる。ふっくらとした唇の下を指の背中で撫でてから、爆豪ははあ、と深い溜息を吐いた。なんだ、と声に出す前に指先がストンと落ちていく。それを目で追いながら、轟はシンクの縁に掌を置いて握ったり緩めたりを繰り返していた。
 もう一度、息を吐いた音が聞こえたかと思うと、不意に爆豪がその場にずるずるとしゃがみ込んでいった。突然のことにひゅ、と息を呑むも、すぐに同じように視線を合わせて肩を叩く。
「どうした、どこか痛むのか、ばくご」
 焦るな、大丈夫。大丈夫なはずだ。自分に言い聞かせて、それでも鼓動はどんどんと速くなる。病院のベッドに横たわるあの姿が頭を過ぎって、喉がきゅうと締まる。爆豪。できるだけ冷静に声を掛けて顔を覗き込んだ。瞬間。琥珀色の隙間から紅い玉がきらりとこちらを捉えた。あ、と思って、でも再び声を出すことは叶わず、すぐに自分が自分でないような、まるで僅かな誤差のような、経験したことのない類いの違和感を覚える。同時に手首を掴まれた熱に気付いて、それからようやく唇に何かが当たっている、と思考が追いつく。
 爆豪とキスをしている。
 理解した途端、ドッドッと音を立てる左胸の内側がさらにスピードを上げた気がした。一瞬のぬくもりはゆっくりと離れていく。轟は薄く唇を開いたまま、今起きたことを脳内でリフレインさせていた。水で冷えた柔らかい唇だった。水滴が自分の唇にも乗った気がして少しだけぺろりと舐めると、爆豪が信じられないくらい素早い瞬きをして、唇の内側を噛む。捕らわれた手首をぐいっと引かれると心の声まで聞こえてしまいそうなくらい顔が近付いて、クラクラとめまいがした。爆豪が轟の唇に吐息を当てながら呟く。
「おまえも、して」
 前髪が当たって擽ったい──そんな思考も全部全部心臓の音に掻き消される。
 ん、と爆豪が唇を突き出すと轟の唇に触れたか触れないかのところを薄皮が掠めていく。ぶわわっと顔中に、全身に、熱が広がる。眼前に迫る真っ直ぐな紅に何も言えなくなって、ぅ、と少しだけ顔を傾ければそれだけで再び唇が重なった。掴まれた手首の熱さとか、触れ合いそうな睫毛とか、光をたっぷり溜め込んだ瞳だとか。ドキドキしすぎて、気持ち良くて、すべてが夢のようで。ふわふわとどこかに飛んでいってしまいそうだった。漫画のキャラクターがベッドの上でジタバタと一人悶えてしまう心境もようやく理解できた気がする。だって今すぐ転がり回りたい気分だ。
 数メートル離れたところではクラスメイトの楽しそうな声や歌が聞こえてくるというのに、ここだけが二人のために切り取られた空間のよう。何度も短いキスを繰り返して、爆豪が時折ふ、と笑った吐息を吹きかけてくるから擽ったくて轟も思わず笑いがこぼれる。ようやく唇を離して爆豪が片腕で轟を抱き寄せると、肩口に顔を埋めて甘えるように額を擦り付けた。
「あの、大丈夫だったか? 心臓、痛んだのか?」
 それとも腕か。だらんと下がる右腕を目だけで追う。一瞬痛んだだけだったのだろうか。轟の言葉に爆豪はあー、とかんー、とかなにやら唸るような声を上げてから、背中に回した腕に力を込めた。
「おまえとマジで付き合っとんだって思ったら、好きすぎて心臓痛くなった」
「は」
 コイツ今なんて言った? 聞き間違いか? 脳内でじっくりと咀嚼をしたその言葉を理解してしまえば、みるみるうちに顔が熱くなってくる。轟だって今心臓が痛いほどに高鳴っているのだ。爆豪も同じ気持ちだと思うと、今度こそ個性が漏れてしまいそうだった。
「お、ま……そんなこと言う奴だったか……?」
 そう返すのが精一杯で、そんな轟に爆豪は正面から向き合った。
「伝えられるうちに伝えねえとって……わかんだろ。だから俺はおまえに告ったし、したいと思ったからキスもした」
……わかるよ」
 紅白の睫毛を伏せて爆豪の左胸に手を当てる。とくんとくんと温かい鼓動を感じられることがこんなにも嬉しい。気が抜けたように笑う爆豪が「真っ赤」と轟の頬を撫でる。おまえの耳だって、と言い返す轟が目の前の恋人にぎゅうと抱きついた。
 今、おまえに触れたいと思ったからだ。