三毛田
2024-12-14 20:47:20
2484文字
Public アドベント24
 

14. 耳元にそっと囁く

14
その囁き方は、ズルい

『穹。好きだ』
 あの丹恒が、そんなことを言うなんて。
 ぼんやりと思いながら、目が覚めた。
……
 天井に、星座が浮かんでいる。
 なんで、そんなのが? なんて思ったところで、そういう装置を買ったのを思い出した。
 確か、プラネタリウムっていうの。どこかの星には、建物で星座を眺めるそうだ。
「ん……
 もぞもぞと隣が動く。
 あれ? 誰か一緒に寝てたんだっけ?
 布団を上げると、俺の脇の下で丸くなっている丹恒。
『丹恒、この装置で星の観察しよう!』
 と、俺が誘ったんだった。
 飲み物とおやつを用意して、クッションを背もたれに天井を眺め。
『これは、面白いな。子供の教育にもいいかもしれない』
 そう呟く横顔に、ちょっとだけ見惚れた。
 彼が好き、なのかもしれない。でも、違うのかもしれないと。
 好きなのは好きだ。仲間として。それ以上なのかは、わからないって思ってた。
 そもそも、〝好き〟って何なのだろうって。
……
 眠っている丹恒の頬を、撫でる。
 ちょっとだけ胸がドキドキしてきて。
 なんでだろう。
 そう思ったけど、声には出さない。出したら、彼を起こしてしまう。
「ん……きゅ、ぅ?」
「おはよう、丹恒。起きた?」
 耳元で囁くと、頭を掴まれた。
「なんで!?」
「なんと、なく?」
 自分でも、どうしてこんなことをしたのかわかってないようだ。本当なんでだよ。
「今日はよく眠れた?」
「ああ。お前の温もりで、珍しくぐっすり眠れた」
 嬉しそうに、ふわふわと笑って。
 でも、頭から手を離していない。
 いつでもお前の頭を握りつぶせるぞ。そう言われているような気がして、ちょっと怖い。
 でも、丹恒に触れられてるとちょっとだけドキドキして。
「穹?」
「丹恒先生、出来たらその~。頭にある手を離していただけたら、すごくすごく嬉しいです」
 上目遣いに伝えるも、手は離れず。
「わわっ」
 ちょっと乱暴に――それこそ、撫で慣れていない、ぎこちない動きで――撫でられて。
「ふっ」
 灰碧を柔らかく細めて、口元には笑みを浮かべ。
「丹恒、髪の毛ぼさぼさになるってば」
「整髪剤とブラシがあれば、すぐに整えられるだろう」
 ふにゃふにゃ笑いながら、整えてくれた。
 なんだかんだ甘くて優しいんだよなぁ。
 そういうところ、結構好きだ。
「穹」
 丹恒は微笑みながら、俺の頬を両手で包んで。
「!?」
 それから、キスを。
 唇を重ね合わせるだけ。それだけなのに、どうしてか胸のドキドキが止まらない。
「た、たんこう?」
「穹。好きだ」
 俺の目をしっかりと見ながら。
 何か言わなくちゃ。と持ったのに、はく。と、唇から出たのは空気だけ。
 好き? 丹恒が? 俺を?
「嘘だろ?」
「俺が、お前に対して嘘をつくか?」
「ううん。意味のない嘘はつかない」
「そうだ。俺がお前のことを好きなのは、嘘じゃない」
「えーと。勢いで言ったってこと?」
 ちょっとだけ最低な聞き方をしているとは、思っている。
「多少、勢いではある。でも、今だと思ったんだ」
 目を伏せ、そう口にする。どこか寂しそうで、若干後悔しているかのようで。
「丹恒、俺のどこが好き?」
 まるで氷かと思うほど、冷たくなっている指先を温めるように握って問いかけ。
「全てだ。不用意に、心の中に入り込んで来ようとしないところ。いつも明るいところ。俺が悩んで足を止めそうになった時に、引っ張ってくれるところ。そして、笑顔」
 言葉を紡ぐ唇が、急に艶を持ったように見えて。
 口の中に唾液が溜まってきて、慌てて飲み込む。
「お前といると、いつも胸がドキドキしている。好きで好きで、自分がどうにかなってしまいそうだ。それでも、伝えてしまったら親友ではいられないと思っていたから」
「伝えたくなかったって?」
「ああ。だが、お前にこの気持ちを伝えたことを、後悔はしていない」
 俺の頬をするりと撫で、鼻にキスをして。
 その後、ベッドを抜け出し浴室へ。きっと洗面台で顔を洗うのだろう。
 俺が促さないと、わざわざ自分からお風呂に入らない人だから。
 何で必殺技で体を洗うんだろうか。そこだけはよくわからない。
 掃除の時も使ってるらしいから、ずぼらなんだよなあ。意外と。
 好きか嫌いかで言うと、好きなんだ。
 親友で、仲間で。
 でも、それ以上にはならないと。
 思っていた。思っていたんだ。
「嫌じゃ、なかったんだよな。丹恒とのキス」
 自分の唇に触れて、丹恒が消えた方を見る。
「どうした。唇でも荒れているのか」
「ううん。なんでもない」
 柔らかい感触がまだ残っているような気がして唇を押していると、戻ってきた丹恒に声をかけられ。
 慌てて手を離すと、近づいてきて俺の唇に何かを塗る。
「へ?」
「ちょっと荒れていたな。ああ、これか? 三月が間違えて買ったからと押し付けてきた、リップクリームだ。お前に渡そうと思っていたんだ。ほら」
 と俺の手に小さな棒状のものを握らせて。
「俺が一度使用したものの方が、よかったか?」
「ふえっ」
 耳元でそう囁かれ、変な声が出た。
 顔が熱い。
 一人動揺している俺を見て、丹恒はくすりと笑う。
「た、丹恒先生!!」
「冗談だ。朝食を食べに行こう。早くしないと、パムに怒られる」
 くしゃりと俺の髪を撫で、階段へと向かう。
 何、今の。
 イヤイヤ、だって。
 俺は、丹恒のことは親友で仲間だとしか思っていないはずで。
 そのはずなのに、耳元であんな艶のある声で囁かれて。
「うわ……
 すごくエロいって思ってしまった。だからなのか、下半身が勝手に反応してしまい。
「これはちょっと流石に……
 一人だからと、ちょっとトイレにこもって処理をして。
 若干の罪悪感を抱えながら、下の車両へ。
「おはよう、パム」
「おはよう。さっき丹恒が下りてきたんじゃが、ゲームでもしておったのか?」
「昨日買ったプラネタリウム装置眺めてたら、寝落ちてた」