こんなにも甘い毒(ケーキバース)

流花のケーキバースです。

■あらすじ■

豊玉戦でのケガがきっかけで後天的にフォークになってしまった流川
ケーキにもフォークにも抑制剤がある時代で、流川も服用。嗅覚を特別に刺激するよう開発された調味料のおかげで、食事もかろうじてできる
けれど食欲は失せて常に飢餓感がある

IH後、薬を服用しつつ合宿に行った流川は、花道のケガがどうなってるか気になって仕方ない
合宿から帰ってきたあと、晴子が話してた鵠沼海岸に行ったら会えるかもって、走っていく
海辺には花道がいて、無事な姿を確認できて安心したけど、抑えていた空腹のせいで流川は倒れてしまう

朦朧とした中で甘い香りを嗅いで、つい舐めてしまうけれど、ハッとして突き飛ばしたら花道で、ふたりとも真っ青になる
「てめー、フォーク/ケーキだったのか」
ってお互いにショック

好きな相手にちょっとでも口をつけてしまった流川、花道を食べたくなくて、「二度とオレの前に現れんな」って泣きそうに言って走って花道の前から消える

っていう話の書きたいところだけ書きました!
考えてたらときめいたのでので、おいしいとこだけ書いたら落ちつくかもと思って…

というXからの投稿をこちらにも置きました。
この半端な状態だと、pixivには置かないと思うので。

海岸での遭遇シーンです。

2025/02/24
シーンつながってませんが、屋上でのキスを追記しました。



 倒れ込んできた身体は一瞬、太陽をつかんだのかと思うほどに熱かったのに、ふれた手は打って変わって冷たい。炎天下だというのに。
 花道はとっさに腕をのばしたが、背中が痛んで流川を支えられなかった。砂地に倒れる流川に引きずられるように屈んでいく。
 ひどく熱かった。
 真夏の暑さよりはマシになったが、海辺には日陰もない。照りつける陽射しで海面はくしゃくしゃの銀紙みたいに光を乱反射して眩しく、海岸の砂は細かな光をチリチリと放っている。乾いた砂の上へ倒れた流川の顔は光を吸い込むように白かった。閉ざされた目の丸みに沿ってまつげが黒々と長い。
 花道は慌てて周囲を見回した。リハビリテーションの合間に息抜きと称して鵠沼海岸に来ただけなので、ひとりだ。花道の帰りが開始時間に間に合わないと判断されると、作業療法士が迎えに来る日もあるのだが、今日はまだ余裕がある。それが仇になって、花道が知っている大人はいない。
「クソッ、見せびらかしに来て倒れてたら世話ねえだろが!」
 花道は流川の胸許へ毒づいた。ジャージの前が開かれ、全日本ジュニアとやらのロゴが入ったティーシャツがさらされている。そのロゴが上下しているから、呼吸はある。
「おい、キツネ! 生きてんなら返事しろ!」
 砂浜に膝をつき、流川の顔をのぞきこんで頬を幾度も叩く。目が細く開かれた。花道が流川の後頭部と頬に手を当てると、ぐらつきながらも流川は起きようとする。
 頭は打っていないが寝かせておいたほうがいいのか、しかしせめて日陰を探したほうがいいかと花道が迷ううちに、肩に手をかけられた。流川の手に力がこもり、花道を抱き込もうとするように、すがってくる。以前の花道なら流川の体重であれ支えられたが、今は背中にかかる負担に耐えられない。流川の上へ倒れ込んでしまう。
 首許に、やわらかく濡れた感触がふれて、花道は総毛立った。舌だ。流川の舌。舐められた。汗ばんでいた肌を舐められたのだ。




 寒かった。
 流川は太陽にさらされて走っているのに、身体の芯が冷えている。
 原因はわかっている。空腹だ。最低限必要なカロリーは摂っているはずだが、あくまでも最低限だ。身体を動かしているのだから、もっと積極的に食事をするべきなのだ。プロテインも飲んでいるが、飲みこむのにも苦労するせいで、常に食の進みが悪い。身体がいつだって飢えている。
 空腹は思考も身体もふわふわとおぼつかなくさせる。重い砂浜を走っているのに、雲の上でも走っているようだ。目指す場処に桜木がいるからかも知れなかった。いないだろうか。いてほしい。ひと目でもいいから姿を見たかった。IH後、流川は全日本ジュニアの合宿に行ったために、桜木の見舞いには一度も行けていない。山王工高との試合後、集合写真を撮ったあとに桜木は倒れた。桜木が運ばれていったあとから、流川は彼の姿を見ていない。本当に起きあがれるようになっているのか歩けているのか、流川は自分の目でたしかめたかった。
 桜木はイヤな顔をするだろうが、かまわなかった。どうせ桜木の笑い顔は流川には向けられない。だから笑顔でなくてもいい。桜木が無事でいるのをこの目で見なければ、身体の隅に固まったどす黒い不安がどんどん大きくなっていく一方だ。
 病院ではリハビリのスケジュールが組まれていると赤木晴子が話していたから、桜木はその合間に海岸に出ているのだろう。流川が向かう時間帯に、桜木が海岸にいるとは限らない。
 だが桜木はいた。
 桜木はいて、流川は彼に会ったときにはこのシャツを見せるのだと決めていた目的を果たし、そして倒れてしまった。
 足許がふわふわしていたのは、空腹の仕業だったようだった。
 一気に血の気が引いて、目の前が真っ暗になって、気づけば砂浜に倒れていた。
 寒くて眠くて、横になっているらしいのに頭がぐらつく。耳の中で蜂が飛び回っているみたいにうるさい。
 目を閉じていても揺れる視界に耐えていると、甘やかな香りがした。べたついた甘さではなくて、清涼感のある甘い香り。それと、ぬくもり。寒くて、流川は霞む目でろくにものも見えないまま、すぐ近くにあるぼんやりした影に手をのばした。ぬくもりが手のひらに伝わって、心地いい。
 影を抱き寄せると、甘い香りがつよまった。甘さはカロリーだ。人間の命をつなぐものを甘いと感じ、カロリーをより多く得て生き残るために、より多く貪ろうと、大昔の本能のままに駆り立てられる。
 蜜を求める蝶のように流川は舌を出し、甘い香りのもとを舐めた。舌先が痺れたほどに、興奮する。香りのままに、甘い。なんて香しいのかと脳が揺れる。もっとほしい。飲みたい。食いたい。
 もう一度、と、食いつく前に惜しむように舌をのばして、流川は強烈な違和感に刺された。
 今の自分が、甘さどころか味覚を感じるわけがない。
 「フォーク」となってしまった自分が美味だと感じられる甘さがあるとしたら、ただひとつ、「ケーキ」にまつわるものだ。
 流川は全力を振りしぼって、自分が抱えていた甘い影を突き飛ばした。
「ってぇ!」
 どれほどわずかな量であっても、栄養となるものを摂取できたせいか、不意に流川は視覚も聴覚もクリアになった。
 立ちあがった流川の足許に転げているのは桜木だ。流川が長い距離走って会いに来た相手。
 後ろ手をついて起きあがろうとしている桜木の顔は青ざめている。
「キツネ、てめーまさか……
「どあほう、おめー……
 桜木の顔が歪んだ。
 流川の唇も歪み、わななく。
 桜木から甘い香りが立ちのぼっている。薄く汗ばんだ上半身には無防備にタンクトップだけを着ている。桜木の肌からただよう香りを吸い込まずにいられない。鼻面をつかまれて引きずり回される気分だ。流川は口許を押さえた。舌に残るかすかな甘みがある。何かを摂取した証だ。おそらくは、桜木の汗を舐めた。
 最悪だった。
 流川はよろけ、屈み込んだ。大きく口を開いて、のど奥へと指を突っ込む。舌のつけ根へ指が当たる。気持ち悪くてえずくが、何も吐き出せない。幾度も咳き込んだが効果はない。
 流川は指を口から出し、周囲を見回した。口をゆすぎたい。大量に水を飲んで腹を殴れば、吐けるかもしれない。
 海辺に水飲み場はない。目の届く限りに自販機もない。
 だが、大量の水はあった。海水だ。
 流川はふらふらと波打ち際へ向かった。遠浅の湘南でも、鵠沼海岸なら波打ち際から一メートルも進めば、水を手にすくうぐらい造作もない。ざぶざぶと踏み入って椀の形にすぼめた手に海水を汲み、口に持っていく。
「何してんだ!」
 殴られたのか蹴られたのかわからなかった。
 よろめいた流川は浅瀬に尻もちをつき、彼を海中へ引き倒した相手を見あげた。桜木が恐ろしい形相で怒鳴っている。何を言っているのかわからないが、苦しそうに顔を歪めて、叫んで、流川の手を引いて砂浜へ戻ろうとしている。だが流川を引き起こせず、桜木は顔をけわしくしかめて、唸りながら流川の手を離した。波打ち際でしゃがみこむ。
「っ、どあほう!」
 背中を負傷しているのに何をバカなことをしているのかと、流川は桜木を助け起こそうとして、はじかれたように手を引いた。自分の内からの制止と、怯えた桜木の顔とで、二重の拒絶を受けた。ふれるだなんて、そんな恐ろしい真似をしてはならない。
 流川は自分の手首をつかみ、胸に引き寄せた。手を濡らしていた海水がシャツの胸をも濡らすが、かまわずに引きつける。桜木にふれてはいけない。ふれれば、ほしくなってしまう。
 好きな相手を食べたいだなんて、そんなおぞましい願望に、耐えられない。
「二度と、」
 流川は桜木から数歩離れ、彼を睨みつけた。発した声が震えていた。
 波打ち際で靴を濡らす桜木を、乾いた砂地に連れて行ってやりたかった。
「オレの前に、二度と、顔を見せんじゃねー!」
 喚いた途端に涙があふれてきて、流川は顔を背けた。ざばざばと波を蹴って砂浜へあがる。スニーカーが水浸しで重く、歩くたびに水がばかみたいな音を立てて靴の中からあふれる。
 重たさを引きずり、流川は桜木に背を向けて走り出した。来たときと同じ方へ。少しでも早く、一歩でも多く、桜木から離れたかった。
 桜木を食べたいだなどと思う醜い自分から、桜木を遠ざけたかった。





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 屋上に積み木が重ねられたみたいにくっついている塔屋の裏には誰もおらず、けれどいつ人が来るか知れない緊張感でピリピリしている。
 桜木に襟首を掴まれ、流川は壁に背中を押しつけられていた。
 桜木の顔が間近にあって、日陰なのに髪が灼熱の赤に燃えて見えるのは、桜木の両目のせいかも知れない。怒りに満ちて、流川を睨みつけている。怒りと、それからほかに何の感情が混じっているのか、揺れる。焚き火の炎が揺らぐように桜木の目の奥にあるものは揺れていて、不安定で、強く縛られたように目を離せない。
「オレを、なんだと……っ」
 流川を責める声は震えて、けれども低くつよく、怒りでざらついている。
「離せ」
 と、流川は言ったつもりだった。
 言い切れなかった。
 やわらかいものと硬いもので口をふさがれた。
 桜木の唇だった。ぎゅっと結ばれた唇をぶつけられ、唇の後ろに控えている歯の硬さまでぶつかってきた。
 近すぎて焦点があいにくいが、桜木はきつく目蓋を閉じていて、流川は場違いにも、こいつまつげの先が赤ぇなと思った。
 唇を押しつけられただけなのに、抑制剤を飲んでいるのに、近い身体からうっすらと立ちのぼる香りは甘く、流川の神経を刺激する。
 頬が熱くなるのを自覚しながら、流川は桜木の身体に腕を回した。昂った前を桜木の同じ箇処へ押しあてると、桜木も硬さの意味を理解したのかびくりと腰が震えた。
 その隙にゆるんだ唇の間を舌で割り開いて、桜木の口内へ入りこむ。
 ダメだとわかっているのに、止められない。自分から流川の腕に飛びこんできた桜木がどあほうで、認識がザルみたいに粗くて、危機感がないのだから仕方がないと、身勝手な言いわけが頭の中を駆けめぐっている。
 やめたいのに、止まれない。
 好きな相手からキスをされて、止まれるわけがない。
 けれど理性が止まれと叫んでいて、欲求は暴れていて、声が大きい。流されてしまいたい。
 桜木の口腔内へねじこんだ舌は、流川がその舌自身になりかわりたいほどの天国に溺れている。
 甘かった。
 どこもかしこも、舐めると甘い。舌の弾力も、頬の内側のなめらかなやわらかさも、歯の硬さも、どこも感触が違って、同じ唾液の甘さのはずなのに、別のものを食べている気がする。
 好きな相手とくちづけている幸福感と、飢えの満たされる酩酊で、頭がぐちゃぐちゃにかき回される。これが、もし、桜木がケーキでなかったら、自分がフォークでなかったら、彼とのくちづけはこんなに甘くてこんなに苦しいものなのだろうか。
 目の端から、涙があふれてくる。自分の涙なんて桜木が舐めたとしてもうまくないのに、流れる意味なんてないのに、流川の意思と関係なく、心臓をしぼられているように涙が頬を伝う。唇について、桜木の味をジャマする。こんなものはいらないのに、止まってくれない。
 純粋な桜木を味わいたくて、顔を傾けてもっと奥へと舌をのばして、無意識に腰をすりつける。
 桜木の足が震えた。小刻みに震えて、流川の襟首をつかむ手まで震え出す。
 流川を離した片手でもう片手をつかんで震えを止めようとしているのに、痙攣しているみたいに止まらない。口内の舌も縮こまる。
 その舌にふれて、流川は甘いのに棘を舐めたような怯えをおぼえて、舌先が震えた。慌てて舌を引っこめる。桜木の甘さに夢中になった自分への嫌悪で涙も止まる。
 浅ましい口唇も離そうとして、流川は目を見開いた。
 やわらかな弾力が口の中に飛びこんできた。
 口内を舐め回すとかそんな欲求も技巧もなくて、ただ流川の舌を追いかけてきた。
 甘いものが自ら捕食者の口の中に飛びこんできた幸運に、流川は殴られたような目眩がする。このまま食べてしまいたい。この無防備なものを、食べて、自分のものにしてしまいたい。
 けれど桜木の足も手も震えていて、かろうじて流川の理性を引き戻す。



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初めて致すときには事前にお医者さんで、ケーキとセッしたいから、強力な抑制剤くれって言う流川です。そこに恥ずかしげはない



花道を求める流川、蝶が花の蜜を求めるように――いや、熊が蜂蜜を求めるようになどと言われる。巣を壊すなよ、と