水樹
2024-12-14 07:36:10
4565文字
Public
 

根っこはそうそう変わらない

DLC後編配信一周年おめでとうございます!!

「聞いたか? 留学生の話」
「あー。確か特例で、四天王から挑戦できるんだっけ? チャンピオンランクだかなんだか知らないけど、ずるいよなー」
「地道にランク上げしてる俺らをバカにされてる気分」
「わかる。……なあ、痛い目見させたくね?」
「痛い目?」
「そ。バトル強いらしいって言ったってさ、本人はただの女子だろ? だからさ…………
「うわ、お前げっすいこと考えるな……

……そんなこと考えてる暇があるなら、少しでも強くなる努力したら?」

「えっ!?」
「うわ、チャ、チャンピオン!?」

 気分が悪い。内容まではよく聞こえなかったけど、ゲスなこと考えてるやつが、アオイに近づくなんて許せない。許さない。
 アオイは特別なんだ。バトルが強くて珍しいポケモンを連れていて、誰とでも仲良くなれて。……オーガポンにも、選ばれて。
 そんなアオイを、力ずくで貶めようだなんて。そんなの許されない。許さない。ああくそ、イライラする。ムカつく。気分悪い。

「構成見てあげるから、俺とバトルしてよ」
「は!? いきなり何?」
「いいから」

 なんだ。俺の手持ち一体も倒せないじゃないか。こいつ、ランク結構上だったはずだけど。

「くそっ」
……カイリューのもちものは、見直したほうがいいな。……ああそうだ」
……何?」
「タイプ偏ってる。少なくても一体、変えたほうがいいよ。それと――
「余計なお世話だってえの!」
……そう」

 その日アオイは、部室とドームとを行ったり来たりしていたらしい。「BPが足りない」「ソロきつい」などと言っていたと、誰かが話していた。



「アオイさんって、よく見たらすっげえ可愛くね?」
「確かに。けどバトルの時はさ……
「わかる。めっちゃくちゃかっこいいんだよな。指示も的確でさ。えーっと……ああいうのなんて言うんだっけ……?」
……ギャップ萌え?」
「それそれ! あー、彼氏とかいんのかなー」
「そりゃあんだけ可愛きゃいるんじゃねえの?」
「やっぱそう思う? でもそんな感じ全っ然ないんだよな。……ワンチャン、あるんじゃね? 案外押せばイケるかも」

 そんなわけないだろ。
 確かにアオイはめん……可愛い、とは、思う。
 思う、けど。
 ……………………
 くそ。何でこんなにイライラするんだ。
 噛み締めた歯が、ギリ、と音を立てた。
 とりあえずそいつにバトル挑んで、完全勝利したけど。
 別に気分は、晴れたりしなかった。


 少しでも気分転換になればいいって、サバンナエリアで調整でもしようとうろついていたら。

……アオイ?」
「す、ぐり……?」

 アオイが、泣いていた。大きくてまん丸な目からは、止まることなく涙が溢れている。
 気付けば俺は、アオイの両肩を掴んでいた。見開かれてもっと丸くなった目からは、いまだ涙がポロポロと流れている。

「何で、泣いてんの。誰に泣かされたの」
「え。あ、えと、これ、は」
「めそ……
…………メッソン?」
「う、うん……

 アオイの腕の中には、メッソンがいた。
 メッソンの涙には確か、強い催涙成分が含まれていたはず。そしてそれは、人にもポケモンにも有効だと。
 ……つまり、俺の、勘違い?

……っ、なら、いい」
「あの。心配、してくれた、ん、だよね? ありがとう」
「別に。そんなんじゃ、ないから」

 踵をかえす。顔があつい。胸が、いたい。アオイの泣き顔が、頭から、離れない。
 アオイのあんな顔を見れるのは、俺だけでいい。
 …………
 …………

……っ! 違う!! これは、これはそんなんじゃないっ……!」

 ならなんだって言うんだ。
 わからない。

 その日。アオイはインテレオンを主軸としたバトルで、アカマツに勝利した。



「ねえ聞いた? あの先輩の噂」
「あの先輩?」
「ほら、手当たり次第女子に手ぇ出してるっていう……
「あー……あの人か。それがどうかしたの?」
「なんか今度は、留学生狙ってるって」

 ……は?

「それ、本当?」
「え、す、スグリくん!?」
「ねえ。今の話、もう少し詳しく聞かせて」
「え、ええっと……

 面白くない。面白くない面白くない面白くない。
 イライラする。ムカつく。なんだってそんなやつがこの学園に通ってるんだ。
 それに。今聞いた話が本当だとしたら。
 頭の中に、最悪なイメージがよぎる。

「私急いでるんです」
「そんなつれないこと言わないで? ちょっとくらいはいいじゃん」
「!」

 廊下からは死角になる場所。そこから声がした。顔は二人とも見えないけど、女子の方はわかる。
 アオイ、だ。

「あの、本当に忙しいんですけど」
「えー? 忙しいって言ったってそいつらの育成でしょ? んなの後でもできるよー」
「っ本当に! 急いでるので! 失礼します!」
「待ってってば」
「きゃ!?」
「!!」

 アオイに。
 さわるな。

「手、離せよ」
「! スグリ……!?」
……何? キミには関係なくない?」

 そうだよ。
 だけど。

「手ぇ離せって言ったの、聞こえなかった?」
「キミこそ。関係ないって言ったよね? 聞こえなかったのかな?」
……スグリ……

 何でそんな顔してんの。何で、そんなやつに言い寄られて、挙げ句捕まってるの。
 ムカつく。
 ムカつく。
 ムカつく。

……聞いたことある。あんた、カキツバタに倒されて退部したっていう、元部員だろ」
「っ! 今それ、関係ないよね?」
「関係あるよ。素行不良だなんだって噂だけど、本当だったんだな」
「それが、何?」
……交換留学生に手ぇ出して問題にでもなったら、今度は、退学になるかもな?」
…………チッ。あーあ興ざめ。それじゃまた今度ね、留学生ちゃん」
「えっ、あ、はい……?」

 返事なんか、するなよ。

「俺も、もう行くから」
「あの、スグリ」
……何?」
「ありがとう」
……っ」

 何だこれ。
 なんだこれ。
 なんなんだよ、これは。
 胸、が、痛くて、苦しい。
 けど。嫌な感じじゃ、ない。
 わけが分からなくて、逃げるようにその場をあとにした。

 その日アオイは、ネリネとタロに勝利した。
 残るは、カキツバタだけ。


「おめでとさん。キョーダイの勝ちだ。渡すもんあっから、ちょっくら待っててくれーい」

 カキツバタに勝つともらえる、ドラゴンエールのわざマシン。長く頂点に君臨していたせいで、俺の時もそれは埃を被っていた。
 ……まさかそれが、カミッチュの進化条件だったとは、思いもしなかったけど。

……ありがとう、カキツバタ」
「次はとうとう、チャンピオンだな」
…………うん」
「その前に、記念撮影といこうぜぃ!」
「え、わあっ!?」
「!?」

 肩触っ……!? 近っ……!?

……っ、アオイ」
「お?」

 おい。撮影終わったろ。いつまでくっついてるんだ。離れろ。

「スグリ……待たせて、ごめんね」
……別に。けど、アオイにしては遅いよな」
「そう? でもスグリに挑むには、もう少し、時間かかりそう、かも」
……そう」

 それはそれで、俺も調整する時間ができるから、別に構わないけど。

……待ってるから」
……うん」
「逃げないでね」
「わかってる」
「負けない」
……勝つよ」










 …………………………えっ、え?






 …………ああ、やっぱりアオイには、敵わないな。でもなんか、すっきりした気持ちだ。




「アオイ」

「ゼロから、また、俺と。友達に……なってくれる?」









 ゼロからやり直して、気付いたことがある。
 俺、好きなんだ。
 アオイのことが。
 その……恋愛的な、意味でも。
 だから……

――変わらない気持ちさ今! テラスタルにこめて!」



 部屋で今のバトルのログ見直そうよ! って無邪気に誘われて。上手い誤魔化しも言い訳もできずに、結局は足を踏み入れてしまった。…………下心は、正直ある、けど。

「椅子ないし、画面一緒に見たいからさ。ここ座って?」
「わ、わや……

 ぽんぽん、と示されたのはベッド。アオイの隣。
 け、警戒心……!!
 身動ぎすれば触れてしまいそうで。場所が場所だけに、理性が揺らぎそうで。
 結論。全然動画に集中できなかった。

……スグリさ、なんか変わったよね」

 画面を見つめたまま、アオイがぽつりとこぼす。
 もう動画は終わっていて、暗くなったそこには、俺とアオイの顔が、半分ずつ。

「え? そ、そう?」
「うん。もちろんいい意味で! ……あ、でもね? 変わってないところもあって」
「そう、なんだ……?」
「これももちろんいい意味だよ? ……スグリは私に、『変わってなくてよかった』って言ったけど、それ、私も言いたかったんだ」
「えっ、と」

 どういう、意味、だろうか。

……前に、私が泣いてるのを心配してくれたり、先輩に絡まれてるのを助けてくれたりしたでしょう?」
「そ、れは」

 思い出すだけで恥ずかしくなる。あの時はまだ、自分の気持ちを自覚してなくて。ただイラついて、ムカついてただけかと思ってたけど、今ならわかる。
 アオイのことが好きだから、心配で。
 アオイのことが好きだから、守りたくて。
 アオイのことが好きだから、嫉妬してただけなんだって。

「林間学校の時とは雰囲気が変わってて、それで、スグリの中身も変わっちゃったのかなって思ってたの。だけど。スグリは変わらず、優しいまんまだった。それが私、嬉しかったんだ」
「そ、なんだ……?」
「うん! ……………………でも」
……?」
「スグリがかっこよくて優しくて、とっても素敵な人なんだってことを、みんなに知ってもらえるのは……すごく、嬉しいこと、なんだけど」
……けど?」
……もう少しだけでいいの。もう少しだけ、私だけが、知っていたかったなって」

 え。

「ぁ、の、アオイ。それ、って……?」
……え? ………………あっ!? ち、違っ、違うの! そ、そういう意味じゃなっ……!」
「じゃあ、どういう意味?」
……ぁ、う、だから、それは……
……んな顔されたら、俺、期待しそうになるんだけど」
……き、たい……?」
「そう。期待」

 アオイも、俺と同じ気持ちを、持ってるのかなって。そういう、期待。
 そっと手をとって、それを口に出せば。みるみるうちに榛色が潤んで、膜をはる。ほっぺたが更に赤くなっていく。
 色付く頬も、泳ぐ視線も、潤んだ瞳も、何もかもが可愛くて、愛おしい。
 一瞬視線が合うけれど、また、そらされた。

「違う……違うの。そんなんじゃ、なくてっ……!」
「なら、何?」
「と、とりあえず、離してほしい、です……
「それはできね」
「っ」

 逃がさない。逃がしてたまるか。

……ね、アオイ。聞かせて?」
「〜〜っっ! そういうとこも、変わってない!!」