はなれ
2024-12-14 00:01:12
2131文字
Public 哥忌
 

いずれ天翔ける青の明星

色々捏造/モブ喋る/呼称変更
初対面時の他人行儀な哥忌見たすぎるね……

 夜帰の新米軍医、忌炎は患者を思いやる仁医として知られている。
 軍隊という過酷な環境におかれても、忌炎は優秀な医者だった。
 そんな男が。
 今や。
 軍の総帥たる将軍に呼び出しをくらっている。
「所属を述べろ」
「夜帰医療部所属、忌炎です」
「貴官には規律違反の嫌疑がかけられている。共鳴者であることを隠匿し、その異能を用いて隊を混乱させ、指揮権を奪ったとの報告が上がっているが、これは事実か」
「自分は入隊時には非共鳴者であり、先の戦いで共鳴能力を授かりました。隠匿は事実ではありません」
「指揮権の強奪については?」
「撤退の際にしんがりを務めた事が指揮の一部になるならば、弁解の余地もございません」
「では貴官は戦いの最中に共鳴者として目覚め、その力を以て部隊が撤退する手助けを行った、ということで違いないか」
「はい」
……調書との齟齬も無し。なるほど、体よく共鳴者叩きに使われたか。侮られたものだな。俺も、お前も」
 毅然と返答していた忌炎も、これには返す言葉を探した。
 余計な事は言わない方がいいだろうな……と冷たい顔つきを歪めると、忌炎の困惑が伝わったのか、哥舒臨が精悍な顔を少し緩めた、ような気がした。
「確認は済んだ、下がっていいぞ。体裁的な罰は受けてもらうだろうが、基地の掃除あたりが関の山だ。処遇については後で軍医長に伝えておこう」
 追い払うように手を振られ、部屋に満ちていた威圧感が消滅する。
 無意識に深呼吸をした忌炎は、哥舒臨に向かって礼をし、退出しようと踵を返した。
「忌炎、と言ったか」
 背後から声を掛けられ、忌炎は足を止める。
「龍を操るというその力、戦場で活かす気はあるか」
 将軍の真意を掴み損ね、忌炎はひたと押し黙った。
 忌炎は軍医だ。
 軍医は、戦場には出ないものだ。
 もしやこの将軍は、忌炎を兵士にでもしたいのだろうか。とんでもない!
「いえ、自分は医師ですので」
「そうか。引き留めてすまなかった」
「失礼します」
 わずかに怒気を滲ませながら退出していく忌炎を、哥舒臨が面白そうに見つめていたことを、忌炎は知らない。


 忌炎はただの軍医だから、そう何度も劇的な事件に巻き込まれるなんて。
 そんなことある訳が……
 あった。
 いくら本人が思慮深くとも、仲間思いな性格は隠せず、何かと事件の中心にいることが多いのだ。
 そのうち忌炎がやらかしたのは、ほんの……片手で数えられる程度しかないが。
 常に戦場に出ている同期の新兵より、関係の無い忌炎の方が、哥舒臨の顔を見慣れているかもしれない。
「つまり、忌炎は不届き者を暴くために遣わされた、将軍のスパイだという話がまことしやかに流れている」
「どうしてそうなった!? そもそも身内で密偵をやる意味がない」
「そんだけ悪目立ちしてるってことだよ。諦めろ、四半期呼び出し回数ナンバー1」
「軍医内の話だよな……?」
「お、噂をすれば将軍だ」
 同僚に茶化され頭を悩ませていた忌炎はその言葉に顔を上げる。
 小隊程度の兵の中に、ひと際目立つ白い人影があった。
 視認できる程度の距離なので声は聞こえないが、何かしらの指示を出しているのは伺える。これから出陣があるのだろう。
「なぁ忌炎、将軍こっち見てないか?」
「そんなはずないだろう。馬鹿言ってないで行くぞ」
「いやなんか絶対こっち来てる。すっごい足音してる」
「俺は何も見ていない」
 そう、忌炎は決して哥舒臨と目が合ってなんかいないし、兵の合間を縫ってこちらにやってくる哥舒臨の姿なんて見ていない。
 だから全部同僚の気のせい。
 このまま後ろを向いて立ち去るのが吉。
 だが、そんな忌炎の思惑は容易く斬り捨てられてしまった。
「おい忌炎」
 将軍に声をかけられたとあれば……立ち止まるしかない。だって部下だもの。
 忌炎が壊れた機械のようにぎこちなく振り向けば、哥舒臨がすぐそこに立っていた。
「お前、明日から関内の巡察だろう」
「それが何か」
「いいか、俺は今から前線だ」
「そのようですね……?」
「絶、対、に、面倒事を起こすなよ」
「俺が毎回問題を起こしているような物言いはやめてください」
「お人好しなのは結構だが、事あるごとに首を突っ込むな。そろそろお前の調書は見飽きた」
……善処します」
「その言いぐさは甚だ不満だが……軍医殿の誠実さに期待するとしよう」
 忌炎に釘を刺すだけ刺して、哥舒臨は小隊の方に戻っていった。
 決めつけるような哥舒臨の言動にじわじわと怒りが沸いてきた忌炎はわなわなと拳を握りしめる。
「お前、よくあの将軍相手に言い返せるよな……
……不本意だが、お前たちよりは喋る機会があるからな」
 まったくもって不本意だが、こればかりはそうとしかいいようがない。
「明日の準備をするぞ。これで何かあったら確実にあの人に笑われる」
「それより先にお祓いとか行った方がいいんじゃないか?」
 わずかに芽生えた将軍への反抗心を胸に、忌炎は哥舒臨とは反対方向に歩き出す。
 これは異なる道を歩む将軍と軍医が、互いの道筋を交わらせる物語。
 その始まりの一章。