青海かなえ
2024-12-13 22:21:36
1269文字
Public 名的名
 

名取誕2024

・付き合ってる名的名

「誕生日おめでとうございます」
 家に帰ると、的場静司がいた。到底似合わないパーカーとカーゴパンツを履いた的場は、我が物顔でソファーに寝そべり深夜の通販番組を見ていた。のろのろと腕時計を確認すると、とっくの昔に日付を超え、十一月一二日になっていた。表の仕事で疲れ果てた身体と頭がうまく噛み合わない。そういえば半年ほど前、的場に合鍵を渡していた。使われず仕舞いだった合鍵が、おれの誕生日を機にようやく日の目を浴びたらしい。渡した時に、無くしたらすみません、と平然と言っていた的場の顔がふと脳裏に浮かんだ。
「なんでいるんだ」
「誕生日でしょう?恋人らしく祝いに」
 的場は小首を傾げた。
「今更だけど」
「はい」
「お前とおれは付き合ってるんだな」
「今更ですね」
 言葉にしてから間抜けなことを言った自覚が沸々と湧いてきて、恥ずかしくなって顔を逸らした。
「冷蔵庫にケーキあるんで取って来てください」
「なんで祝われる当人がわざわざ冷蔵庫に取りにいかなきゃいけないんだよ……
「あなたの方が近いですし。酒もありますよ」
 ため息をつきながら冷蔵庫を開ける。普段は何も入っていない冷蔵庫に、ホールケーキが鎮座していた。そう、ホールケーキ。
……でかくないか?」
「年寄りじゃないですか」
 一歳しか変わらないのにずいぶんと失礼なことを言われた。的場にケーキを選ぶ権利を与えると、いつもホールを選ぼうとする。いつかのクリスマスもそうだった。冷蔵庫からホールケーキを取り出していると、的場が起き上がって来た。的場は食器棚から慣れた調子で皿とデザートスプーンを二組取り出し、鼻歌混じりにテーブルに並べる。機嫌がいい猫みたいだった。
「これくらい朝飯にすればいいでしょ」
「朝からケーキを食うな」
 ホールケーキをテーブルに置き、皿を並べている的場を軽く小突いた。的場が悪戯っぽく笑う。兄弟がいないからわからないが、こういうやり取りをしていると弟のようにも思えてくる。
「おれ、太らないんですよ」
「知ってる」
 キッチンから包丁を持って来て、ケーキを切り分ける。確かに的場はよく食うのに太らない。
「誕生日ケーキなんて何年ぶりだろ」
「何年ぶりですか?」
……20年ぶりくらい」
「まあ、いろんな親がいますよねえ」
 せっかく祝おうとしてくれていたのに言わなくていいことを言ってしまったと後悔が押し寄せる。的場がさらりと流してくれた。助かった。正直、家の話は変に慰められても困るだけだ。
「じゃあ、今年からはおれが買ってきますよ」
 的場が、冗談混じりにおれの肩を叩いた。ハッとしてすぐ隣にいる的場の顔を見た。
「毎年?」
「毎年」
 毎年。的場もおれも忙しい身だ。当日にケーキを用意するのは意外と難しいだろう。だが、的場はできない約束はしない男だった。ありがとう、と一言でもいいから伝えようとしたら、口を開く前に軽くキスをされた。数秒の触れ合いの後、あっさりと俺は解放される。不意打ちを成功させた的場は得意げに笑っていた。