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青海かなえ
2024-12-13 22:20:23
1479文字
Public
名的名
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別れる名的名
・的場さんに婚約者ができて別れることになる名的名
「結婚します」
「は?」
冗談を言われていると思った。突然呼び出されるのこと自体はいつものことだった。例えば早朝、例えば深夜、例えば真昼。こちらの都合も考えずに突然紙人形をよこす。呼び出される場所はまちまちで、的場の本邸や別邸。あとは喫茶店。的場がおれの家に寄ることもあった。
今回の結婚が、的場自身で決めたことではない。明白だった。的場が人生の中で発生する数多の文亀を自分自身で選択したことなんてあるのだろうか。仕事も、外見も、着る物ですら自分で選ぶことができない人間が、結婚相手を選ぶことなんてできるはずがない。きっとおれも的場も、いつか来る今日のことを、心のどこかでわかっていた。わかっていて付き合ったと言われてしまえばそれまでだ。
「だから別れたいと」
「愛人になる、という手もあります」
絶句した。しばらく言葉が見つからなかった。
「そんなの、結婚相手に不誠実だろ」
「あなたならそういうと思った」
それがたまらなく寂しい、と言いたげだった。言っていることの筋が通っていない自覚はあるのか、的場はそれ以上言い及ぶことはなかった。至極まっとうなことを言った。言ったはずなのに、とても酷いことを口にしたような罪悪感に駆られた。
「
……
どういう人なんだ」
「え?」
「結婚する人って」
ああ、と生返事を寄越した的場は深く呼吸をした後、口を開いた。
「力が強くて良家の
……
ほら、あの的場と対立していた東日家ってあるじゃないですか。そこの一人娘です」
「完全に政略結婚だな」
「そうですね」
「その人のこと好きなのか」
口から出して、言うべきではないとはっとした。口から出してしまった言葉はもう戻せない。的場はすうっと目を細める。口角を上げて目を細めるのは、的場が癇に障った時によくする癖だった。
「あなたがいるのに?」
あなたがいるのに。愛のようなものに触れるとき、人間はいつだって無様だということ深く理解していている。
「間違えた」
「はい」
「好きになれそうなのか」
的場は口を開かなかった。
「
……
その人自身はどうなんだよ。家とかじゃなくて」
「恐れ知らずでおっとりしているけれど話してみると意外と鋭いところがある娘です」
「そうか」
気が狂いそうな状況だというのに、何故だかとても冷静だった。冷静に混乱している、というのが正解なのかもしれない。なにせ、的場と話している間、ずっと的場と結婚するらしい女性のことを考えていた。どんな女だったら嬉しいだろう。的場は、強いかわりに上手く生きられないから、それを知っていてくれる人がいい。言葉を間違えるので、裏にある本意を掬い取れるくらい鋭いほうがいい。神経質な人間より、大らかで恐れ知らずのほうがいい。自分が寄り添えなかったやわいところに、寄り添ってくれる人がいい。そういう人と幸せになってほしい。願望ばかりだ。相手の女性の幸福を何も考えていない。
「あなたは、私を別の女と結婚させたいみたいだ」
「そんなわけないだろ」
そんなわけない。ただ、目の前の人間が、自分の恋人である以前に、祓い屋である的場静司だということは長い付き合いの中で分かりきっていた。恋や愛より、優先するべきことがあることも、もちろん。
「許したくない」
もう既に、許してしまった人間の泣き言だった。
「ずっと許さなくていい」
はっと、的場の目を見た。隻眼が、スッと細められた。
「それだけで生きていける」
そうか、と答えた。的場は微笑む。その微笑みを、俺はずっと覚えているだろう。きっと、死ぬまで。
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