ハイパー夢おじさん
2024-12-13 22:05:22
2289文字
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据え膳食えぬ男の恥

呪術廻戦 俺羂(失恋モブ)

「そんなに私が好きならいいよ? 少しくらい相手をしてあげても」

 ほぼ日課と化している告白への返事として、羂索さんは俺に向かってそう言った。普段であれば「そうなんだ」や「君も物好きだね」なんて言葉しか返ってこないのだが、今日はいつもと違ってやけに好意的だ。

 これが羂索さんではなく一般人相手だったら、俺の告白に絆されてくれた可能性もあるのだが、相手はあの羂索さんだ。絆されるだなんてことはあり得ない。俺の聞き間違いか、幻覚か、あるいはリアルな夢か。そんなシチュエーションでなければ羂索さんが俺に好意的な返事などするはずがない。

 ――そうだ、これは夢だ。夢なら覚めないと。俺の都合の良い妄想で羂索さんを汚すわけにはいかない。

 そう思って自分で自分の頬を殴ると、羂索さんは驚いたのかビクリと体を強張らせた。やや引いたような羂索さんの表情と、自分の頬に走る鈍い痛み。それらは痛いほどに「これは現実である」と俺に訴えかけていた。

 ――え、じゃあこれは現実ってこと?
 これが現実なら、羂索さんはどうしてそんなことを言ったのだろう。現実が受け入れられず、俺は痛む頬を手で押さえながら口を開く。発した俺の声は弱々しく震えていた。

「ぅえ、え? 羂索さん……ほ、本気で言ってるんですか? な、なんで……
「私はいつだって本気だよ。私が嘘や冗談を言ったことがあるかな」
「いっぱいあると思いますけど……

 俺がそう言うと、羂索さんは眉をひそめ「はぁっ」とわざとらしいくらいに大きな溜め息を吐いた。

「ていうか君さぁ、『据え膳食わぬは男の恥』って言葉知らないの? せっかく私が相手してもいいって言ってるんだよ。私からの好意を無碍にするつもり? あー、そうか。君は私が恥をかいても良いと思ってるってことね。君の『私に対する思い』って、結局その程度だったんだ」
「えっ!? そ、そんなつもりじゃ――……ッ!」
「じゃあ構わないよね」

 少し相手するくらいで心酔してくれるなら安いものだし、羂索さんは小声でそう付け足した。その一言で俺は「羂索さんは俺の告白に絆されたのではなく、打算で相手をするなんて言っているのだ」と悟った。いわゆる飴と鞭。俺の相手をすることで、羂索さんは俺の忠誠心を更新しようとしている。――そんなことしなくても、俺は羂索さんのこと好きでいるのに。

 そう思いつつも俺の下心が首をもたげ、俺はそれ以上の抵抗はできずされるがまま、羂索さんに引きずられるように寝室に連れて行かれた。



 ◇



 先ほどまでの期待と喜び、それから少しの困惑、そんな感情がまるで嘘のように消え去った。俺は柔らかい布団の上、泣きながら自身の性器をしごいている。極度の緊張のせいか、俺の下半身はピクリとも反応しなかったのだ。退屈そうに俺を見つめる羂索さんの視線が恐ろしくて、俺はどんどんと焦っていく。その焦りは悪循環を生み、さらに俺の性器はしぼんでいく。

……夏油傑のガワが嫌なら、女の体にでもなってあげようか?」
「いっ、いや! 俺は羂索さんのことを見た目で判断してるわけじゃないので……! ちょっと緊張しちゃってる、のかも……。ほ、本当すみません! すぐ勃たせます!」
「あ、そう。じゃあ私がやってあげようか? こう見えてプロだからね、すぐ終わらせてやれると思うけど」

 そう言いながら羂索さんは、親指と人差し指で作った輪っかを自分の口元に持っていく。それが口淫のジェスチャーであることはすぐに分かった。
 普段の俺であれば、羂索さんのそのジェスチャーに興奮できていたと思う。けれど今の俺は「プロってなんのプロ?」と考えてしまって、興奮よりも自己嫌悪が勝ってしまった。

 ――俺より先に羂索さんと体を重ねたヤツが存在しているという事実に嫉妬してしまう自分が嫌だ。勝手に負けた気分になる自分が嫌だ。羂索さんには子供だっているのに。それを俺は知っているのに。それなのに、いざ口に出されると意識してしまう。そんな自分が嫌だ。羂索さんは俺だけのモノではないのだから、そんなことを思う資格なんてないのに。ていうか、羂索さんのこの体だって元は他人の物だ。元の持ち主にも経験があるだろうと思えば、完全な『純潔』なんてあり得ないと分かる。なのに、それなのに。

「ウッ、ウグゥ〜〜……ッッ!!」
「うわ、汚いな。なんで泣くの」
「おっ、俺はァ……ッ! 俺は羂索ざんのごど好ぎなんでずぅ……ッ! すっ好きでェ……ッ! ほんどに、本当に好ぎなんでずぅ!! なのに、なのにィ……! 俺は、不甲斐ない……ッッ! ウグゥ〜〜……ッ!!」

 与えられたチャンスを活かせない自分に対する怒りと焦燥。意味のない嫉妬心を抱く自分の矮小さに対する嫌悪感。心と体が一致しなくてグチャグチャになっていくその気持ち悪さ。それらすべてが混ざって、涙となって俺の目から溢れ出る。

「羂索ざんの期待に応えられない俺なんてェッ! し、死んだほうがマシだァ……ッ!!」

 しなびた性器を握りながら号泣する俺を見つめる羂索さんは、今まで見たことがないくらいに死んだ目をしていた。困惑するでも引くでもなく、それこそ死体のような無の表情を浮かべている。

 死なせたいのは羂索さんの目じゃなくて俺のほうなのに。そう思ったら、涙と一緒に鼻水も出た。すると羂索さんは眉をひそめ、「悪いけど私にはそういう趣味ないんだよね」と言い残して部屋から出て行ってしまった。ポツンと一人残された俺は、惨めさからまた泣いた。