haru_haru0704
2024-12-13 20:00:29
5099文字
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愛の証

カカロ×忌炎 全年齢

お誕生日おめでとう!🥂🎂🎉

11月、某日。
一通のメッセージがカカロのデバイスに届いた。
差出人は、夜帰軍の将軍補佐。
やや珍しい相手からだと言えるだろう。
デバイスを操作し、メッセージを開く。そこには、こう記されていた。
『12月14日は忌炎将軍のお誕生日です。そこで、生誕を祝う会を開催することになりました。12月14日の18時から伏波陣地にて開始しますので、もし都合が合えばお越しください』
そのメッセージに対し、カカロは『行く』とごく短い返事をした。

カカロが忌炎の誕生日を祝うのは、今回が初めてというわけではない。
もう2年ほど前から彼の誕生日は知っていたし、ささやかな贈り物をしたことだってある。
しかし、今までに夜帰でこのような「正式な会」が開催されたことはなかった。
おそらく、鳴式を討伐したため今年は軍に余裕ができたのだろう。
皆で何かを祝うのはいいことだ、とカカロは思う。
祝われるのも、いいことだ。
カカロの脳裏に、おぼろげな母との記憶が蘇る。
たしかあの人は、自分の誕生日を祝ってくれたはずだ。「おめでとう」と優しく笑っていた、ような気がする。
「・・・ふ」
カカロは小さく笑い、らしくない郷愁から抜け出した。
ともあれ、忌炎の──恋人の誕生日がやってくる前に、贈り物を考えておかなければ。

✦✦✦
菓子、珍しい植物、外国の工芸品。
どれも、忌炎に贈ったことがある。
彼はそれらすべてを喜んで受け取ってくれた。きっと、また贈ったとしても喜んでくれるだろう。
だがしかし、それではなんだか物足りない。
せっかく恋人の誕生日を祝うのだから、もう少し特別さのある何かがいい。
カカロが考え込んでいると、とある団員が近寄ってきた。
「団長、どうしたんですか?難しい顔して」
「俺の顔はいつもこうだ」
「そうですけど、いつもよりもっと険しいっていうか」
団員は心配そうにしている。
団長である自分が難しい顔をしていれば、不安に思うのも当然か。
カカロは自省し、顔から力を抜いた。これで多少はマシになっただろうか。
「大した事じゃない。・・・忌炎の誕生日がそろそろだから、贈り物を何にするか考えているだけだ」
「それは大した事ですよ!恋人へのプレゼント選びって、だいぶ重要事項じゃないですか?」
「・・・そう思うか」
「思います」
カカロの語尾を潰すほどの即答である。
そういえばこいつ、彼女がいるとか言っていたな。
丁度いい。なんだか暇そうにしていることだし、相談に乗らせるとしよう。

୨୧ ୨୧ ୨୧
12月14日、18時。
予定通り、伏波陣地の食堂にて宴が始まった。
カカロは食堂の端っこで乾杯の挨拶だけ見届けると、さっさと調理場に引っ込んだ。
そうでもしないと、お節介な夜帰兵が忌炎の近くに行かせようとするからだ。
自分が忌炎の傍に座っているというだけで、一部の遠慮がちな兵たちは忌炎に声をかけるのをやめるだろう。
カカロはそれが嫌だった。
祝いの言葉は余さず全て差し出され、そして受け取られるべきだ。
それにどうせ、宴の後の忌炎はカカロが独占する。
だから、宴の間は兵たちに独占させてやらねば、不公平だろう。
「さて、やるぞ」
先に調理場に入っていた数人の団員に声をかける。
今、この調理場に夜帰兵は1人もいない。
カカロ及び団員たちが、最後の料理を仕上げる役を引き受けたためである。
「まずは生クリームだな」
カカロは冷蔵庫の中から生クリームを取り出し、大きなボウルに注いだ。
そう、最後の料理とは──もちろん、ケーキである。
つい先ほどまで調理場に詰めていた兵たちが焼いてくれた、大量のスポンジケーキをデコレーションする。
それが今回の任務だ。もちろん報酬などは貰っていないから、任務というより奉仕活動と言った方が適切かもしれないが。

୨୧ ୨୧ ୨୧
忌炎はふわふわした心持ちで料理をつまんでいた。
美味い料理。美味い酒。祝いの言葉。手渡される贈り物。
なにもかも、どれもこれもが忌炎にとっては贅沢に過ぎる。
こんなに良くしてもらって、本当にいいのだろうか。まだまだ至らない将軍である自分が。
そう思わないでもないが、せっかく用意してもらった会だ。遠慮するのは却って失礼になるというもの。
だから、遠慮せず、我慢せず、喜んで、笑って。
その結果、なんだかふわふわになってしまった。
冷たい顔つきと鋭い目つきがトレードマークの将軍も形無しである。
「今からケーキが出てくるぞー!」
不意に、背後から大きな声が聞こえた。
見ると、調理場からケーキの乗った皿を運んでくる人物がいる。
──カカロだ。
彼はまっすぐに忌炎のテーブルへと歩いてくると、ホールケーキの皿を忌炎の目の前に置いた。
「誕生日おめでとう、忌炎」
「ありがとう」
嬉しくて、思わず笑みがこぼれる。
たしか今週の初めごろは、外国にいると言っていたはず。
それなのに、わざわざ来てくれたのか。
カカロは調理場の方に向かって「後の配膳は任せた」と、よく通る声で叫ぶ。
そして、忌炎の隣に腰を下ろした。
「そのケーキはお前用だ。全部食べてもいいぞ」
「はは、1人じゃこんなに食べられない。お前も手伝ってくれ」
近くにあったカトラリーボックスからフォークを2本取り、1本をカカロに手渡す。
すると彼は、「分かった」と頷いた。
「ホールケーキを2人で食べるなんて、始めてだ」
フォークをケーキの端に刺して、ひとくち分をすくって口に運んだ。
生クリームの豊かな風味が鼻を抜ける。
甘さ控えめで、フルーツもふんだんに使われており、軽い食べ心地で美味い。
「わざわざ俺好みの味にしてくれたのか?」
「もちろんだ」
カカロもケーキを口に運ぶ。味を確かめるように咀嚼して、納得したように頷いた。
彼はもう少し甘い方が好みのはず、なのに。
自分の味覚に合わせて作ってくれたことが、なんだか嬉しくてたまらない。
カカロは優しい微笑を浮かべながら、こちらを見ていた。
ああ、なんて幸せな時間なんだろう。

୨୧ ୨୧ ୨୧
宴もお開きになり、カカロと部屋で2人きりになる。
くい、と腕を引かれたかと思うと、カカロの腕の中に閉じ込められた。
「カカロ・・・?」
目の前にある彼の顔は、少しだけ強ばっているように見える。
・・・なにか、緊張して、いる?
でも、どうして?
ぎゅう、と強く抱きしめられ、頬に軽く口づけを落とされる。
「忌炎。俺からひとつ、贈り物がある」
囁くように言うと、カカロはどこからか小箱を取り出した。
・・・箱。箱だ。
上品に光を反射する独特な艶のある布で覆われた、小ぶりな箱。
「お前を縛るつもりはない。お前から何かを奪うつもりもない。ただ、これを・・・俺の想いを証明するものを、受け取ってほしい」
箱に、カカロの指がかかる。
「っ」
息を呑む。
どくどくと心臓が激しく脈打ち始めた。
その箱が開けられるまでの時間が、ひどく長いように感じる。
いや、実際のところ長くかかっているのかもしれない。
カカロの指が震えているように見える。それすらも、俺の気のせいだろうか。

──そして、ようやく、箱が開いた。
中に収められていたのは、何の装飾もない無骨な指輪。
形は、忌炎が左手中指につけているものとほとんど同じような見た目だ。アームの部分が平たい形をしている。
黒石から作ったのか、不思議な色合いを帯びた銀色の、それ。
「・・・指輪」
ひどく間抜けな言葉が、忌炎の口から出た。
指輪だ。どこからどう見ても。
なんなら、箱が開く前から予想はついていた。今更言うべき言葉じゃない。
けれど、思考がばらばらになっていて、うまく言葉が出てこない。
「壊れにくいようにと思って、黒石で作ってもらった。宝石も割れないように・・・ほら、内側に埋め込んである」
カカロは箱から指輪を取り出し、内側を見せてくれた。
そこには、綺麗な宝石が2つ嵌まっている。
ひとつは、ちらちらと赤や緑の光が反射する華やかな黄色の石。
もうひとつは、冬の空を思わせる落ち着いた水色の石だ。
「・・・綺麗、だな」
またしても、忌炎の口からは変な言葉が出た。
こんな馬鹿みたいなことが言いたいわけじゃないのに。
違う。違う。
もっと言いたいことがある。
目の前で、なんだか不安げな顔をしている恋人に向けて、言ってやりたいことが。
「カカロ、お前が嵌めてくれないか?」
左手の指輪とグローブを外して、カカロの前に素手を差し出す。
彼はおずおずとその手を取ると、薬指に指輪を通してくれた。
「・・・・・・」
無言でそれを眺める。
薬指に、銀色の指輪が嵌まっている。
愛しい人が、自分のことを想って作ってくれた、大切な大切な指輪だ。
そう思うと、自然と笑顔が浮かんだ。
「すごく、嬉しい。素敵な贈り物をありがとう」
そう、これだ。
これが言いたかった。
お前の気持ちが嬉しいのだと、決して独りよがりの行為ではないのだと、ただそう示したかったのだ。
それは陳腐な言葉だったけれど、忌炎の心はしっかりとカカロに届いたようだった。
彼は安心したように息を吐いて、それから忌炎の唇に軽く口づけた。
ちゅ、とリップ音が鳴り、至近距離で視線が交わる。
「忌炎、好きだ。これから先もどうか、俺が隣にいることを許してほしい」
「ああ。ずっと隣にいてくれ。俺もお前のことが好きだ」
カカロの要求はとても控えめなものだ。
しかしそれは、彼の愛が深いからこそだと分かっている。
もし自分が死んでも、忌炎が過去に囚われないように。そうでなくとも、自分の愛が忌炎の重荷にならないように。
彼はそういう風に他者を愛する人だ。
自らの愛とエゴを押し通すよりも、愛すべき他者の幸福を優先できる人。
そういう彼のことが、忌炎は大好きだ。
でも、もっと欲張っていいのにとも思う。
「カカロ、お前の分の指輪はどこにあるんだ?俺もお前に付けてやりたい」
「ああ・・・俺のはここに」
尋ねると、カカロは腰のポーチをごそごそと漁った。
てっきり箱に入った状態で出てくるのかと思いきや、なんと剥き身の指輪が出てきて、思わず笑ってしまう。
「ちょっと雑じゃないか?いくら丈夫とはいえ、ちゃんと箱に入れておいた方がいい」
「箱だとかさばるから・・・」
かさばるから、って。
たしかにかさばるけれども。
忌炎はくすくす笑いながら、カカロの手の上にある指輪を持った。
「ほら、手を出してくれ」
忌炎がそう言うと、カカロは左手を差し出す。
武骨な古傷だらけの手を取ると、その見た目にそぐわない良い香りがした。
「林檎の香りがする」
「ああ・・・大量に剥いたからな」
そういえば、先ほどカカロが持ってきたケーキには林檎や苺がたくさん盛り付けられていた。
それらの果汁が手に染み込んでしまったらしい。
それがなんだか可笑しくて、また笑う。
今日はずっと幸せな気持ちでいたから、きっと感情が馬鹿になってしまったに違いない。ちょっとしたことですぐに笑ってしまう。
「ふふ、じゃあ、気を取り直して」
銀色の輪を、するするとカカロの指に通していく。
ああ、俺は一生こんなことには無縁だと思っていたな。
自分が誰かのものになるだとか、誰かが自分のものになってくれるだなんて、まるで想像していなかった。
「よし、嵌まった」
カカロの指の根元まで輪を進めると、忌炎の心はこれ以上ないほどの充足感で満たされた。
ああ、嬉しい。
嬉しくて仕方ない。
本当に、最高のプレゼントだ。
俺はいい恋人を持ったな。
カカロの首に腕を回して、深く口づける。
ちゅう、ぢゅる、と音を立てながら舌を貪り、貪られた。
「ん・・・、ぅ、っ・・・」
カカロの手にするりと胸元を撫でられ、早くも身体が期待に疼き始める。
せっかく指輪を嵌めたばかりなのに、すぐに外さなければいけなくなりそうだ。
まあ、それはそれで、別にいいか。
口を離すと2人の間に唾液の糸が伝い、ぷつりと切れる。
お互いに服を脱がせ合い、また口づけをして、それからベッドにもつれ込んだ。
「今夜はたくさん愛してくれ」
「ああ。お前が満足するまで、何度だって」

✦✦✦
その翌日から、彼らはグローブの下の薬指に指輪をつけるようになった。
それは、2人の想いの証。
ここに確かに愛があるのだと、そう示すためのもの。
たとえいつか、離別の時が来るとしても。
彼らが互いを愛し、愛されたのだという事実は、なくならない。