4wsdig
2024-12-13 17:16:19
1744文字
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恋と風邪はいつも突然

巫女さん(@twinkleroom46)のイラストの三次創作です
イラストの掲載許可いただいてます(やさしい!神!)



 ある朝、目が覚めたら急に人を好きになっている。そんな、良くも悪くも魔法みたいなことがあるものだろうか。それもよくよく慣れ親しんだ、旧い付き合いの友人相手に。
 目が覚めたらというのは、何も頭を打って気を失っていたとか事故にでも遭って奇跡の生還を果たしたとか、そんなドラマティックな局面ではない。昨夜の私は少し夜ふかしをして動物の癒やし動画を見て穏やかに眠りに就き、誰かのように悪夢に魘されるでもなくごくごく普通に目を覚ました。それも、窓の外でさえずる鳥の声を聞きながらという優雅な目覚めである。
 そんな爽やかな朝──というには遅い、昼前近くの時間に覚醒するや否や、突然雷にでも打たれたかのように「自覚」がやってきたのだ。
 ──俺もしかして、火村のことめっちゃ好きなんちゃう!? と。

「いやいや……おかしいやろ、そんな急に……
 十四年も付き合っていれば、あの男の残念なところや腹立たしいところはいくらでも思いつく。試しにひとつひとつ、その短所を挙げていってみることにする。
 服装と買い物のセンスが壊滅的で、いちいち気障ったらしい言動が多いし、私に対しては遠慮のなさからかびっくりするほど口も悪い。仏頂面でお年寄りと子ども以外には愛想も悪いし、そのくせ妙なところで抜けている。たとえば自分を誘拐しようとする人間に、ほいほいついていってしまう程度には。
「でもまあ……悪い奴ではないわな」
 洞察力と推理力に長け、思慮深く、癪だから口にすることはほとんどないが見目も整っている。多少語彙が独特ではあるが相互理解のための言葉を惜しまない誠実さがあるし、大家である婆ちゃんをはじめとして高齢女性への接し方は見習うべくところがある。
……って、褒めてどうすんねん」
 残念な短所を挙げて正気に戻るつもりが、うっかり火村の長所を数えてしまった。短所しか思い浮かばないような相手ならそもそも十四年も付き合いは続いていないので、致し方ないことではあるだろう。
「それにしたって……ええ……?」
 いくら火村が十年以上の友誼を結ぶに値する男だったとしても、こんなに唐突に恋を自覚することなどあるのだろうか。恋というのはもっと然るべきときに然るべきタイミングで降ってくるものではないのか。どうしてこんな急なタイミングで、と頭を抱えていると、枕元に放置してあったスマートフォンから着信を報せる音が鳴った。画面を確認すれば、渦中の火村からの電話だ。火村からの着信など比喩ではなくもう何百回も受けているというのに、初めて感じる緊張で指先が痺れている。
……もしもし」
「やっと出たな。まさか今起きたとか言わねえよな、作家先生」
 開口一番の憎まれ口に、苛立ちを抱くことすらなく心臓が跳ねた。どうしよう。脳髄に響くような、低くて良い声をしている。……いやそんなこと、とっくに知っているはずではないか!
「おいアリス、聞こえてるか?」
「お、おう、聞こえとる。それでどうしたんや、フィールドワークの呼び出しか?」
「だったら良かったんだけど、残念ながらそっちはご無沙汰だ。所用で梅田にいるんだけど、暇なら夜に飯でも食わないか」
 六時前に用事が終わる予定なんだ、と続ける火村に、おうそうなんか、となんとか相槌を打つ。
 ──食事。今この状況で、火村と食事。二人きりで!
 電話で声を聞いているだけで心臓が早鐘を打っているというのに、とてもじゃないが平静を保てる気がしない。だって、見飽きているはずの横顔を思い出すだけで顔が熱くなるのが、自分で判るのだ。
「すまんけど、」
 どうして急にこんなことになってしまったのかは判らないが、落ち着くまで火村には会わないのが賢明だろう。そう考えて断りを入れようとしたが、
「都合が悪いか?」
 そう訊いてきた火村の声に小さな落胆の気配を見つけてしまい、気がついたときには「いや、やっぱり大丈夫や。七時でええか?」と口に出していた。どうして自分から窮地に陥ることを、と思ってももう遅い。今夜七時の約束を無事に取り付けてしまったところで通話は終わり、何の音も発さなくなったスマートフォンを片手に私は夜の己を想い途方に暮れた。

 ──いったい、どうしよう?