ほんの出来心だった。だって、いつもタキ先輩の一挙手一投足に翻弄されて、私ばっかりドキドキしている。だからたまには私がタキ先輩をドキドキさせたいと、そんな野望を抱いてしまった。
もちろんこれは、オリヴァーやアムル、マニたちの入れ知恵なわけだけど。呆れたような目でこちらを見ながら肉にがっついていたジークも、止めはしなかったのできっと応援してくれているだろう。
でも、みんなごめん。せっかく相談に乗ってくれて、たくさんアドバイスもしてくれたのに。意気地なしと詰ってくれても構わない。自分からキスするなんて芸当、恋愛初心者の私にはハードルが高すぎたらしい。
「ん? どうした?」
「わっ! えっと、あの……っ!」
さすがに正面から挑む勇気はなかったので、一緒に参加した調査先でタキ先輩が一人になったタイミングを見計らい背後から忍び寄ったものの。気配を察して振り返った先輩の整った顔が目の前に現れた瞬間、私は盛大に日和ってしまった。
狙いを定めて顔を寄せたはずが、ちゅ、とささやかなリップ音が生まれたのはタキ先輩のくちびるではなく、きゅっと上がった口角のすぐ隣。
「!」
タキ先輩が一瞬目を丸くして、息を呑んだ気配がした。あ、先輩の驚いた顔って、ちょっとレアかも。狙いからは少しずれてしまったけれど、これは不意打ちのキスにカウントしてもいいだろうか、どうだろうか。心の中の親友たちにジャッジを求める一方で、大胆すぎる自分の行動に一気に我にかえって、頬が熱くなった。いや、うん。これは、かなり恥ずかしいかも。え、どうしよう。
「あー……お前のほうが顔真っ赤。ははっ、大丈夫か〜?」
私のくちびるが触れた場所を指先でさすりながら、はにかみ半分からかい半分といった表情でタキ先輩が笑う。
指摘されると余計に意識してしまって、きっともう茹でだこみたいに顔は真っ赤だ。
「だ、大丈夫じゃ、ないかも……」
「つーか、急にどうしたんだ? まぁ、何となく分かるけど」
「……じゃあ、聞かないでくださいよ……」
うう、と小さく唸りながら頬に手を当てて、引かない顔の熱を逃がそうとする私とは反対に、あっという間にいつもの余裕を取り戻したタキ先輩が、覗き込むように顔を近づけてくる。
「なあ、こっちにはしてくんねーの? 俺にやり返すつもりなら、受けて立つけど?」
とんとんと、指でくちびるを叩きながらにやりと笑う先輩に、私はやっぱり今日も白旗を上げるのだった。
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