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来羅
2024-12-12 18:58:58
2350文字
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ブラアレ
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tea time(ブラアレ)
『荒地に無頼漢』ワンドロでテーマは『紅茶』。
イチャイチャしてるだけ。
コポコポとケトルが音を立てていた。
まずは沸騰したお湯をポットとティーカップに注ぎ、スプーンも忘れずに温める。
ブラムが用意したのは香り高いファーストフラッシュのダージリン。それをゆっくりとティースプーンで二杯。
少しだけ手が震えた。緊張など柄でもないが、こんなところでこぼすなどという失態を演じるわけにはいかない。
コポコポ、コポコポと湯が泡を立てる。
ブラムとアレック、共に黙っているせいでやけに静かな室内は、隣の部屋で打ち合わせの電話するマイアの声が遠くに聞こえる。
コポコポ。コポコポ。
アレックの視線はただただブラムへと注がれていた。日頃はブラムがじっとアレックを見つめることはあっても、逆は滅多にない。また緊張が膨らむ。
沸騰する湯をポットに勢いよく注ぎ、蓋をする。ティーコジーを被せて、蒸らし時間は三分。砂時計をひっくり返す。
何度も練習したのだから、間違えようもない。時計がなくてももう大体の時間は計れそうだった。
『君、それは紅茶の飲み方としてどうなんだ
……
?』
アレックの一番近い場所がブラムになってから数ヶ月が経った頃だったか。食事以外でもアレックが自分の分だけでなく、ブラムの分の飲み物も当たり前のように用意するようになって数ヶ月。
大概のことは驚かなくなって久しいブラムだったが、マグカップにティーバッグと水を入れて電子レンジに突っ込んだアレックには流石に顔を引き攣らせた。
イギリスは紅茶の国ではなかったのか。淹れ方ひとつで戦争が起きるとまで聞いていたはずなのに。
『君
……
貧乏舌か?』
思わず呟いたブラムに、やはり戦争が起きた。
「よし、三分経ったな。あとはさっと一混ぜして」
温めておいたカップに回し注ぐ。最後の一滴はアレックのカップに。
けれども早速といったように伸ばされたアレックの手を軽く叩いて、ブラムはニタリと笑う。
「まぁ、待て。これからだ」
「どう淹れても一緒だろう」
呆れ顔のアレックは食へのこだわりが薄い。事件となるとあんなにも目の色を変えるというのに、平気で一食二食は抜くし、トースト一枚齧っただけで一日の食事を終えたりもする。だからこんなにも細いのだと、ブラムはこの数ヶ月、いや、実はもっと前から、できる限り美味しくて栄養のある、それでいて格式張らないような食事を摂らせていた。「面倒くさい」「時間をかけて食べるなど時間の無駄だ」「栄養さえ取れればいいだろう」次々と飛び出る文句にもめげないでいられたのは、そう言いながらも美味いものを食べればその口元がゆるりと綻ぶのを見てしまったからかもしれない。
だからこれもまた気に入るはずだと、ブラムはシュガーポットから角砂糖をひとつスプーンに乗せた。
「甘い紅茶は好きじゃない」
「何を出しても好きじゃないって言うだろ、君」
「そんなことは、
……
ない、ことも、ない」
バツが悪そうに顔を顰めてそっぽを向くアレックにも自覚はあったのか。ブラムとしてはそれが無意識の甘えだと思っていたが、自覚的な甘えならばなおのこと気分がいい。
「
……
ニタニタするな、気持ち悪い」
悪態もまた可愛いものだ。
にやける口元を隠すように咳払いして誤魔化し、角砂糖の上にコニャックを垂らし、ポケットからライターを取り出す。おい、と呼びかける声を聞き流して角砂糖に火をつけた。
「火をつけるのは得意でね」
ふふんと鼻を鳴らせば、アレックが嫌そうに冷ややかな目でこちらを向いた。よくない物にばかり火をつけていたのはバレている。もちろん、アレックに使ったことはない。
ゆらりと立ち上る赤い炎が次第に青く揺らめいた。
ぷくぷくと溶けていく角砂糖からコニャックの芳醇な香りが匂い立つ。砂糖の甘い匂い。揺らめく青。異国の香りに魅入られたようにアレックが目を丸くする。
「ティー・ロワイヤルという」
いい香りだろう、とブラムは溶けて形の消えた砂糖ごと炎を紅茶に沈めた。軽くかき混ぜて、ひとつはアレックへ。
アルコールを飛ばしたとはいえ、まだ香りの残るコニャックとダージリンが混じり合って鼻の奥に抜ける。その深い香りを吸い込んだアレックがそっとカップに口をつけた。
「ちゃんと淹れた紅茶の味はどうだ?」
「
…………
美味い」
悔しいが、との一言は余計だったが、概ね満足して頷く。
「紅茶もコーヒーも味わって飲む物だぞ、アレック」
「コーヒーは目が」
「覚めるために飲む物じゃないから、がぶ飲みはやめろ」
不眠不休で事件に当たる諦めの悪い刑事は、水代わりにコーヒーを飲むものだから、恋人としてはその体が心配なのだ。言わないけれども。
「その紅茶一杯飲む間、淹れた私のことでもゆっくり考えてくれ」
そしてこのひと時を楽しんでほしい。
共にいる喜びは、なにもベッドの中だけではないのだ。
けれどもアレックは再び眉間に皺を寄せて、にべもなくそれは嫌だと宣った。
「酷いな! 泣くぞ!」
「嫌だ。そんなことをしたら」
「アレック」
「お前がいなければ紅茶ひとつ飲めなくなるだろう」
「
……………………
」
「
…………
なんだ」
「いや、
……
君、」
今度のこれは無意識なのだろうか。
不機嫌そうに苦虫顔で紅茶を啜り、美味いなと僅かに口元を綻ばせるアレックにおそらくそのつもりはない。
だから困る。
だから、ブラムは調子を狂わされっ放しだ。
「アレック、愛してるぞ」
湧き上がる想いに名前をつけて告げれば、チラリと見上げる瞳は胡乱げに細められている。
「知ってる」
それでも少しだけ楽しそうに弧を描いた唇は、バカを言うなとも俺もだとも言わない代わりに、ブラムの煩い口を塞いだ。
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