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koto
4038文字
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れめしし😈🦁
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あいまいもこ
付き合ってないけど会いたくなっちゃったれめしし冬の話
「敬一君、悪いんだけどさぁ、ちょっと迎えに来てくれない?」
「ったく、仕方ねぇな。どこだよ」
「助かるー! 位置情報送っておくね」
冬場の太陽がとっくに姿を消した時分。連絡を寄越してきた男は電話口からごくごく軽い口調でそんなお願いをしてきた。世話が焼けるなと思いつつ承諾したのだが、送られてきた位置情報に獅子神は一瞬目を疑う。それは都内近郊のどこでもなく、他県の山間近くにある遊園地を示していた。どう考えても車を出してちょっと迎えに行く範疇を超えている。なにかの間違いじゃないかと確認したがやはり間違いではなかった。これが、かれこれ一時間以上前の話になる。
ようやく指定の場所に辿り着くと獅子神はエンジンをつけたままドアに手をかける。どうせすぐに戻ってくるのだから問題は無いだろう。どちらかと言えばエンジンを切り車内が冷えきってしまうほうが深刻に思える。道中、外気温を示す数字を思わず二度見したぐらいだ。
アスファルトに足を下ろし、ぐいっと身体を車外へ出した瞬間、都心とはひと味違う冷え込みに獅子神はすぐさま身を強ばらせる。寒いだろうと心づもりは勿論していたし、それなりの格好で出向いたつもりだったが、寒さは獅子神の予想を完全に上回っていた。気を引き締めないと奥歯がカチカチと鳴りそうで、ぎゅっと肩に力が入った。
素早く周囲に視線を配ると獅子神は駐車場の精算機横にあるベンチに人影を見つけた。寒さのせいか身を固くしじっと俯いている。着ているロングのダウンコートはおそらく特注なのだろう。膝下までがしっかりと覆われていた。ボリュームのあるフードを被り、時折吹き付ける寒風を凌いでいるようだが、それでも完全に寒さが防げるわけでもない。まばらに設置されたポールライトの明かりの下で浮かび上がるその姿はなんの心構えもなければギョッとしてしまう。
車から降り立った瞬間に襲われた理不尽な寒さに、いっそ腹立たしさすら覚えながら獅子神はズンズンとベンチ目掛け大股で進む。そうして叶の目の前まで来るとピタリと足を止め、大きく口を開いた。
「ばっっかじゃねぇの!? 撮影だかなんだか知らねぇけど帰りの足くらい用意しとけっ! 普通来るかよ!!」
勢いに任せてがなり立てると、言葉と共に口から吐き出された息がもうもうと白く漂う。
辿り着いた頃にはとっくに閉園時間を過ぎていて、日中賑わっていただろう場所はしんと静まり返っている。駐車場にも数台の車がぽつんぽつんと点在するだけだった。
叶は俯けていた顔を上げる。
「でも来たじゃん」
「オメーが連絡取れなくなるからだろっっ!」
なにかの悪ふざけかと思いすぐに連絡を入れたものの、その後はうんともすんとも応じない。たとえ行かなかったとしても文句を言われる筋合いもない状況だった。
「そうだな。でも敬一君は来た」
「〰〰っっ」
悪びれずニッコリと笑みを浮かべる叶の応答に、獅子神は思わず拳を握りこむ。自分がチョロいと言われているようで面白くなかった。面白くないのはそれが事実だと自覚しているから。放っておけば良いのに、こうして呼び出されのこのこと出向いてしまっている。それら全部を当たり前のように叶に見透かされていることも輪をかけて面白くなかった。
臍を曲げた獅子神の様子に叶は苦笑する。
「ゴメンって。別に敬一君をバカにしてるわけじゃないし、来て当たり前って思ってるわけでもないぞ?」
「どうだかな」
不機嫌な獅子神を前にして、叶はおもむろにベンチから立ち上がった。獅子神は視線を下から上へと移動させ、自分を見下ろす男の顔を注視する。
「でもさ、ダメだったんだよ」
「なにがだよ」
仮に予定を押してしまい時間が遅くなった結果、公共交通機関が無くなったとしても、この男ならタクシーでもなんでも呼び出して帰れるはずだ。だから終電や終バスが無くなったなんてものは言い訳にならない。何をどう言ったら「それはたしかにダメだな」と自分を納得させられるのか。そんな答えがあるなら出してみろと憮然とした顔で叶の申し開きを待つ。そんな獅子神に対し叶の口から出てきたのは全く予想外な言葉だった。
「なんか、キラキラした園内や楽しそうなお客さんとか眺めてたらさ、めちゃくちゃ敬一君に会いたくなっちゃって」
「は?」
獅子神の困惑なんかお構いなしに叶はさらに話し続ける。
「ここら辺て山間の近くだからかな? なんか星とか笑っちゃうくらいキレイなの。で、一緒に見たいなーって思ったらなんかダメだった」
「
……
っんだ、そりゃ」
あまりに想定外の言葉に怒りは削がれたが、どんな顔をしていいのか分からずに獅子神は仕方なくまだ不機嫌そうな表情を浮かべてる。
「えー? そのまんまの意味だけど」
「オメーの気まぐれに付き合わされるほうの身にもなれよな」
叶の言動にまんまとペースを乱されそうで、それでも一言二言くらいは言ってやらないと気が済まない。それがポーズだと分かっているのか、獅子神の苦情にも叶は何処吹く風だ。
「だって付き合ってくれちゃうからさ、敬一君」
「オレが悪いってのか?」
「どちらかっていうと悪いのはオレかもだけど敬一君も大概だよ。だから二人ともじゃない? 誘うオレも断れない敬一君も」
なんて自分勝手な理論だろうと思うが全部を否定できないのもまた事実だった。獅子神が一つ訂正するとすれば、断れない、ではなく、断らない、が正しいということくらいだ。
獅子神は大きくため息をつく。
「もうなんでも良いけどよ、とっとと車戻んぞ」
いつまでもこんな所で立ち話をして良い事なんて一つもないだろう。促され車へと歩き始めた叶の背中を追いつつ、獅子神は少しだけ顔を上げてみる。叶が言ったとおり夜空一面に大小様々な星がうるさいくらい瞬いていて目を奪われた。都心でも辛うじて見える星と星のあいだに、こんなにもたくさんの星が存在していることに驚きを隠せず、ほうっと小さく白く息が漏れる。獅子神が立ち止まったことに気付いたのか、前を歩いていた叶も歩くのを止めて後ろを振り返った。賑やかな星空を背負った男を見て、不意に浮かんだ疑問が獅子神の口を衝く。
「
……
オメーは?」
「ん?」
「オメーは、もしもオレが
……
ぁ〰〰っ、いい! やっぱ。なんでもねぇ」
深く考えずに口にしかけた疑問をすんでのところで押しとどめる。
もしもオレが同じように呼び出したらオマエはどうすんだよ、なんて、そんなことを聞いてなんになるのかと我に返った。なぜ叶相手にそんなことを聞こうとしたのかもよく分からない。意趣返しのつもりだったのか。
途中で止めはしたものの、既に叶には獅子神が言わんとしていたことは伝わってしまったらしい。
「敬一君。愚問ってやつだよ、それ」
「そーだな」
本当にそのとおりだった。こんな突然の呼び出しに応じて足を運ぶなんて、普通はするはずがない。改めて自分のチョロさを実感しつつ車を目指す。全部寒さのせいにして、とっとと暖かで馴染んだ車の中へと戻りたかった。歩調を少し早め、叶の横を追い抜こうとした時だった。通り過ぎざまに手首を掴まれた。不意に強く引かれた反動で身体の向きが後ろを向く。反転した先では叶の身体が思ったよりも近くにあり、視界の七割近くがダウンコートで埋められた。
「行くに決まってるでしょ?」
「はぁ?」
視線を上方へ修正すれば、叶が真っ直ぐにこちらを見据えていた。
「敬一君が会いたいって言ってくれるなら、地球の裏側だって行っちゃうかも?」
真面目な顔をして何を言い出すかと思えば、その口からは対称的にふざけたセリフが発せられる。
「
……
」
「信じてない顔だな」
そりゃそうだろう、と獅子神は内心でつっこむ。それこそ、こんな言葉をいちいち真に受けるほどお手軽なつもりはなかった。
「敬一君に関して言えば、オレ案外チョロいよ?」
続く言葉に獅子神は更に疑わしそうな表情を浮かべる。
「じゃあ、手始めに今から敬一君が行きたいとこどこでも付き合うよ。敬一君どこがいい?」
「どこでも付き合うよも何も、オレと一緒じゃなきゃ帰り困んのオマエだろーがっ」
「バレたか」
端から隠す気もないくせにそんなことを言う叶がバカバカしくて、獅子神はいよいよ吹き出してしまう。
二人顔を合わせて笑うと、吐いた息がふわふわと白く舞う。本当にバカだなと思う。こんな寒い中でくだらない言葉遊びをして、それを楽しく思ってしまうあたりが本当に救いようもない。
「っっくし!」
ぶるりと身体が震えて、獅子神の口からくしゃみが一つ勢いよく飛び出した。これで風邪でも引いたら本物のバカだななんて思っていると掴まれたままだった手が、そのままずぼりと叶のポケットの中に突っ込まれた。ポケットの中は思った以上に暖かくて、指先を動かすとカサカサとした熱源が触れる。カイロなんてもう何年も使ってないなと思いながら握りしめると、手のひらからじんわりと温かさが滲みてくる。
「けっこうあったかいでしょ?」
「おう、思ったよりな」
身体の一部分だけが温かくなったことで、それ以外の寒さがより際立って感じられる。やはりこんなところで長居をするものではなく、それに関しては叶も同意なのかどちらからともなく車へと向かい始める。ポケットの中へと掻っ攫われた左手は回収するタイミングを見失ってしまい、まだその中に収まってる。叶の手も一緒くたに収まっているのだから、ポケットは見るからにパンパンだった。
ただ、まあ、運転席に到着するまでの残り一分にも満たない時間くらいなら、このままでもいいだろう。こんなにも寒いんだから仕方ない、なんて誰にともなく内心言い訳をする。叶が一緒に見たくなったなんて嘯いてた満天の星空を眺めて、獅子神は一つそっと息を吐いた。
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マシュマロ
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