yossy
2024-12-11 21:46:29
3654文字
Public 自創作
 

再戦三点先取説得戦!

鳩羽さんと野佐和の対決に巻き込まれたモブ君大守視点。にわか野球対決。
「クリスマスツリーみたいな」のおまけ。


朝方、大樹からスマホに連絡が入る。
華々しくメジャーの仲間入りを果たした大樹は、
オフシーズンに入ってから日本に帰国しているのをSNSだかニュースだかで目にしていた。
もう時差ボケも無いのか、なんて呑気に思いながら何の用かとアプリを開く。
簡潔に一言、日付を指定されてこの日空いてるかどうかと言う内容。
『空いてるけど、酒でも飲みにいくのか?』
すぐに既読がついて返事が返ってくる。
『キャッチャーやってくれない?』
……はぁ?」



11月某日昼。とある野球場。
「あ、大守〜!」
犬のように笑顔で駆け寄ってくる大樹の頭を叩く。
「痛ぁー!」
「お前!もう少し説明しろ!」
バシバシ叩いてやる。
「しかもドームかよ!
メジャー選手になって随分変わったなー?」
「ちょ、大守、容赦なさすぎだって!」
息を荒げながら叩いた手を離す。
「お前ならもっと他に呼ぶ相手いただろ!
何で俺をこんなドームに呼んだんだ!」
「ま、まぁまぁ落ち着いてよ。
ちゃんと説明するから。」
と大樹が一度咳払いをして説明を始める。

つまり、野球対決をするにせよ、
木村徠人捕手を呼べないし、日本のプロ野球選手とのコネクションも無いから俺を呼んだと?」
「大守も大学リーグで活躍してたしさ!」
「何年前の話してんだ。」
「だって俺の癖分かってくれる人少ないからさ。
今度高い酒奢るから!な?」
メジャー行ってドーム抑えるくらいだから大樹もさぞ儲かってるのだろう。まぁ奢ってくれると言うのなら?気分が良くなる。
そこまで言うならしょーがねーな〜?
で?相手は?」
「後ろ向いてみて?」
振り返ると、腕を組んでじっと見下している鳩羽侶鳥メジャーリーガーが立っていた。
そのまま顔を戻し大樹を羽交締めにした。

「ふざけんな!お前!プロ相手にやるのかよ!」
「だから思いついたのが大守しか居なかったんだよー!」
「後で飛び切り高い酒を頼んでやるからなー!」

流石にプロを待たせるわけにもいかないと判断し、芝の上に大樹を転がしておく。
「いやぁ、ほんとこの馬鹿がすいません
てか本物の鳩羽選手だ、すげぇ。」
「お前、三ッ葉高のキャッチャーだったよなァ?」
「そ、そうですけど?」
「イカサマすんなよ。」
「プロ相手にしませんけど!?」
鼻を鳴らして、ならいいと言い放った後、
鳩羽選手はウォーミングアップしに離れて行った。
「俺も認知されてんのかよ。てかイカサマて。
流石にプロ相手に出来ないって。」
いつの間に起き上がった大樹が背後に立って、
「フレーミング*上手かったのに?」
なんて煽ってくる。
(*ストライクゾーンギリギリのボールをストライクに見せる捕手のテクニック)
「あれはスキルだろ、イカサマじゃねぇ。
ほら俺らもアップするぞ。」
首根っこ掴んで引きずっていく。

「ルールは三点先取式。
アウトを3回取るか、得点を3点取るか。
点を取るかアウトを取るまではヒットとストライクのカウントはリセット無しで。」
大樹がルールの確認をしてくる。
「なぁ、これ撮影とかされてないよな?」
「俺と鳩羽さんのプライベートな対決だから撮影はしてないよ。」
「プライベートでも野球してんのかよ。」
「へへ。」
謎の照れを返される。褒めてないんだが?
「早くやるぞ。」
と鳩羽選手に催促され、定位置に着く。
「あ、ストライクの判定は大守頼んだよ。」
「分かってる。大樹相手だし手加減無しな。」
「仲間側じゃ無いの!?」
「俺は妹と同じで鳩羽選手推しだからな。」
文句を言う大樹を無視していると、
「おい、サインの確認はしなくていいのか?」
と鳩羽選手に言われる。
「ああ、アップの時に確認したんで大丈夫ですよ。まぁ、すげー変な作戦を言われたんで、サイン必要なさそうですけど。」
そうか。」
とバッターボックスに入っていった。
ふぅ、近くで見ると目付きこえ〜。
なんて思いつつ、ミットを構える。

『作戦なんだけど、三戦するわけだから、
一戦ごとに作戦変えようと思って。
最初は俺の球に慣れてね。』
大樹が構え、ボールを放つ。
気づけばミットの中にボールが収まっていた。
手がビリビリする。
「オイ、」
鳩羽選手に声をかけられ、慌ててボールを大樹に返す。直線ストレート。久々の感覚に胸が震える。
『先制は鳩羽さんにあげる感じで、変化球もそこまで投げないから。
ついでにプレッシャーにも慣れてくれると助かる。』
本当、とんでもない奴を同級生に持っちまったな。
二球目。少し下のストレート。それを鳩羽選手は見逃さずに打った。マスクを外し軌道を確認する。
打球は弧を描いて飛んで、レフトスタンドに落ちた。
マジかよ。」
「手抜くんじゃねぇ!野佐和ァ!」
怒号にビビる。
「まだ二球目じゃないですかー!」
ぎゃいぎゃいとお互い叫んでいる。
とんでもない場所に来ちまったらしい。頭が痛くなる。

一度タイムをもらい大樹と作戦会議をする。
「慣れた?」
「二球で慣れると思うか?」
「そのうち慣れると思うから頑張って。」
ミットで頭を叩く。
「で、次はあれだろ?メジャーの時と同じ投げ方すんだろ?」
「うん。」
「俺はどうすればいい?」
「ピッチクロック導入した状態で投げるから、
時間の感覚早くて驚くと思う。
だから、また慣れてもらって。」
「その前にまた打たれそうだけどな。」
「次からは変化球も投げるし!」
「はいはい。じゃあ頑張らせてもらいます。」
定位置に戻る。

初球はツーシーム。内野ゴロで一塁打扱い。
二球目はスプリット。タイミングがズレて空振りでストライク。
三球目はチェンジアップ。これも空振りでツーストライク。
大樹がピッチクロックの事を言った通り、投げるまでの感覚が短く感じる。
ここはストレートでもいいだろうとサインを出す。
大樹が投球フォームに移り、振りかぶる。
打球はバットにミートし、センターに飛んでいく。
「あの位置ならツーベースヒットか?」
「チッ。」
舌打ちをされる、こわい。

ツーストライク、2、3塁。ピンチだけどまぁ大樹なら大丈夫だろうと球種を任せる。
カットボール、ボール寄りの球を取ろうとするが無理やり鳩羽選手は打ち上げ、大樹がキャッチする。
1アウトで一度休憩を取る。

作戦会議とクーリングタイムを終え、再開する。
次の作戦は、
『甲子園の時と同じ投げ方するから、よろしく!』
なんて無邪気に言っていたか。まぁ無茶な動きだから限られたタイミングでしか使えないもんな。
とポジション調整する。
『今のメジャーだとピッチクロックの関係で出来なくてさ。』
何度も見てきたゆっくりとした投球フォームを眺める。ルーティン通りの一つ一つ流れる動作をしてから、ぐっと腕に力を込めて振りかぶった。
ストレート、パンッとミットに球の収まる音がする。正確な投球。耳の奥で演奏と応援の音が聞こえる。
ボールを返す時に大樹の表情を見れば、あの時のギラついた目と高揚した顔が見えた。
そしてひりつく様な空気を側で感じる。
一度息を深く吐いて、構える。
甲子園の時の対戦を思い出す。
変化球を抑えながらコントロールだけで翻弄する。
バットに掠ってもファールボールになる。
ボールの軌道が跳ねてネットに当たる。
遠くまで飛距離を伸ばしてもホームランポールの外側に落ちる。
苛立ちが伝わってくる。
そりゃそうだ、打ちにくいボールばかりなのにストライクゾーンに入るから打つしかない。
打者の外側を狙った球から、一気に内側に投げ三振を取る。

しかし、あまりにも粘られた結果、選球眼が鍛えられ呆気なくスリーベースヒット、ホームランを打たれ、2対3で大樹の負けとなった。

「サイクルヒット打たれて負けか〜、悔しいな。」
クールダウンをして片付けをする。
帰る支度を終えた鳩羽さんが近づいて大樹に話しかける。
「俺が勝ったんだ、これで約束はなしだ。」
「いや!全勝ならまだしも俺だって2点取ったし!」
「敗者がごちゃごちゃうるせぇ。」
地団駄を踏む大樹を見て笑っている。仲良いんだか悪いんだか。
「あ、大守〜!今日はありがとうな!これはお礼。」
と大樹が近づいてきて四角い紙を渡される。
そこには鳩羽侶鳥選手のサインが
「ま、まじで?いいんすか?」と鳩羽選手の方を見る。
「こいつがどうしても書けって言うからな。」
「うおー、大事にします。」
ぴょんぴょん跳ねる大樹が視界の端に入ってくる。
「因みに俺のもあるけど。」
「大樹のは要らん。」
「酷い!」
なんてしょうもない会話をして野球場を後にする。

「この後鳩羽さんと一緒にご飯食べるけど、大守も来る?」
「あ〜、誘ってくれて嬉しいけど、仕事の準備あるから遠慮するわ。」
「わかった、じゃあまた!」
「酒奢るの忘れるなよ!」
と駐車場の方へ足を進めた。