三毛田
2024-12-11 21:17:28
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38 038. せめて隣に居る間

38日目 君が幸せであれば嬉しい

 俺が隣にいられる間は、少しでも丹恒が休めますように。心安らかに過ごせますように。
 そうやって願うことしか出来ない。
 ある種、無力だ。
 わかっている。
 過去のわだかまりも、悪意も、敵意も。とうに過ぎ去ったものを変えることは出来ない。
 変えられるのは未来だけ。
 ならば、彼の心の安寧を願っても許されるだろう。
「丹恒、好きだ」
 そう呟くことしか、出来ない。
 嫌なことではなく、俺の言葉が心に残りますように。と、願いながら穏やかに眠る手をそっと握り眠り直す。
 声を上げて泣かない人。泣けない人。泣くことを許されなかった人。
『何でお前が泣くんだ』
 そう丹恒に問われた時は、すぐに答えられなかった。
 でも、今なら答えられる。
〝お前が泣けないから、俺が代わりに泣いているんだ〟
 って。
 きっと、理解できないという表情を浮かべるだろう。
 それなら、それでいい。無理に理解してほしいわけじゃないから。
……
……
 考え事をしながら寝落ちて、視界を覆うように広がる黒と翠にどう反応したらいいかわからず。
「穹、よだれ」
「ふえ?」
「あっ、こらっ。その動き方はっ」
 丹恒が、俺の上に倒れ込んできた。
 すごい。
 柔らかな胸に顔を押し潰されそうだ。
 俺が動いたことで髪が引っ張られ、倒れてきたようだ。
 でも。
「丹恒、どうして飲月の姿なんだ?」
 丹恒から離れて問いかける。そういや、よだれって言われたので手の甲で拭って。
……からだ」
「ん?」
「気が緩んだから、だ」
「なんで?」
「言わないと、駄目か」
「言ってくれると嬉しいな」
 ボソボソ言っていたから、確認するように問いかけるとそんな答え。
 理由を問うと、若干戸惑いが見えた。
「お前といると、気が緩む」
「悪口?」
「違う」
「じゃあ、俺の隣にいると、安心するってこと?」
……多分、そうだ」
「そっかぁ」
「き、穹?」
 抱きしめると驚いた声を出す。でも、その後恐る恐るだけどで中に腕を回して抱きしめてくれて。
「嬉しい」
「俺も、お前が隣にいてくれるのが嬉しい」
「そんなこと言われたら、色々困るんだけど」
「困るのか」
「その、単純なので嬉しくて下半身が大変なことになるんですよ。はい」
 俺がそう口にすると、膝が股間を軽く押してくる。
 やめて欲しいんですけど。
「丹恒先生」
「ああ、すまない。こうして欲しいのかと思ったんだ」
「それはさすがにズルいでしょ!」
 叫ぶと、丹恒は髪をまとめてから、クスッと笑って。
「ただ、よだれがついていたら、朝風呂だったな」