森永
2024-08-05 21:02:57
8103文字
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小麦の山と和解せよ

ファントムとシャレム(明日方舟)/リクエスト交換のものです/特に仲良くはない二人がコ〇ダで逆写真詐欺に遭って初の共同作業する話/ギャグ?ネタ?に走っています注意

…………平和……だな」
「平和…………ですね」
 ぽろぽろ鳴く鳩が石畳をつつくのを眺めて、フェリーンとフィデアの青年たちはどこか呆然と呟いた。空は雲のまばらな晴れの青で、街並みは暑くも寒くもなくちょうどよい気温だ。公園には犬と遊ぶ人やのんびりと散歩を楽しむ人、芝生には寝っ転がっていびきをかく人までいて、なんでもなさすぎる平和な風景なのだった。
 噴水を囲むいくつかベンチには腰を下ろして過ごす人も多く、ファントムとシャレムも同じように並んで座っているのに違和感はなかった。傍から見れば、若い二人の青年は友人同士にも見えるだろう。実のところ、当の本人たちはそこはかとない居心地のわるさを覚えなくもないのだが、どちらも表面上はなんでもない風をよく装っていた。一応、任務中だからだ。
 違法で危険なアーツユニットを売買する犯罪組織が潜伏しているらしい移動都市へ乗り込んで、一週間ばかり経過していた。現地当局の捜査をもとにドクターがいくつかの候補をピックアップし、一人ないしツーマンセルを組んだオペレーターが調査を行う、というのが当初の計画だった。だった、というからには変更が生じたということだが、というよりそもそも、ファントム達が都市に乗り込んだその次の日に、追いかけるはずの犯罪組織のリーダーが他組織と揉め、あっさり足がついたというのがオチである。
 すでにリーダー以下構成員のほとんどが拘束され、留置所で尋問を受けている。というわけで、ファントムとシャレムほかオペレーターたちは、完全に裏が取れるまで周囲の警戒とは名ばかりの、やたらめったらのんびりとした時間を過ごす羽目になったのだった。
 で、例のごとく、雑なのか精緻なのかわからないドクターの一計によって二人組を組まされたファントムとシャレムだった。正直、縁があると言っても交友らしいものがあるわけでもないので一緒にいても話が弾むことはまずないのだが、命令なので別れて行動する訳にも行かない。という訳で二人は、朝から晩まで付かず離れずで一緒に行動せざるを得ないのだった。
 常にうっすら気まずいのだが、一番気まずいのは食事の時間だ。二人とも食で気分があがるタイプではないので話が弾むこともなく、ほとんどだんまりで膝を突き合わせるのがどうにも慣れないのだ。それでも時間が経てば腹は減るし、気まずいからといって食事を抜くのも非効率である。なので今日という今日も、昼の鐘とともに噴き上がる噴水を見たシャレムはおずおずと隣の同僚に切り出した。
「昼食にしましょうか。そこの通りに食事ができそうなお店があったので行こうと思いますが、あなたはここで待ちますか? であればなるべく早く済ませますが」
…………いや、私も行こう」
 こちらもあまり気は乗らない様子だが、おそらくこれを機にまともな食生活を送るようドクターに厳命されているらしいファントムは、意外にもシャレムより先にぬるりとベンチから立ち上がった。
 公園を横切り、元きた道を戻っていくと、街角に喫茶店らしい店構えが現れる。昼時なので混んでいるかと思いきや、窓からのぞく限り、ちらほらと空いている席があるようだった。内心ほっと胸をなでおろして、シャレムはドアを押す。カラカラン、とドアベルが軽快に鳴り、すぐに店員がにこやかな笑顔でいらっしゃいませ、と出迎えた。
「二名様ですね。こちらへどうぞ」
 通されたボックス席に腰を下ろすと、ふかんと柔らかく受け止められる。周囲には家族連れや友達同士らしい客が多く、一人客もちらほらいるがみなリラックスした様子で食事やおしゃべりを楽しんでいる。居心地のよさそうな店内の雰囲気にいくらか気が緩んだシャレムは、机に用意されたメニューを開いた。
「どれにしましょうか……。ミスター、空腹の具合はいかがです?」
「私は、さほど。きみは?」
「ううん……実はわりあい、お腹がすいていて……メニューを見る限り軽めのものが多いので、ひと皿で足りるかどうか。でも、二品は多い気もしていて」
 周りを見た時にも気づいたが、喫茶店とはいえ食事のメニューもあるようだ。重装オペレーターの訓練で胃まで鍛えられているシャレムは案外、細身に似合わずもりっと食べられる性分である。とはいえ待機中だが任務の最中であるので、本艦にいる時のようにゆっくりと食べられないかもしれない。そんなことを考えて悩むシャレムを、いつ何を食べているのかいまいちわからないファントムは一瞥してあっさりと言った。
「好きに注文すればいい。二人いるのだから、多すぎたのなら分ければいいだろう」
「ほんとうですか? なら……お言葉に甘えましょうか」
 意外だ。食事をシェアできるタイプだとはまったく思っていなかった。シャレムは内心でちょっと驚いていた。それこそ、劇団にいる間、シャレムは他の子どもたちと大皿から食事を取り分けて食べることはあったけれど、ファントム…………ルシアンは劇団長によく目をかけられていたから食事を共にすることはほとんどなかった。その記憶を引きずりながら再会した後だって、ロドスの食堂で見ることはほぼないのだから、そもそも彼と食事のイメージがうまく繋がらないのだった。そんなことを言ったら、彼と向き合って食事をすること自体、当時の自分からしたら信じられないことだろうけれど。
 感傷にも似た思い出を胸によぎらせつつ、店員を呼んで注文を済ませる。さほど時間をおくことなく料理が運ばれ、にこやかにもてきぱきと店員が並べた料理を見てしかし、シャレムのエモーショナルな感傷は遠い故郷の彼方まで吹き飛んだ。
「お待たせいたしました。カツパンとミックスサンド、特製ピザとシロノワールのミニサイズになります」
………………
………………
 絶句。見なくても向かいのファントムが同じ顔をして言葉を忘れ、固まっているのがわかる。二人分の飲み物まで置いて、「ごゆっくりお過ごしください」と店員は去っていった。呆然とする青年ふたりを一切気にすることなく。
 シャレムがそうするより先に、ファントムがおもむろに机の端に寄せていたメニューを手に取って開いた。金の瞳がメニューを見、机を見、そしてもう一度メニューを見た。背中に宇宙を背負っているように見えるのは、たぶんシャレムの気のせいだ。
 逆写真詐欺。その一言に尽きる。メニューに載っている限りは「軽食」の名にふさわしいささやかなサイズ感だったのに、目の前に運ばれてきたのはもはや、そう、「デカ盛り」と言っても差し支えないレベルの量が鎮座する皿だ。恐ろしいことに、メニューで比較的大きく見えたカツパンだけでなく全ての皿が予想よりはるかに多い。ドゥリンかと思ったら鬼族が出てきたくらいの衝撃。次いで胸によぎったのは紛れもなく恐れだった。恐れ。くうくうに空きっ腹だった胃がキュッとなっている。「さすがにこんなには食べられないよ〜」と泣き言まであげそうな具合で。
 シャレムはファントムを見た。ファントムもシャレムを見ていた。金と紫が交差する。
「分ければいいだろうと言いましたよね?」
………………………………言った」
 いつものように気配もなく消えないよう、釘を刺すつもりでシャレムは言った。さしものファントムも重々しく頷いている。前言を撤回するつもりはないのか、はたまたいつもは穏やかな同僚の常に無い気迫に押されたのか。
 ひとまず、一人で机の上の戦場に臨まずに済むことが確定したシャレムは姿勢を正した。気を取り直すために、最初に運ばれてきていた水で口を湿らせる。
「まあ、大丈夫でしょう。冷めないうちにいただきましょうか」
「自信があるように見受ける。頼もしい限りだな」
「え? いえ、私はさほど……でも、ほら、貴方はもう一人増やせるではないですか」
 サンドイッチをつまむため、グローブを外しておしぼりで手をぬぐっていたシャレムは、ファントムの微妙な表情を見てキョトンと目を瞬かせる。いつも寡黙で何を考えているかわからず、かと思えば雄弁に目で語りかけてくるファントムは、あの芝居がかった台詞を流暢に滑る口を珍しくモゴモゴさせて言いあぐねているようだった。
…………
…………?」
………………シャレム」
「はい」
………………悪いが、虚影は食事ができない」
 えっ、とシャレムが素っ頓狂な声をあげる。聞き間違いかな? という顔をするので、ファントムは念を押すように「できない」と繰り返した。二度目のショックで呆然とするシャレムは、「そんな……」とうわごとのように呟く。
「三十五秒に一度カツパンの消費量があがると思っていたのに……?」
「そのようなスキルは、ない」
 断固として言い切ったファントムの目の前で、シャレムはっきりと絶望した顔でおしぼりを取り落とした。色の白い、見かけは線の細い彼がそういう表情をすると、特段わるいことをした訳でもないのに罪悪感がひしひしと湧いてくるものだとファントムは思った。そもそも自分だってこの、どう見ても十代の育ち盛りにお出しする量の食事に動揺しているのに、まるでこちらが悪いような顔をしないで欲しかった。
 とはいえ、ここで見つめあって顔色を悪くしていてもしょうがないのである。シャレムにならってファントムがグローブを外すのを見て、向かいの席で決意を固めたのだろう。そもそも空腹のために追加で料理を頼んだのはシャレムなのだ。その責任は果たさねばならない。きれいに拭いた手を、シャレムは手近なカツパンの皿へ伸ばした。
 一切れを手に取る。上から見てデカいだけで実は薄いのでは、という一縷の望みはすぐに消え去った。普通に分厚い。成人男性の手で持っても存在感が全く損なわれないのが勘弁してほしかった。
 ともあれ美味しそうは美味しそうなのだ。カツがみっちりとした断面を覗かせているし、パンはスカスカではなくもっちりふかふかしている。とってもとっても美味しそうなカツパンを、シャレムはゆっくりと口に運ぶ。意外と大きく開く口で齧りとると、彼はむぐむぐと咀嚼して、そして眉を下げた。
「おいしいです…………
「とてもそうは見えないが」
「ほんとうに、おいしいんです。おいしいのに……これが徐々に嫌になってくるのかと思うと今からやるせなくて……
「きみの思慮深さもそこまでいくと損だな……
 白皙の青年がメランコリックな表情をしながら手にデカいカツパンを持っているのがとてつもないギャップだ。しかし、口に運ぶペースが落ちないあたり、美味しいのは本当らしい。空腹だと言っていたのもあるのだろう。物憂げにしながらも次の一切れに手を伸ばすシャレムを見つつ、ファントムも特製ピザに手をつけた。
 こちらはデカいといっても、このテーブル上では比較的おとなしめなサイズ感だった。よくロドスでピザパーティーが開かれているのをファントムは見かけるのだが、そこで出る常軌を逸したサイズと夥しいトッピングのものに比べれば、目の前のピザはおやつ感覚といってもいいだろう。ファントムが空腹だったならペロッといけていたかもしれない。
 しばらくの間、二人の青年は黙々と目の前の皿に向き合い、ひとしきりカツパンやピザを咀嚼した。数少ない救いは、どれも美味しいことだった。味にクセがあるわけでもなく、誰が口にしてもしっくりくるあたたかい食事は、賑わう店内にも納得できるものだ。ただ質量だけがおかしい。合間にコーヒーを飲んで口の中のぎゅうぎゅうした感覚をリセットしていたのだが、それも徐々に誤魔化しがきかなくなってくる。だって食べても食べてもパンなんだもの。
………………劇団にいた頃は、こんなにたくさん食べることはできませんでしたね」
…………体づくりに必要な分に限られていたからな」
「ええ……それに……稽古でできないところがあると、食事抜きで夜通し練習していることもざらでしたから」
………………
 この通り、ファントムでなくてもハチャメチャに反応しにくいジョークをシャレムが零すくらい、けっこうすごく大変な量だった。
 カツパンはパンに挟まっているし、サンドイッチだってパンだ。ピザなんて言うまでもないし、デザートに至ってはしっかりデニッシュなのだ。つまり、見事なまでに炭水化物のフルコースなんである。ぶっちゃけてしまえば、腹にたまってたまってしょうがない。いっそ身体がパンになりそう。
 そのうち、思考まで小麦に侵されるような感覚に耐えられなくなり、どちらからともなく二人はぽつぽつと言葉を交わし始める。一種の現実逃避である。
 おいしいですね、そうだな、と食事の感想を言えたのはそれくらいで、あとは本当に取り留めのないことだけを話していた。なぜなら目の前の食べ物に嫌気がさしてくる気配がひしひしとしていたので。さっきの公園で一羽だけブチ模様の鳩がいたとか、ドクターが新しく来た執行人の淹れたコーヒーのえげつない苦さに熱狂しているとか、そういう。
 不可思議なことに、これまで二人でいた中で、恐らく最も会話が多い時間だった。シャレムは他愛もない話をファントムと交わせることに驚いていたし、ファントムの方も自分を避けがちなシャレムが自然な風に話すのに驚いていた。これがなんでもない時間、つまり目の前に倒さねばならないパンの山がなく、例えばロドスの無機質な通路や甲板、談話室の片隅であったなら彼らの関係が大きく変わる良い契機になっただろう。
 ただ惜しむらくは、彼らが置かれている環境が環境であることだろう。空腹とそうでもない腹具合の青年がふたり、許容量ギリギリの炭水化物の山を前に食べ切れるかそうでないかの緊迫感の渦中にあっては、関係が変わるとか過去の禍根とかそんなこと言っちゃいられないのである。
 しかし、二人の堅実な頑張りのおかげでどうにかピザとサンドイッチの皿は空になった。残すところはシャレムが大健闘したカツパン数切れと、デザートのシロノワール(ミニサイズ)のみだ。ちなみに言うと、シャレムの空腹はとっくに満たされており、空腹というほどでもなかったファントムの方はそろそろ終わりにしたい満足感だった。いったん、それぞれのドリンクで小休止を挟み、ちら、とアイコンタクトを交わした。
 す、とシャレムは手をかざして冷静な風に提案する。
「フェアに行きましょう。私はシロノワールを引き受けます。あなたはその間に残りのカツパンを殲滅してください」
「どう見ても割に合っていないぞ。公平性に欠いているだろう」
「あなた、ドリンクを冷たいものにしたでしょう? 私はホットにしましたから、ソフトクリームを頂いても致命傷にはなりませんので」
 冷めかけているだろうコーヒーを盾に、シャレムはシロノワール(ミニサイズ)の皿を引き寄せた。重装オペレーターの隙のない構えにさしものファントムも手が出せず、渋々カツパンの皿を手元に寄せた。
 形のいい眉をちょっとだけ険しくさせながら、それでも行儀よく咀嚼を繰り返すファントムを、スプーンを手に取ったシャレムは生温いまなざしで見やった。舞台上で見たなら誰もが見蕩れたであろう凛々しい顔は、しかし手に持ったカツパンによって妙な生活感に引きずり下ろされている。
「虚影がカツパンを食べられれば…………
……無茶を言うものじゃない」
 まだ言ってるのか、という目でファントムはシャレムを見る。シャレムはひょっと肩を竦めてスプーンをソフトクリームに突き刺した。健気に溶け残っていたそれはだいぶまろやかな輪郭になっていたけれど、元が「ミニ」というには大きなそれだったため、まだ普通に食いでのありそうなサイズをしている。とろんとほどよく溶けたソフトクリームがスプーンに掬われ、シャレムの口に消えていく。冷たさと甘さのおかげか、心做しかシャレムの表情が緩んでいる。
 そういえば、ファントムももうずっとホカホカしっかりした食感のものしか食べていないのだ。常になくあったまった舌に、ひんやりした甘さが触れたらそれは心地よさそうだ、と不意に思いついてしまった。カツパンを咀嚼しながら、じっとシャレムの手元のソフトクリームを見つめ続ける。
…………
…………
…………少しですよ」
 雄弁な視線に絆されて、シャレムがカトラリーケースを引き寄せるまでそう時間は掛からなかった。やっぱり注文した負い目があるのだろう。食べさしのアイスを分け合うなど普段は二人とも絶対にしないだろうに、この時ばかりはなんの躊躇いもなくファントムもスプーンを手に取った。
 無用な争いにならない程度にソフトクリームを掬い上げる。口に入れると、思った通りじんわり沁みるような感覚が舌に広がった。おいしい。生息演算で飢餓しかけた時に飲んだ雨水よりも美味しかった。当たり前ではあるが。
 溶けかかったソフトクリームのおかげで、いくらか二人の精神は安定した。理性回復剤を丸呑みするドクターもこんな気持ちなのかとどちらともなく思った。多分違う。とにかく、身体じゅうとまでいかなくとも体内の源石がパンに置換しそうな危うい幻想からは逃れることができたのだった。ファントムは二切ればかりのカツパンに、シャレムはソフトクリームの海に沈むデニッシュに向き直る。
 さあ、ラストスパートである。

*****

 そうしてなんとか口に運び続けること数十分、ついに二人はゴールを迎えた。
「食べ切りましたね……さすがにお腹がいっぱいで……
「私もだ。……まだ時間は少しあるな。きみさえよければ、もう一杯なにか飲んで休んでから出るとするか」
「そうしましょう……
 ここ最近のどんな外勤任務よりもくたくたになった二人は店員を呼び、それぞれ同じ飲み物を注文してすこし椅子にもたれた。大健闘、完全勝利ではある。
 ドリンクを待つ間、もう話す気力もない二人はぼうっとしていた。恐らく血糖値が急上昇しているのだろう。ぼんやりしながら何気なく視線を落としたメニューの上、その文字を見つけたファントムは反射的にパッと手をのせた。声も上げず素早い動作ではあったけれど、目敏くその仕草を捉えていたシャレムは怪訝な顔で「ミスター?」と眉を寄せている。しまった、と思ってももう遅い。
「今………なにを隠したのですか?」
「なにも」
「なにもなくはないでしょう。不自然にも程がありますよ、貴方らしくもない」
「いや、…………君は見ない方がいい。傷が浅く済む」
「何と戦っていたんですか?」
 メニューの反対側を掴むシャレムの膂力の気配にファントムは渋々手を離した。儚げで優男風の外見に似合わず、伊達に重い盾を扱っているわけではない力加減だった。決して乱暴に見えないあたり力の扱い方にも慣れていて、純粋な力勝負ではファントムよりもシャレムに軍配があがる。
 シャレムがメニューを開き、さきほど自分が隠したあたりに視線を走らせるのをファントムはなんとも言えない心持ちで見守った。その場所を見つけてシャレムの薄花色の瞳が止まり、そこに書いてある文字を辿る。そして次の瞬間、シャレムはぴきっと音を立てて固まった。
 あーあ、とファントムは首ごと横に向けて窓の外へ視線をやった。ぎこちない動きで視線を向けてくるシャレムの顔を、まともに見ていられない。
 しばらく二人の間に沈黙が流れた。背後には変わらず穏やかな人の声や笑い声がさざめいており、二人の青年の共同作業を祝っているようだ。和やかな昼下がり、ずっしりと重くなった腹と気持ちを抱えて、青年たちはこの後、仕事に戻らねばならなかった。
 まあ、災厄多きテラの大地にも、たまにはこんな日もある。
…………
…………
……………
……………
…………できたんですね。テイクアウト」
……………………そのようだ」