2024-12-10 12:44:59
2425文字
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醜い友人の顔3

すんごいすれ違いエメアゼ 


「ワタシはね、あの子の味方でもあるけど、キミの味方でもある。キミとも仲のいい友人だと思っているからね」
 じっとエメトセルクを見る目から逃げるように目を逸らす。午後の議会にアゼムは顔を出さなかった。確認すれば、どこにいたってわかるそのエーテルは彼女の家にあるようだ。そうして業務を終えた途端、ヒュトロダエウスに呼び出された。聞きたくない、と言う感情と、何故、か混じり合ってぐるりと目眩すら覚える。
「彼女がこうしてワタシに吐き出すのはよくあることだからね。友人としてずっと聞いてきて、思うところはずっとあったわけだ」
 片想いを楽しむようなやつではないと、よくわかっている。きっとヒュトロダエウスは本気で、双方を案じて、応援していた。それだけだ。
「あんなに泣くアゼム。初めて見たよ。……ワタシはね、あの人に泣いてほしくない」
……それは私も同じだ」
「でも、現に彼女は泣いた。ワタシ、ちゃんと見てきたんだよ。彼女、それこそずっと隣に並んだり、くっついたり、手を繋いでみたり。あんなに頑張ってたのに」
 小さく息を吐く。そのどれも、身に覚えがある。普段から人との距離が近いから、相手に伝わっていないんじゃないかだなんて。伝わるな、と一瞬たりとも思ってしまったエメトセルクが言えることではない。
「ねえ。キミは何もしないの。アゼムは頑張っていたよ」
……私は、あいつが幸せで、笑えればいい」
「大泣きしてるところだけど?」
 ゆっくり息を吸って、吐く。おそらく、ヒュトロダエウスはアゼムの好きな相手、とやらを知っているのだろう。その上で、私に動けと言う。
……お前が認められないほど、酷い奴にでも惚れたのか、あいつは」
「うーん。そうだね、今のところ、とてつもなく酷くて最低な男だよ」
 呆れた顔で頷くヒュトロダエウスに、そうか、と目を伏せる。
……友人として、慰めはする。それだけだ」
 結局。友人で、いいのた。長く長く、そばにありたい。それでいいと、言い聞かせて飲み込んでいる。
 彼女が想いを寄せる男より、幾分かマシな酷さであれ、だなんて。どこまでも思考は、醜いものだ。
 咎めるような視線から逃げるように背を向けて、転移魔法を発動する。慰めて、様子を見て。また、笑って友人として隣にいてくれたら。少しでも、長く。そのためなら、彼女の恋を応援するふりぐらい、いくらでもできる。

 地脈を巡り辿り着いたのは、彼女の住むアパルトメントだ。エーテル照合で簡単に入り込める程度の、友人である。目を惹きつけてやまない輝きが家の中にあることはよくわかっていて、案外物の少ない部屋を、よく知る間取りの通り真っ直ぐリビングに向かえば、三人掛けのソファーで肘掛けにもたれるように眠るアゼムの姿があった。
 泣き疲れて眠ったのだろう。頬に乾いた涙の跡と、柔い髪が張り付いている。指で髪を摘んで、そっと涙の跡を間接で撫でる。
 ずっと、泣いていたのだ。それほどまでに感情が大きいのだろう。誰よりも、想っている男がここにいると言うのに、彼女の感情に触れることすら許されない。
 ひっそり息を吐いて、アゼムの下に腕を差し込んで抱き上げる。無理な姿勢で寝かせたくはない。何度も何度も触れた重みを腕に乗せて、寝室へ運ぶ。この熱に、感情を乗せて触れられた人がいるのだと。思い知らされるたびに込み上げる感情を飲み込む。
 友人だ。友人なのだ。切れることなく、長く、長く。共に歩める友人でありたい。笑う彼女の旅路を、支え得る友人で、あれれば。それでいいのだと、必死に言い聞かせている。
………………
 寝室に辿り着いたところで、ぐずるようにアゼムがエメトセルクの胸に擦り寄った。薄く瞼が持ち上がって、ぼんやりと溶けた瞳がエメトセルクを捉える。
「リビングで寝るな、風邪を引くぞ」
 覚醒しないように、小さな声で告げてベッドに寝かせて。けれどもアゼムの手がぎゅう、とエメトセルクのローブを掴んだ。
……いかないで」
 ぐい、と引き寄せる力は強い。背中に回した腕を引き抜けないまま、反対の手をベッドについてどうにか身体を起こす。
「おいアゼム」
「すきなの」
 囁く声は濡れていて、まるで想いを与えられたのかと錯覚する。違う。これは、寝ぼけているだけだ。虚なまなこに写っているのは、エメトセルクではない誰かなのだ。
「アゼム、離せ」
「どうしようもなく、すきなの」
 ほろほろと涙が溢れて、そっとエメトセルクの胸に擦り寄る。背中に回した手に、少し力がこもってしまった。早く、早く。溺れる前に、離してやらないといけない。これを、記憶するべきではない。
「夢でぐらい、私を好きになってよ」
 お願い、と囁く声はエメトセルクが聞いたことのない温度だ。知りたくなかった。この熱を、知らないままでいたかった。手に入らない温もりを、これから長く長く生きていく中で、何度思い出してしまうのだろうか。
「アゼム、いい子だから離せ」
「どうしたら、好きになってもらえるの」
 ゆっくり、顔が持ち上がる。エメトセルクを見るな、と願う気持ちと、早く見て目を覚ませ、と願う気持ちが混じり合う。感情が、ぐちゃぐちゃでもう音頭も色も、曖昧だ。
…………お願い、」
 頼むから、名前を呼ばないで欲しい。けして、彼女の想い人を知りたくなんて、ないのだ。無駄な嫉妬など、どこまでもどこまでも醜く、重苦しいだけなのだ。
「アゼム、もうやめろ」
 止めようとして、エメトセルクが背中から手を離す。いやだ、とアゼムがエメトセルクの首に手を回した。しがみつくように抱き付かれ、より一層密着した熱に言葉を失う。
「夢でいいから、私を好きになって」
 息を吸い込む音が、耳元に響いた。
「ハーデス」
 重く、重く、濡れて。知らない色で響いたのは、エメトセルクの名前だった。エメトセルクの、名前だけだった。