ちよど
2024-12-19 00:00:00
8721文字
Public アシュヨダ
 

ふたりのアシュヴァッターマンと寂しがりのドゥリーヨダナの話

アシュヨダ。古参と新規のふたりのアシュくんに挟まれるわし様の話。アシュサンド。pixivより再掲

 アーラシュの宝具と引き換えに前衛に転がり出てきたアシュヴァッターマンにドゥリーヨダナは目を見開いた。

「マスター!待て!こいつはアシュの方だ!!」

 ドゥリーヨダナの叫びにアシュヴァッターマンに宝具を撃たせようとしていたマスターの手が止まる。
 呆然と初めての戦場に立ち尽くしているアシュヴァッターマンのレベルは1。このカルデアにふたりいるアシュヴァッターマンのうち、アシュと縮めて呼ばれている方だった。
「間違えた!!──キャストリア!アシュに無敵掛けて!」
「でも」
 少女の指示にキャストリアはためらう。
 今は剣・騎種火周回の3waveめ。ドゥリーヨダナとアーラシュの宝具を使い切り、ここでアシュヴァッターマンの宝具で単体の敵を倒す予定だった。
 それが使えないとなると、残るドゥリーヨダナの宝具を使うしかないが、彼の宝具では少なくとも2ターンかかる。宝具の威力アップのためにキャストリアの第3スキルはドゥリーヨダナに掛けるべきだった。
 そんなキャストリアの視線にマスターの少女は欠けのない令呪を掲げる。

「ドゥリーヨダナ!『魔力装填』!!」

 令呪の一画と引き換えにドゥリーヨダナに魔力が満ちる。こうやって3画全てを使えばキャストリアの支援なしに3回宝具を撃てるだろう。
 ならば、問題はない。
「キャストリア!」
「はい!!」
 レベル1の、自分の無敵スキルすら開放していないアシュヴァッターマンにキャストリアの無敵スキルが掛けられる。
 守られた事を理解したアシュが顔を弾かれたようにあげた。

「俺も宝具を撃てる!」

 アシュの必死の訴えにマスターは返す言葉に迷う。
 確かにアシュヴァッターマン用につけた礼装はキャストリアのスキルがあればすぐ宝具を撃てるだろう。
 しかし、
「おまえはわし様の勇姿を黙って見学しておれ」
 レベル1の宝具など対した効果はない。
 ドゥリーヨダナはそう言わなかったが、アシュは真意を汲み取ってしまったのだろう。
 悔しげに唇を噛みしめるアシュ横で、ドゥリーヨダナが宝具を展開した。



――ぶっ殺す!!」

 種火周回を途中で切り上げて帰って来た一同を迎えたのは、もうひとりの『アシュヴァッターマン』。
 怒り狂うレベル120のアシュヴァッターマンだった。
 マスターたちが出てくるのをストームボーダーの廊下で待ち構えていたアシュヴァッターマンは、アシュの姿を見るなり殴りかかった。
「アシュヴァッターマンっ!」
 令呪を使い切ったマスターが叫ぶより早く、ドゥリーヨダナがアシュヴァッターマンとアシュの間に割り込む。
 それを認めた瞬間アシュヴァッターマンは拳を急停止させる。
 自分に触れる寸前で止まった拳に、ドゥリーヨダナが背後のアシュを庇うように両手を広げた。

「まてまてまて、アシュヴァッターマン。これはマスターのミスでアシュがわざとやったわけではないだろう?」

 その制止にアシュヴァッターマンは唸った。
……編成に組み込まれた時点でおかしいと気づいたはずだ。なんでマスターに言わなかった?」
 糾弾にアシュが黙り込む。
 レベル1のアシュが周回に求められるはずがない。だから、アシュはアシュヴァッターマンと間違えられているとすぐに分かったはずなのだ。
 同一人物はそんな彼に目を眇めた。

「言ってやろうか。──おまえは旦那と一緒に戦場へ行きたかったんだ」

 アシュヴァッターマンの指摘にアシュは視線を伏せる。それは肯定だった。
 周回にクエストに、共に聖杯を呑んでいるアシュヴァッターマンとドゥリーヨダナは並んで出撃する事が多い。
 レベル1のアシュはそれを何度も見送っていた。
 生前同じ戦場を駆けたドゥリーヨダナと、違う自分が肩を並べて戦っているのを──。
「だからと言ってどうして責められよう。わし様が戦う様は雄々しくもかっこいい。実際に見てみたくなるのもやむなしというものだ。つまりはわし様の美しさが罪」
 うそぶくドゥリーヨダナにアシュヴァッターマンは拳を下ろした。
「旦那はいつもアシュの味方だ。……こいつはあんたを危険に晒したんだぞ!!」
「あの程度の危機どうという事もない。──わし様はいつも『アシュヴァッターマン』の味方をしているつもりだが?分からんのか?」
 言いながらドゥリーヨダナの指先がアシュヴァッターマンの頬をぐりぐりと動かす。
「おまえだって、来たばかりの頃はいろいろやらかしておったではないか」
 このカルデアではアシュヴァッターマンよりもドゥリーヨダナの方が先に召喚されていた。
 そしてマハーバーラタ出身者はドゥリーヨダナとアシュヴァッターマンのふたりっきりだ。
 今はアシュヴァッターマンがいるがドゥリーヨダナひとりだった時は長かった。いくら彼が社交的とはいえ誰も顔見知りがいない環境が堪えていたのだろう。アシュヴァッターマンが召喚された時のドゥリーヨダナの喜びようは大変なものだった。
 張り切りすぎて苦手な周回も大喜びで請け負い、挙げ句にうっかり大怪我してカルデアに帰って来たぐらいだ。
「俺はまたあんたが怪我しねぇか──」
「それでわし様と一緒に出撃しておったのか。かわいいやつめ」
 ドゥリーヨダナの手がアシュヴァッターマンの赤い髪をかきまわす。
 そんな自分たちをアシュが目を翳らせて見つめているのをアシュヴァッターマンは気づいた。
……しょうがねぇな。旦那は」
 ため息をついたアシュヴァッターマンが落ち着いたのを確認して、種火周回に同行していた他のサーヴァントたちが立ち去っていく。
 そんな中、マスターがアシュに両手を合わせた。
「ごめんね、アシュ。編成時にもっとよく確認すればよかった」
「マスターが悪いんじゃねぇよ。……俺が、『俺』の言う通り欲を出した。申し訳ねぇ」
 頭を下げたアシュにマスターはあたふたと手を振った。
「気にしない、気にしない!アーラシュの宝具を知らなかったらああなるって予測出来ないよ!今度は絶対安全な後衛でドゥリーヨダナの勇姿を見せてあげるね」
 そこに先にカルデアに戻っていたアーラシュが顔を出した。
「あー、遅かったか。ドゥリーヨダナ。エミヤから伝言だ。」
「エミヤから?」
 食堂でしか接点のないサーヴァントの名前に、まだふたりの『アシュヴァッターマン』の間にいたドゥリーヨダナが首を傾げた。

「ご注文のデリバリーはいつどこに届ければいい?との事だ」

 アーラシュの言葉にドゥリーヨダナは顎に手をやった。
 周回が想定より早く終わったので今はちょうど夕食時だ。
 ドゥリーヨダナは前と後ろにいるふたりの『アシュヴァッターマン』に交互に視線を投げる。
「おまえたちはどこで食べたい?」
「「旦那の部屋」」
 声を揃えたふたりにドゥリーヨダナはアーラシュを見る。
「返事を頼めるか?わし様の部屋に1時間後以降ならいつでもいい」
「分かった伝えておく。それともうひとつ」
 千里眼を持つ弓兵は面白そうに笑った。

――ドゥリーヨダナの旦那。程々にしておかないと大火傷するぜ」

 忠告してアーラシュは食堂へと去っていく。その後姿にドゥリーヨダナは首を傾げた。
「それを今言うかぁ?」
 ドゥリーヨダナの疑問はもっともだった。
 6人目のアシュヴァッターマンが召喚されたのは1か月ほど前。
 宝具を重ねる必要はもうなく、レアプリにしようとしたマスターをアシュヴァッターマンが止めたのだ。
 それ以来、このカルデアには『アシュヴァッターマン』はふたりいる。
 レベル120のアシュヴァッターマンと、レベル1のアシュ。
 マスターはそのふたりに挟まれているドゥリーヨダナを見た。
「火傷ってこれ以上?」
「わし様が火だるまになっているかのように言うな」
「どう見ても痴情のもつれ一歩手前」
 ドゥリーヨダナの抗議にマスターは見解を述べる。
 この1か月ずっと、このふたりの『アシュヴァッターマン』はドゥリーヨダナを挟んで細々とした諍いを繰り返していた。
 ドゥリーヨダナが出撃する時はふたりとも競うようにぎりぎりまで付いてくるし。出撃が終われば必ず先を争って迎えに来る。アシュヴァッターマンがドゥリーヨダナと一緒に出撃した時のアシュはずっと廊下で動かずに待っているらしいのだ。
 食堂でも、ドゥリーヨダナのトレイを持とうとしたアシュからアシュヴァッターマンがそれを取り上げたり。隣に座らせたアシュを構いつけるドゥリーヨダナに、アシュヴァッターマンがわざとらしくドゥリーヨダナの口に食事を運んだり。
 そんな諍いの中心のドゥリーヨダナは困ったように眉を寄せた。
「しかし、わし様がいないとこやつらは揉めるだろう?」
……私はドゥリーヨダナがいるから揉めているように見えるなぁ」
 マスターの返答にドゥリーヨダナはこてんと首を傾けた。
 ドゥリーヨダナはドゥリーヨダナなので、ドゥリーヨダナがいない時のふたりの態度を見ることは出来ないのだ。
「おまえたち、わし様がいるから揉めているのか?」
 問われて、アシュヴァッターマンとアシュは同じ仕草で首を振る。

「「揉めてねぇ」」

 示し合わせたような答えにマスターが塩水でも飲んだような顔をした。
 ドゥリーヨダナがいないとこのふたりはろくに会話もしないのだ。正確にはアシュヴァッターマンがアシュにほとんど話しかけない。
……アシュヴァッターマン。何度も聞いて悪いけど、どうしてアシュが必要だったの?」 
「必要だからだ」
 レアプリになるはずだった6人目の現界を希望したアシュヴァッターマンはまた同じ答えを返した。
 それに何故かドゥリーヨダナがうんうんと頷く。
「アシュはかわいいからな。わし様はおまえがいてくれて本当に嬉しいぞ、アシュ」
 振り返ったドゥリーヨダナの満面の笑顔にアシュは不満そうに視線を逸らせた。
「俺はかわいくなんてねぇし」

「「かわいいー!!」」

 マスターとドゥリーヨダナの声が重なる。
「見ろ、マスター。わし様のアシュがこんなにかわいい」
「わし様のアシュじゃないでしょ」
「少なくとも名付け親はわし様だが!」
 呼び分けが難しいと6人目に『アシュ』と短絡的な名前を付けたのはドゥリーヨダナであった。
 そのドゥリーヨダナの背中に重みがかかる。
「アシュはあんたのものじゃねぇらしいが、俺はあんたのものだろう?」
 背後から囁かれてドゥリーヨダナの顔が赤くなる。
 アシュが来てから見慣れた光景にマスターは遠い目をした。
 アシュヴァッターマンは他人と諍いを起こすタイプではなかったはずだが、自分自身が相手だと容赦なくマウントを取るのだ。
 そのせいで、アシュヴァッターマンとドゥリーヨダナが、まあ、そういう関係だと皆が知ることになった。
 それにはアシュも含まれる。
 今もアシュはドゥリーヨダナを背後から抱きしめているアシュヴァッターマンに不服そうに眉を寄せた。
「旦那は──そんなんじゃねぇだろ」
 その呟きに、アシュヴァッターマンではなくドゥリーヨダナが答えた。
「アシュヴァッターマンがわし様を愛するのは当然であろう?」
「当然だ。俺はいつでも旦那を愛してるぜ」
 じゃれるように頭をこすりつけてくるアシュヴァッターマンにドゥリーヨダナはくすくすと笑う。
 その様子にアシュは拳を握り込んだ。

「俺だって旦那を愛している!」

 真っ直ぐな視線にドゥリーヨダナは微笑んだ。

「わし様もアシュを愛しておるぞ」

「うわっ、火だるまフラグ」
 思わずマスターが呟いてしまったのは、ドゥリーヨダナ越しにふたりが交わす視線の温度を読み取ってしまったからだった。
 修羅場の気配を察知して歴戦のマスターはゆっくりと後ずさる。
「ドゥリーヨダナ。明日また周回よろしくね」
 言い捨てて去って行こうとしたマスターをアシュヴァッターマンが呼び止める。
「マスター。明日、旦那は休みだ」
「へ?──うん!ワカッタヨ!」
 一瞬戸惑ったが馬に蹴られたくないマスターは了承してその場から駆け出した。
 背後でドゥリーヨダナがなにか言っていたが聞こえない振りをした。



「こっちはわし様の分だな」
 あれから1時間後。ドゥリーヨダナは食堂と業務提携をしたアマゾネスドットコムが届けたサービスワゴンから、料理が盛られた皿を取り出していた。
「旦那、そんな事しなくても俺がやるって」
 アシュヴァッターマンが声をかけるが、ドゥリーヨダナは面白そうに魔術がかけられたワゴンに収められた料理を覗き込んでいる。
 ワゴンを押していたアシュが動けずに固まっているのを見て、アシュヴァッターマンは舌打ちをした。
「アシュ、こっちだ」
 ドゥリーヨダナが住む部屋は狭い。ワンルームにドゥリーヨダナがやっと寝られる大きさのベッド。アシュヴァッターマンが持ち込んだ三人掛けのソファーとそれに見合った大きさのテーブル。それだけ置けばもう男三人が歩くのもやっとだった。
 床に転がっていた一抱えはある大きなクッションをベッドの上に放り投げて、アシュヴァッターマンはサービスワゴンを部屋の隙間にねじ込ませる。
 その後をアラビアータの皿を持ったままのドゥリーヨダナが滑り込んだ。
 最後にアシュが残りふたつのアラビアータの皿を持って続く。アシュが持つ皿には野菜とパスタだけでドゥリーヨダナの皿にはあるチキンが乗せられていなかった。
「いつもの事だが、そこまで気にしなくてもいいんだがなぁ」
 アシュの手元を見たアシュヴァッターマンの呟きを聞きながら、ドゥリーヨダナはテーブルに皿を置く。
「人の好意は受け取っておけ。その分の手間賃は弾んである」
「──旦那は稼いでいるのに、もっと広い部屋に移らねぇのか?」
 アシュの疑問にアシュヴァッターマンが強い視線を投げる。それに気づかないのかドゥリーヨダナは天井を仰いだ。
「そうだな。──アシュもいるならもっと広い部屋が必要だろうなぁ」
「どうせなら、三人部屋にしねぇか?」
 アシュヴァッターマンの提案にアシュが目を丸くした。
「俺もか?」
「おまえもだ」
 アシュを快く思っていないはずのアシュヴァッターマンは、ソファーの中央に腰を降ろしたドゥリーヨダナの隣に座る。
 すでに飲み物とカトラリーは並べてあったテーブルにアシュが皿を置くと、すぐテーブルの上はいっぱいになった。
 そそくさと隣に座ったアシュにドゥリーヨダナは顔を向ける。
「狭そうだな」
「────」
 否定は出来ないアシュにアシュヴァッターマンが無言で促す。

「お、俺も旦那と暮らしたい」

 かわいいおねだりにドゥリーヨダナは顔をほころばせた。
「うむうむ。わし様、それくらいの蓄えはある。明日にでも新しい部屋を申請して──」
「明日は休みだろう、旦那」
 背後からの声にドゥリーヨダナは困った顔をしてアシュヴァッターマンに振り返った。
「──今日はアシュもいるだろう?」
 言外にアシュがいると出来ない事を匂わされてアシュの顔が赤くなる。
 その様子にアシュヴァッターマンは唇だけで笑った。

「アシュも旦那を愛しているんだろ?」

「ゔぁ!?」
 アシュヴァッターマンの言葉の意味を理解したドゥリーヨダナが椅子から飛び上がる。そのまま立ち上がろうとしたドゥリーヨダナを抑え込んでアシュヴァッターマンは笑った。
「おまえはどうなんだ?アシュ」
……ぅ、あ、」
 急展開についていけないアシュにアシュヴァッターマンは不愉快そうに眉を寄せると視線を外した。
「こういう事はわし様の意見を聞くべきだとわし様は思うなぁ!!!」
「旦那もアシュを愛しているって言っただろ」
 ドゥリーヨダナの抗議をアシュヴァッターマンは制して、抑え込んでいた手を離した。
 テーブルに向き直る。
「とりあえず食おうぜ、冷めちまう」
 そのままマイペースに食前の祈りを始めたアシュヴァッターマンにドゥリーヨダナは大きなため息をついた。
「──確かに食事は冷めないうちに食べるべきだな」
 フォークを手に取ったドゥリーヨダナの横で、混乱からなんとか回復したアシュもとりあえず祈りを捧げ始めた。
 野菜(とチキン)のアラビアータ、香草のサラダ、ミネストローネ、ホタテと野菜のエチュベ、オレンジシャーベット、大豆ミートのパテなど。
 バラモンであるふたりに配慮された多国籍のメニューはドゥリーヨダナの舌も楽しませたらしく、彼は頬を緩ませてデザートのケークサレをはむはむしている。
 その隣でコーヒーを飲んでいたアシュヴァッターマンが口を開いた。
「ところで旦那、さっきの件だが」
「うぐっ!!」
 ケークサレを喉に詰まらせそうになったドゥリーヨダナの背中をアシュが叩く。
 げほげほと数回咳き込んでドゥリーヨダナが顔をあげた。
「今言う事か、それ」
「夜はすぐに終わっちまうだろ」
 ドゥリーヨダナとアシュヴァッターマンの会話に、アシュが声をあげた。

「っ、俺はっ!旦那がいいなら、それでいい」

 そのまま俯いてしまったアシュの耳が真っ赤に染まっている。それを呆然と見つめているドゥリーヨダナの肩にアシュヴァッターマンが手を置いた。
「だそうだ。旦那」
「ひぇ」
 悲鳴をあげるドゥリーヨダナの手からケークサレを取り上げてから、アシュヴァッターマンはドゥリーヨダナを抱き上げた。
「ちょ、ちょっと待てアシュヴァッターマン!」
 慌てるドゥリーヨダナにアシュが立ち上がる。
「旦那はまだ同意してねぇだろうが!」
 噛みつかれるように言われてアシュヴァッターマンはおかしそうに笑った。

「同意してるだろ。──旦那が本気で嫌ならとっくに暴れてる」

 アシュヴァッターマンの腕の中で顔を真っ赤にして唸っているドゥリーヨダナはどう見ても図星を指された様子だ。
 体から力が抜けたアシュを一瞥して、アシュヴァッターマンはすぐ近くのベッドにドゥリーヨダナを運んだ。
 先程放り込んだ大きなクッションの上にドゥリーヨダナを下ろす。大柄なドゥリーヨダナの身長の半分ほどあるクッションは持ち主を柔らかく受け止めた。
「ちょっと待て、この上でする気か!?」
 体を起こそうとするドゥリーヨダナにアシュヴァッターマンはのしかかった。
「別にいいだろ」
「汚れるではないか」
「なにか問題があるのか。──もう必要ねぇだろ」
 アシュヴァッターマンの含みがある言い方にアシュが横から覗き込む。ドゥリーヨダナの下にあるクッションは使い込まれているのか形が崩れていた。
「旦那の大切なものなのか?」
 アシュの質問にドゥリーヨダナが言い淀む。
 代わりにアシュヴァッターマンが答えた。
「俺たちがいるからもういらねぇだろ」
 その言葉にドゥリーヨダナがアシュヴァッターマンの顔を見た。
「おまえ、知って……
 アシュヴァッターマンが手を伸ばしドゥリーヨダナの乾いた目元をすくう。
 初めてこの部屋にドゥリーヨダナを起こしにきた時、ベッドしかない空間でこのクッションを抱きしめて泣きながら眠っていた主の姿を。アシュヴァッターマンは決して忘れないだろう。

「旦那と俺とアシュの3人で暮せば、少しは騒がしくなるだろ」

 生前、ドゥリーヨダナの傍には100人の弟妹がいた。さらには大勢の召使いたちに傅かれ、ひとりでいる事なんてなかっただろう。
 それがいきなり顔見知りすらいない中に召喚されて、ひとりきりの部屋を与えられたのだ。環境の変化に戸惑わないわけがない。
 ふたりの横でアシュが声をあげた。
「ああ、だから俺が必要だったのか」
 アシュヴァッターマンひとりではどうやっても騒がしく出来ない。カルナもアルジュナもビーマさえも召喚されなかったこのカルデアでは、重ねる宝具から余ったアシュがアシュヴァッターマンには必要だったのだ。
……だからといって、意地悪みてぇな真似をするなよ。『俺』」
「百王子たちはあんな感じだったろうが。『俺』」
 アシュとアシュヴァッターマンが言葉を交わすのに、ドゥリーヨダナは泣きそうな顔で笑った。
「つまり、どういうことだ?」

「「俺たちはずっと旦那と一緒にいるってことだ」」

 アシュヴァッターマンがいない時はアシュが。アシュがいない時はアシュヴァッターマンが。これからずっと寂しがりやのドゥリーヨダナの傍にいる。
「新しい部屋の申請ってのは俺でも出来るのか?」
「代理でも可能だ。──明日の旦那は足腰立たねぇだろうから。代わりに行ってくれ」
「ちょっと待てぇ!!」
 嫌な未来予測にドゥリーヨダナは叫んだ。
「ここはハッピーにめでたしめでたしのエンドで終わるシーンだろう??なんでわし様が抱き潰される前提になっておるのだ!!」
 ドゥリーヨダナの主張にふたりは同じ笑顔で答えた。
「旦那が嫌ならすぐにやめるが、」
「旦那は嫌じゃねぇだろう?」
 二対の褐色の腕がドゥリーヨダナに絡みつく。愛している青年ふたりに左右から抱きしめられてドゥリーヨダナは陥落した。

「──嫌じゃ、ない」

 ふたりの金色の瞳が輝き、唇が寄せられる。

 ──そして3人はずっと一緒に幸せに暮らしました。めでたしめでたし。


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