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さもゆ
2024-12-10 02:49:09
3243文字
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H×H
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【クラゴン】保護者のような
原作、パドキアに向かうときのクラゴン。
※ちょっとモブあり。
2021.12.30 たべものpixiv投稿作品
このパドキアに向かう飛行船内で何度か見た男だった。
これと言って特徴のない、奇抜な服も着ていなければ奇天烈な化粧もしていない如何にも普通な若者。髪色も派手じゃないし、とても戦えそうな体格には見えないし、おかしなにおいもしない。
そんな男に客室を出た通路の隅へ追い込まれたのは、やっぱりどう見ても普通にしか見えなかったからだった。
別に黙って壁際に押しつけられたわけではない、客室を出てさあ旅程最後の三日目だからキルアと再会したときにいっぱいお話できるようもう一回くらい探険しとこうと何度目か知れない暇潰しに足を運ぼうとして、その際ぐいといきなり男に腕を引っ張られたときには「えっなに?」とちゃんと驚いて声を上げたし「お兄さんだれ?」とも訊ねたし「ど、どこ行くの。そっち何もないけど」とこの三日で船内を見学し尽くした故の親切心やそれなりの疑問も発しまくった。その際始終、無言だったのは男の方だ。無言でゴンを引っ張り、隅の暗がりに押し込め、覆い被さるように見下ろしてきた。
「ええと、」
それでも普通の男だ、と感じるのはハンター試験で研ぎ澄まされた感覚や察知能力がある種鈍くなっているからかもしれない。彼はまさしく普通で、敵意や殺気もなく、むしろ顔はにやにやと笑んですらいた。へら、ゴンも愛想笑いを一応返し、ずっと掴まれている腕を軽く振って見せる。これは一体どういう状況なんだろう。
「あの、離してほしいんだけど
……
」
改めて言うと手首を掴んでいた力が緩み、ほっとしたのも束の間、そのまま手指が腕から肩へと滑りゴンの詰襟と皮膚の境目を指先で引っ掻いてきた。知らない男が急所をくすぐってきたことにぞわ、と鳥肌が立つ。肩を掴む手に力が込められた。そうした男をゴンは困惑してただ見つめ上げるしかない。
力の込め方も、立ち塞がり方も、動作の何もかもが“普通”だ。
けれど、何だろう。何か違和感。
「
……
お兄さんさ、」
視線がかち合う。ゴンは直感的に、蹴るべきだ、と思った。本能に素直な体が動こうとするよりも、するりと剥き出しの膝に這うものがあり驚いて固まる。男の右手だった。するすると膝から太腿を撫で擦る。あ、と今度こそ強く思った。
――
こいつマニアだ!
ヒソカに対するものとは似ているようでまた違う怖気を走らせたゴンはすぐさま大声を上げようと口を開いた。こういうときは大人を呼ぶものだと口を酸っぱくして教えられてきた。まず大人を呼ぶ、助けを呼ぶ、それが無理なら、自力でどうにかするしかない。どうにかできるだろう。でもまずは声だ、大声に驚いて相手が逃げ出すかもしれないし、それによって平和的解決となるかもしれない。
単純にワーッと悲鳴を上げようとした口は、先ほど自分が出てきた扉から新たに出てくる人物を見たことによってあっけなく形を変えた。
「クラピカ!」
呼ばれた彼はぱっとこちらを向いた。
ゴンは良かったと思った。クラピカは十七歳だが、大人と遜色ないほど世の中を分かっているし、言葉も知っているし、頭も切れる。きっとこの男を上手く説き伏せてくれるだろう。
「ゴン?」
客室から出てきたクラピカは男の影になっているゴンをよく見ようと近づき顔を傾け「知り合いか? その男は、」そしてゴンの太腿に伸ばされたままだった手に視線が下りた瞬間、明確に眉をひそめた。「何をしている?」たちまち声に剣呑さが滲む。
「えーとね、」
なぜかゴンが慌てるように手を振った。状況を説明する言葉をあれこれ探すが何も出てこない。“いきなり隅に追いやられて”“何もされてないよ”“ちょっと触られただけ”“だからクラピカがそんな怒る感じのあれじゃないんだよ”
――
どれを取っても彼の怒りに油を注ぐような気がする。彼の怒りは炎のように分かりやすい。点いたら一気だ。彼の登場を有難がったのは間違いだったかも。
「あのクラピカ、」
だって彼は怒ると手がつけられなくなる。
ゴンを離しクラピカと真正面から対峙した男はびくりと体を強張らせた。
クラピカが辿り着く前にゴンはその男を簡単に押しのけ、クラピカのそばに寄って「何もないよ」と殊更明るく言った。顔を覗き込むと、鳶色の瞳に火花が散っているのを見てしまい焦る。「クラピカ落ち着いて、本当に何もないんだ」ゴンはこんなくだらないことで大切な仲間の感情を怒りで支配してしまうのが申し訳なかった。立ち竦んでいる男を振り返って「ね? もう何もしないよね?」と何もないと言ったわりには矛盾に満ちたことを言ってしまったが「そうか」とクラピカが頷いたので、全て解決とばかりに安堵し胸を撫で下ろす。
そのゴンの緩んだ気を狙ったかのように、クラピカが男を殴り倒した。
「へ、」
一発の重鈍い音とともに男が床に倒れ、動かなくなる。
ぱちくり、ゴンは瞬きを繰り返し、鼻っ面を殴られ昏倒した男と殴ったクラピカを交互に見つめた。
更にクラピカは握っていた拳を解き、片足を上げた。振り下ろさんばかりに定めた狙いの先は、男の投げ出された右手であることに気づいたゴンは、弾かれたようにクラピカへ飛びついていた。
「待ってまって待ってクラピカぁ! それ以上したらダメだって!」
「止めるなゴン」
飛びついてきたゴンを抱きとめたおかげで足は手を踏み砕くことなく床に下ろされたが、もう気は抜けなかった。ゴンは喚く。「止めるよ! そりゃオレだってちょっとは殴ってやりたかったけど、それ以上はやりすぎだよ!」
「何をされた?」
「何も! ちょっと引っ張られて太腿触られただけ! ただのマニアなんだこのひときっと! だから大丈夫だよっこのまま乗組員さんに引き渡して
――
」
「ゴン。お前はまだ幼いから分からないかもしれないが。こういうのはマニアと言うんじゃない」低く抑えた声音で言う。「ただの下劣な犯罪者だ。触られただと? 離してくれ、まだキルアの分まで殴っていない」
「何でキルアが出てくるの!?」
「この場にあいつがいたら、こうはならなかったはずだ。なったとしても、おそらく殴るだけでは済まさない。ああ、私は甘いな、やはり殴るだけでは足りないのではないかな」
「充分だよ! なんかよく分かんないけど、オレ平気だから!」
「しかし」
尚も頑なな様子に痺れを切らしたゴンは両手でクラピカの頬を挟み、自分をしかと見下ろさせた。男へと向いていた意識が完全にゴンへ向いたのを確認し、灯火の残る瞳を見据える。
「オレは大丈夫」
爆ぜようとしていた炎が揺れ、そして瞬きののち勢いを失った。
「本当か」
「うん。怒ってくれてありがとう、クラピカ」
ゴンの言葉に彼はばつが悪そうに眉を下げる。
「いや、すまなかった。怒りでどうにかなりそうだった。礼を言うべきは私の方だ、騒いですまない」
そしてもう大丈夫だ、と言ってゴンの手を取るとしっかりした鳶色の瞳を男に向けた。ゴンはまた殴りかかりに行くのではないかと一抹の不安を覚え、離れかけた彼の手をきゅうと握りしめる。クラピカは困ったふうに笑ってまたゴンを見た。
「もう大丈夫なのだよ」証拠のようにぎゅっと手を握り返す。「船員を呼びに行ってくる。お前はレオリオのところに戻っていろ」
「え、でもオレ最後にもう一回探険しようと
……
」
「さっきの今だ。心配になる」
「うん」
素直に頷きながらもしょんぼり落ち込むと、また手を握り返された。そうしてクラピカが言う。
「あの下衆を引き渡してからなら、いくらでも探険していい。
……
私も一緒しても?」
「やった! えっほんとに? クラピカも探険してくれるの?」
「キルアのように、とはいかないかもしれないが」
心配なのでな、と続けたゴンより年上の少年に、ゴンはようやく満面の笑みを向けた。たとえもう歩き尽くした船内でも、探険はひとりよりも友だちや仲間と一緒の方が断然楽しいということを、もう知っている。
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