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さもゆ
2024-12-10 02:47:29
2388文字
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H×H
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【H×H】いつか楽しい乾杯を
クラピカとセンリツ。クラピカお酒に強かったらいいなと思って。
2021.12.25 たべものpixiv投稿作品
もう死ぬまで酒は飲まない。
たとえ酒が直接的な原因じゃなくとも、そう心に誓えるほどの目に遭ったあの日のことは、ほんの少しのアルコール臭でもあっという間に記憶に蘇る。
心音は著しく不協和音を奏で、耳の奥で血潮が滞り一切の音を遠くに追いやる。後悔と、恐怖と、そして何て自分勝手な音かしら、センリツは思ってそっと息を吐いた。こうなったのは、自分たちのせいだというのに。酒に酔って、気分が良かった、聴いたことのない楽譜の音を知りたかった、昔そうやって友を失い自分は醜女になった。まるで本当の無垢な被害者のようにこんなふうに怯えるのは、お門違いもいいとこだ。
「ごめんなさい、わたしお酒は
――
」
傍目には誰もいま陽気な男から酒を勧められた彼女が怯えを抱えているとは気づかない。
何せ心音も頭痛も彼女にしか分からない感覚だし、誰が見ても分かるほど取り乱すほどのことでもなかったし、現に彼女は慣れた仕草でペールエールを断ろうとしていた。こういうことは今まで幾度とあった。ただ朗らかに、やんわりと断ればいい。
しかしハンターと言えどマフィアの一席に身を置くようになった自分が本当にそうしても良いのだろうか? センリツははたと思い、指先を躊躇わせた。この酒席は大したものじゃなかったが、ノストラードファミリーと他組織が混じる場であり、どんな些事が組織の不利益に繋がるか知れない疑念の祭場だ。敵がいないことはあらかじめ調べ尽くしているためまさか毒などは入ってやしないだろうが、飲むふりだけでもしておいた方がいいかもしれない。その方が、後々、厄介なことにならないかもしれない。
……
かもしれない。
「頂くわ」
彼女は努めて冷静に、他組織の男が上機嫌に差し出したジョッキグラスへと小さな手を伸ばした。
しかしグラスはそれより大きく骨張った手に横から掠め取られ、「私が頂こう」という低い声のあとに飲まれていった。
ごく、ごく、と喉仏が上下していくのをセンリツは呆気にとられて見ているしかない。
酒を差し出した男はやはり陽気な気を悪くするふうでもなく、アンタ見た目にそぐわずいける口だねェなどと笑っている。むっと酒のにおいと、確かに酔っ払った男たちの心音が聴こえた。ジョッキの中の液体が消えていくたびセンリツの耳は会場の音を正確に拾い、そして頭痛すら治まっていく。
最後の一滴まで飲み干されたころには、清々しいまでに音程の外れたグランドピアノの演奏がそれでも楽しげに会場中を満たしていた。調子はずれのジャズ。ああ、好きな音だ。やっぱりお酒を飲むときはこういう音楽じゃないと。
「すまないが」
と、ペールエールを一気に飲み干したとは思えないくらい、低く凛とした声でクラピカはジョッキを男に突っ返した。
「彼女には酒を勧めないでやってくれるか。酔うと手がつけられなくなるんだ」
その言い草に、まぁ、とセンリツはよっぽど抗議しようかと思ったが、そのままクラピカと男が会話を続けていったので開きかけていた口を大人しく閉じる。この場を後にするには、彼に言いたいことが二つはあった。
会話を終え、男を上手くほかへ行かせたクラピカは、くるりとセンリツを振り向いた。彼としてもこちらに言いたいことがあるのは、酒を掻っ攫ったときからお見通しだ。
「クラピカ」
「センリツ」
二人は譲る気がなかったので同時に言った。
「あなた未成年なんだから飲酒しちゃ駄目じゃない」
「きみ酒が飲めないなら飲めないと言えばいいだろ」
「飲めないわけじゃないわよ」
「マフィアに飲酒法など有って無いようなものだ」
そして二人はまた同時に仕方なさそうに肩を竦めた。センリツが先に言う。「ありがとう、クラピカ」言われたクラピカは大きな偽りの黒目をセンリツに向け、「礼を言うということは、やはり苦手なんだろう。今度からは無理して飲もうとするな」ととてもマフィアの幹部まで上り詰めた者の台詞とは思えないことを言った。
どうして苦手だと分かったの、とセンリツは訊かず──そういうことを訊くほどお互いを知らないというわけではない──意外だわ、と口を開いた。「クラピカ。あなたお酒に強いのね」これは知らないことだった。
「ああ、そうらしい」
「そうらしい、って」
「あんなに一気には、さっき初めて飲んだのだよ。子どものころ悪戯して少し飲んだことはあったが
……
」
「クラピカ」
「私は未成年だぞ? 酒に強いかなどまだ知らないに決まっている」
悪びれもなく言ってのけた17歳の少年に、センリツは頭を抱えたくなった。クラピカの境遇や覚悟のせいでつい彼を完全なる大人として扱いがちだが、そういえばまだ本当に未成年だった、酒を飲むなと厳しいことを言うつもりは毛頭ないけれど何だかこちらに多少の罪悪感が芽生えてくる。“未成年に酒席で庇われてしまった!”
「具合は大丈夫なの? 頭が痛くなったり、吐き気がしたり、」
「鼓動が速まったり?」
「
……
その心配はないようだけれど」
「ああ。至って正常、口の中が苦いくらいだ。心配しなくていい」
「酔いが後になってくるかもしれないわよ。お酒って怖いんだから」
「肝に銘じておく。ところで、センリツ。きみ酒は好きなのか」
「好きか嫌いかで言ったら好きよ」楽しい気持ちになるの、と言おうとしてやめる。もうそんな飲み方は忘れてしまった。
クラピカはそうか、と答えて彼にしては珍しく、未来の話をした。
「なら、きみが目的を果たしたときには乾杯ができるな。楽しみにしている」
「
……
そんなのわたし、」センリツは目を瞬かせながら言った。「たくさん羽目を外しちゃいそう」
隣から笑みよりも明確な居心地の良い心音が鳴った。ああ、やっぱり、としみじみ思う。
お酒を飲むときは、こういう音でなくっちゃ。
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