(この二人のcp名、リッエリでいいんでしょうか)これはすべてのことがきっとハピエンになった後、数年経った二人についての私の妄想です。パターンがもっとあるけど、書けたのがこれでした。
リッケルトは蝕に巻き込まれなかった時点で見届ける側であり、もしガツやグリが死んだ時にあの剣の丘に剣を突き立てる役割があるから絶対に死なないだろう、そしてなんと言ってもエリカちゃんがこの上なくハピエンに導いてくれそうと思い、ベルセルクを読むとき一番安心して見ていた二人組でした。既に家族のようなものだけれど、将来は結婚していたらどうしよう愛しい、とも思っていました。あかん泣く。この二人がどうなるかも、見届けたかった…。
それとリッケルト、きみは作中最もしっかりした善良で純粋な十九歳だと思う。周りを見てみろ、きみより年上のやつらほとんどみんなどーしようもないぞ。きっともっと大人になって、もしエリカちゃんが彼に恋をしても、彼はそれが本当に恋か何年もかけて確かめそう。ちゃんと彼女の幼さを考慮して、そんで何年もかけたのちに本当の家族になってたら…どうしよう…。
2021.6.12 たまごのお粥pixiv投稿作品 (原文ママ)
夫婦ってわけじゃないんだろ? そんな一緒にいる必要ある? と意地悪な質問をされることもしばしば、けれどそのたびエリカは笑って「だってあたしたち家族だもん」と答えるのが常だった。すると質問した側は大体狐につままれた顔をして「ふーん?」と唸るのである。曰く「夫婦の誓いをしているわけでもなく、兄妹でもないのに家族とは、これ如何に」というわけだ。エリカはそれを聞いて同じように首を傾げながら「だって家族は、家族だもん。血が繋がってなくても、お嫁さんじゃなくっても、そーなんだモン」と客が知らないまだまだ幼かったころの面差しで話を終わらせるのだった。
エリカとリッケルトは家族である。
ちなみに、エリカには離れたところに住んでいたり放浪しているまだたくさんの家族――友だち寄りだったり仲間寄りだったりの――がいて、そのうちのひとりである魔術師の年寄りなんかは「さっさと身を固めちまえ」と会うたびせっついてくるのだが、エリカはそれにも笑って、固まってるよう、と答えていた。だって、リッケルトはそのたくさんの家族とは違って、ずっとエリカのそばにいてくれるし、エリカもリッケルトにずっと着いて行く心積もりだし、確かに二人とも年頃になって男女のあれやこれやをよく聞くようになったけれど、それでも、二人一緒にまたあの鉱山で鍛冶屋をやっていけているのだから、エリカはこれで充分幸せだった。ここにゴドーの父ちゃんがいればな、と思ったことはあるし、ガッツやキャスカお姉ちゃんも一緒に住めばもっと楽しいのにな、と思うことはあるけれど。
でもどうやらリッケルトは同じ気持ちじゃなかったのかもしれない、エリカはそう思って「お見合い?」と茫然と訊いていた。
修理済みの農具を受け取りに来た常連客は、そのエリカの前で、なぜか狼狽えて「いや、」と皺と豆だらけの手のひらを振り始めた。「ちょっとどうかなと思って、提案してみただけなんだ。最近すっかり平和になったしよ、あいつもそーいう歳だろ? 村にも年頃の娘がいるからな、どうかと……」
「それでリッケルトは何て答えたの」
「その日取りを、今日ついでに聞きにきたんだが……あー、エリカ」
誤解しないでほしいんだが、別にお前さんたちの仲をどうこうってわけじゃなくてだな、と何やら言い出す言葉をほとんど聞かずに、エリカは、「ふーん」と言った。ふーん、リッケルト、すぐに断らなかったんだ……。
エリカの柔らかな頬にみるみる空気が溜まっていくのを見て慌てだしたお客を、エリカは、鍛冶屋の娘らしく次には火花のように笑顔を弾けさせて「じゃああたしが代わりに訊いといてあげる!」と言って戸口まで送っていった。今にも涙袋も弾けてしまいそうな器用な笑みに押されたお客は、余計なことしちまったなとぼやきながら帰って行く。その背を見送るエリカの目から、間を置かず、ぶわりと涙が弾けた。熟れた頬を山の裏手にある滝のように流れていく。
「リッケルト、お見合いするんだ……」
涙とともに零れた声音は途方に暮れる子どもそのものだった。
エリカとリッケルトは家族だ。
最初は違った(たとえばリッケルトは最初、彼女のことをよそよそしく「エリカちゃん」と呼んでいたし、父親代わりであったゴドーも彼のことを過客として接していた)が、彼がゴドーの弟子になりすっかり自分たちと同じ熱鉄のにおいなど染みつかせるとリッケルトは彼の息子とも呼べる存在になったし、そして当然ながらゴドーの娘であるエリカとも家族になった。三人とも血は繋がっていない。けれどエリカは鍛冶屋ゴドーの養女であり、リッケルトは彼の弟子兼息子だ。だから、と思う。
だからリッケルトはあたしを妹のように思っているのかな。
エリカは今まで一度も、リッケルトを兄のようだと思ったことがなかった。
リッケルトとともに転がり込んできたガッツやキャスカのことは、まるで年の離れた兄や姉のように慕ったし、今ごろどこかを放浪している二人のことを想っても、やはりそうだなと思う。では八つ歳の離れたリッケルトはどうかと言うと、やはり、兄妹のようとはどうしても思えなかった。
ならば何と訊かれると「家族」としか言いようがない。
帰る場所は同じだ。たとえ彼がまた戦いに出ようと言うのなら、エリカはどこまでも着いて行く気でいるし、もし万が一、それが無理だとしたら、自分のいるところに帰ってきてほしい。帰って来なければどうなったって自分から会いに行くと決めているのでどの道自分たちを引き剥がすのは無理だ。そういう輩が出てきたらそれがどんな存在でも泣いて喚いて抗議してやる。昔より大きくなった十四歳の娘の号泣は、さぞや威力が増していることだろう。
リッケルトがあの綺麗な火花を弾けさせながら作ったものが、誰にどんなふうに使われるのか、誰よりもそばでずっと見守っていきたい。
そういうふうに思っていたのはエリカだけで、むしろ、そういうふうに思われているのが嫌になったのだろうか?
だってお見合いをするということは新しい家族を得るということだ。
リッケルトがお嫁さんと家族になると言うのなら、一体エリカはリッケルトの何になるのだろう? そのお嫁さんとあたしも家族になるの? でもそれは、と思う。それはちょっと、だいぶ、なんだかとっても、嫌だ。
そもそもどうしてそんな重大なことをあたしに話してくれなかったんだろう、あたしがまだリッケルトにとって小さな女の子だから? それでも、もう、あと数年もすればあたしだってお見合いを勧められたっておかしくない歳なのに、リッケルトったらどうしてわざわざあたしに隠してそんな重大なことを……そこまで考えたエリカは更に落ち込んで作業場へと向かう足を止めた。つまり、そんな重大なことを話すまでもない関係と思われているのかなあ……。
「リッケルト」
エリカが重い足を引きずるようにして辿り着いた作業場は、一瞬で心が落ち着く熱鉄のにおいと温度に満ちていた。同じ火のくせに体の芯から震えが来る戦火とはまるで違う、エリカが一番安心する熱がそこにある。その火を丁寧に扱うリッケルトは数槌打ち込んでから呼びかけに気づき、金槌を置きつつ振り返った。出会ったころの幼さなど頬の丸みとともに取れた青年らしさで首を傾げる。「エリカ。どうかした? もう夕飯の時間?」その額から流れていく汗を、エリカはぼんやり見つめていた。
「エリカ?」
「リッケルト……あのさ、あのね、」おずおずと近づいて行くと、涙の痕が熱に照らされヒリヒリ痛んだ。顔をしかめる。「あたしに何かさ、言うこととか、ない?」
「言うこと?」
「う、うん。たとえばね、えーと、家族のこととか……」
「家族のこと?」
リッケルトは怪訝そうだった。本気で分からない、といった態度だった。
それに益々沈んだ気持ちになり、また涙腺の縁が緩くなってくる。エリカはすんと鼻を啜り、スカートの布地を握り締めた。
「リッケルト、お、お嫁さん貰うの……?」
「は? ……ハァ!?」
「あたしを置いてどっか行っちゃうの?」
リッケルトが慌てて立ち上がるのを、エリカは滲んだ視界で見つめていた。一度言葉にしてしまうともう止められず、同時に滝が再び頬を怒涛の勢いで流れた。
「そ、そうだよね、リッケルトだってそーいう歳だもんね、お見合いしたっておかしかないもんね」
「え、エリカ? ちょっと待って、一体なんの」
「でもさそういうことはいっ言ってくれないと、リッケルトがどう思ってるかは知らないけど、あたしはリッケルトのことずっと家族だって思ってるよ、なのに、なのにさァ、ふえっ、り、りっけると」
あっという間に、しゃにむに泣いた。
「エリカのこと嫌になっちゃったの? もう一緒にいたくないの? それともまたっ旅に出たくなっちゃった? エリカを置いてどこかへ行っちゃうの? と、とーちゃんや、ガッツたちみたいに」そしたらエリカはどこへ行けばいいんだろう? 「ひ、ひげジィのとこに行くもん。あたし。だからだい、だいじょぶ。安心してお嫁さんと暮らしたらいっ、いいよ」本当は嫌だけど。でもせめて強がりたかった。
しゃくりあげて喋りきったエリカの頬に綺麗な手拭いが押しつけられる。
そうしたリッケルトはほとほと弱った声音で「勝手に思い込んで勝手に大丈夫になって、それで勝手に俺と離れようとしないでよ」と言った。それから駄目だよ、と注意深く続ける。「ひげジィのとこに一人で行くのは許さないからな。あんな危ないとこ」「シラットの兄ちゃんもいるもん」「あの人ちゃんと怖い人なんだよ。じゃなくてさ、もーエリカ泣かないでくれよお願いだから」「だ、だってリッケルトがぁ」
「俺お見合いなんてしないよ」
ぐいぐい、手拭いが押しつけられていた頬から三滴ほどを最後に滝が止まる。濡れそぼったまつ毛でぱちりと瞬きし、「ほら、鼻も拭いて」と渡された手拭いを鼻にやった。ずびっ、鼻水をかむ。「りっへると」もがもが訊いた。「お見合いしないの?」
「なんでそんな話になったか知らないけど、しないよ。お見合いなんて」
眉間に皺を寄せてリッケルトが言った。
「だ、だってね麦作の旦那さんが」
「あー……あっ農具ちゃんと渡した?」
「もちろんバッチシ! 説明もしたよ、取っ手の下を引いたら弾が出るって、ちゃんと。すごく喜んでたよ」
「そっか、良かったー、威力強めにしたから反動がな……大丈夫だと思うけど、手入れもあるし少し経ったら見に行かないと。その時は一緒に来てくれる?」
「もちろんだよ! 山でも街でもどこだって着いてくもん」
「だから俺がほかの誰かと家族になるなんて有り得ないよ」
少し不機嫌さが滲み出ている。「エリカだっておんなじ気持ちだと。俺ってそんなに信用なかった?」
「な、なんでリッケルトがそんな顔するのよう」びっくりして声を上げる。「あたしはてっきり、だって、お見合い、すぐ断らなかったんでしょ?」
「断ったよ! 俺がエリカ以外の」勢いづいて開いた口はなぜかそこで一旦閉じ、噤んで、また開いた。「……家族なんてつくるわけないだろ。断ったけど、その、会うだけでもって食い下がられたから、会ってハッキリ断ろうと」
「それをなんで教えてくれなかったの」
「わざわざ言うことでもないかなって。断るんだし」
「そんなぁ」
エリカはへなへなとへたり込んだ。リッケルトが慌てて膝をついてくれるのを、情けない表情で見やる。もっと子どものころより、うんとみっともなく泣いていたのが、中々に滑稽だった。確かに十四歳の変に強がった号泣の威力ったら。エリカは思い返して恥ずかしくなる。「あたし何のために号泣したんだろう」
「俺のため?」
「……そーだよ、リッケルトを泣き落とそうとしたのかな、悪女みたい」
「そんな悪いもんじゃなかったよ」
「ほんと? ならいいや」
打って変わって火花みたいに笑顔を弾けさせるエリカを目の当たりにしたリッケルトは、眩しそうに目を眇めた。「エリカあのさ、」それから手拭いを握り締めたままの小さな手を、大きな手で握る。「俺はエリカとずっといたいと思ってるよ。エリカは?」
「あたしもおんなじだよ」
「それは、どうして?」
「だって家族だもん」
きょとん、あっけらかんと答えたエリカに、うん、そーーだよなァ、と唸るように応じたリッケルトの竦めた肩と困り笑いを、エリカはまだ不思議そうに見つめ返すしかなかった。
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