さもゆ
2024-12-10 00:50:15
2173文字
Public BF
 

【A英】いとをかし、ねうねうこ

2021.02.22猫の日ネタ!
生存if、しばらくの二人。
ものすごいネタバレをかますと二人とも「キスしてぇ~」って思ってるんで三秒と待たずにどっちも負けます。

2021.2.22 たまごのお粥pixiv投稿作品

 キス我慢選手権とかいう大会があったら僕は一等を狙えると思う。
 この場においてのルールは「好きな人間がひたすらキスをせがんでくる中、耐えきれたら優勝」という至極簡単なもので、もちろんそれは僕が勝手にこの場を乗り切るために考えた自己流だから誰が改変してもいいしそもそもこの世の中広いので既にそういう大会があるのかもしれない。そうだとしたらやっぱり僕だけのキス我慢選手権は僕の優勝に違いなかった。
「アッシュどいて。重いよ」
「なんで?」
「きみは僕より学んでると思うんだけど、地球には重力というものがあってね……
「難しい話は嫌いだな。キスしてくれよ」
「のたまってろ酔っ払いめ。猫みたいに擦り寄りやがってさ、普段は全然そんな気ないくせに」
「酔ってるからな。精一杯かわいく見せてンの」
「なんで?」
 アッシュはちっともかわいくなくニヤリと笑った。「キスしてほしいから」
「しないよ」僕は広いソファで膝がくっつくほど近くに座っているアッシュをぐいと押しのける。「大体、卑怯だよ。今まで散々我慢してきたのに、お互いにね、自制を持って友人やってきたじゃないか。僕がさ、つい、仕事で中々会えなくて、久々に会ったきみを抱きしめて顔を寄せた時だって――あれはすごくまずかった、危ういとこだった――きみ何て言ったと思う? “童顔に髭ってレナルド・カプリオみたいで好みじゃない。剃って来いよ” 洗顔する間も惜しんできみに会いに来た顔が有名俳優に似てて何よりだ、あのままキスさせてくれればもっと良かったのに!」
「俺だってほんとはしたかったさ。ずっとな」
「きみは止めた」
「あの時は酔ってなかったから」
「ぼかァ酔っ払いに手は出さない」
「何か目的がないと、キスなんざできないよ」
「今はあるのかよ」
「目的がなくてもキスをしたい、してもいいという目的を持つようにしてる」
 僕は思い切りしかめっ面になったのを自覚した。
「そういう難しいこと考えてるきみには、まだできないよ」
「考えてない」
「考えてる」
「俺はいま猫だよ」
「山猫から人間に戻っただろアスラン・ジェイド・カーレンリース」
「なら人間から山猫にも戻れると思わないか? 猫にもなれる。奥村英二が写真家になったみたいに」
「そりゃきみは何にでもなれるよ」ずっと、十代のころから思っているし今もそう信じている。これは変わらない、現に彼は今その途中だし、事実そのものだ。「けど、なら尚更だ。僕は酔っ払いに手は出さないし、猫を撫でて鼻をくっつけても、キスはしない」
「ごうつくばりめ」
「どっちが!」
 押しのけてもしなだれかかってくる熱い(厚い。昔より上背も筋肉もある。猫? 虎の間違いな)体から今度こそ離れようと身を捩ると、すかさず膝の上に乗って来た。僕は少なからずぎょっとして人の膝に座って来た、間違いなく人を見上げた。「ほんとに猫になっちゃったの?」自分でもどうかと思うほどとんでもなく情けない声が出た。
 弱り果てておそらく下げきっている僕の眉を、アッシュの指がなぞって輪郭まで辿る。顎に到達すると、彼は上から覗き込むようにして鼻を擦りつけてきた。僕の鼻がアッシュの高い鼻に潰される。酒で赤くなった見た目通り、鼻の先まで熱を持っていた。
 朝焼けの瞳を見続けるには、距離が近すぎて、けれど視力の悪い僕にはきっとちょうど良かった。
……キスするの?」
 訊くと、酒くさい吐息が唇に吐かれる。「お前が、」彼が咎める調子で、低く、静かに囁く。「……お前が、そーやって訊いたから。茶化すしかなかったんだろ。分かれよ」
「なんの話?」
「さっきの話。お前と久々に会って、ハグして、自然と顔が寄った。俺は何も考えてなかった、ただ本当に不思議と、自然に――そしたら“キスするの?”だ」
……僕そんなこと訊いた?」
「ああ。それで俺の流れがカチッと止まった」
「萎えさせたってこと?」
「違う。緊張して、臆病になったってこと」
「きみが?」
「ただのアスラン・ジェイド・カーレンリースだからな」
「すっげえ」僕は心の底から言った。「かわいい。ものすごくかわいい恋してるって自覚ない?」
「奇妙だよ」
「まとめていとをかしってとこかな。日本語って便利だ。オーケーアッシュ、テーブルの酒瓶取って」
「殴るのか?」
「きみじゃないんだから。飲むんだよ。飲んで、酔う。僕の鼻の冷たさを感じさせないくらい」
「それで?」
 始めるんだよ、僕は言った。キス我慢選手権。
 自分も相手も猫みたいに酔っ払って、それで全てを我慢できたら、二人揃って優勝ってことになる。
 我慢できなかったら、こう言い訳ができる。“お互い猫なんだから、しょうがない” 猫って仕方がないが通用する生き物だと思うんだ。お互い酔っ払いなら、どっちも酔っ払いに手を出したってことになるし、どっちも猫なら、鼻を擦り合わせてキスしたって強欲にはならない。
 理性を取っ払うには必要不可欠なんだよ。
……俺も飲むよ」
 アッシュが後ろに伸びをし、テーブルから二本、手に取る。
 瓶を掴む。がっちり、逃げないようお互いに腕を交差し、口許へ。
「準備はいい?」
「いつでも」
 それでは。……早々にルール改変された、猫によるキス我慢選手権、始め!