2024-12-09 20:55:57
2204文字
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醜い友人の顔2

続くと思わなかったのでたぶん支部に載せるときタイトル変えます……

「なに! なんなの! もうやだぁ……
 普段しっかりと防音の魔法を掛けてあるはずの管理局長室の部屋から、どうしてだかアゼムの声が漏れて聞こえる。扉にかけた手が止まった。気にせず入って、魔法を掛けてやればいい。けれどもそれができず、立ち止まる。誰がどう聞いたって、アゼムの声が涙で濡れていたからだ。
「ほらもう、泣かないの」
「だって……こんなに、アピールしてんのにさぁ……ちょっとぐらい思うところないわけ? ないんた……
「あーもう、目を擦らない。この後も会議あるんでしょ」
 あやすような声はこの部屋の主だ。聞かせようとしているのか、と立ち止まって目を閉じる。しかし、アゼムが泣くようなことなんて、一体何事だ。横腹を抉られても立ち上がるようなやつだ、と思いながらも、繊細な部分があることもよく知っている。
 ゆっくりと息を吐いて、立ち尽くす。エメトセルクには溢さなかった言葉を、聞いていいとヒュトロダエウスが判じたのだ。同じだけ親しいと思う友人の声ならぬ言葉を信じて、耳を澄ます。
「どうやったって、私は特別になれない」
 溢れる言葉は濡れて、悲嘆に染まっている。今すぐ駆け寄ってしまいたいが、それよりも言葉の意味にざわざわと胸が騒いで、エメトセルクはゆっくり拳を握りしめる。
「私だけ、私だけがずっと、ずっと」
 アゼム。お前は、どうして。
「もう、いやだよ……
 どうして、そこまで泣いて、

「好きになんて、ならなきゃよかった……! もう、好きでいるのやめる……!」

 誰を想って、泣いているんだ。

 息を吸って、ゆっくりと吐く。目を閉じて、口も閉ざす。細く吐いた息が震えていた。思ったよりも、凪いでいる。
 ぼんやりと思うのは、友人の顔だ。ずっと板挟みにしてしまったのか、と思う。エメトセルクの感情を聞いて、アゼムの感情も聞いて。それでもどちらにも寄り添ってくれた、いい友人である。
 どこのどいつだろうか、なんて。知ったところで意味はない。息を吸って、ゆっくり吐く。震えは少しおさまっている。爪の痕が残るほど握りしめていた拳をゆっくり解いて、目を開ける。
 エメトセルクは、アゼムの良き友人である。彼女にとって一番の、と言えるほどの親しい友だ。その友人が、嘆く彼女にしてやれることなんて山ほどある。そこに、友人のままでいてやれなかったエメトセルクの感情なんて不要である。それを、遅かれ早かれ知れたのは良いことだ。良いことなのだ。アゼムに知らせることなく、彼女の顔を無駄に曇らせることなく、葬ってやれる。それを、幸福に思う。
 エメトセルクはゆっくりと扉を開ける。ヒュトロダエウスが困った顔をしたままちらりとエメトセルクを見て、アゼムは驚いた顔で涙に濡れたまま振り返った。
「え、めとせる、く」
「聞こえていた。すまない」
「ちが、ちがう、まって」
 服の袖で無理矢理目元を擦ろうとするのを手首をつかんでやめさせる。これも友人の距離だ、と言い聞かせながら。
「諦めるなんて、お前らしくもない。……お前がそれほどまでに思うのならば、私とヒュトロダエウスはお前の味方だ。いくらでも、話は聞くし、必要ならば手も貸す」
 アゼムの目が大きく見開かれる。そりゃあ、意外だろう。エメトセルクは小さく苦笑する。それでも、それでいい。彼女の親友でいいから、そばにいたい。なにより、泣くよりも笑っていて欲しい。ただそれだけなのだ。
「こうして嘆くよりも、お前は笑いながら突き進むのが似合う」
 大丈夫、だ。彼女が笑えるのならば、いくらでも。彼女の感情を、応援してやれる。ついぞ届かなかったその美しい魂が曇るよりも、ずっとずっと、それがいい。そう、心から思い込んで、創造したタオルでアゼムの目元に触れる。
「泣くな。この後の会議室どうするんだ、まったく」
 なんてことのない、友人同士のやり取りの延長なのだとわからせるつもりでいつも通り呆れた声を作って見せて。声は震えていない。大丈夫だ。これで、これでいい。
 しかしアゼムはひくりと喉を鳴らすと、タオルを掴んでそこに顔を押し付け、声をあげてさらに泣き出す。
 ……そこまで、想うのならば。なぜ相手は答えてやらないんだ、なんて。どうしようもないやるせなさと怒りすら覚えてしまうのだから、どうしようもない。
 どんなに深く深く、重たく感情を抱いたところで、どうにもならないことはこの星で今、エメトセルクが誰よりも理解してしまったはずなのに。
……むり、だよ。むりだと、ずっと、理解させられている。私は、どうやったって…………好きな人に、好きになってもらえない」
 重く、苦しく、アゼムが呟く。震える肩に手を伸ばそうとして、友人以上の意味を持ちそうで、触れられない。ゆっくり息を吐いて、そっと頭だけ軽くたたく。
……会議は、お前は欠席だと伝えておく。落ち着いたら家に帰れ」
 それだけ告げて、エメトセルクはヒュトロダエウスに後は頼んだ、と目で告げて部屋を後にする。どうしてそうなるのかなぁーっ、と頭を抱えるヒュトロダエウスなんて、エメトセルクがどう足掻いても自分を好きになるわけがないと理解して泣いて泣いてどうしようもないアゼムと、エメトセルクでない誰かを想って泣いてるであろうアゼムを見ていられなくて逃げたエメトセルクが知るわけも、ないのであった。