ニイナ
2024-12-09 16:57:19
3163文字
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君を暴くための作法

浅島さんの呟かれていた弱視若様とわにさんにめちゃくちゃ萌えたのでとりあえず冒頭だけ。
若様はロービジョンのための商品開発とか、読み上げ機能を向上させたりとかしてる。わにさんは表向き美術商やってる893な感じです。色々ふわっとしてるので雰囲気で読んで欲しい。

君を暴くための作法

 とある会社の業績がクロコダイルの耳に入ったのは最近のことだった。このところクロコダイルの管轄の地域で業績を伸ばしているヌマンシアという会社のロゴにはフラミンゴが起用されていて、その事実がクロコダイルの過去の記憶に触れる。親近感などではなく、胡乱げな思いでクロコダイルはヌマンシアを調べることにした。
 その結果出てきた情報は、クロコダイルの予想と繋がり、眉を寄せることになった。ヌマンシアは、ある兄弟と友人によって起こされた会社で、そこに並ぶ名前が、クロコダイルの眉間の皺を深くさせる。ドンキホーテ・ドフラミンゴ、という見覚えも聞き覚えもありすぎる名前は大柄で行儀の悪い男を嫌でも思い起こさせた。そうしてそれは確かに同じものでもあった。クロコダイルの過去にいる、ドフラミンゴという男が、どうやらこの現世に生きているらしい。妙な因果に引き摺られてさらに調べてみると、ヌマンシアという会社は基本的に弟であるロシナンテが現場にでていて、ドフラミンゴはその後ろで控えて経営の根幹を担っているようだった。そのことにはおや、という意外性があったものの、表立つのを避けるドフラミンゴには興味が湧く。今生ではドフラミンゴの目に不自由なところがあり、いわゆるロービジョンだということがわかる。その経験から会社も立ち上げたらしい内容の記事も見かけ、ますますクロコダイルへ興味を与えた。
 一度その顔を見て笑ってやろうという思いで、クロコダイルはドフラミンゴへとアポイントを取ることにした。表向きは商品開発や取引を持ちかける話をして、ドフラミンゴという男を眺めてやろうという気になっていた。手配は秘書であるニコ・ロビンに任せて、クロコダイルはドフラミンゴについてすこし踏み込んで調べ、手札を増やすことにした。それからしばらくしてドフラミンゴへのアポイントは割とすんなりと通り、クロコダイルはヌマンシアへと訪れることが出来ていた。
 クロコダイルを迎えたのは、表立ってメディア露出する弟のロシナンテではなく、ドフラミンゴ自身と秘書よりも護衛に近い存在感を纏ったひとりの男だった。ドフラミンゴに関しては以前とほぼ同じ容姿をしていて、髪がすこし長いことと着ているものがモノトーンで落ち着いていることぐらいの違いだった。そのドフラミンゴの隣に控えるいかつい顔をする黒髪で体格の良い男は、その表情を窺わせないサングラスをかけていた。どちらも感情を読めない顔をしているなと口が曲がりそうになるのをこらえてクロコダイルは穏やかにドフラミンゴへと声をかけた。
「今日は時間を取って頂き、申し訳ない」
「いや、うちとしても気になる案件だったんだ。話は聞きたいと思った」
 やわらかくクロコダイルに応じたドフラミンゴからは、驚きや警戒というものがなく、クロコダイルは内心でかえって驚いていた。隣に控える男(ヴェルゴという名前らしい)からは警戒がひしひしと伝わってきたのだが、ドフラミンゴにはそれがなかった。初対面の相手に対する多少の気構えはあれど、それ以外はないらしい。そのことに拍子抜けして、会ったら笑ってやろう、と考えていたのも沈んでしまった。
…………
「なにか?」
「あァ、いや、昔の知り合いにちょっと似ていてね。驚いた」
「へェ……そんなこともあるんだな」
 思わずじっとドフラミンゴを凝視していれば、ドフラミンゴが不思議そうにクロコダイルを見つめてくる。それに当たり障りなく返せば、ヴェルゴからざわりと殺意にも似た警戒がこぼれて、クロコダイルはこちらは記憶ありなのか、と直感した。二人が過去にどんな関係性であったかは興味がないが、それなりに近しい関係だったのだろうなとクロコダイルはひとり納得する。
「まァ、あっちは君みたいに清楚でもなかったが」
「フフ、フッフッフッ!あんた面白いなァ」
…………ドフィ」
 クロコダイルの言い様にドフラミンゴが笑みをこぼし、ヴェルゴがピリ、と空気を張り詰めさせた。低く名前を呼ばれたドフラミンゴが肩をすくめてヴェルゴにやわらかく笑いかけ、クロコダイルへと向き合った。
「あァ、悪かった。それで、うちの商品に関わりたいと?」
「そうだ。うちの社員にもひとり、ロービジョンがいてね。彼に働きやすくいて欲しいわけだ」
「ふぅん……なるほど」
 ロービジョン、という言葉にドフラミンゴが反応するのを認め、クロコダイルはさてどう出るか、と内心で探りを入れる。こんな申し出などいくらでもあっただろうし、数えることしたくないだろう。交渉に値しない、と思われても仕方がないものだ。
「恥ずかしながらロービジョンについては社員がいるのに疎くて、その辺りを君にサポートしてもらえないかと思っている」
「それなら、他にも企業はあるだろう。うちじゃなくても問題ない」
「ヴェルゴ」
…………余計な口を出してすまない」
「いや、そう思うのも当然だろう。ロービジョンだけじゃなく、うちには共感覚の人間がいてね。マリアンヌという新進気鋭の画家なんだが」
「マリアンヌが?」
 不信感を露わにしてクロコダイルを威嚇するヴェルゴにドフラミンゴが声をかけて制した。クロコダイルはそれを気にもせずいなして、さっさと手札を追加することにした。そこに、ドフラミンゴが確かに食らいついた。マリアンヌというのは数年前から名前を上げている画家で、彼女は感情の機微を描くのがあまりに上手かった。マリアンヌが『かなしみ』と題した絵の前では人はかなしみに呑まれ、『よろこび』と題した絵の前ではよろこびを露わにするのだ。そのあまりに感情を揺さぶる絵は賛否を呼んでいたものの、じわじわと世界を席巻しているのだった。そのマリアンヌは共感覚の持ち主で、色彩の範囲が誰よりも広かった。クロコダイルにとってはただの青一色ても、彼女にとっては青の集合体なのである。
「そうだ。マリアンヌの共感覚は色が人よりも格段に多くあることだ。それは脳の感覚によるものだが、視界をごまかすことで過敏になるのを抑えられないかと思ってね」
……面白いことを言うんだな、あんた」
「これでもうちの人間には気を遣ってるんだ。それぐらいは考えるさ」
 ドフラミンゴの驚きを感じ取り、クロコダイルは内心で口元を緩めた。表面上はなんでもない顔をして、ドフラミンゴの興味と関心をこちらへ引き込むことにする。ただし、クロコダイルが口にしたのは別段ウソではない。マリアンヌの目が情報を取り込みすぎていて時おり、何も見たくない、とこぼすのを彼女の口から聞いているからだ。
「ふぅん……けど、あんたのその話を、鵜呑みにするには説得力に欠けるな」
「なら、どうすればいい?」
「マリアンヌ本人に会わせてくれ」
「ドフィ」
「それなら、信用に値するかもしれない」
 ヴェルゴの制止を抑えてドフラミンゴが真剣に言うのに、クロコダイルはにこりと笑みを浮かべてみせた。ひとまずこの男とつながりを持つことができたのなら、今後もドフラミンゴに近付けるというものだ。会って話をするうち、この男に記憶が戻れば面白いなと思いながら、クロコダイルは頷いてやる。
「もちろん、構わない」
「じゃあ、また日程を組んでもらえるか?」
「あァ、すぐにマリアンヌの予定を確認しよう」
 ドフラミンゴからの問いにも頷きを返して、クロコダイルは傍らの殺意にも似た警戒を鼻で笑い飛ばした。ドフラミンゴに近しく記憶がある人間なら、クロコダイルを警戒してしかるべきだろうな、と理解しつつ、それも無駄なことだと決めつける。どうやってドフラミンゴの内側に入ってやろうかと考えをめぐらせ、クロコダイルはドフラミンゴへと笑みを向けた。