皆の嫌われ者・ブライス聖騎士団団長・ネフレッド視点です。21話、ヴァルトルが修道院に完全に別れを告げた後の話。聖騎士団幹部らに激怒される、人望のないネフレッド団長の話。
大首座バーナーシュとともに、ロードリン修道院からブライス国大僧院に戻ったブライス聖騎士団団長・ネフレッドは、正装を改める暇もなく、部下に囲まれた。
「ど、どうでしたか⁉」
「ヴァルトルは、戻ってくるんですか」
ネフレッドは着替えの準備をする修道士らに手を振り、部屋から出て行くように指示した。若い修道士らは頭を下げ、無言のまま退出した。
白と赤を基調とした正装を脱ぎながら、ネフレッドは返答した。
「いや、戻ってこない」
ギャアアア~、と悲鳴のような声を上げながら部下二人が崩れ落ちる。黒の日常の僧衣に着替えながら、ネフレッドは修道士らを外に出していて良かったとつくづく思った。聖騎士団の参謀長と軍令部長が床に膝をついて悶絶している姿を見せるわけにはいかない。
床に突っ伏す参謀長よりも、軍務や人事を担当する軍令部長が先に身体を起こして睨んできた。
「何やってんですか、団長! 俺に言いましたよね⁉ 出しても必ず戻らせるって、戻らせるって、戻らせるって言いましたよね⁉」
「言ってな」
「言っっっっっっった!!!! 俺は裁判前にあの告発自体、上に知られる前に消せって言ったのに!!!! イワンゴでの作戦や、あいつの叔父が内宮庁長官なことを気に食わない幹部がいるんだから、絶対につけ込まれるって言ったのに!!!!」
「一人称俺になってるぞ。あと敬語忘れて」
「だから俺は、王宮に送り込むなら全部ヴァルトルに説明してくれって言ったんですよ! あんなに頭が良い奴が、陥れられて気づかないわけないじゃないですか!」
「だからそれは俺も再三言ったって。騙しても騙されるような奴じゃないぞって。一度警戒した獣が巣に簡単に戻ってくるわけないだ」
「だから言い方! そんな言い方したら、幹部が納得しますか! その程度の信仰心の持ち主なんて修道士として不要、なんて返されたんでしょ!」
「ご名答」
「ざ~け~ん~な~!!!! あんな逸材、そうそう現れるわけねえだろ!!」
幹部に聞かれたら間違いなく破門されるようなことを軍令部長は叫んだが、ネフレッドは止めずにワインのグラスを取り出した。
「全て団長のせいだと私は思います」
膝をつき、床を見つめたまま呟いた参謀長に、軍令部長が激しく同意する。
「俺もそう思う!」
「幹部らを丸め込むことができずにヴァルトルを裁判にかけることになったんですから、結局は交渉下手だということでしょう。絶対許しません。部長、私はもう団長と口を利きませんからよろしく」
「なあ、お前らってどうして怒り心頭になると俺と口を利かなくなるんだ? さっきも早速、ミッシャに無視されたんだが」
参謀長が無視も忘れて顔を向けてくる。
「ミッシャに、全部話したんですか?」
「ああ。ヴァルトルの裁判のことはな」
二人がそろって『こいつ人間の屑』という顔を向けてくるが、いつものことなのでネフレッドは少しも気にしなかった。
「聞いたか? 参謀長。俺は団長が大首座選挙に出ることになっても、絶対に票なんて入れない」
「私も入れません」
「大首座になんてなるつもりもないし、騎士団出身で大首座になれるわけがないから心配するな。まあ、あいつは俺が采配できるような人生を送るような奴じゃないってことだ。破門覚悟で大首座と渡り合ってはっきり拒絶した。見応えがあったぞ」
机に座ってグラスを傾けたネフレッドは、しばし部下二人に睨まれていたが、二人は諦めたのか大きなため息をついて卓の前に椅子を引き寄せた。
「しかし、そうまでして戻ってこないのは意地だけではないでしょうに。俗世で何かあったんですかね」
軍令部長の言葉に、ネフレッドは二つのグラスにワインを注いだ。
「さあね」
あ~あ、と参謀長が再びため息をつく。
「身体が多少動かなくなったって、私のところで引き取ったのに。どんな名参謀になるのか、楽しみにしていたのに」
軍令部長が分かるというように頷いた。
「将来を楽しみにしていたんだよなあ。まだ二十四歳だぞ。これからだったのに、惜しい逸材を……」
ネフレッドは、新たな酒を自分のグラスに注ぎながら言った。
「戦場で戦死したと思えば諦めがつくんじゃないか」
ネフレッドは次の瞬間、『そういうところだぞ!!』と二人に罵倒された。
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