2024-12-09 12:42:35
2058文字
Public
 

醜い友人の顔

両片思いエメアゼちゃん


 気の置けない親友とは、本当に気兼ねないものである。いつもであればある程度節度を持って嗜むアルコールも、何をしたってどうにもならない。心からの信頼のもと、深く深く酔いに落ちる。
 ソファーに座ったアゼムはお酒を飲みながら、時折酒を置くと右側に座るエメトセルクの左手を拾い上げ、指を絡め、曲げて、くにくにと遊び、揉んで。意識して力を抜けば、ふにゃふにゃだぁ、と無邪気に笑っておもちゃにするものだから、本当に、頼むから、他ではここまで飲むな、と膝を詰めて言い聞かせたい。しかし現状、彼女がここまで酒に溺れるのはこの三人で飲む時だけらしいので、その機会はない。
 向かいの一人がけソファーを独占しているヒュトロダエウスがとくりと琥珀色の酒をグラスに注ぎながら、ニコニコと眉間の皺を深めるエメトセルクを眺めている。見せ物ではない、と言いたくても、そう思われている、とアゼムに伝わることも避けたいので、なんてことないように言葉を飲み込んで好きにさせることしかできない。
「ねえ、アゼム」
「ん〜?」
 ヒュトロダエウスの呼びかけに、ぎゅ、とエメトセルクに指を絡めてアゼムが顔を上げる。言葉の端が溶けていて、そろそろ限界が近いのだろうな、と分かる程度には親しい友人である。
「告白されるならぁ、キミはどうされたい〜?」
 何を聞いてくれてるんだこいつは。咄嗟にヒュトロダエウスを睨みつけるが、古い友人は飄々とこちらの視線を無視する。んー、とアゼムが悩むのだから、悩む程度には考えがあるのかと、思わずエメトセルクはアゼムを見た。んふふ、とアゼムの唇が緩む。
「そりゃあ、二人きりでね、花束とか渡されながら、愛してる、って抱きしめられるやつだよぉ」
 思ったよりも、具体的なものが来た。彼女らしくない、と思いながらも、案外そういうのが好きなことも、知っている。
「乙女じゃん〜!」
「乙女アゼちゃんだよぉ〜!」
 きゃらきゃらと笑う声に、息を吐く。いつかそれを、叶える人が現れたとして。その時エメトセルクはそれを良いことだと言えるのだろうか。その願いが叶わなければいいと、ひっそり思い、醜さにもう一度息を吐く。
 ひとしきり笑って、手が離れていく。アゼムはグラスを持って中身を飲み干すと、そのままこてん、もエメトセルクに寄りかかった。でも、と呟いた声はどこかぼんやりとほどけていて、そろそろ寝落ちるな、とエメトセルクは彼女の手からグラスをそっと抜き取る。
…………好きな人に告白してもらえるのなら、なんでもいい……
 夢見ごごちの呟きに、グラスを机に置くのも忘れて思わず肩に寄りかかる頭を見つめる。すう、と穏やかな吐息と確かな重みに、きちんと眠ったのだと理解して、けれども言われた言葉の衝撃にしばらく動けなくなる。
「寝ちゃったねえ」
 ワタシも眠いや、とヒュトロダエウスが欠伸をして、残った酒を流し込む。
 ゆっくり息を吸って、吐いて。グラスを机に置いて、もう一度ゆっくり息を吐く。
「ふふ、花束、用意したら?」
 にっこり笑うヒュトロダエウスを睨む。バカを言うな、と呟いた声がいつもより張りがないことは理解している。それは隣で眠る温もりに気を遣ったわけではない。
……好きな人が、いるのか…………
 思わず、こぼれた声だった。聞かせるつもりはなかったが、しかし散々感情を吐露していた古い友人だ。
 どうしようもない。近しい友人だと、それこそ一番近いのだと、思っていた。それでも、知らされることのない感情もある。こうして深く酔って、夢と曖昧になってようやくこぼす、アゼムの想う相手。変わらずに醜く、叶うなと願う感情がある。
……これを寝かせてくる」
 アゼムを抱え上げ、寝室に連れていく。三人でエメトセルクの家で飲むときは、大概アゼムはエメトセルクの寝室で寝て、エメトセルクはリビングで寝て、飄々とヒュトロダエウスは家に帰る。それがいつものことだ。けれどももしやそれを注意する必要もあるのか、なんて考えて。結局言葉を飲み込んで、伝えないほうが、まだ、なんて。
 己の寝具で眠るアゼムの寝顔は穏やかで、酒精で赤らむ頬が、どうしようもない。込み上げる感情を吐息で逃がして、伸ばして触れかけた指先を握り込む。握り込んだ指に、まだアゼムが触れた手の熱が残っている。それを、長く、長く。少しでも長く、許されたい。
 リビングから戻ると、じっとりとヒュトロダエウスがエメトセルクを睨む。はぁ、と息を吐いてよいしょ、と立ち上がった。
「時折、キミのその慎重さをどうにかするべきだと思ってしまうよ」
「うるさい」
 やれやれ、と息を吐いてヒュトロダエウスが手を振りながらエーテルを解く。あっという間に転移した友人を見送って、ソファーにもう一度座り込む。少し隣に手を触れれば、まだ温もりが残っていて。それを手放したくなくて、頼むから彼女の願いが叶わないでくれと祈る醜く酷い心で、明日からもエメトセルクはアゼムの友人の顔をするのだ。