ちよど
2024-12-14 00:00:00
8046文字
Public わし様など
 

ぐだ子とカウラヴァがカジノで訓練をする話

カジノに囚われたマシュを救い出せ!!(嘘ではない)。pixivより再掲

立香ちゃん「そんなRTAありーーーーっ!?」

※女性が暴行される(寸前)の描写があります

「いいか、立香。ここではサーヴァントは『いない』と思え」

 優雅なチェアに腰を下ろしてドゥリーヨダナは組んだ手に顎を乗せた。
 彼は腰までの紫の長髪を流し。上品なロイヤルパープルのスーツを身に纏っている。彼の背後には白いスーツを来たアシュヴァッターマンと、黒いスーツを着たカルナが立っていた。
 ドレスを着せられた立香はドゥリーヨダナと丸い大理石のテーブルを挟んで座り、細かいニュアンスを繰り返した。
「手助け出来ないのではなく、いない?──じゃあ、ドゥリーヨダナ達はどういう設定?」
 彼女の声と重なるように賑やかな歓声が聞こえる。
 彼らから少し離れた大きなテーブルでは十人ほどの人々が賭けに興じていた。
 天井に設置された大画面のモニターが彼らの手元を写している。
 ここはカジノ、という設定で作られたシミュレーションだ。
 シミュレーションルームでの訓練は何度も何度もこなしていた立香だが、それらは生き残りを目指すサバイバルばかりでカジノでの訓練は初めてだった。
 この訓練を提案したらしいドゥリーヨダナが両手を広げる。
「わし様は名もなきただの王子、カルナとアシュヴァッターマンはその護衛だ」
 ドゥリーヨダナの背後でふたりが頷く。
 『設定』を理解していないのは立香だけのようだ。
「名もなきただの王子様っておかしくない?」
「うむ。たがわし様の高貴なスメルはどうやっても隠しきれんだろう?王と名乗ってもよかったんだが」 
『シミュレーションがおかしくなるからあまりトンチキな設定を持ち込まないでくれるかな?』
 どこからともなくダ・ヴィンチちゃんの声だけが響く。
 この場に似つかわしくない幼い少女の声に、賭博に興じている人々はなんの反応もしなかった。
 楽しそうな彼らと訓練の言葉がどうしても結びつかなくて立香は首を傾げる。
 そんな立香を眺めてドゥリーヨダナが足を組んだ。その口元に悪辣な笑みが浮かぶ。
「肝心な訓練のオーダーをまだ説明しておらんかったな。」
 立香は聞き逃すまいとドゥリーヨダナの顔を見つめた。

「なに簡単だ。──このカジノのどこかにマシュが囚われている。救出せよ」

 立香の顔が強張った。
「サーヴァントがいない状態で?」
「サーヴァントがいない状態で、だ。ちなみに救出が遅くなればなるほどマシュにはペナルティが課せられる」
「なっ!?」
 思わず椅子から立ち上がった立香にドゥリーヨダナは手のひらを向けた。
「おまえに与えられたものは、その体と、わし様というアドバイザー。そしてアシュヴァッターマンとカルナだ。──上手く使わないとあの娘はかわいそうなことになるだろうな」
「──この、悪属性!」
「わし様を罵る暇があるのか?立香」
 にやにやと笑うドゥリーヨダナから視線を外して、立香は辺りを見渡した。
 本来ならいくつかのテーブルがあるだろうカジノで、用意されているのは立香たちの近くのテーブルのみ。
 明らかなヒントに目を凝らすが、数字と賭けの倍率が描かれたテーブルにチップを置いて、サイコロを投げては一喜一憂している人たちに不審な点などない。
 立香は椅子に座り直した。
 息を吸う。吐いて。また吸う。
「──最初は、情報を集める」
「5点加点」
 ドゥリーヨダナの評価に立香は言葉を続ける。
「肝心なのは。誰から、どうやって、どんな事を聞くか」
「それで?」
 立香は改めて賭けに沸き立つテーブルを見た。
 スタッフと思われる黒服は4人。彼らが目を光らせているテーブルを囲んだ客が、持ち回りでサイコロを投げて出目を当てているようだ。
「スタッフに直接聞いても多分何も教えてくれない。狙うなら目端の利く常連で口が軽い人」
「ふむふむ。──では、どうやって?」
 促されて立香は目を凝らす。
 テーブルを囲む人々は様々だ。勝っている人、負けている人。ひとつの数字に大きく賭ける人、少額を何度も賭ける人。サイコロを投げる人を無言で睨む人、囃し立てる人。
……勝っている人が常連かな?」
「それだと店が潰れるだろう?」
「だよねー」
 ドゥリーヨダナの正論に頷いて、立香は目を凝らした。
 スタッフの黒服の対応はどの客にも差がないように見える。
「うーん」
 悩む立香にドゥリーヨダナが手を打ち鳴らす。
「少し、客層を分かりやすくしてやろう」
 振り向いた彼女にドゥリーヨダナは拳を広げて見せた。
 その手の中にはサイコロ。
 ドゥリーヨダナの叔父の、望んだ目が出せるイカサマ骰子だ。
「ダ・ヴィンチ!これをあのテーブルのサイコロと交換してくれ」
『いいけど、立香ちゃんに使えるのかい?』
 英霊の所持品はその逸話の関係者にしか扱えない事が多い。
 ダ・ヴィンチちゃんの疑問に、ドゥリーヨダナはなんでそんな事を言われるのか分からないと子供のような顔をした。
「は?使えないが」
「ちょっと!!」
 じゃあなんでわざわざ細工のあるサイコロを交換したのか!?と声をあげた立香に、ドゥリーヨダナは指を4本立てた。
「この骰子を使えるのは4人だけだ。持ち主のシャクニ叔父、わし様、わし様の1番上の弟。──そしてカルナだ」
「へ?カルナ??」
 カルナが召喚されたばかりの頃ならともかく、今の立香はカルナが真面目で思慮深い人物だと知っている。
 思わずカルナを見つめると、カルナは小さく頷いてドゥリーヨダナの話を肯定した。
「この4人は同じ単語で括られて語られているからな。縁が強い」
 カルナの隣に立っていたアシュヴァッターマンが不本意そうに教えてくれる。
 それにドゥリーヨダナは楽しそうに5本目の指を増やした。
「拗ねるな、拗ねるな。今回は連れてきてやっただろう?」
……俺はこんな訓練はやるべきじゃねえと思う」
 アシュヴァッターマンの言葉に立香は首を傾げる。
 ドゥリーヨダナの事をろくでなしだのお調子者だと言うが、基本的にドゥリーヨダナに従うアシュヴァッターマンが『やるべきではない』と言う訓練。
 設定からして常とは異なるこの状況で、何を訓練しているのか。立香には知らされていない。
 ドゥリーヨダナがひらひらと手を振った。
「いくら兎がかわいいとは言え、獅子の狩り方ばかりを教えるのは愚かではないのか?」
「だけど、旦那。それは」
『──さあ、すり替えたよ』
 ダ・ヴィンチちゃんの声がアシュヴァッターマンの言葉を遮った。
「出番という事だな」
 虚空からじゃらじゃらと落ちてきたチップを受け止めて、カルナがテーブルに向かう。
 その後ろ姿を見ている立香にドゥリーヨダナは説明した。
「今からカルナが騒ぎを起こす。──人は思いもよらない出来事に遭遇した時に本性が出やすい。よぉっく見ておけ」
 カルナの参入に合わせて、ゲームが仕切り直される。最初にスタッフが投げるサイコロはもちろんシャクニの骰子だ。
 そしてカルナが賭けた数字は出なかったようで、チップが回収される。
 サイコロがカルナに渡される。
 ためらいなくカルナが全てのチップをひとつの数字に賭けた。
 そして無造作に骰子を投げた。
 ──当然、カルナが賭けた出目が揃う。
 どよめきの中、5倍以上になって返ってきたチップをカルナは白い指先で弄んだ。
「容易いものだ」
 そりゃイカサマしているからね。
 心の中で突っ込んで、立香は人々の動きを見る。カルナの手元を食い入るように見つめている者、スタッフに思わせぶりに視線を送る者、カルナの側へと立ち位置を変えようとする者。
 カルナが投げたサイコロをスタッフが回収する。次はカルナの隣の人が投げる番だ。
 演出された奇跡が起こったばかりのテーブルにチップが競うように乗せられる。カルナも賭けたようだ。
「お金がない人と、自称常連さんは分かった気がする」
「うむうむ。それで」
「カルナは私が使っていいんだよね?ならカルナが稼いだチップは私が使用してもいい?」
「よかろう」
 ドゥリーヨダナの許可が出たので、立香はカルナに近づこうと立ち上がり、テーブルを離れた。
「一億点減点。──おまえ、死んだぞ」
 突然の減点に立香はドゥリーヨダナを振り返る。人好きをする男の温度のない表情が立香の視線を受け止めた。
「え?なんで?」
 立香は何もしていない。ただ歩いただけだ。
 混乱する立香に、アシュヴァッターマンが痛ましそうに眉を寄せた。
「マスター。それは俺から離れたからだ」
「アシュヴァッターマンから?」
 辺りを見回すがここは戦場でも何でも無いただのカジノだ。立香とアシュヴァッターマンの距離も1メートルと離れていない。
「こらこら答えを教えるな」
 苦笑したドゥリーヨダナがアシュヴァッターマンをたしなめる。
 その顔が立香に向いた。ゆっくりと虎のような笑みが浮かぶ。
「立香。マシュが囚われている以上、ここが敵地なのは分かっておるな?」
 はっ、と。立香はアシュヴァッターマンを振り仰いだ。
 アシュヴァッターマンは、スーツを着ていてもわかる逞しく鍛えられた肉体をしている。
 比べて立香はまだ少女の域から出ていない。動きにくいドレスを纏った小柄な体に筋肉の付かない手足。
 見るからに強そうなアシュヴァッターマンが側にいなければ、マシュを囚えるような悪意ある者から立香は身を守る事が出来ないのだ。
「わし様は言っただろう?サーヴァントはいないものと思えと」
 ドゥリーヨダナの言葉に立香は唇を噛んだ。
 今まではマシュかサーヴァントが常に傍にいた。
 立香がどう動こうが、誰かが自分を守ってくれていることが当たり前だったのだ。
 サーヴァントがいないという事。この3人はサーヴァントとしては動かない事。
 ──その意味を立香はやっと気づいた。
「アシュヴァッターマン、カルナの所に行くからついて来て」
「まあ、10点ぐらいは加算してやろう」
 にやにやと笑うドゥリーヨダナにアシュヴァッターマンが天井のモニターを示した。
「その前に。旦那、あれ見た方がいいぜ」
 

「何をやっとるんだぁ!!!」


 ドゥリーヨダナが絶叫する。
 画面ではカルナがかなりの量のチップをそこそこ倍率のいい数字に賭けていた。
「あれはどう見てもカモ用の罠だろぅ!!なんで引っかかるんだ!?あー!!プラフじゃないから見抜けないのかぁああああ!!!」
 カルナの嘘や本質を見抜けるスキルでは、偽りのないルール上のデメリットは見抜けなかったのだろう。
「どうする?あれ、確率に対しての倍率が低すぎるよな?」
 一方、アシュヴァッターマンは指定されている数字と報酬の倍率、そしてサイコロの出目の確率でその不利に気づいた。
 ゲームが教養である王族のドゥリーヨダナと学問に秀でたバラモンであるアシュヴァッターマンはともかく、カルナは確率の計算方法など生前学ぶ機会などなかったのだ。無理もないことではあるが。
「あぁ゙ー!!」
 さっきまでの泰然自若とした態度を投げ捨ててドゥリーヨダナが頭を抱えてのた打ちまわる。
「なんで!なんで!そういういらん所は弟に似るの?母親の血なの??」
……ドゥリーヨダナ」
 騒ぎに気づいたカルナが振り返るのにドゥリーヨダナは手をひらひらと振った。
「続行だ。一度ペットした掛け金を戻して欲しいなど通用せん。──後はガネーシャ神にでも祈っとけ」
「了解した」
 馬鹿正直に両手を組み合わせたカルナの隣でサイコロが投げられる。
 ガネーシャ神の加護は届かなかった。
「──という訳で、当てにしていた金はほとんどなくなったのだが。どうする?立香」
 疲れた顔で言ったドゥリーヨダナに、立香は引きつった顔で答えた。
「お金以外だと暴力しかない?」
「まあ、そのふたつが手っ取り早いよな。後は利益か人質か。──酒!」
 ドゥリーヨダナが指先でボーイを呼びつける。
「飲まずにやっていられるか、」
 渡されたグラスを煽ったドゥリーヨダナは戻ってきたカルナをジト目で睨んだ。
「おまえ、賭け事禁止」
「────」
 沈黙するカルナにドゥリーヨダナはため息をつく。
……わし様のいないところでは賭け事禁止」
「承知した」
 コントのようなやり取りに吹き出しそうになった立香をアシュヴァッターマンが見た。
「おい、だいぶ時間が経ったぞ」
 立香の顔から血の気が引く。
「──ペナルティって、」
「教えるわけがなかろう」
 ペナルティの内容が分からないからこそ良くないことを想像してしまう。
 カルデアの皆は優しいが、──厳しい。立香のためだと言われればマシュはペナルティがなんであれ納得してしまうだろう。
 ドゥリーヨダナはなんのかんの言ってもヒントをくれている。
「私を連れてカルナにまた賭けをしてもらう事は出来る?」
「元手を増やすようなズルはせんぞ」
「骰子だけでも充分ズルだよ。自分の番だけ大当たりするんだから」
「──それで?」
 口元だけで笑って先を促すドゥリーヨダナと反対に、アシュヴァッターマンは明らかに嫌そうに顔をしかめた。
 そんなアシュヴァッターマンに謝るように視線を下げて、立香は自分の考えを口にする。

「自分の番だけ謎の大当たりをする人の連れがのこのこ歩いていたら、欲がある人は声を掛けたくなるよね」

「──それだけなら、ジャッカルに肉を与えただけで終わるな」
 立香はドゥリーヨダナの背後に立つアシュヴァッターマンを改めて見た。
「アシュヴァッターマンに近くに控えていてもらう」
「それはわし様のアシュヴァッターマンが比類なき戦士だからこそ成功する手段だ」
「──アシュヴァッターマンも、カルナも。英霊になる前から強いよね?」
 武勇以外で英霊になった者も多いが、この2人は明らかに比類ない武勇の逸話で英霊の座に登録された者だ。サーヴァントでなくても生前から強い。
 だから『設定』には反していないと立香は言う。それにドゥリーヨダナは嬉しそうに笑った。
「わし様がそれを否定出来るはずがないな。生前も今もわし様のアシュヴァッターマンとカルナは比類なき戦士だ。──よかろう、十億点加点だ」
「私の生死は一億点で、アシュヴァッターマンとカルナは十億点なんだね」
「当たり前だろう」
 身内に甘いドゥリーヨダナが胸を張るのを立香は苦笑して、続いた言葉に絶句した。

「おまえをわし様たちが死なせるはずがないからな」

 ドゥリーヨダナの薄紫の瞳が硬質な輝きを放つ。
「おまえは弱い。そりゃあもう兎のごとく弱い。武勇の逸話が欠片もない文系サーヴァントですらデコピンひとつでおまえを殺せる。──そして、同じ人間が相手でもおまえは弱者なのだ」
「旦那」
 アシュヴァッターマンが口を挟もうとするのを、カルナが手で制した。
「たとえばあそこにおる男」
 ぱちり、とドゥリーヨダナが指を鳴らすと。賭けに興じていた男のひとりが立香の背後に現れる。その手が立香の腕を掴んだ。
 引き倒される。
 床に抑え込まれて立香は暴れたが、男の体はびくともしない。

 ──サーヴァントでもなく、特別鍛えているようにも見えないのに。

 立香だけではこんなどこにでもいる男が相手でも抵抗出来ないのだ。渾身の力を込めて押し返す、噛みつく、ひっかく、だけど──男は揺るがない。
っ、た、たすけ、て」
 瞬間、男の体が吹っ飛んだ。
 アシュヴァッターマンが殴り飛ばしたのだ。
 険しい表情でふらふらな立香を助け起こしたアシュヴァッターマンはドゥリーヨダナを怒鳴りつけた。

「やり過ぎだ!!」

「そうかぁ?──押さえつけただけで何もしとらんだろう?」
 穏やかにも聞こえるドゥリーヨダナの言葉に立香から血の気が引く。
 そういう危険もあるのだと言葉では忠告されていたが体験したのは初めてだった。震えが込み上げてくる。
 もしこれがシミュレーションではなく、アシュヴァッターマンたちがいなかったら。立香には成すすべもなかった。
 ドゥリーヨダナが組んだ手をテーブルに乗せる。
「昔、戦象の使い方が巧みな男がいた。その男が操る象と戦って勝てたものは誰もおらんかった。──嫉妬に狂った他の象使いがどうしたと思う?」
……わか、らない」
 立香の返答にドゥリーヨダナは片方の眉を動かした。立香が答えを分かっていると理解しているのだろう。
 でも、ドゥリーヨダナは正解を告げる。

「簡単な事だ。──象から降りた時によってたかって袋叩きにした」
 
 この話は立香とサーヴァントの事だ。
 サーヴァントが傍にいない立香は象から降りた象使いよりも無力だ。
 だから、この訓練の。サーヴァントが『いない』という設定の訓練の正解は。

「正解は。ギブアップ。──もしくは誰かに助けを求める」

 立香の回答にドゥリーヨダナがにやりと笑う。
 そんな彼を立花は睨みつけた。
「アドバイザーのドゥリーヨダナも、使っていいって言われたアシュヴァッターマンもカルナも。マシュへのペナルティも、全部、私を誘導する罠だったんだね」
 責めるような口調の彼女にドゥリーヨダナは笑った。
「サーヴァントは獅子のようなものだ。兎のおまえにはその戦い方は真似出来ん。兎は兎であることを忘れるべきではない」
 不意にドゥリーヨダナが表情を変える。魔性の香りが漂った。

「だが──もしおまえが獅子になりたいというならば。わし様は協力するぞ」

 バラモンでありながらクシャトリヤとして生きたアシュヴァッターマンと、御者の息子として育ちながらクシャトリヤとして死んだカルナを従えて、人悪のカリスマは囁く。
 突如沸き起こった、むせ返るような花の香りを振り払うように立香は首を横に振った。

「私は──私は。私のままがいい」

『なら、他のみんなにもやりすぎないように伝えておこう!』
 突然のダ・ヴィンチちゃんの声に空気がきれいに霧散する。
『最近、マスターへの教育が加熱しすぎているきらいがあったからね』
「だから、こんな訓練を?」
 立香の疑問に答えたのはドゥリーヨダナだ。
「サーヴァント連中の教えすぎへの忠告と、おまえの危機意識のなさを自覚してもらうのと、現状把握。まあこの訓練の目的はこんなところだ」
 大きく伸びをしたドゥリーヨダナに、カルナがカクテルを差し出す。
 水のように一息で飲み干したドゥリーヨダナにアシュヴァッターマンが眉間に皺を作った。

「だからといって、こんなやり方をしなくてもいいだろ」

 そんなアシュヴァッターマンにドゥリーヨダナはやれやれと言わんばかりに首を振った。
「大抵の人間は体験からしか学べんものだ。──立香。おまえはこれを口で説明されて実感出来たか?」
「ううん」
 忠告だけなら今まで何度も受けていた。サーヴァントから離れないこと。女性としての危険があること。でも、それはあくまで聞いた話でしかなかった。
 立香はシミュレーションされた男に掴まれた腕を擦る。感触がまだ残っている気がした。

「──ちなみに、ドゥリーヨダナだったらこの訓練はどう攻略したの?」

 話を変えた立香にドゥリーヨダナは黙ってカクテルのグラスを揺らした。
 ボーイがやってくる。新しいグラスを受け取って、──ドゥリーヨダナはその中身をボーイにぶちまけた。

「無礼者。支配人を呼べ」

 王族の顔で言い放ったドゥリーヨダナは、すぐに人懐こい笑みを立香に向ける。
「これでアシュヴァッターマンとカルナをつれて支配人と『お話』出来る。攻略完了、だ」

「そんなRTAありーーーーっ!?」

 叫んだ立香にドゥリーヨダナは声をあげて笑った。


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