ちよど
2024-12-13 00:00:00
1994文字
Public アシュヨダ
 

アシュくんの逆鱗の話

アシュヨダ。優しいアシュくんはいません。pixivより再掲。

ヨダナさん「なにもそこまでせんでも」

「助けてくれてありがとうございます!よかったらうち宿屋をやっているので泊まっていってよ!」

 そう言ってドゥリーヨダナが助けた子供がマスターたちを案内したのは少しくたびれた小さな建物だった。
 今回のレイシフトのメンバーは、ドゥリーヨダナとアシュヴァッターマン。そして斎藤一の合計四人。
 数時間前、彼らが到着した中世のヨーロッパに似たこの世界では街は城壁に囲まれていた。
 傾きつつある夕日に照らされながら、どうやってマスターを連れて中に入ろうかと考えあぐねていたその時、ドゥリーヨダナが面白いものを見つけたような顔をして駆け出していったのだ。
 結果として、ドゥリーヨダナと彼を追いかけたアシュヴァッターマンは賊に襲われていた子供を助けた。
 ふたりに合流したマスターたちが今晩休めるがないか尋ねると、その子供は宿を勧め、城壁の中に案内してくれたのだ。

「ドゥリーヨダナの旦那。あんたの気まぐれもたまには役に立つねぇ」

 斎藤一のからかい混じりの言葉に古びたベッドに横になっていたドゥリーヨダナは薄い掛布をもぞもぞと引っ張った。
 日は暮れて、宿の主人から食事を振る舞われたマスターは部屋の一番奥。窓際のベッドで眠っている。
 こじんまりとした小さな宿。その二階の客室からは闇に沈んだ細い路地が見えていた。
 壁際に並んだ四個のベッドには、マスター、斎藤一、ドゥリーヨダナ、アシュヴァッターマンが順に横になっている。
 サーヴァントは人間に比べて夜目が効く。マスターの眠りを妨げないように彼らはランプを消し、囁き声で会話していた。
「なに、わし様の先見の明が発揮されるのはこれからだ。──それにしてもこれ、紙の方がマシではないか?」
 ペラペラの掛布を摘むドゥリーヨダナに
「旦那、俺の分を使うか?」
 出口に一番近いベッドからアシュヴァッターマンが掛布を差し出そうとする。それにドゥリーヨダナは首を振った。
「こんなもの一枚や二枚増えたところで──」
 不意にドゥリーヨダナが口を閉ざす。三人の視線が交わる。示し合わせたかのように動きを止めて眠ったふりを始めたサーヴァントたちに階段を登る足音がいくつも届いた。
 足音は彼らの部屋の前で止まる。
 しばらくの沈黙。
 そして、ゆっくりとドアが開かれた。
 一人分の足音が目を閉じているアシュヴァッターマンの横を通り過ぎていく。
 足音が止まった。

 鈍い音が弾けた。

 ドゥリーヨダナがため息をつく。

「なにもそこまでせんでも。──アシュヴァッターマン」

 呆れられたアシュヴァッターマンはドゥリーヨダナの前に立ち、ベッドとは反対側の壁を見ていた。
 ベッドから瞬時に移動したアシュヴァッターマンの、その足元には大振りのナイフが落ちている。
 壁に散らばった赤い塊が落としたナイフをアシュヴァッターマンは忌々しそうに蹴り飛ばした。
「え?なに?」
 騒ぎに目を覚ましたマスターに斎藤一は掛布を頭から被せる。
「マスター、ちょっとこのままでいてくれ。──馬鹿が頭を蹴り潰してしまってすごいことになってんのよ」
 斎藤一は、子供の、とは言わなかった。
 服装や体格からアシュヴァッターマンが蹴り殺したのは先程ドゥリーヨダナが助けた子供だろう。
 ナイフを持っていたということは子供がいた位置からしてドゥリーヨダナに危害を加えるつもりだったと思われるが。
「やりすぎじゃない?」
「──アシュヴァッターマン。こんな街の近くで強盗など茶番だと分かっていただろう?」
 最初から子供が旅人を誘い込むための罠だと分かっていたと告げるドゥリーヨダナに、アシュヴァッターマンは表情が抜け落ちた横顔のまま答えた。

「でもこいつはあんたに助けられた。──だと言うのに、俺を通り過ぎてあんたを害そうとしたんだ。許せるはずがないだろう」

 金色の目を煮えたぎらせたアシュヴァッターマンに斎藤一は顔を少し引き攣らせ、ドゥリーヨダナは大きなため息をついた。
「わし様は気にしとらんぞ」
 答えないアシュヴァッターマンにドゥリーヨダナは繰り返した。
「わし様が気にしとらんものをおまえが気にする必要はない。──それよりも、子供に命令した奴がまだ残っておるだろう?」
 アシュヴァッターマンが弾かれたようにドアを蹴り飛ばす。
 そこには事態を理解出来ておらず聞き耳を立てていた大人たちが数人立っていた。
 ドゥリーヨダナがくつくつと笑う。
「今度は殺すな。いろいろと教えてもらわんとならん」
「分かった」
 言葉少なく応えたアシュヴァッターマンがあっという間に容赦なく大人たちを行動不能にするのを眺めて、斎藤一は呟いた。

「大人しい奴は怒ると怖いって言うが。──普段怒っている奴でも逆鱗に触れられるとさらに怒るんだねぇ。くわばらくわばら」


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