発端の漫画。リモート会議などに映りこむ猫さんの話が好きなので。

これも同じ設定の二人。
キャラ設定
亜双義一真 大学生 弁護士を目指している。実家暮らし。飼っている猫は仮面をつけたような柄なのでにゃめんと呼ばれている。
バロック・バンジークス 一真が通う大学の講師。本業は翻訳家。ニュースやルポを主に手掛ける。イギリスから日本に来る際、愛猫にゃんじーくすを連れてきた。
バロックのリモート講義に猫が写り込んだ回の感想は猫についてのものばかりだった。
あまり人を寄せ付けず、学生や他の教員との関りも少ないので猫を可愛がっているギャップに惹かれた学生も多い。
一真の感想は講義の内容に即したものだったが、最後におまけのように画像と一文が添えられていた。
「うちで飼っている猫が、先生の猫を見た瞬間、会わせろと言わんばかりにモニターに頭突きして大騒ぎしました」
ややブレた白黒ハチワレの子猫の写真が愛らしく、にゃんじーくすを抱き上げて見せてみた。
「きみの魅力は画面越しでも伝わるようだ」
にゃんじーくすはPCの画面をじっと見て、前足を伸ばしその写真を撫でるような仕草をした。バロックを見上げて、切なそうな声を出す。
「会いたいのか?」
まさかと思いながら聞いてみると、その通りだと言うように、高らかに一声鳴いた。
講師の身で学生を自宅に招くなど自分の主義に反するが、人間の都合で遠くイギリスから日本まで連れてきた愛猫の初めての訴えを無視したくもない。
特例だと自分に言い聞かせて、またハラスメントにならないよう気を付けて一真に声をかける。
うちの猫が君の猫に会いたいらしい。一度、連れてきてくれないか。
ナンパのような内容だが、そんな人ではないだろうことは講義の態度からも分かっているし、家の猫もあれから毎日のように、
バロックの講義を映したタブレットに体当たりしてくるので会わせてやれたらいいのに
…と思っていたので了承した。
呼ばれた住所を訪ねると、明らかに、本当に金を持っている人が住むんだろうという低階層の高級マンション。
インターホンで到着を伝え、バロックの部屋に向かう。
ドアが開いた瞬間、猫が駆け寄ってきた。一真が持っている、キャリーバックをのぞき込んでいる。
にゃんじーくすとにゃめんの初対面。
玄関に招き入れられた一真は、キャリーケースを開ける。飛び出すにゃめん。まるで生き別れの親子や兄弟でもあるかのように
ぴったり寄り添う二匹。
その仲の良さに驚く一真とバロック。
バロックは現在このマンションに一人と一匹で暮らしている。一部屋は猫用に設えていて、おもちゃやベッド、キャットタワーが並んでいる。
にゃんじーくすはお気に入りのおもちゃをにゃめんに見せ、一緒に遊び始めた。
「前に会ったことがあるのだろうか」
「うちのにゃめんは庭先に迷い込んできた元野良猫だ。うちに来てからは敷地外に出てないはず」
「にゃんじーくすは、イギリスから連れてきて以来、病院以外で他の猫と会ったことはない」
人間が?を浮かべる中、猫二匹は仲良く遊び、美味しいおやつをもらい、一緒のベッドでぎゅうぎゅうにくっついて寝ている。
夕方になりそろそろ帰ろうとするが、お互い離れたがらず、結局夕飯を用意してもらうことになった。
帰る時には二匹そろって切ない声を出すので、また近いうちに連れてくる約束をする。
そこから何度も、週末にはにゃめんを連れて遊びに行くようになった。
バロックのマンションは他に人の出入りの気配がない。あまり頻繁に訪ねるのはよくないかとも思ったが、
にゃんじーくすとにゃめんが仲良くしている様子を見ると、できるだけ会わせてあげたい気持ちになり通う頻度は上がっていく。
自分が以前好きだと言ったお菓子や飲み物が用意されていることに気がついた頃には一真にとっても居心地のいい場所になっていた。
猫同士気ままに過ごしているので、一真は課題をやったり、持ち込んだゲーム機をやたらでかいモニタに繋いでゲームをしたりしている。
バロックも最初こそは気をつかっていたが、一真が好きに過ごしているのを見て自分も仕事をしたり読書をしたり、
時には一緒にでかいモニタで映画を見たりと気ままに過ごすようになった。
この部屋にいる時、二人は講師と学生ではなく、猫の飼い主同士なのだ。
試験期間が近づいてきた。講師の元に学生が来ていることがバレたら、たとえ試験内容を教えたりしていなくとも
疑われて処分されるかもしれない。二人で相談して、試験が終わるまでは遊びに行かないことにした。
試験が終わり、久しぶりににゃめんを連れて部屋を訪れると、二匹はぴたりと身を寄せ合い、絶対に離れないとでも言うかのようだ。
夜になりさすがに帰ろうとにゃめんを抱き上げると、にゃんじーくすが足に抱き着いて放してくれない。
困惑する二人。
「申し訳ないが、にゃめんを泊めてもらってもいいだろうか」
「構わないが、明日また迎えに来るのは手間だろう。にゃめんと一緒に泊っていくとよい」
部屋は余っており、その一つは客間だ。今まで使われたことはないが。
猫たちの訴えと、家主からの提案ということもあり一真は泊まることにした。
バロックから借りた部屋着は大きく、裾を何回もまくる必要があった。
風呂を借り、髪を乾かしながらリビングに向かうとバロックの膝ににゃんじーくすとにゃめんが乗っている。
両手で二匹を撫でるその顔はとても穏やかで優しく、愛しいものを見つめる目をしている。
講義の様子からは想像もつかない。この顔を知っていることに少し優越感を感じていた。
それ以降、一真に予定のない連休には泊まるのが常となった。
いつでも部屋にいるバロックのことは少し気になるが、仕事は在宅が基本、大学の講師室も必要な時しか顔を出してない。
にゃんじーくすもいるので出かけるのは最低限にしているという。
良ければ家に呼んでおもてなししたい、という一真の母の提案にバロックは少し戸惑ったが
家が古い武家屋敷であると聞き、見てみたいという気持ちに抗えずお邪魔することにした。
いつもとは逆で、バロックがにゃんじーくすを連れてやってくる。
小さい頃、友達が家にお泊りに来た時のそわそわした気持ちを久しぶりに一真は感じる。
にゃめんはにゃんじーくすを連れて、さっそく自分のお気に入りの場所めぐりを始めている。
バロックは一真の母に挨拶をしてから、家を案内してもらう。
自分も古い屋敷で育ったからか、日本の古い建物にも興味があり、住んでいるところが見れるのは嬉しい。
そう言って楽し気にしているバロックを見ていると、一真は自分の家が誇らしく思える。
にゃめんとにゃんじーくすが柱で爪とぎをしているのは慌てて止めた。
一真の母は、バロックとにゃんじーくすのことがとても気に入ったらしい。またいつでも来て欲しいと告げた。
バロックの部屋でTVを見ていると、結婚についての特集番組が流れた。
「バンジークス先生は、結婚を考えたことはありますか?」
特に深い意味はない。世間話のつもりだった。だがそれを聞いたバロックの顔はとても暗い。
「
……考えたことは、ない」
その言葉の重々しさに、一真はとても無神経なことを聞いてしまったと反省した。
バロックは恋人どころか、親しい友人もいる様子がない。美しい容姿は目立つ程だし、よく通る声は耳に心地よい。
物静かだが陰鬱なわけではなく、誠実で親切な人柄だ。人から好かれる要素は多いのに、これはわざと遠ざけているのでは?
何か事情があるのかもしれないと思い、安易に触れぬことを心に誓った。
猫たちと遊んでいた一真が、ふとバロックの視線に気が付く。
あの、愛しいものを見つめる目だ。傍で戯れている猫たちに注がれているのだろう。
自分にもこの目が向けられればいいのに。
なぜそんなことを思ってしまったのか、一真自身にもわからなかった。
バロックのマンションの近くに、新しいカフェができた。
「来る途中にメニューの看板を眺めてみたら、美味しそうなものばかりでしたよ」
「そうか。今日のランチはそこにしようか?」
外食の提案をされたのは初めてだった。基本的に、猫と過ごすために来ているので食事は宅配を頼むか、
バロックが作るか、であった。母から食材を持たされた一真が作ることもあった。
ランチであれば、一時間程度。場所もすぐ近く。この程度の留守番ならばできる。
二匹一緒なら寂しい思いもさせない。
初めて、二人きりで過ごす時間だった。いつも一緒に猫がいるから。
気になるメニューばかりで悩む一真に、バロックはシェアを申し出た。
出てきた料理は予想以上に美味しい。あれこれと口に運び、満足げに頷く一真。
その様子を眺めるバロックの目は、猫たちに注ぐあの愛しいものを見る目だった。
それに気がついた一真は、胸がどきりとしてむせてしまった。
自分も、猫たちと同じくらい大事な存在になっているのだろうか。
慢心してはいけないと自戒しつつも、嬉しさに頬が緩んでしまう。
バロックからは、料理の美味しさに喜んでいるようにしか見えていないはずだ。
部屋に戻ると猫たちは仲良く昼寝をしていた。
「明日から兄が日本にやってくる。案内をしたいから、猫たちを見ていてくれないか?」
「わかった。兄弟水入らずってやつだな」
一真の口調もくだけて、部屋の鍵まで預かるようになった頃。バロックの兄が来日することになった。
「お兄さんはここに泊まるのか?」
「いや、懇意にしているホテルに部屋を取っている」
あげたホテルの名前は、足を踏み入れることすら躊躇するような高級ホテルだった。
このマンションといい、バンジークス家は相当な資産家のようだ。お国柄、貴族の可能性もある。
それなら少し浮世離れしたバロックの雰囲気にも納得がいく。
バロックの携帯が鳴る。画面の表示を見て、驚いた。
「兄さんだ!?」
慌てて電話に出る。一真は英会話は得意だが、焦って早口になっている状況ではさすがにあまり分からない。
電話を切ったバロックが急いで玄関へ向かうとすぐにドアチャイムが鳴った。
ドアを開けると、バロックと似ているが雰囲気は全く違う、圧の強い美形が立っている。
「早く会いたくて、飛行機を早めてしまったよ。ホテルは明日からで取っているから、今夜は泊めておくれ」
にこにこと笑いながら、玄関に入ってくる。驚くバロックを抱きしめると感極まったように何度もその背を叩いた。
出て行くタイミングを逃した一真が、おそるおそる近づく。
「この少年は?」
「友人の、一真です。にゃんじーくすの友達の飼い主でもあります」
このやりとりは一真にも分かった。挨拶と自己紹介をする。
バロックの兄は、何か探るような目つきで一真を見ている。
「弟がお世話になっているようだね。私はクリムト・バンジークス。よろしく」
よろしく、と言うも目が笑っていないことに一真は気がついていた。
客用の寝室として整えられているのは一室だけ。そこは一真の部屋と化しており、今夜もそこで寝るつもりだった。
寝間着や着替え、読みさしの本まで置いてある。
しかし兄が泊まるのであれば譲るほかない。
「私の部屋のベッドなら、一真と二人で寝れると思うが」
「だったら私と二人でもいいだろう!」
「兄さんとでは、さすがに狭いです」
クリムトからのチラチラと指すような視線が煩わしく、一真はリビングのソファで寝ることを提案した。
バロックがゆったり座れるソファは一真が寝るには十分な大きさだ。
バロックが風呂に入っている間、一真はクリムトから面接のような質問攻めにあっていた。
大事な大事な弟の部屋に居座る若い男。よからぬことを企んでいないか、便利に使っているのではないか。
そんな疑惑をかけられていると分かっているので、一真は正直に、真面目に、丁寧にこたえた。
問い詰められている様に、にゃんじーくすが心配したのか一真の膝に乗ってきた。にゃめんも続く。
猫二匹に慕われている姿を見て、クリムトはようやく話を信じることにしたらしい。
「バロックを大切な友人と思っていることは分かった。どうか、あの子を傷つけるようなことはしないでほしい。
過保護だと思うだろうが、事情があるのだ」
頭を下げられて、一真は戸惑った。一体どんな事情なのか。以前、結婚について聞いた時の暗い顔と関係があるのか。
だがそれはこちらから聞くべきことではないだろう。
「もちろん、彼を傷つけることなどしません。約束します」
風呂からあがったバロックは、兄が一真に、弟の可愛さを語っているところを見て頭を抱えた。
夜、それぞれが就寝した後。バロックはのどが渇き、キッチンにやってきた。
水を飲み終え、リビングのソファで眠る一真の様子を伺う。
横になっている一真のお腹のあたりに、にゃんじーくすとにゃめんが団子になってよりそって寝ていた。
普段、寝室には入れないようにしているので人と一緒に寝れるのが嬉しいのかもしれない。
近寄ってみると、一真がその気配で目を覚ました。
「起こしたか?すまない」
「気にするな。
…こいつら、いつの間に。どおりで腹が温いと思った」
「添い寝してもらえてよかったな」
バロックはソファの前にしゃがみこみ、猫たちを撫でようとする。
「触るなら、責任とってもらうぞ。にゃめんは一度起こしたらしばらく遊んでやらないとうるさいのだ」
「それでは寝不足になってしまうな。我慢しよう」
声を潜めて笑い合う。
そんな二人を、トイレに行っていたクリムトが廊下から見ていた。
ソファの背もたれに隠れているのでよくわからないが、どうやら横になっている一真の腰のあたりにバロックがしゃがみこんでいるようだ。
会話は日本語、しかも小声なので少ししか聞き取れなかった。
「触る
…責任とって
………」
「
…寝不足に
……」
断片的な情報からいかがわしい想像をしてしまったのは、クリムトが弟に対して心配性なせいだ。
「二人、何をしている?」
厳しい口調で尋ねて近寄れば、推測が外れていたことがすぐわかる。
その声で起きてしまったにゃめんの相手は一真がした。
平日の夜。一真から急に泊めて欲しいという連絡が入った。
授業で行う発表の準備をしていたら遅くなってしまったらしい。
大学からは家よりこの部屋が近い。明日も一限があり、早く休むことのできる方が助かるので、図々しいとは思うが頼みたい。
その内容にバロックは快諾し、マンションの前まで迎えに出た。
出迎えられるとは思わなかった一真がびっくりしていると、優しく抱きしめられる。
「頼ってもらえてよかった」
温もりを感じた瞬間には体が離れていて、一真は何が起こったかすぐには理解できなかった。
玄関で出迎えるにゃんじーくすに、一真はすまないと声をかける。
「今日はにゃめんを連れていないのだ。週末には連れてくるから許してくれ」
にゃんじーくすは一真の足に体をすりつけ、優しく一声鳴いた。
「にゃんじーくすは、君のことも大切な友達だと思っているよ」
「
…あなたも?」
失言だった。バロックが人とあえて距離を取っていることを勘付いているのに、自分は特別であってほしいという思いがこぼれ出た。
返事を聞く前に誤魔化すように自分用と化している客室へ向かう。
荷物を置き、リビングに向かうとバロックが暖かいお茶を淹れていた。
それを受け取り、二人、並んでソファに座る。
「うちにきた兄の様子を見て、過保護だと思っただろう?」
「
……少し」
「事情が、あるのだ。私は人から好意を向けられることが
……怖い」
話してくれた事情は、なかなかに辛いものだった。
イギリスで弁護士として働いていた時、親しくなった同僚がいた。
年も近い同期なので時には競い、時には協力する、信頼できる仲間だった。
親しいといっても、職場に限ったことでプライベートで遊ぶようなことはなかった。
仕事仲間としてはちょうどよい距離感だ。そう思っていたのはバロックだけだったらしい。
相手はもっと親密になりたがった。バロックから色よい反応がもらえないせいで待ち伏せや付きまといを始めストーカーとなった。
上司に相談し、対応を考えるという返事をもらった矢先。
バロックはその同僚に襲われ、眉間に深い傷をつけられた。
心が手に入らぬならば、せめて体に消えぬ傷を。
歪んだ愛の結果だ。
当然、同僚は職場を解雇された。バロックも人付き合いが恐ろしくなり、依頼者との適切な関係構築が必須である弁護士という
仕事は続けることが困難となり、辞めた。
心配した兄から大きく環境を変えたらどうかと提案され、日本にやってきた。
クリムトは仕事の関係で日本でのツテがあり、仕事や住まいなどの面倒は全部見てくれた。
環境をかえたとしても、すぐに心が癒えるわけではない。
なかなか人と親交を深めることに積極的にはなれなかった。
「最初は、君に会う時だってとても不安だった。にゃんじーくすから求められなければ
声をかけることだってなかっただろう」
にゃんじーくすがバロックの膝の上に乗り、喉を鳴らす。
「でもそのおかげで、再び人を信頼することができた。君は、本当に大切な友人だ」
愛しいものを見つめる目。それが自分に注がれていることがどれだけ素晴らしいことか。
一真は深く感動しながらも、ほんの少しのひっかかりを感じている。
大切な友人。
自分が求める関係は、本当にそれなのだろうかと。
一真は大学四年生になった。
インターン先の弁護士事務所から声がかかり、そこに就職することを決めた。
「事務所がここから近いんだ。仕事が遅くなった日は泊まってもいいか?」
「もちろん。それならば、もうここに住んだらどうだ?」
「えっ」
「にゃめんも一緒に」
「
……考えておく」
にゃんじーくすとにゃめんは相変わらずとても仲良しだ。できるだけ一緒に過ごさせてやりたいと思う。
でもにゃめんを引き取るのでは、一真たちが寂しい思いをしてしまう。
ならば飼い主ごと住んでもらえばいいのではないか。
そんな算段なのだろう、と一真はふんだ。
それはありがたい提案のはずなのにすぐに頷けなかった。
一真はなかなかその返事をできずにいた。
遊びに行ってもその話題には触れなかった。バロックも答えを急ぐ気はないらしい。聞いてこなかった。
ひと月ほどたった時、これから部屋に行くという連絡を入れると、珍しく外での合流を提案された。
打ち合わせで出版社に出向く必要があり、ちょうど近くにいるのだという。
示された場所に向かうと、バロックが女性と会話をしている姿が見えた。
おそらく打ち合わせをしていた相手だろう。
だとすれば、仕事の話をしているはずだが距離が近い。彼の腕にも何度も触れている。
それが自然なタイプなのか、意図があるのか。一真には分からない。
だが彼の隣に親し気にしている人がいることにもやつきを感じていることは確かだ。
これは、大切な友人に抱く気持ちではない。
近寄ると、バロックは安心したような顔を向けた。予想通り彼女は出版社の人間だった。
これから彼と用事があるので、とバロックが言うと驚いた様子だ。
この二人がどんな関係なのか、一見ではわかるまい。
驚く彼女をおいて、バロックと一真は歩き出す。
答えを告げよう。一真は覚悟を決めた。
部屋につき、にゃめんをキャリーケースから出してやる。
待ちきれないとばかりに飛び出し、出迎えるにゃんじーくすと仲良くお互いの毛づくろいをする。
ずっと一緒に暮らせるなら、きっと猫たちは幸せだろう。
ソファに座るバロックの前に立ち、一真は神妙な面持ちで口を開いた。
「一緒には、暮らせない。貴方を好きになってしまったから。
好きな人との同居。願ってもないことだ。
でもこの気持ちを隠して過ごし続けたら、いつか傷つけてしまうかもしれない。
それだけば絶対にしたくない」
バロックは驚いた顔で一真を見上げる。
小さく開いた口からは、なかなか言葉が発されない。
「にゃめんは連れてきてやりたい。でも貴方が恐れるなら、この部屋では過ごさない。
それも嫌なら母に頼もうと思う」
一真の顔は、どんどん曇っていく。ここで二人と二匹で過ごす時間はかけがえのないものになっていた。
手放すのは惜しい。それでも、バロックの気持ちを優先したい。
いまだ茫然とした面持ちで黙っているバロックにしびれをきらし、一真は猫たちが遊んでいる部屋に向かった。
二匹は一真の告白など知らず、元気に仲良く遊んでいる。
おもちゃを手に取ると、遊んでもらえると察した二匹が近づいてくる。
もうここでこうして遊ぶこともないかもしれない。
力いっぱい遊び、猫たちが飽きたと同時に疲労感がどっと押し寄せた。
床に座り込んでから、あおむけになって寝転ぶ。
「一真」
部屋にバロックが入ってきた。一真は立ち上がる気力もなく、顔だけ彼に向ける。
近づいてきたバロックは、一真のそばにしゃがみこんだ。
見下ろすその目は、猫たちに向けていたものとは違い、熱を帯びていた。
「私はズルい人間だ。親切のふりをして、君を傍に留め置こうとした」
「え?」
「いつからだろう。にゃんじーくすがにゃめんを見送った後、いつも切ない
声で鳴くのだが、自分もその気持ちに同調するようになっていた。
君は、人を信じることを思い出させてくれた大切な友人。
その成長を嬉しく思っていたのに、いざこれから広い世界に飛び立つとなったら、
放したくないと思ってしまった。これは、もはや友人に対する気持ちではない」
「
……俺と、同じ気持ちだと解釈していいか?」
こくりと頷く。
「キスしてくれ。それができないなら、同じ気持ちではない」
一真に覆いかぶさるようにして、バロックはその額に口づける。
そうではない、と言おうとした口はふさがれた。
急な深くて熱いキスに驚き、空気を吸い損ねて一真の視界がぼやける。
バロックは何度も角度を変えてキスをしたのち、ようやく唇を放した。
「分かってもらえただろうか?」
まだ酸欠気味でくらくらする頭のまま、一真は頷く。
猫たちが何事かと近寄り、バロックの真似をして一真の顔をなめる。
くすぐったさにやっと意識がはっきりとしてきた。
「恋人同士の同棲なら、何も問題はないな!」
一真は起き上がると、バロックに満面の笑みを向けた。
「ご両親には、挨拶しよう」
「あの兄貴に報告するのか
……少し怖いな」
くすくすと笑い合う二人に、にゃんじーくすとにゃめんはおやつの催促をした。
結婚式で二人を結び付けたキューピットとしてリングキャットをするにゃんズ。兄上どうやって説得したんだろ。