かべこ
2024-12-06 23:38:42
3755文字
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雪と口実

デキてるいこみず。お誕生日のはなし。

12月5日。
自身の誕生日というものではあるが、生まれ育った地元を離れ、見知らぬ土地にやって来たからだろうか。周囲には特に知られる機会もなかったし、なんとなく自ら口外する必要も感じられず、三門に来てからは誕生日と言えど365日のうち、ちょっとだけ特別な1日という感覚だった。昨年は朝起きると親、そして兄から誕生日を祝うメッセージと、自身を気遣うメッセージが届いており、それに近況を返すというやりとりをしたが今年は違って、それだけではなかった。

あれは4月の終わり頃、ランク戦がはじまる前のいつもの作戦会議という雑談で、みんな誕生日いつなん?と突然話題を振られた事があった。隊員一同、ん?と思ったが間髪入れず、俺今日誕生日なんや、とその隊長は自ら申告した。思ってもいない申告に作戦そっちのけで(元からふわっとしているが)、隊員皆からのおめでとうという祝福の言葉とともに、後輩がおっとりと「ほな、誕生日会ですね〜」と提案したため、いつもは真面目なオペレーターも巻き込んで隊長の誕生日会が速攻で企画された。こういうノリは嫌いじゃないどころか、寧ろ好ましく感じている要因のひとつだ。その様子に満更でもなく、表情は変わらずとも嬉しそうな隊長をみて、自然とこちらも笑みがこぼれた。じゃあこれでと話がまとまった時点で転送されたのはいい思い出だ。その試合はガンガンお誕生日男に暴れさせてみたら上手く目論見がハマり、この時のシーズン最終戦に有終の美を飾ることができた。そんなわけで生駒隊はそれぞれの季節ごとに隊員のささやかな誕生日会なるものを開催し、12月生まれの自分が最後に祝われる対象となった。
朝起きると、家族の他に隊の後輩や同い年の奴らから、メッセージがぽこぽこ届いており、こんないっぺんに自分宛てにメッセージが届くことはあまりないことで驚くと同時に人間関係広なったんかなと口元に笑みが浮かんだ。

そんなメッセージ達を眺めながらも、これまた珍しく学校からの通知も届いていた。タイトルは休校の連絡だった。そういえば天気予報では大型の寒気が急に流れ込んだため、昨晩から警報級の大雪になると報道されていた。やたら冷え込んだのはそのせいやな、と分厚いカーテンを開けるとまさに一面の銀世界が広がっており、未だに雪はしんしんと降り積もっていた。どおりで誕生日のメッセージの中でみな雪について言及していたわけだ。改めて天気予報を確認すると、やはり警報が発令されていた。この調子だと今日は家に引きこもりやな、と時計を見やると普段通りなら家を出る30分前だった。急にできた休日(といっていいのだろうか)を口実に二度寝をしようとした時だった。

ピンポーン、

この状況にはあまりふさわしくない音が響く。けれど音を鳴らした相手はなんとなく想像がついたので玄関のドアを開けに向かう。今日は珍しいことばかりおこる。

「おはよ。お誕生日おめでとう」

予想通り自身の部隊の隊長、そして同性でありながらも夏頃から所謂恋愛としてのお付き合いをはじめた相手がそこには立っていた。相手は予想通りではあった。あったが、その両手には予想だにしないものを持っていた。

「なんでやねん」
「えっ」

挨拶するのも忘れて思わずツッコんでしまった。が、関西人じゃなくともこれはツッコまざるを得ない。

「おはようございます……とりあえず、今聞きたいこと3つぐらいできたんですけど、寒そうなんではよまず中入ってください」
「すまんなぁ、さすがに寒い」

防水ぽい厚手のジャンパーにスウェット、頭にはニット帽を被っていたが長靴は持ってなかったのか普通のスニーカーを履いていたので足元は寒そうだった。しかし、どう考えても部屋へ上がるにはその両手を塞いでいるものは邪魔だろう。

「それもらいます」
「おん、ありがと。ちょっと重いで」

鍋。鍋だ。なんで鍋。その鍋は一人暮らしには少々大きいサイズの鍋だが、料理好きの持ち主の家ではよく活躍しているので見覚えがあった。受け取るとずっしりと重かったのでキッチンまでいきコンロの上に置いてからまた玄関に戻る。

「ビーフシチューや」
「そこはカレーやないんかい」
「あっ、カレーの気分やった?」
「いえどちらも好きですけど」

靴を脱ぎ、雪で染みてしまったのか靴下も脱ぎ靴の隣に置いて、同様に少し湿っぽいジャンバーも脱いで勝手知ったるように玄関に掛けてあったハンガーに引っ掛けていた。

「あとコレな」

腕に引っ掛けていたビニール袋を渡されたので中をちらっとみたら、四角いプラのパッケージにショートケーキとチョコレートケーキが互い違いに入っているケーキだった。

「コンビニので悪いな」
「いえ、ありがとうございます……ふふっ……
「なんやなんや」
「すんません………この大雪ん中ケーキ買って鍋持ってここまで来たんですね……
「おん」
「くっふふ、あかん、オモロすぎる」

普通ここは感激するところなんだろうけど、予想外すぎてつい笑ってしまう。あんまり笑ったら失礼だと思い、口元に手をやり堪らえようとしても、朝イチに雪の中を鍋を持ち歩いている姿を想像したら笑いのツボにハマってしまった。

「喜んでもらえてよかったわ〜」
「朝から刺激が強いですわ」
「水上」

こちらの名を呼び腕を広げて待っていたので、躊躇なくその胸に抱きついた。いつもは冷え性のこちらの方が体温が低いのだが、今日は逆だった。寒い雪の中を歩いてきた相手を温めるように頬と体を擦り寄せた。

「誕生日おめでとう」
「はいありがとうございます」
「顔見ていっちゃん最初に言いたかったんや」

今度は心臓がきゅんとなった。ほんまこの人には敵わんわ。ぎゅっと力を入れて抱きつくと頭をもさもさと撫でられた。嬉しいやら照れやら好きだとか、いろんな感情がごちゃ混ぜになり、自分の体温が少し上がったことに、気付かれているだろうか。


もらったケーキが悪くなってしまわないよう冷蔵庫へしまうついでに、コンロに鎮座した鍋の蓋を開けてみるとシチューはすっかり冷えていたけど、さすが、おいしそうである。

「今日の夜、お前の学校終わったらメシ誘おうと思って昨日作ったんや、カレーでもよかったけど寒い日はシチューやろ。カレーは年中いけるからいつでも食えるやんな?作り方も途中まで一緒やし」
「まぁそうですかね?」
「でもこの雪やんな。絶対学校なんて休みなるだろ。三門ってあんまり雪降らなさそうやし。で、今から行ったら一番最初に会えるやんって思って来た。ついでにシチューも持ってきた」
「行動力すごいですね」
「いきなりすまんなぁ」
「いえ、愛を感じます」
「ほんま?よかったわ」

と、珍しくふわぁと眠そうな声を出したのでちらりと視線を向けたら、テンション上がってよう寝れんかったという答えにまた笑ってしまった。

「じゃあ一緒に二度寝しましょうか」

電気を消してカーテンは開けたまま、ふたりで狭い布団にぎゅうぎゅうと収まった。抱き枕にするように抱き込まれている。

「俺、こんな誕生日はじめてです」
「俺もこんなんするのはじめてや」
「そりゃそうですよね」
「神様からのプレゼントみたいやな。あ、プレゼントは隊で集まった時渡すからな」
「神様やのうてイコさんからもう充分いただいたてるのに、まだもらえるなんてええですね」
「イコ神様は水上になら雪でもシチューでもなんでもプレゼントしたるで」
「ははでもイコさんがこうして会いに来てくれたのが、一番うれしいす」
……素直やん、かわえ」

頭をぐりぐりと撫でられる。窓の向こうでは灰色の空からまだ雪が降り続いているのがみえた。世界がとても静かで互いの吐息や鼓動までよく聞こえそうだった。雪の日ってやたら眠くなるよなと思いながら、すっかり体温が戻ったイコさんの素足に自分の足を擦り寄せたら心地よかった。ほんま贅沢な誕生日になったわと好いた相手の体温を感じながらまどろむようにして昼まで眠ったら、すっかり雪は止んでいた。


翌日、その後現れた太陽により雪は姿を消し、ひっそりと日影に残る程度になった通学路を歩き、教室に入ると、人の顔をみるなりクラスメイトが訊ねてきた。

「カレーだったのか?あの鍋は」

あの大雪の日に外に出るやつなんてあの人以外におらんやろと思っていたが、雪中での戦い方のメゾットを追求する隊長に付き合っていたらしい。なったぞ、いいトレーニングに。と言いつつ誕生日プレゼントのつもりだろうかプロテインバーを握らせ、奴は自席へ戻っていった。この街はほんまオモロイやつばっかりだなと晴れ渡った空を眺め、雪を口実に1日中恋人と過ごした誕生日を思い返して、ニヤけそうになる口元を引き締めた。


さとしおめでとうの気持ち。あんまり自分の誕生日、というか自分のことには頓着なさそうなイメージなので甘やかされててほしい。寮住まいなのかそれぞれ独立したマンションやアパートなのか、特に答えは今のところないので毎回ふわっっとした設定にしてしまう。

いやはや寒いですね。家から出たくない派です。