夜空に浮かぶまんまるの月がやけに美しく瞳に映った。べつにいつもより色が良いだとか特別な何かを感じるとかじゃないけど、とにかくすごく綺麗だった。
「……月、綺麗だね」
語りかけてくるその声の優しさに意図せず笑みがこぼれてしまう。愛しく思って隣を覗き込むと濡れたストレートグレーに月の光がとけ込んでゆらゆらと揺れていた。
「ほんと、綺麗っすね」
視線の向く方はそのままに、言う。少しの沈黙と共に顔を赤くしたリドルを見るに自分の目論見は成功したようだった。
「……本当に、キミという奴は…………」
月を見て言わないか。呆れたような、けれど全てがその感情ではないであろうことが伝わってくる声。この声がどうにも好きだから、いつもからかいたくなってしまう。
「あはは、ひょっとして照れてます?」
わかりきっていることをわざわざ聞くのはもちろん確信犯だ。
「……照れてない」
「うわー寮長顔真っ赤!」
「首をはねられたいの? というか、それを言うなら……」
ゆるやかに伸ばされた手がするりと横髪を耳にかけていく。触れてきた指先の冷たさに小さく呻くと、こっそり笑うような声が聞こえた。耳、熱い。恋人に耳元でそう囁かれてはたまらない。
「自分で言っておいて恥ずかしくなるだなんて、君も案外子供だね」
意地悪く微笑んだその顔から目が離せなかった。まだ吐息の温度が残っているような気がして、更に耳が熱くなる。いつもはまっすぐに相手を見据える純真な目もこの時ばかりは愉しげだ。
言い返そうと開いた口も優しく唇で塞がれてしまえば、反論する気なんて削がれてしまった。
「……寮長って、そんなことする人でしたっけ? そうやってキスで収めようとするの、やめた方がいいと思いまーす」
せめてもの反抗心でそう言ってみたものの、当の本人は意に介さない様子でまた唇を合わせてくる。その気なんてなかったのに、そのうち舌で唇を割り開かれてしまえばもう駄目だった。上顎を優しくなぞられるのがくすぐったくて思わず深く息を吐く。
「かわいいね」
寮長が勝ち誇ったように目を細めて笑った。
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