雪成はす子
2024-12-07 00:00:00
3552文字
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花束よりも拳銃を 拳銃よりも〇〇を

イッカクの誕生日にキャプテンとイッカクがデートする話。
……なんですがシャチが物凄く出張ります。
CP要素はありません。一年に一度、イッカクが普通の女の子に戻る日を皆で大切にする話です。
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「いつも悪いわね。アタシの我が儘に付き合わせちゃって」
「これくらい我が儘じゃねえよ。今日は特別な日なんだしさ、そんな時ぐらい着飾りたいって思うのは当たり前の事だから」
てきぱきと鋏を動かして、シャチはアタシの髪をカットしていく。どうやら少し長さを整えてから髪をセットしてくれるらしい。
「今日は主役なんだから楽しんできなよ。俺らは宴の準備して待ってるからさ」
「それもそうね。折角キャプテンを独り占め出来るんだもの」
「そーゆーコト! 俺らだってキャプテン独り占めしてえっつーの!! でも俺たちだっていつも我慢してるんだからな!!」
「分かってるから耳元で怒鳴らないでよ、全く」
シッシッと手で払う仕草をするが、シャチは気にせず腕を動かし続けた。これくらいの軽口はいつもの事、だからシャチも気にしない。
こんなくだらないやり取りをしながらも、シャチの手はてきぱきとアタシの髪をセットしていく。普段はそのまま流している髪をアップにして、仕上げに白い花の髪飾りを付けた。
「よっし! 完成~!!」
「って、この髪飾り何?」
「俺からのプレゼント。イッカクに似合いそうだなって思ってさ。ほら、実際に似合ってるし」
アップにした髪の根元を飾る髪飾りは華美過ぎず、可憐過ぎず、けれどもアップにした髪を華やかに彩っている。こういう小物を選ぶセンスや渡し方なんかは実にシャチらしい。けれどアタシは思わず頭を抱えてしまった。
はあ、と小さく溜息を吐く。無自覚でこういう事をやってのける所は本当にどうかと思ってしまう。
……イッカク、その、気に入らなかった?」
アタシの様子を目の当たりにしてか、シャチがおずおずと訊いてくる。アタシは苦笑して、
「センスがありすぎるから困ってるのよ。でもありがと。アタシの好きなデザインだわ」
シャチにそう言うと、シャチはぱああっと輝くような笑顔になった。



「来たか、イッカク。いつも以上に美人になったな」
「お世辞はいいですよ、そんな」
「俺は思った事を言っただけだが」
と首を傾げるキャプテンの服はいつもとあまり変わらないのに、どういう訳かいつも以上にカッコ良く見えるから不思議だ。
「それじゃ、キャプテン。今日は一日お願いしますね」
「ああ、それじゃ行こうか、イッカク」
そう言って差し出された手を取って、アタシとキャプテンは街へと繰り出した。



海賊として生きる事を決めた日から、アタシは海賊の女として生きていくと決めていた。皆と同じツナギを着て、化粧やアクセサリも最小限に留める。そういう生き方も悪くはないし、むしろ男に不必要なまでに媚びを売らなくてもいい生活ってのはアタシの性分に合っていたようで、とても気楽で楽しい。仲間たちも必要以上にアタシを女扱いしたり気を遣ったししないし(最低限の住み分けというものは多少はあるが)この海賊団の中でただ一人の女クルーとして、アタシはとても気楽にやれていた。
けれどそれでも、偶には女らしい事もしてみたいと思うのだ。
夜会のドレスを着た女の人を見つめるアタシの視線に気が付いて、「だったらイッカクの誕生日にさ、いつもは出来ないお洒落してみるってのはアリじゃない?」とシャチが提案したのが、全ての始まり。
その年の誕生日にシャチに色々と飾り付けられ、そのまま皆で宴をしたのを機に、アタシの誕生日は決まってお洒落をする日となった。普段は出来ないちょっと派手なメイクも、いつもなら絶対に着ないビラビラとしたドレスを着るのも、今日が特別な日だからだ。
そして今日は『一日キャプテンとデートしてみたい』というアタシの我が儘を、他でもないキャプテンが叶えてくれる。
キャプテンは皆のキャプテンだから、こんな風に独り占め出来る機会は早々無い。
――今日はなんて良い日かしら。
向かい合わせで座るキャプテンを眺めながら、アタシはパフェのソフトクリームを掬った。



「貴様、トラファルガー・ローだな? 女連れで街を散策とはいいご身分だなぁ?」
カフェを出て、再び街を散策していた所に、後ろから耳障りなだみ声に呼び止められた。
振り返れば案の定、まるでテンプレ通りのゴロツキ達。出来れば今日は綺麗なものだけ眺めていたかったが、目の前の男はお世辞にも綺麗とは程遠いむさ苦しい男ばかりだ。はあ、とアタシは盛大に溜息を吐いた。
キャプテンはかぶりを振り、それから右手を掲げる。どうやら能力で振り切るつもりらしい――が、それより早くいつの間にか背後に回っていた男に腕を掴まれた。
しまった、と思うがもう遅い。腕を引かれた衝撃で、カツン、と白い花の髪飾りが地面に落ちた。

『イッカクにに似合いそうだなって思ってさ』

そう言って笑った、今朝のシャチの姿が不意に思い出される。
折角シャチが、皆が今日の為に用意してくれたのに。
「良く見ればいい女じゃねえか。テメエにゃ勿体ねえなあ、トラファルガーよお!!」
「何だ、見る目があるなァお前。だが、悪いがソイツは俺の大事なクルーだ。テメエなんかとは釣り合わねえだろ」
「ハッハァ! クルーと称して 情婦イロ乗せてんのか!! なら話は――
……あのさぁ」
ぐっと屈み込み、男の顎を思い切り蹴り上げる。ビリィ、と布が裂ける音が聞こえたがそれでも構わなかった。腕が外れた隙に、太腿に取り付けていたホルスターから愛用の拳銃を取り出す。自分好みにカスタマイズした、威力を上げた改造拳銃。それを男の額に擦りつけた。

「アタシに気安く触ってんじゃねーよ、クソ野郎」

アタシがそう言い放つと、男はひ、と青ざめる。こんな男に背後を取られたのがあまりにも不甲斐なさ過ぎて、誕生日だからと浮かれていた自分に酷く腹が立った。撃鉄を上げ、引き金に指を当てた所で青いドームが辺りに広がる。その直後、アタシは街の何処かの路地裏に立っていた。
……済まなかったな、イッカク。俺の所為で巻き込んだ」
「キャプテンの所為じゃないです。アタシも冷静になれませんでしたから。……でも」
破れたドレスに視線を落とす。折角今日の為に皆で用意してくれたドレスが、無残にも引き裂かれてすっかりボロボロだ。髪飾りも落としてしまったし、あまりにも浮かれすぎていた自分への罰なのかと思ってしまう。
海賊のアタシには、こういうものは似合わないって事なのだろうか。
じわ、と涙が浮かびそうになるのを必死で堪える。拳がぶるぶると震えて、アタシはきつく唇を噛み締めた。
「イッカク」
震える拳を、キャプテンの手が包み込む。
……キャプテン、その」
「ああ。ゆっくりでいい、急ぐ必要は無い」
言葉がつっかえて中々話し出せないアタシの言葉を、キャプテンはじっと待ってくれた。
……その、髪飾りが……髪飾りを、落としてしまって」
「髪飾り? ……ああ、これか?」
キャプテンがもう片方の手を開くと、そこにはシャチに貰った白い花の髪飾りがあった。
驚きのあまり目を見開くアタシを見つめ、キャプテンはふっと笑う。
「咄嗟に拾っておいて正解だったな。大事な物なんだろう?」
「今日、シャチがくれたんです。アタシへのプレゼントだって。だから、失くしたらアイツ、ガッカリするだろうなって」
「そうか……良かったな」
……はい」
堪え切れずに、アタシはぼろぼろと涙を零した。
白い花の髪飾りも、長いスカートのドレスも、海賊のアタシには似合わないって思ってた。女である事を捨てた事は無いけれど、可愛いものや綺麗なものへの憧れも、そっと心の底に仕舞ってきた。
そんなアタシの秘めた願望を、シャチが拾い上げて叶えてくれたのが今日という日の始まり。
海賊のアタシじゃなく、ただの女としてのアタシを、シャチは、皆は拾い上げてくれたんだ。
「髪につけていいか?  ……シャチのように上手くは付けられないが」
「勿論です、キャプテン」
「それと、これからお前のドレスを買いに行こうと思うが、いいか?俺からお前にプレゼントしようと思うのだが」
キャプテンが髪に触れる。アタシは顔を覆いながら、ただキャプテンの言葉に泣きながら頷く事しか出来なかった。
早く泣き止まなきゃと思うのに、涙が止まらない。こんな顔じゃ、きっと艦に戻った時に皆に心配させてしまう。

きっと、シャチは真っ先に気付いておろおろするだろう。

今朝のシャチの様子を思い出し、思わずふふ、と口角が上がった。中々止まらないと思っていた涙が、少しずつ引っ込んでいく。
――ホント、そういう所、シャチってずるいのよねえ。
やれやれとかぶりを振り、涙を拭う。キャプテンの目を真っ直ぐ見上げ、行きましょうか、と手を取った。