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溶けかけ。
2024-12-06 20:49:11
2720文字
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ほぼ日刊
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お揃い
お揃いパジャマとフレンチトースト。
「ヌヴィレット。準備は出来た
……
」
フリーナは部屋に入り言葉を失う。
寝起きなのはまだいい。(良いか悪いかで言えば悪いのだが)
フリーナは頭を搔くと大きく息を吸い込んだ。
「服を着て寝ろって言ってるだろーー!」
そう。
彼女が見たのは全裸でベッドに腰掛ける最高審判官の姿なのであった。
「まったくもう! ヌヴィレットの奴。ああ言えばこう言うんだから。なんだよ、『服を着るも着ないも私の自由だろう? 法典には、服を着て寝なければならないとは書かれていない』って! そんな当たり前のこと書いてあるわけないだろう!」
フリーナは昇降機の中で地団駄を踏んだ。ヌヴィレットの心底、人を舐め腐った顔が脳裏によぎる。彼はフリーナが何度、寝間着を贈っても着てくれる気配はなく、それどころか、仕事でもないのにこんなものを着る必要はない、と全て突っ返してくるのだ。
「大体、全裸で寝たいのなら、僕の手を煩わせるなよ! あんな
……
あんな
……
」
フリーナの顔が瞬時に真っ赤に染まる。男性器と呼ばれるそれらは名前は聞いたことがあれど、実際に見るのはヌヴィレットのものが初めてだ。彼は人の営みに疎いせいか、フリーナに見られようとちっとも気にした様子はないのだ。確かに、海の中で生きていたのなら、服を着るのが窮屈なのも理解出来るのだが
……
。
「いいや、駄目だ。フリーナ。甘やかしてはいけない。最高審判官が露出狂だなんて書かれた日にはフォンテーヌが本当に沈んでしまう
……
」
昇降機の隅っこでフリーナは頭を抱えて蹲る。
服を着せるのは無理でもせめて下着だけでも着けるように徹底させよう。彼の得意な法律に絡めて、他者に下半身を見せつけるのは犯罪であると納得させれば、賢い彼ならばすぐに実践してくれるようになるだろう。
「ああ、それでいこう。もうこの際、寝間着なんて贅沢は言わない。せめて布だけでも巻かせてやる
……
!」
彼のことを図体が大きいだけの赤ん坊だと思っていたが、前言撤回だ。今は僕が起こしているから良いが、これが他の職員が起こすことになったら目も当てられないことになる。その前に手を打つべきなのだ。神としてもフリーナ個人としても。
「なんてこともあったなぁ
……
」
その後、フリーナの努力のかいもあって、彼は寝間着を着用して寝てくれるようになった。当時はかなり苦労もしたが、今となっては
……
まあ、良い思い出だと言えるだろう。
フリーナは紙袋を抱えながら家路を急ぐ。
紙袋の中にはパジャマが二人分。お揃いだと言ったら彼は嫌がるだろうか。
「ただいまー」
「おかえり、フリーナ。随分、遅かったな」
ヌヴィレットが玄関まで迎えに来てくれた。何を隠そう、僕とヌヴィレットは結婚を前提にした同棲中だ。いわゆる、お試し期間ってやつかな。
「帰り道、頼んでた物が出来たって連絡が入ったんだ。キミの分もあるんだよ」
フリーナは紙袋に手を突っ込むと何かを取り出す。上に掛かっていた薄い紙を取り払うと中身をヌヴィレットに手渡した。
「その
……
キミとお揃いのパジャマが欲しいなって
……
勿論、嫌なら無理にとは言わない! こういうのは無理強いするものじゃないからね!
……
あはは、なんて
……
」
「ふむ
……
。着よう」
「そうだよね
……
嫌だよね
……
って良いのかい!?」
「
……
? 君が贈ってくれたものだろう? ならばありがたいと思うことこそあれ、拒否をするものではないだろう」
「そ、そうなんだ〜
……
」
キミ、数百年前はあんなに嫌がっていたのに? という言葉はそっと喉の奥へと流し込む。何はともあれ、着てくれるというのだから素直に喜んでおくのが正解だろう。
「フリーナ?」
なかなかついてこないフリーナを訝しんだヌヴィレットが彼女の方を振り向いて首を傾げた。フリーナは慌てて、何でもないというふうに取り繕うと笑みを浮かべて彼の後を追った。
ころころころ、くるくるくる。
フリーナがベッドの上を縦横無尽に転がる。その顔は緩みきっていて、幸せそうだった。
「そんなに喜ぶほどのことだろうか?」
「嬉しいものは嬉しいんだよ」
ふわり、と微笑んだ彼女は買ったばかりのパジャマを身に着けていた。ヌヴィレットと同じデザインだが、フリーナの物は上着の丈が長く、下はショートパンツになっている。2wayだと自慢していたことを見るに、スカートにもなるのだろう。
「着心地はどうだい?」
「ああ。肌触りが良いな」
「ふふんっ
……
そうだろう! そうだろう! この僕が直々に選んだものだから
……
ね
……
」
ぱたり、とフリーナが力尽きたように動きを止める。
はしゃぎ疲れて眠ってしまうとは幼い子供のようだ、と思いながらヌヴィレットはフリーナをそっと抱き上げた。
「お疲れ様、フリーナ」
本当は、彼女がこの日の為に念入りに準備をしていたことを知っていた。
同時進行で舞台の監督の仕事もしていたため、毎晩のように彼女の仕事部屋には明かりが灯り、朝早く出ては夜遅くに帰ってくる日々。
体を壊さないか心配していたのだが、どうやら杞憂に終わったようでほっとした。
ヌヴィレットはフリーナの頭を枕に預けると布団をかけて、隣に寝転がった。
プネウマシアの力で室内の照明を落とすと眠りにつく。
「おやすみ」
鳥の囀りに意識が覚醒する。寝起きでぼんやりする頭を押さえながら、フリーナは隣にある温もりに目を向けた。
「ふふっ
……
」
思わず、笑い声を立ててしまって慌てて手で口を塞ぐ。
いけない、いけない、彼を起こしてしまう。
眠っている彼はフリーナと同じパジャマに身を包んでいて、どうしても頬が緩んでしまうのだ。頑なだった数百年前とは違い、こうしてパジャマをしかも揃いの柄を着てくれるなんて思っても見なかったのだから仕方ない。パタパタと布団の中で足を動かすフリーナの耳に「ふっ
……
」という空気の漏れたような音が届いた。
「な、なななな
……
ま、まさか
……
」
隣で眠っていたヌヴィレットはいつの間にか目を覚ましていて、小刻みに震えていた。
「起きているならいるって正直に言ってくれぇ
……
!」
フリーナは素早い動きで布団を剥ぎ取ると丸くなる。
「すまない
……
君があまりにも愛らしいことをしているのでもう少し見ていたくなったのだ」
ヌヴィレットは布団ごとフリーナを抱き上げた。
「機嫌を直してくれ。お詫びに朝食は君の好きなものを作ろう」
フリーナがもぞもぞと布団から顔を出す。僅かに頬を赤く染めた彼女は唇を尖らせながら、「パンペルデュ
……
砂糖多めで」と答えるのだった。
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