さもゆ
2024-12-06 11:33:51
3673文字
Public BF
 

【BF腐】大丈夫だよ

生存if、街中で恋人との問題で泣いてる女の子を慰める英ちゃんの話。

2020.9.12 たまごのお粥pixiv投稿作品

 やあお嬢さん、せっかくの綺麗な顔がぶさいくになっちゃうぜ、一体そんなに泣いてどうしたの?
 ……いやー……ゴメン、ものすごくデリカシーのない言い方だったかも。でもほら、お化粧がさ、目の、ひどいことになってるって。大丈夫? 痛くない? あー、待ってて、そこのストアで水買ってくるから。とりあえず、そうだな、変なひとに声かけられても反応しちゃ駄目だよ。人目も憚らず泣いてる女の子ってのは起爆装置みたいなもんだからな。普段普通に生活してるけど心に爆弾抱えてる人間の。爆発したら両方とも木端微塵、誰も幸せにならない。ここそーいう街だろ? 優しいひとが増えてきたけど……。え、僕? 僕はそりゃあ、水を買ってくるタイプの優しいひとだよ。じゃ、行ってきます。ちゃんと待っててね?

 はー、ただいま。
 水とキャンディ買ってきた。はい、水。飲んでね。……ふふ、新品だろ? 警戒するのはいいことだよ、僕もようやく分かってきた。僕だってひとりで泣いてるところにいきなり知らない大人から話しかけられたら結構疑う。あ、ハンカチいる? そう、いるなら言って、今朝慌ててなぜかハンカチを三枚もカバンに突っ込んでたから。だからこのときのためかと思ったんだけど。ひとつは手を拭くために使ったから、残りの二枚はどこで使うべきかずっと悩んでたんだ。あ、使う? えーと、緑の葉っぱ模様かピンクの小鳥模様どっちがいい? 緑の葉っぱね。存分に顔を拭いてくれていいよ。そのための水でもある。
 あとさ、こんな歩道の端で蹲ってないで、そこのベンチに座った方がいい。立てる?
 あー、きみ、なるほど、へべれけだな? 酒のにおいがきつい……あーあーあーちょっと待って、僕がここ通りかかる前に、誰かに何かされてたりしないよな? 大丈夫? まさか泣いてるのってそ――……いうのじゃないのか、良かった。でも、ほんと危ないから。人通り多いけど、夜だし、きみは見たところか弱い女の子だ、何があるか分かったもんじゃない。ああ、ベンチ、座って。お家のひとは? 迎えに来てもらうか、タクシー呼ぼうか? 携帯は? OK、今すぐ家族に迎えに来てもらえるようメールか電話して。いいね?

 ……ん。よし。
 これでひとまずは安心だ。それで、あー……
 えーと、キャンディ食べる? 隣座るね。よっこいしょ。お家のひとが迎えに来るまで、僕もいるよ。いやいや、きみ鏡持ってないのかい? 確認した方がいいぜ、いかにも厄介な輩につけ入られそうな化粧の崩れ方してる。夜でも明るいしうるさいもんなここ。鼻の赤みまで丸見えだよ。……ゴメン。またデリカシーなかった。よく言われるんだ、慰めのつもりがトドメを刺してるって……。とにかく、きみがちゃんと帰れそうになるまではいるし、邪魔なら離れるし、こんなおっさん相手に涙の理由を語ってもいいってんなら聞くけど、まあその場合は不意打ちで傷を抉られるかもしんないから慎重に選んだ方がいいよ。もう分かるだろ? 僕何かを相談されるのに向いてないんだ。レモン味の飴ちゃんをあげよう。塩分取れるかは知んないけど、涙の代わりくらいにはなると思う。

 僕? 37歳。
 おいおいおい、なんならパスポート見せてやったっていいんだぞ。そーいうきみは? ハッ21歳? 嘘だろもーちょっと上かと思ってた……いやごめん……ええと大人っぽいから……。まーでもお嬢さんには変わりないんだなあ、全然若いね。街中でめいっぱい泣いちゃうくらい若い。ごめんて。ごめん。申し訳ない。黙るよ。

 ……ええー……急にぶっちゃけるじゃん……しかもそれ本当に僕に言っていい内容だった……
 違うよ、決して馬鹿にしてない。うーん、でもそうか、なるほどなあ、『恋人とセックスできない』ね。
 きみ、もしかしたら、酔いが覚めたら見知らぬ男にぶっちゃけた悩みを相談してる記憶なんて消し去りたくなるかもしれないし、そもそも覚えてられるかも怪しそうなところだけど、あえて言うならそんなもん無理にしなくたっていいよ。

 OK、OK、聞くよ。顔がぐしゃぐしゃになるまで泣いてた理由を、ちゃんと聞く。



 ……いややっぱり無理にそんなしなくていいって!

 セックスの話だよな? いや分かる、分かるぜ、重大なことだ、特に若いころ……そうだね、周りが難なく恋人とそーいうことをしたって話を聞くたび、自分が世間からズレた感覚になる。それにきみは、話しを聞く限り、性的なことを重視してないだろう。お相手さんの気持ちを慮りたいけど、別に積極的にはしたくない、むしろしなくてもいいと思ってるタイプだ。さっき言ってたろ? 『そーいう雰囲気になるたびに気持ち悪くなる』ひょっとすると嫌悪感も抱いてる。
 きみ本当に恋人が好き?
 違う違う、怒らないで。性的なことに嫌悪があるからといって、恋人のことを受け入れられないってわけじゃない。きみの気持ちを疑ってるわけじゃない。街中で泣くほど好きなんだろ。普段から気持ち悪く思ってるんなら、別れた方がいいって思っただけで……じゃあやっぱりちゃんと好きなんだな。

 あのね、好きだからってセックスができるわけでもないんだよ。
 確かに、多くのひとはそれを愛の行為としてるけど。でもそしたら、やむを得ない事情でセックスできない恋人たちに、愛はないのか? って話になってくる。きみの恋人も、もしかしたらそれができないことできみの愛を疑うかもしれない。すごく悲しいし、つらいし、悔しいよな。自分がおかしいとすら思うかもしれない。おかしくないよ。できないもんはできないんだ、愛情を表現する仕方がちょっと違うだけ。そして、できることなら、その違いを相手方に分かってもらえるのが一番なんだけど、……それには話し合いが必要だし、話し合ったところで上手く関係が治まるとは限らない。何せ愛情表現が違うってことは価値観も違う、相手は自分よりも合うやつに惹かれていくかも。そこはどんなに好きでも、相手の感情によるからね。

 ……慰めるつもりがまた不安なこと言っちゃったな。
 まあ、とにかく、どーしようもないんだよ。できないもんはできないし、そのことに負い目を感じる必要はないし、もしできるようになりたいってんならそれこそ本当にパートナーとよく話し合うべきだ。お酒を飲んで泣き崩れることじゃない。いいかい、セックスを最上級の愛情表現だと思い込むのは、間違いだからね。そんなのはひとによる。……っていう言い分も僕個人のものであって全てじゃないわけだけど……まあ、その、大丈夫だよ。

 そんな泣かなくったって、なんとかなるよ。なんとかならなかったら、無責任な慰めをしてきた僕を思い描いてとことん恨み言吐いて泣けばいい。分かった?
 あ、あの車、お迎え? ふー、良かった。言葉の引き出しが少ないもんだから、もう少しで要らんことまで喋り出しそうだった。まー充分要らんこと喋った気がするけど……

 ……きみがぶっちゃけてくれたから、僕も最後にこれだけ言っておこう。

 僕もなー、恋人……とセックスするぞってなったときに、お互い無理過ぎてベッドゲロ塗れにしちゃったんだよ。

 さ、僕も帰ろーっと。
 いやいやいや話さない、話さないぞ僕は。だから離して、ほーらきみのご家族が不審な目でこっち向かってくるぜ、犯罪的なもの疑われんのは勘弁だ、え? バカだな世の中には童顔の犯罪者だっているからな!? 世間知らずのお嬢ちゃんめ、さっさとお家に帰りなさい。あー、じゃあ、これだけ、ほんとに最後にこれだけ言わせてもらうと……

 ゲロ塗れの恋人とはいまも仲良くやってるよ。セックスは、まだ、できてない。

 でも、重要じゃないから。

 ……じゃーな! 飴ちゃん全部あげる。お休み、泣き腫らしのお嬢さん!




 

 
 

「恋人が紳士的ですごく嬉しいよ」
……見てたんなら助けてくれよ~……
「お前が勝手に走り出して行ったんだろ」
「いやそれでもさ……
「それに、俺には泣いてる人間を慰める器用さが、未だにないもんでね」
「僕にだってないさ。あーどうしよう、ほんと要らんこと喋った気が……
「何話したの?」
……僕ときみとの『ゲロ塗れ初体験』の話を、ほんのちょっとだけ……
……あー、あれはちょっと人生最大にひどかったな。自分で言うのもなんだけど、俺はいいよ、吐いても。でもお前まで吐くとは思わなかった」
「だって……意地悪言うなよ……ぼかぁきみを抱けないよ……
「俺だって抱けないね。ま、そんでもいーって気づかせてくれたあのときに、お前のこと本気で愛してるってなったから。たとえゲロ臭のひどい思い出でも大事だよ」
「意地悪言うなよぉ……
「ま、いいよ。でもオニイチャン、恋人を放って他人を慰めに行ったのは、なんか胸がぐあっとなったから」
「ぐあっと」
「今夜は抱きしめて眠ってね」
……いつもじゃん、それ」