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玲
2024-12-06 01:13:27
2453文字
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それは恋のような
【小説】
ほのぼのお茶を飲んで会話してる龍劍。
靖玄錄下闋第13集まで観て(ただし未翻訳)思いつくままに書いてみたら、恋泥棒の劍子と仙鳳セコムの龍宿になってしまった。
小鳥のさえずり。小川のせせらぎに耳を傾け、三分春色で美しい景色を眺めている龍宿のもとに、久方振りに劍子が訪ねてきた。
龍宿は口の中で遊んでいた煙を軽く一息吐いて、好友の訪問を歓迎した。
仙鳳から茶の入った茶器を受け取った目の前の男は、当然のように向かいの席に座り、慣れた手つきで茶を淹れる。
不思議なものだ。いつもと同じ茶なのに、この男が淹れると味も香りも異なるように感じる。
互いに一杯、喉を潤して一息つくと、劍子と目が合った。
「変わりはないか、好友よ」
「ああ」
最近は穏やかな日々が続いている。こうして三分春色で五感の隅々まで楽しめる心の余裕があるほどだ。
変わったことといえばと、龍宿は身近にあった面白いことを思い出した。
「先日、鳳兒の誕生日があったな」
「ああ。俺が贈ったものは喜んでくれただろうか」
「大層気に入っているようだよ。使い切るのが勿体無いと嘆いていた。梅花の水を使った化粧水とは、よく思いついたな劍子よ」
「ははっ」
劍子は空になった好友の茶杯に茶を淹れた。その顔は微笑んでいた。贈ったものを惜しむほど大事に使ってくれているということに、喜びを隠せなかったのだ。
「鹿巾には礼の品を贈らんとな。なにがいいだろうか、龍宿よ」
「考えておこう」
愛弟子の笑顔を見せてくれた礼だ。さて、何が良いだろうか。秦假仙に彼の好みでも探ってもらおうか。
龍宿は劍子が淹れてくれた茶を一口含み、考えを巡らせながら茶の味を堪能した。
「礼といえば劍子。汝にも贈らねばならん」
「ん?俺に?何かしたかな」
ここ最近の記憶を掘り起こしても劍子は全く見当がつかなかった。
仙鳳に贈り物をして今日まで、仕事の日々だったからだ。好友のもとを訪ねて茶を飲む余裕が出来たのは、今日が初めてだった。
「汝のお陰で、最近の鳳兒は調子が良い。肌の艶も良く、華麗さにより磨きがかかるようになった」
「化粧水のおかげか?」
「それだけではないようでね」
「好友、話が全く見えないんだが。待て、何を笑っている」
つい、笑みが零れてしまった龍宿は、団扇で口元を隠して話を続けた。
「劍子よ、吾が鳳兒に贈ったものを尋ねてくれぬか」
「なんだよ突然。何を贈ったんだ?」
「汝の姿絵だ」
「俺の?意外だな」
姿絵ならば、目の前の好友がいつも描いて見せており、見飽きているだろうに。贈られて喜ぶとなれば、それほどの姿絵を描いて見せたということになるのだろう。
劍子は顎をかきながら不思議そうな顔をして思案した。
その様子を眺めていた龍宿は、団扇を軽く煽いでみせた。そよ風に、仄かに花の香りがあった。
「普段の汝の姿絵ではないぞ」
「それは心外だ。どんな姿絵を贈ったんだ?」
「南域にいた頃の汝の姿よ」
「その頃もこの姿だったように思うが」
劍子が思い当たる姿は、目の前の好友を心配させ、また傷つけた時の姿だった。
そんな姿を描いた絵を喜ぶとは。彼女の意外な一面を見たようで、劍子は少々衝撃を受けた。
そもそもの話だ。自ら傷つけられた男の姿を、この好友は描けてしまうものだろうか。
(いいや、長年の付き合いだ。龍宿も仙鳳もそんな趣味の悪いことなど
…
)
しかし人は変わる。自分が知らぬ間に好みも変わっていてもおかしくはない。
(この好友は、一体俺のどんな姿の絵を描いて贈ったのだろうか)
ますます分からない。劍子は空いた茶杯に茶を淹れた。
「汝は侠仙若士と名乗っていたな」
「あの時のか
…
」
あてが外れた安堵と同時に、また別方向の意外な答えを耳にして、淹れたばかりの茶が劍子の手元から少し零れた。
「あの姿で彼女に会ったことはないだろう」
「土産話に描いてみせたのよ」
龍宿はその時に描いた侠仙若士の絵を広げてみせた。
そこには中性的な男性がまるで仙女のように描かれた、若かりし頃の劍子がそこにあった。
何度か姿絵を描かれてはいるが、これはこれで照れくささを過ごして少々羞恥心が現れる。
「
…
確かに俺だが、美化していないか?腹に墨がない」
「吾が見た汝の姿を描き写したまで」
「そうか
…
」
だんだんと気恥ずかしくなってきた劍子は、一つ咳払いをして続けた。
「それで、仙鳳はこの姿絵を欲しがったと
…
」
心中とはいえ、二人には悪いことをした。
一人で勝手に考え込んでしまい、趣味の悪さを疑い、少しばかり身を引きかけた自分が恥ずかしい。
(安心した。好友は好友だし、仙鳳は仙鳳だ)
知らぬ間に変わることなどなかった。安堵しきったところに照れくささも手伝って渇いた喉を、劍子は手に持ったままの茶杯で潤そうとした。
「会ってみたかったと嘆いていたぞ」
「ごほっ」
趣味は悪くないが、意地が悪い。せめて飲み下してから言ってほしい。
「けほっ。それは残念だ
…
」
「これ、絵に茶をかけるでない」
龍宿は絵に汚れがないことを確認して、くるくると巻いて包んでいった。
「それで、その絵のお陰で仙鳳の調子が良いとは」
絵を丁寧にしまう龍宿の様子を眺めながら、劍子は疑問を投げかけた。
仕舞い終えた龍宿は団扇を仰ぎながら一拍置き、こう答えた。
「恋に優る美容はないな」
龍宿は団扇で口元を隠し、鋭い眼光を劍子に向け、真剣な空気で告げた。
殺気に近い空気を龍宿から感じ取った劍子は、一瞬息を飲んだ。
とんだ謎かけだ。訳が分からない。彼の口からなんと出たか。
(今、なんと言ったか)
いま一度尋ねようと口を開きかけた劍子を制し、龍宿は立ち上がった。彼の肩越しに仙鳳が見える。彼女の髪の毛先を遊ぶように風が吹き、桃色の花弁が共に舞った。
「もうあの姿を見せるでないぞ、好友よ。無茶だけはしないでくれ」
「待て、龍宿。さっきのはどういう意味だ」
「今日は美味い酒を用意してある。汝への礼だ。食べていけ」
声を出して愉快に笑う龍宿の後を、頭の整理がつかないまま劍子は追いかけた。
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