※ この作品は無断転載禁止AI学習禁止です(こゆ)
『繋いでて』『離さないと』
究極の二択というやつだ。
キャプテンか、相棒か、どちらか一人しか助けられないとしたらどうする?
こんな質問、仮定だとしても悪趣味なことこの上ないのだけれど、酔っぱらいのいうことだから仕方がない。
ペンギンの前に連れて来られたのは、酔って前後不覚の真っ赤な顔のシャチ。
「ペンギン
……、どうする? ふふふっ
……んー
……んん
……? それは
……ヤドカリ、のはなし?」
「え、何これ」
「見りゃわかンだろ、酔っ払いだ」
「ヤドカリはさー、ちゃんと
……ふふふっ、あはは。だれの貝なんだっけ、あおいの」
ローは、情に厚いところもあれば存外めんどくがりなところがあって、酔って支離滅裂なシャチの話相手を早々に匙を投げたのだろう。もう十年以上の付き合いだからこそ、然るべき相応の相手の元へ連れてきたというわけだ。
その酔っ払いが突然ご機嫌に言い出したのが「もしも、俺とキャプテンが二人とも崖から落ちて右手一本でぶら下がってて『助けて』と言ってて、しかも、その崖の下にワニが口開けててペンギンは一人しか助けられないとしたらさぁ、どうする?」である。
そして、ニコニコ笑って、返事を聞かずに何故かヤドカリの話を始めた。何処へ出しても恥ずかしい立派な酔っ払いである。
「んん、そうだな」
ペンギンはなんでもないことのように、手元のジョッキを空にしてから答えた。
「青の
………あー、
……あれ? 貝はペンギンのだった?」
「いや、俺のじゃねーな。っていうか崖の話、どっちかひとりじゃないとだめ?」
「あれ?
……心理テストの、話に、
……ふふっ、えー、そんなに戻るの? あははっ、うん、もう一人は絶対に助からねーの!あははっ、やっば」
テンション高く、ペンギンの肩をバンバンと叩くシャチ。
心理テストだったのか、そもそもどんな状況なんだろうか。崖から二人、ぶら下がっている、シャチとキャプテンが。「助けて」って言いながら。あまりにも現実離れしたシチュエーションに、ペンギンは思わず苦笑いをする。
キャプテンが大人しく崖からぶら下がりワニに喰われるのを待っているって、あり得ないだろ。
チラリとシャチを連れてきたその男を見る。心底どうでも良さそうだが、きっと「俺がひとりで全部解決できる」と思ってるんだろう。それはそれで腹が立つな、事実だけども。でも、これがギリギリありえる二択だったらもっと残酷だと、ペンギンは「ははっ」と思わず声に出した。
大人しく崖にぶら下がって「助けて」って言っているくらいありえないからこそ酒の肴にできるのかもしれない。
「どっちか一人しか助からないなら、」
「うん、」
「キャプテンだな」
迷いなく、シャチの真正面から言った。
「そっかー。えっとね、答えは
——……あれ、ローさんの
……貝どこでしたっけ
……ヤドカリに、
…あげちゃった?」
シャチはもうすでに自分の問いの答えをしまった引き出しが上手く開かないようで、変わらず真っ赤な顔でふにゃふにゃとしていた。あまつさえ、怒りとも呆れとも言えるオーラを発しているローに撓垂れ掛かる始末だ。
「ローさんは一人で生き残ってもおまえらがいるしなァ」
好き勝手飲んでヤイヤイガヤガヤとしている外野へそう言えば、あたりまえだろー!って意味もなく強気なレスポンスが上がる。
「シャチは俺がいないとだめ、ひとりぼっちになんかできねーし」
だから、そんときはシャチと一緒に俺も崖から落ちるよ、て。
やっぱりなんでもない顔をして、ペンギンがまだふにゃふにゃなにごとかを喋るシャチの手をとった。その言葉を咀嚼しきれずにしぱしぱまばたきを繰り返すローをちらり横目に、フッフ、と小さく笑みをこぼす。
きっと、ローはこんな答えに納得いってない。
シャチだって、いつまでも部屋割りでしょげていたあの頃とは違う。
わかっていても、ペンギンはいまだにシャチと離れて生きるイメージなんてちっとも湧かなかった。
「もうシャチが寝そうだぞ、ペンギン」
「ああ、ごめんローさん。俺たち先に部屋戻るから」
そんなやりとりをすれば、「ふたりともおやすみ」ってあっちでもこっちでも声が上がり、ペンギンとシャチを送り出す。
あの頃からの延長線上のいま、あたりまえにふたり一緒におやすみを言われるこの日々が、まだほんの少し続くことを願ってペンギンは食堂を後にした。
了
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