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残りの夜が来た
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その他
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ディオジョナ
初出・多分旧苦行クラブのブログ 2006か2007
ディオはある奇妙な思いに駆られていた。海の中は冷たくも温くもなく、また死んだジョジョもそれは同じだった。ディオは首の断面から伸びる無様な血管やら骨やらよくわからない筋やらを使って喉笛に突き刺さっていたナイフを抜き取った。いや、それは突き刺さってはいなかった。ジョナサン=ジョースターはそんな力すら残していなかったのだった。そうして、全ての力を使いきって、それでもディオの首を離すことはしないで死んでいったジョジョの首を、ディオは引きちぎった。避難場所として選んだ棺を血が汚した。ジョジョの血は生前のように温くはなく、しかしやはり冷たくもなかった。しかも申し訳程度にしか流れなかった。
かくして彼の台座となった体に、ディオは自らの骨やら何やらを沈めた。肉がつぶれるような、じゅぶじゅぶという音がした。やがて、そのじゅぶじゅぶという音はディオのひゅうひゅうという呼吸音と同じくらいに大きくなった。ジョジョの体の中で反響しているその音が、自分の内部からも聞こえ始めたからだった。二つの美しくも醜くもない音を、しかしディオは、かつて教会で聴いた賛美歌のように聴いた。そして同時に死にゆく醜い父親のうめきのように聴いた。このようなおかしな感傷があるだろうか、このディオに。しかしそれはどちらもまさしく祝福の音なのであった。ディオはまだうまく動かない腕をずるりと這わせ、引きちぎったジョナサンの首の断面に指を差し込んだ。残っている血液を残らず吸おうと思った。継ぎ目をうまく結合するにはそれが良いと思われたからだった。
「ディオ、僕は君を憐れむ」
突然ジョジョの首がそう言った。ディオは驚くというよりも意外という感想を持った。
「そうか」
「憐れんであげるよ」
ジョジョは未来永劫ディオを憐れむことしかしないだろう。ディオはそんなことは知っていた。彼から何を奪ってもジョジョはディオを憐れむことしかしないのだ。ならば与えてやろうと言ったのに、それでもジョジョはディオを憐れんだのだった。今までも、これから先も、彼から何らかの感情を得られるとしたら、それは憐れみだけなのだ。
ディオは彼の首から指を抜いた。異形でも何でもないその首はただの死体であり、肉塊であり、ディオのジョナサン=ジョースターであった。
「貴様の血は吸わん」
ディオはその塊にそう言った。そして血や埃で固まった黒い髪を引き抜こうとしたが、短すぎると思って離した。替わりに自らの髪に手を伸ばした。ジョジョと同じように血や埃で固まっていた髪はしかし、ディオが依然人間を超越した異形であることを示すかのようにするりと指に絡んだ。それを束にして引き抜くと無造作に喉元に刺した。そして首の継ぎ目を通し鎖骨の上あたりから取り出し、再び継ぎ目をまたいで刺し入れた。それを何度か繰り返した。自分は無様な人形のようになっているだろう、なあジョジョ。だがそんなのは関係ないのだ。
ディオはある奇妙な思いに駆られていた。この高揚感、この祝福、ああ、ジョジョ、俺は貴様の憐れみと共に永遠に生きる。再び貴様が口を開いたとき、俺達の地獄が始まるのだ。
ジョジョの首は何も言わなかった。海の中は冷たくも温くもなく、まだ死んだままでいるジョジョもそれは同じだった。
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