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動物園デートだよ林田さん、動物園デートだよ!!!!

しゅうはや 動物園のゴリラになってしゅうはやのデートを見たい絶対に と思って初めて書いた夢小説 名前入力でゴリラになれる
初出・Pixiv 2015年

彼女彼女彼女彼女彼女 盛夏というには暑すぎる動物園では、あらゆる動物がぐったりしている。ふれあいコーナーの小動物達も例に漏れず、かわいそうに、木陰で小さな身体を寄せ合っている。人が入れる日陰がほとんどなくなっているため、客もまばらだ。その中で、秀那だけが元気にモルモットやらウサギやらに嫌われている。俺は50センチ四方しかない貴重な日陰からそれを眺めている。
「林田さんもこっちおいでよ」
「いい
ごめん、昨日無理しすぎた?」
 違う。違うとも言い切れないが8割位は違う。
 仕事帰りにフットサルなんぞに勤しむ秀那と煙草を手放せない俺とでは基礎体力が段違いだし、23歳と27歳、あ俺28になったんだった、秀那24だったか、もとい、そのくらい年齢差がある俺との体力を同等と考えられても困る。しかも俺は夏が苦手だ。故にこの炎天下でウサギと戯れる元気はない。というかウサギにだってない。
 しかしそれを認めるのも癪、まして疲れなんかを見せればこっちが謝りたくなるくらい心配されるのが目に見えている。返す言葉のない俺は、秀那の心配を否定も肯定もせず、手持ち無沙汰をごまかすために足元の白いウサギをなでる。人慣れしたウサギはおとなしい。
 一方、いかにも動物に好かれそうな秀那のほうは、意外にも苦戦していた。体温の高い彼を嫌がっているのか、ウサギもモルモットもその手の中に収まろうとしない。
「っわ~、ごめんごめん」
「嫌われてんな」
「俺は好きなんですけどぉおっと」
 暑かったが、小動物に翻弄される秀那の姿は面白かった。ニヤニヤしながら観察していると、彼の大きな手の中をぬるりと這い出た茶色いウサギが日陰を探し、他に場所がないから仕方ないという顔で、俺が占領している一画に向かってきた。ひょこひょこ飛んできたそれと並び、改めて見上げると、秀那は運動後のように汗だくだ。そんなんじゃこいつらだって嫌がろうものだ。
「愛が重いんだよ」
「そうなのかな林田さんは好かれますね
「日陰だからな」
 暑いもんな。ウサギらは返事の代わりに鼻をピクピク震わせる。食欲もないだろうと思うが、つい買ってしまった餌の人参を差し出すと、彼らは律儀に鼻を寄せてきた。
「お、くうか」
っわ~~~~、わ~~~~~」
「んだよ」
「ガン飛ばさないで!」
 秀那はしゃがみ込んだ。カメラを構えている。「そのままそのまま」って、「おい!」
 成人男性がウサギに餌をやっている姿を撮って何が楽しいのだ。だからといって見知らぬ幼女を撮っていたらいろいろアウトかもしれないがこれも大概アウトだ。こいつには恥ずかしいとかそういうアレはないのか。「林田さん笑ってよ~」
「~~~~っ」
 耐え切れない。
 耐え切れないのでウサギを抱きかかえて顔の前に掲げると、シャッター音とともにへあっとかいうマヌケな声がした。聞いたか。へあっだって。
 聞いていたのかいないのか分からないが、ウサギは素知らぬ顔で人参を咀嚼し続けている。耳元なので声を殺して笑っていると、頭の向こうの秀那は無言のまま。ちらりと見ると、彼は眩しそうに目を細めている。太陽は秀那側にあるのに。
 こそばゆい。俺はウサギを降ろして立ち上がった。
飲みもん買ってくる」
「えっ、あ、はい」
お前なんか飲む?おごってやるよ」
 秀那の顔がぱあっと輝く。それこそ凶悪な日差しの50倍くらい輝く。眩暈。

 なんでこの酷暑のなか動物園にいるかというと、秀那の誕生日祝いのリクエストが「動物園デートしたいです」だったからだ。
「高校生か」
「林田さん高校のとき動物園いった?」
……
「意外と行ってないっしょ~、俺も動物園行ったことない」
「ないことはないだろ」
「デートで!ねっ林田さん!潮干狩り行ったじゃないですか~ねっ」
 俺はともかく、健全の塊のような秀那が動物園でデートをしたことがないとはにわかには信じがたかったが、腹立たしいことにこいつは誘われたところにしか行ったことがないというし、というか、健全の塊故に言い寄ってくる女という女をただひたすら食いまくっていただけなのかもしれなかった。逆に考えて。癪だ。
 いったい何が癪なのか、そもそも癪なのかどうかすら判別しがたかったが、結果的に俺はウサギを抱っこしてしまったり、ドリンクスタンドに並んでしまったりしている。前に並んでいる兄弟がそろってソフトクリームを買ってもらっていて、そのちびっちゃいほうが、自分のアイスが小さいと泣いているのをぼんやりと見ていたりしている。暗かったあの部屋にこもっていた頃は、壁をたった一枚挟んだ外の世界のことを考えすらしなかったことを思い出したりしている。俺も彼もその世界があることを知っていたはずだが。
 セミが鳴いている。
様、お客様!」
「あ」
「ご注文は」
 汗だくの店員はそれでも笑顔を作っている。見上げた根性だ。ソフトクリームの兄弟はとっくに日陰のベンチに移動していて、兄貴に交換でもしてもらったのか、それとも何か別のいいことあったのか、ちびはもうニコニコしていた。

 秀那はゴリラの檻の前にいた。黒い筋肉の塊を眺めているだけの横顔がキラッキラであることにまた眩暈を感じた俺は、無言のまま彼に近づき、その頬にコーラをぎゅうと押し当てた。「わっ」
「ほれ」
「ありがとうごでかっ林田さんこれ何サイズ」
「LL」
「わー、がんばります」
俺も飲むから」
「なっ……あれ、アイスとか珍しいっすね」
半分やる」
「なっ……
 二度不穏な呻きを漏らした秀那は、最後には黙りこんだ。何事かと思って首をひねると、うつむいた彼はびくびくと肩を震わせて、「あ~~~~」と叫ぶ。
 それをスイッチにしたかのように、気だるげにしゃがみこんでいたゴリラが突如として飛び上がった。びくりとした俺の手の中のソフトクリームが揺れ、秀那は叫び続け、ゴリラは一層暴れまわる。柵の外側のガラスだかアクリルだかですら、ぐわんぐわんとゆれた。
「お前、変な声出すな」
「だって」
「何だよ」
「林田さん!ずるい!」
何がだよ」
「全部です」
「訳わかんねえ」
「好きです」
「あ~~~~~~」
 今度はこっちから変な声が出た。これは仕方ない。これは許してほしかったが、ゴリラますます興奮する。何だというのだ。
 冷や汗をかきながら周囲を見回すと、飼育員が張り付けたような笑顔でこちらを眺めていた。炎天下お仕事お疲れ様です、その気持ちすげえわかる。わかるけど許して下さいこいつが悪い。
「ああのゴリラどうしたんすかね」
「あ~、彼女雌なんですよ」
はあ」
「ゴリラって結構デリケートでね、好みの雄の近くに別の人がいたりすると嫉妬するんですよ。彼氏さんのこと気に入ってるみたい」
「か
彼女特に面食いなんですよね~」
「め
 秀那は稀に見るレベルの間抜け面をしている。いや、これはビビっている。
 面食いの彼女は、気が狂ったように木から木に乗り移り続けた。さっきの兄弟が目ざとくバタバタ駆け寄ってきて、「つええ!」「やべえ!」と興奮気味に叫ぶ。
「強いよ~ゴリラは。霊長類で最強だよ」
 兄弟は、若干いい加減なにおいのする飼育員の言葉を、れいちょうるい、さいきょう、と復唱している。その隣に秀那を残し、俺は笑いをこらえながらそろりとベンチに向かった。気づいた秀那には彼女をなだめてからこいと目配せしたが、通じなかったのか無視しているのか、真顔でこちらを追いかけてくる。
 逃げるように走りながら結局笑い出してしまった俺と秀那の後ろで、彼女は檻を揺らし続けている。笑いながら走るなんて嘘みたいで、こんなに暑くてだるいのに、足元がフワフワした。目の前がチカチカした。夢の中にいるみたいだ。
 セミが鳴いている。

「さっきの顔撮っとけばよかった」
「いやいいでしょあれは
 小動物には嫌われんのに、と秀那は口を尖らせている。心なしかまだ怯えているようでおかしい。
「面食いだってよ。よかったなイケメン」
そうっすけど。そうっすね。いいよね林田さんはかわいい動物にモテて」
「ゴリラに失礼だろ」
そうっすけど。そうっすね。俺若干貞操の危機を感じましたよ」
「お前のどこに貞操が残ってんだよ」
「はは
 大急ぎで食べたつもりだったが、ソフトクリームは半分以上液体になってしまっていた。下のほうから垂れてくるしずくを受け止めようと舌を出したが、甘ったるいそれが落ちてくる前に、グニャグニャのコーンごと奪われてしまう。
「おい」
「ダメ。エロい」
「ばっかじゃねーの」
「はいコーラ」
 渡されたコーラも氷が大分溶けていた。薄い。
 文句を言おうと秀那を見ると、彼はまた眩しそうにこちらを見ている。視線がぶつかる前に目を逸らそうとしたが、間に合わなかった。「ね、林田さん」
あんだよ」
「ありがとうございます、今日」
……
 こそばゆい。いたたまれない。何と答えればいいかわからない。
 俺は未だにわからない。こういうときどうすればいいのか、忘れてしまって思い出せない、のではなく、今どうすればいいのかがわからない。壁一枚越えてこちら側に来たけれど、本当にこちら側にいていいのか、いや、実際いるのかどうかすらもわからない。現実味のまるでない不安定な足場の上で、差し出される秀那の手をどうすればいいのか、俺には未だにわからない。
「俺すっげー楽しいです」
 あれはすぐ裏側にあるに違いないのに。
「林田さんは?」
 皮膚のすぐ下を血が這い上ってくるのを感じ、俺は目を伏せた。
お前が楽しいならよかったよ」
林田さんは?」
 秀那の声は、鼓膜のさらに奥をやわやわと震わせた。膜を通り抜ける水のようなその声が脳に染み込むと、自分には表も裏もなくなったような錯覚に陥る。あれはすぐ裏側にあるに違いないのに。
 違いないのに、
楽しいよ」
 無様にひび割れかすれた声に、秀那がふっと笑った気配がした。「ごめん、言わせた」とその息が言うので、俺は慌てて顔を上げる。傾いていた夕日が目を射して痛い。
 秀那はう~んと伸びをした。「帰りますか!」
「しゅう
「何か食ってく?」
 両腕を上げたまま柔らかく笑う顔に泣きたくなる。
……
 まさかこんなところで泣くわけにはいかなかったので、眉根に力を込めた。しかめっ面に見えるだろうが、近づけばわかるまい。秀那の二の腕の間をすり抜ける。耳元に口を寄せる。「楽しい、ほんとに」
 唇が皮膚をかすった。
……
……
……え」
……寿司食いたい」
……え、す、え?」
「コーラおごったんだからこんどお前な」
……え、まって」
「はやくしろよ」
……え、ちょ」
 呆けた彼を置いて逃げるようにベンチを立つ俺の腕を、秀那の熱い手のひらが掴んだ。
……
「ま、回るのでいい!?」
……やだ」
「あ~~~~、まって!まって探すから!」
嘘だよ。なんかすっげ辛いっつー中華料理屋予約してっから、はやくしねーとそろそろじか」
「っかーーーー!!!林田さん!!!」
っせえな、またゴリラに発情されっぞ」
「好きです!!!」
「っせえっつうの!」
 足元がフワフワする。目の前がチカチカする。セミが鳴いている。壁は少しずつ朽ちてひび割れている。隙間から見える眩しい世界に、差し出される手の温度に、俺は眩暈を起こしている。